いつの間にか迎えていた体育祭。
今日は生徒全員が制服ではなくジャージという、今後も見る機会が多くなりそうな服装だ。
全校生徒で行進をして、開会式とかいう長ったらしい言葉をただひたすら聞くことを終え、各々のクラスごとに設置されたテントに戻る。
「てめえら、事前に言っておいたことは必ず遂行しろ。命令違反したやつは分かってるよな?」
テントに全員が揃えば、龍園はそう言って指の関節を鳴らす。
それを見た数人が怯えているが、龍園から直接何か言われた人はそこまで多いわけじゃない。
俺が知っている範囲だと、木下と伊吹と俺。
他は全員に向けてだったのでノーカウントでいいだろう。
ちなみに俺は『圧倒的な力を見せつけてやれ』としか言われていないので、そこそこ頑張りたいと思う。
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1つ目の競技は100メートル走。
最初にやるのは1年からと決まっており、途中の休憩までは男子から、休憩が終わってからは女子から始まるようになっている。
俺たちは事前に龍園が言っていた通りの配置につく。
俺は1組目で、運動出来ない組の
「てめえだけは絶対に潰す」
そんな物騒な声が横から聞こえたと思ってそちらを向くと、そこには須藤がいた。
どうやら同じ組のようだ。
「それなら全力で来い。そうじゃないと話にならないからな」
「上等だ、ごら!」
軽く挑発をすると相当俺に怒っているのか、簡単に乗ってくれた。
(まあ、前からこんなんだったけどな)
その様子を見ているDクラスの生徒は固唾を飲んでいた。
それはそうだろう。
1番最初に須藤を持ってきて勝たせることによって、後に走る者のやる気は確実に向上する。
だが、今こうして1組目にいるのは須藤と俺。
短い間だったが、須藤と俺が勝負して須藤が勝ったことは一度もない。
俺と須藤はスタート位置でクラウチングスタートの態勢を取る。
そして合図と共に俺は飛び出したが、思わずコケてしまう。
「「「ぷ・・・・・・!」」」
後ろから笑い声が聞こえたが、俺は特に気にしていない。
なぜなら、これは相手を油断させるため、普通に勝っては面白くないと思ってやったこと。
つまりわざとコケたのだ。
コケてから体内時計で1秒ロスしたところで、立ち上がりと共に一気に加速する。
スタートからすでに3秒が経っているが、すぐに最下位を抜かし、残り10mのところで須藤との距離はほんの僅かに縮める。
「ッ!」
後ろから迫ってきた俺に気付いた須藤は、更にスピードを上げようとしたが時すでに遅し。
俺は須藤を抜かし、1mの近くの差をつけてゴールした。
「クソが!」
ゴールした須藤は怒りを表しており、それに巻き込まれたくないため、足早に自クラスのテントに戻ったのであった。
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「クク、序盤からいい滑り出しじゃねえか」
「そうだな」
男子の100メートルが終わり、テントの中でゆったりしていると、いつの間にか横にいた龍園に話しかけられた。
男子は龍園の言っている通り、かなり良かった。
特に運動出来ない組は誰も最下位にならず、3位を取ったやつはいないがかなり頑張っているなと思う。
そのおかげで総合点は4クラス中2位という結果だ。(脳内で点数を数えてた)
「それにしてもあのコケっぷりは良かったな。流石の俺でも笑っちまったぜ」
龍園の横にいたアルベルトは龍園の言ったことに首を縦に振る。
(あのアルベルトが笑った...だと...。
その姿、めちゃくちゃ見たかったんだけど...)
「須藤がお前に負けて悔しがっているのも見れて、俺は満足してるぜ」
「それは良かった」
そう言って、女子の100メートルがどうなってるのか気になったので見てみると、どうやらそれがこの競技のラストのようだ。
「伊吹にひより、堀北に七詩か・・・・・・」
(この中で1番気になるのは七詩。
あいつがもし、俺の予想通りならダークホースだろう...)
あの組には坂柳が入っているようで、7人しかあの場にはいない。
全員がスタートの準備をし、スタートの合図で同時に駆け出す。
スタートダッシュで先頭に立ったのは伊吹。
そのすぐ後ろには七詩が迫っていた。
堀北はスタートで出遅れたが、負けじと食らいつく。
中盤になっても、伊吹の位置は変わらず、七詩と堀北はほぼ横並びで伊吹の後ろにつく形になっている。
残りもう少しというところで、伊吹のスピードが上がる。
それはかなりのもので、同じくスピードを上げた堀北をゆっくりとだが離してはいた。
だが、後ろからそれ以上の加速で伊吹を抜かしたのは七詩だった。
七詩に食らいつこうと伊吹のスピードは更に加速するが、順位は変わらず堀北は3位で、ひよりは4位という形でゴールした。
「クク、あいつは流石に盲点だったぜ」
「俺もあそこまでとは思ってなかったな・・・・・・」
(伊吹のあの加速はかなりのものだ。
あれを抜かすのは女性より力のある男性でも難しい。
だが、七詩はあの加速を超える速さを持っていた。
それにゴールした後を見ても、肩で息をしている感じではない。
俺が言うのもなんだが、かなり化け物じみてるな...)
再度ゴールの方を見ると、堀北には勝ったが1位を取ることを出来なかった伊吹は悔しそうに地面を蹴っていた。
堀北もここまで相手が速かったと思っていなかったのか、悔しがっているように見える。
その隣でそれを気にしていないのか分からないが、ひよりは4位を取れて嬉しそうにしている。
「Cクラスも隅には置けねえな」
「俺には実力者が集まっていてもそれをまとめるリーダーがいない。いいところまで行ったとしてもBクラスで止まるだろう。だから、そこまで気にすることはない」
俺はそう言ったが、正直怖かったりする。
(BクラスとAクラスには明確なリーダーがいる。
実力を認められて、それについて行きたいと思う人がいてクラスが成り立っている。
だが、Cクラスと一応Dクラスにはそう言ったリーダーがいない。
前に出ているやつはいるが、クラスメイト全員の意見を聞いている状態。
そのうちDクラスには出てきそうだが、Cクラスにはその兆しがない。
だからこそ怖いのだ。
リーダーがいるクラスはそいつを知っていれば、対策が可能だからそこまで怖くない。
だが、リーダーがいないCクラスは皆の意見を聞き、ほとんどの人が賛成している状態で挑んでくる。
崩そうにも崩せない。
安定しているクラスと言える。
まあ、攻めに問題を抱えているのは明白だけど、Bクラスとの小競り合いのせいでAクラスに上がられる可能性だってある。
視野は広く持っておくか。
広くしたら、他クラスの動きもしっかり見れるし)
そんなことを考えていると、先ほど激闘繰り広げていた伊吹とひよりが帰って来た。
「私やりましたよ!黒瀬くん!」
ひよりはこちらに来て嬉しそうに報告してきた。
それも体をぴょんぴょんさせるほど。
(可愛いな)
「よく頑張ったな」
「あのひよりが4位を取ったなんて・・・・・・。ありがとうございます、黒瀬さん」
近くで聞いていた石崎はこちらに来るなり、ちょっと泣きそうになっていた。
(どれだけ心配してたんだ...。石崎はあれか、ひよりの親か?)
「こんなところで泣きそうになってどうする・・・・・・体育祭は始まったばっかりだぞ・・・・・・」
俺も言うまで忘れかけていたが、体育祭は先ほど始まったばかりだ。
こんなところで泣きそうになっていたら、後で大泣きするかもしれない。
「そうですね・・・・・・ひより、頑張れよ!」
「はい!頑張るので、しっかり見といてください!」
やる気満々なのはいいが、それで怪我をしないことを祈りたい。
俺はひよりの相手を石崎に任せ、1人でいる伊吹のところへ行く。
色々と教えた立場として、労いの言葉を言うのは普通だろう。
「お疲れ様、伊吹。堀北に勝てて良かったな」
「何?嫌味のつもり?」
意図して言ったわけじゃないが、伊吹には嫌味に聞こえたようだ。
「そう聞こえたのならすまんな。それでどうだ?堀北と戦った感想は?」
「正直相手にならなかった。黒瀬のおかげでもあるし、一応感謝だけしとく」
無愛想だが、伊吹から感謝されるなのは何か心に来る。
(やったことと言えば、走った時に相手をよく向いてたから直せとしかぐらい。
それだけで感謝されて刺さるとは...。
いや、もしかして名前呼んでもらったからか!
俺氏、乙女なのかもしれない...)
「べ、別に感謝されても嬉しくないんだからね!」
「何言ってんの?」
(グハッ!)
乙女説を立証させるために、ツンデレっぽくボケたら真顔で言われたので、かなりのダメージを受けてしまった。
何も聞かされてもいないのに、それを察するなど出来ないことは分かっていたのに。
「何も用がないならどっか行くけど」
「もう何もないです・・・・・・」
「そ」
そう言って伊吹はどこかへ行ってしまった。