体育祭まで残り1週間となり皆が頑張って練習している放課後、俺は龍園に呼び出されたのでその場所へと赴く。
指定された場所は特別棟。
密談にはもってこいの場所だ。
「こんなところに呼び出して何か用か?」
「まあな。お前に会わせたいやつがいるからここに呼んだってことだ」
それを聞いて首を傾げていると、龍園は廊下の角に隠れているやつを呼ぶ。
それを合図に隠れていたやつは姿を現す。
龍園が俺に会わせたいやつ、それは櫛田桔梗だった。
櫛田は同じ学年の人なら知らないやつは絶対にいないと断言でき、男女分け隔てなく人気がある。
だが、それは偽りの仮面であることを俺は知っている。
(と言っても、隠された本性は堀北をウザがっていたことぐらいしか知らないけど。
まあ、何か理由でもあるんだろう)
「久しぶりだね、黒瀬くん」
いつもと全く変わらない口調で話しかけてくる櫛田だが、何か違和感を感じてしまう。
(なんかこう、内側から負の感情が出て仮面が浮いているような。
前よりも偽りの仮面を付けている感じがする)
そんな所感を得ながら、それを悟られぬよう会話をする。
「久しぶりだな。それで、櫛田が俺に会わせたい相手ってことでいいのか?」
「そうだ」
「ほう。そうなると1つ聞きたいんだが、櫛田と龍園はどういう関係なんだ?」
「やってもらいたいことがあってね。それで龍園くんに協力してもらっているんだ」
最初の問いには龍園、次は櫛田が答える。
話を聞いた限りでは櫛田と龍園は協力関係であり、櫛田には成し遂げたいことがあるようだ。
そして、それを行うために俺を巻き込もう考えているのだろう。
(櫛田のやりたいことなんてはっきり言って興味がない。
手伝ったところで何か見返りがあるわけじゃなそうだしな)
「それに黒瀬くんも手伝って────」
「俺は手伝わない」
櫛田が言い終える前にその願いを断る。
だが、俺はすぐにそれを撤回することにした。
「・・・・・・と言いたいところだが、可愛い櫛田の願いだ。手伝おう」
「ありがとうね!黒瀬くん!」
心にも思っていない言葉と笑顔を向けられ、ついつい口角が上がってしまう。
その表情は何とも不気味に映り、笑っているというよりかは獲物を見つけたというのが合っているだろう。
それを見た龍園は笑みを浮かべるが、櫛田は心配をしてくる。
「だ、大丈夫?私、もしかして変なこと言っちゃった?」
少し顔を赤らめながら、こちらを見てくる櫛田。
こういう仕草に男は心を奪われるのだろうと思う。
「いや、少し前のことを思い出してな。気にしなくていい」
「それならいいけど・・・・・・」
「それより、その櫛田のやりたいこととは具体的に何なんだ?」
「それは堀北さんを退学させることだよ」
いつもの笑顔に、誰かが聞いていれば耳を疑うような言葉を口にする櫛田。
それを聞いてもう少し言及しようとしたが、口を割りそうな気がしないのでこれ以上は控えておく。
「分かった。出来る限り協力する」
そう言ってこれ以上やることはないと思い、その場を後にするのであった。
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龍園に呼び出されてから時間が経って夜へと変わり、とある人物に連絡をし終えて寝ようと思った瞬間、インターホンが鳴る。
(夜に来るなんて無礼なやつだな...。とりあえず部屋に入れてボコるか)
ストレスに睡眠の邪魔をされたのがプラスして、いつも以上に苛立ちながら扉を開ける。
「・・・・・・なんだ伊吹か」
「何やけに嫌そうな顔してんの・・・・・・もしかして、可愛い子じゃなかったことに嫌気をさしてんならまた脛蹴るから」
嫌な顔をしながら迎えたら、伊吹はいつでも蹴れる態勢になっていた。
(正直に言えばそれもあったが、来たのが女性のせいでボコれないというのが1番の原因なんだよな。
それにしても、こんな時間に変わったやつが来たな...。
俺ってそんなに伊吹と接点あった気がしないんだが)
「外で話すのもあれだからとりあえず中に入ってくれ」
無言で部屋に入って来る伊吹に、少しでも謝ってほしいと思ってしまった俺は悪くない。
部屋に入るなり、最近購入した人をダメにするクッションに座った伊吹に、ここへ来た理由を聞いてみる。
「こんな時間に何か用か?」
「あんたに走りを速くしてほしい」
それを聞いて俺は眉をひそめる。
(あの一匹狼の伊吹が俺に?
とりあえず理由を聞いてみるか)
伊吹に理由を聞いてみたところ、どうやら堀北と体育祭で戦うみたいで。
それで勝つために少し走り込んでいたようだが、一向に速くなる気がしなかったところに、俺が育成中のひよりが頑張って走っているのが見えたらしい。
前まで全く運動の出来ないひよりがあんなに速くなっているのを見て、俺に頼めば速くなると思ってここに来たようだ。
(疑問に思ったんだが、伊吹が堀北と戦うことが決まってるんだ...。
おそらく櫛田がリークしたんだと思うが、それを防げてないDクラスって大丈夫か?
お兄さん少し心配です)
「何となく理解した。ということで少し失礼」
クッションに座る伊吹の脚と腕の筋肉を確認をする。
(脚は結構いいが、腕が微妙だな。
それにしてもリアクションがおそ────グハッ!)
クッションのせいで完全にだらけていた伊吹は、体を触ろうとしていたことに気付かず、触られてからそれに気付き、顔を赤く染めながら顔面に拳を食らわせてきた。
俺は倒れかけたが、ぎりぎりのところで踏みとどまる。
「あんたがそんなことをするやつだと思ってなかった!」
「俺にその気はない。ただ筋肉をチェックしただけだ。体に触ったことに関してはしっかり謝るから」
顔を真っ赤にして怒る伊吹に、こっちの意図を伝えて宥めさせる。
それを聞いてもなお睨んできたが、何とか落ち着いてきたようだ。
「それで。何が分かったの?」
「まず腕の筋肉が少ないから鍛えろ。走るのに必要なのは脚だけでなく、腕やら上半身の筋肉も要する」
「確かにあまり上半身は鍛えてなかった・・・・・・。勝手に体を触ったことは許さないけど、一応ありがとう」
未だに触ったことが許せないのか俺を睨んできているが、感謝だけはしっかりとされた。
(ありがとうからツンデレ女子感を匂わせてきたが、ここは置いとこう)
「用が済んだのなら早く帰ってくれ。俺は早く寝たいんだ」
(少し前に買った、人をダメにするクッションに座って寝たいから早くどけ)
「分かった────って、あれ?」
伊吹はクッションから出ようとするが、それに抵抗するかのように身体は全く動かない。
(このクッションの威力は絶大かもしれない)
早く出てほしかったため、伊吹に手を貸し協力してクッションから脱出させ、さっさと帰ってもらう。
「よし。これで寝れ────あれ、ない・・・・・・」
クッションがあった場所を見ると、それはいつの間にかなくなっていた。
「まさか・・・・・・!」
追い出した時、どうやら伊吹はクッションを持っていたようだ。
だがもう時すでに遅し。
伊吹は部屋を出ており、追いかけるのは不可能だろう。
(追い出すことに夢中で、気付くことさえ出来なかった...。
一生の不覚...)
こうして、俺のクッションは伊吹に奪われてしまった。
後日、伊吹に聞いてみたところ、「体に触った代わりに貰うから」と言われたので、結局新しいのを買うことになりました。