体育祭1ヶ月前となり、やはりグラウンドで練習をするクラスが多くなった。
そうなると、俺たちはむしろ邪魔でしかない。
なのでいろいろと考え、鍛えるために最適な場所を見つけ出した。
「今日からはここで鍛えるぞ」
ということで運動出来ないやつを放課後、トレーニングジムに連れて来たのだ。
「こんなところがあったんだ・・・・・・」
「俺、明日にはこの世にいないかもしれない・・・・・・」
「まだ死にたくない・・・・・・!」
(こいつら、トレーニングジムを何だと思ってるんだ...。
やばそうな森でも魔王城でもないのに...)
各々がトレーニングジムの外で嘆いているのをよそに、ひよりだけはすんなり入っていく。
(ひよりがこんなに成長したとは...お兄さん、感動します...!)
その姿を見て、背中を押されてか他のやつも入っていく。
ちなみに全員の会員登録はしているので、学生証を見せるだけで入れる。
全員が中に入ったのを確認し、やることを伝える。
「やってもらいたいことは1つ。20分間、ランニングマシンを使ってひたすら走ること。速度は前回、グラウンドで走ったぐらいのペースで構わない。その代わり、ラスト10秒になったらスピードを上げること」
それを聞いていた金田が質問をしてくる。
「見た感じ、ランニングマシンは5台しかありません。そうなると使っている人以外には待ち時間ができてしまいます。その時間は何をすればいいのでしょうか?」
「基本的には自由だ。マシンを使って鍛えるのも、俺が渡した筋トレメニューをこなすのも、自分の趣味に没頭するのも自由だ。もちろん、店に迷惑をかけない程度ならだが。他にはないか?」
それに対して誰も質問してこなかったので、最後に1つだけ言っておく。
「このトレーニングは任意で参加してくれて構わない。やる気のない状態でやっても効果は薄いし、なにより怪我をされでもしたら困るからな」
そのことを聞いて誰も帰らなかったので、意外にもやる気があるんだなと感心する。
指示を飛ばした後、5人ずつランニングマシンで走り始める。
俺も筋トレをしてもいいが、最近スマホゲームにハマっているためベンチに座って黙々とやる。
(育成ゲームは楽しいなー。
自分の育て方によってキャラのステータスが大きく変わるし。
他のゲームだったら、バトルロワイアル系も楽しいけど、携帯が熱くなってしまうからあんまり好んでやりたくない。
音ゲーはガチャゲーだけど、推しキャラが当たったときの喜びとかAP(All Perfectの略。フルコンボよりも難しい)取った時の達成感は半端ない。
あと、やってるときに普段あまり来ない通知のバナーが出てきたときはキレる)
そんなことを思っていると、メールの通知が来る。
(音ゲーしてたらキレる案件だが、今やってるのは娘を育てるゲーム。
それでも、こんな時間に送ってくるやつにはちょっと物申したい)
そんな思いでメールを確認すると、送り主は坂柳だった。
『Dクラスに綾小路清隆という方がいらっしゃいますよね?もし彼の連絡先を知っているのなら、やっていただきたいことがあるんですが』
それを見た瞬間、俺は指定してきた人名に疑問を抱く。
(綾小路?
坂柳とあいつは関わりがあるのか?
うーん...ないとは言い切れないが、あったら綾小路が何かしらしているだろう。
とりあえず言えることは、坂柳からの頼みごとはめんどくさそうということだけ。
断りたいから電話でもするか)
俺はこの場で電話するのはダメだと思い、ジムの外へ出てから坂柳に電話をかける。
4コールぐらいで相手と繋がり、コール音が無くなる。
『どうかしましたか?』
「いや、さっきのメールについて聞きたいんだが」
『彼の連絡先を知っているですか?それならお願いし────』
「持ってるが、やりたくない」
いつもよりも食い気味に来たので少々驚きつつも、全てを言い終える前に断る。
『そうですか・・・・・・。それなら以前貰った写真を龍園くんや一之瀬さんや七詩さんに送りますが、どうしますか?』
以前貰った写真とはおそらく神室が撮っていたものだろう。
それを、1番渡ってほしくないランキング1位の龍園に送られるのは辛すぎる。
(一之瀬と七詩にも渡ってほしくないが、やっぱり龍園は絶対ダメだ。
永遠にネタにされる気がするし、言いふらされる気が凄くする。
それに、龍園のせいでひよりが落ち着いていられる居場所を無くしてしまう可能性がある。
俺だけならいいが、他の人を巻き込みたくない。
ここはやるしかないのか...)
弱みを握られてしまっている俺にとって断ることは出来ず、それを渋々了承する。
「やります・・・・・・」
『分かりました。私があなたにやっていただきたいことは、綾小路くんをとある場所に連れて来てほしいのです』
「具体的には?」
『そうですね・・・・・・彼の邪魔をしたくはないので、体育祭後に私が動ける範囲で人目につかない所がいいのですが・・・・・・』
この話を聞いてる限り、坂柳は綾小路に片想いをしているみたいで面白いなと思う。
(てか、綾小路は毎日暇人だから邪魔にならないだろ)
『どこか良い所はありませんか?』
そんなことを知る由もない坂柳は、どこかいいところがないか尋ねてくる。
(人目につかなくて、坂柳が動ける範囲か...。
そうなると校舎、もしくは図書館になる。
校舎で1番良さそうなのは...ねえな。
そうなると図書館だが、あそこにはひよりが行く可能性がある。
坂柳を見つけたら、話しかける可能性を考えるとダメだろう。
人目がつかないところ...。
あ、特別棟があるな。
あそこなら人が来ないし、来たとしても音で分かる。
それに監視カメラもない。
坂柳も早めに行くことができるから良さそうだな)
「特別棟とか良さそうだと思うぞ」
『確かに良い場所ですね。早速ですが、下見に行きたいと思います』
電話を切らなかったことから、あからさまにこちらを誘ってきているが、今はCクラスのやつを見ている。
写真で脅されていても優先順位的にはクラスのほうが上である。
「俺はCクラスのやつらの面倒を見ているから無理だ。それに、連れて行くなら近くにいる神室でいいだろ。最近坂柳がかまってくれないって言ってたから嬉しいと思うぞ」
(この前の逆恨みとかじゃないからね!断じて違うからね!)
本人が聞いていたら後に最悪なことが起こるかもしれないが、聞いているはずがないのでその辺は大丈夫だろう。
『そうだったんですね。と言うことで真澄さん。行きますよ』
『ちょっと貸して』
『いいですよ』
電話の向こう側からそう言っているのが聞こえた。
(やばい、俺死ぬ。色々と)
向こう側に本人がいることを知り、思考が停止してしまったところで電話相手が神室へと変わる。
『あとであんたの部屋に行くから』
そう言われ電話が切られてしまう。
声から分かる通り、かなりご立腹のようだ。
(過去の俺、何やってんだ...。
あの時の悪夢が蘇ってきたじゃねえか...!
朝になるまで、橋本の凄い動画(橋本が女の子の声マネと女装をしながら、女の子が言ったら絶対に可愛い言葉を言う動画)...。
うっ、頭が...)
過去のことを思い出して身震いがしてきたが、とりあえず中へと戻ることにした。
「・・・・・・あ、いました。って大丈夫ですか?凄く笑いを堪えていますが」
俺を探していたひよりがこちらに来てそんなことを言う。
「大丈夫・・・・・・大丈夫だから・・・・・・キントレスル」
(ホントウニダイジョウブ。
キントレコソシコウ。
キントレハイノチ)
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あの後の記憶が曖昧で、気が付いた時には何故か自分の部屋にいました。
もちろん神室も。
そして、前回のを司城バージョンにしたものを見さされました。
案の定、死にかけました。
トラウマ?
2学期が始まって初めての休日の夜。
突然神室が来るとのことで、軽く掃除をして招き入れる。
「こんな時間帯にどうかしたのか?」
「ちょっと見てほしいものがあって・・・・・・」
神室はその中身を思い出したのか、突然笑い出す。
「これがそのや・・・・・・やばい、笑いが・・・・・・!」
見てほしいものは、笑うこととは無縁そうな神室が笑うほどすごいのだろう。
おそらく手に携帯があることから携帯を見てほしいようだが、変に笑っているせいで少し警戒してしまう。
おそるおそる携帯を手に取って外見を確認する。
(特に異常はない。
ということは、起動しろということか)
そう思って携帯の電源を入れると、動画が突然流れ始めた。
『べ、別にあんたのことが好きなんかじゃないからね!』
そう言ったのはツンデレな幼馴染でもご近所さんでもなく、橋本正義だった。
ゴミみたいな女装に可愛く言いたかったのか高い声を出しているが、逆に裏返ってしまい、ゴミみたいな声になっている。
あまりに酷い出来に、笑いがこみ上げてくる。
「な、何だこれは?」
「これは、坂柳が遊びでやらせたことで・・・・・・」
話を聞くに、橋本は坂柳の遊びに付き合わされ、それで女装をさせらてしまったようだ。
(どんまい、橋本。)
「ちなみに、これ7時間以上あるから・・・・・・」
「まさか一緒に見てくれるでござるか?」
少し興奮してしまい、ついついオタクが出てしまった。
(神室とは言え、女子と夜を共にするのは少し憧れがあったのでつい言ってしまった!)
「そのつもりだったけど・・・・・・」
絶対にダメだと思っていたけど、本当に叶いました。
俺も神室も夜ごはんを食べてなかったので、俺がごはんを作っている間に、神室には風呂に入ってもらった。
ごはんを食べて、俺も風呂に入って(シャワーしかないのが真面目に残念。お風呂があったら、女子高生が入った後のお湯って言って売れたのに...)寝る準備が出来たら、動画を見始める。
最初はツンデレ女子が言いそうな言葉を1時間半聞かされ、ギャル系、清楚系、明るい系、お姉さん系、妹系、ロリ系、ヤンデレ系と色んな女性を真似させられたようだ。
俺はそれを見て笑っていた。
おそらく最後に笑ったのが幼稚園児の頃だったので、約10年近く笑っていなかっただろう。(無人島試験の時は作り笑いだからカウントなし)
そう、10年。
そのせいで、動画の途中から笑いすぎて窒息死しかていた。
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『私たちは死んでからも永遠に一緒だよ。そう、永遠に』
偽物のナイフを手に持ちながらそう言う橋本。
ここで再生が止まり、動画が終わったことを伝える。
「・・・・・・ああー、良かった。そう思うでしょ、く────そんなに息切らしてどうしたの?」
俺に感想を聞こうと神室がこっちを向いた時、俺は肩で息をするぐらいやばい状態だった。
「いや・・・・・・笑いすぎてな・・・・・・」
俺は言ってから気付いてしまう。
こいつにその手のことを言うと危ないことを。
それを聞いた神室は少し口角を上げる。
「そう。それじゃあ私は帰るから」
声だけだと気付いてないんだなと思ってしまったが、顔が勝ったというのを語っているので気付かれたようだ。
その後神室は部屋から出ていき、俺は今後の対策を考えたが無理だと分かったので、神室を怒らせないように心に誓ったのであった。