全学年の100メートルが終わり、次の種目であるハードル競走が始まる。
この競技にはルールがあり、ハードルを倒したり接触するとペナルティが付けられる。
ハードルを倒せば0.5秒、接触すれば0.3秒がゴール後のタイムに加算される。
ハードルは全てで10個あり、全部倒せば5秒というかなりでかいものとなっている。
今回は5組目に走ることになっている。
同じ組に平田がいることから、確実に須藤と平田を狙っているんだろう。
俺と平田の間に他のクラスの生徒が2人いるため、特に言葉を交わすことなくスタートする。
俺はスタートですぐに頭1つ出る形で首位に立つ。
ハードルを飛び越えるごとに後ろとの距離が開いていき、そのまま1位でゴールする。
話す言葉もなく、テントへ戻る前に少しふらついていると、坂柳がこちらへ来た。
「かなり快調のようですね」
「そこまで速いやつはいないからな」
「平田くんや須藤くんと言った、1年でも高い身体能力を持った人たちが速くないですか。流石と言えますね」
坂柳は微笑んでいるが、こちらを見極めるような目を向けてくる。
(「カカッ!おもしれえ嬢ちゃんじゃねえか!ちょっと朝まで語り合おうぜ!」)
頭の中でそんな言葉を聞いて、俺は額に青筋を浮かべてしまう。
それを見た坂柳は少し後ずさりしながらもこちらを心配してくる。
「そ、そんな怖い顔をしてどうかしましたか?」
青筋ぐらいしか出てないだろうと思っていたが、どうやら表情にまで出ているようだ。
(てか今の俺、坂柳が引くぐらいの顔してるんだな...。
早く戻さないと...)
心を落ち着かせるために深呼吸をしている時、
(「カッカッカッ!坂柳に引かれるって!俺の顔芸センスあると思うぜ!」)
またも頭の中にそんな声が聞こえた。
それも、ちょうど息を吸っている途中に聞こえたせいで、体のどこかを攣った人のようにそのまま停止してしまった。
(お前、3年近く話してないと思ったらいきなり話しかけてきやがって!)
俺は頭の中でキレた。
だが、それは相手にしっかりと伝わっているので問題ない。
ちなみに頭の中で話しかけてきたやつは、船上試験で一度だけ出てきた『おれ』である。
俺の中に棲みついていて、俺を監視している疫病神のようなものだ。
(「前に入れ替わった影響でまた話せるようになったんだよ。ていうことで早く坂柳を助けないとやべえぞ」)
そう言われたので坂柳の方を見ると、足が悪いせいで態勢を崩し、後ろから倒れそうになっていた。
このままだと坂柳は大怪我をする可能性がある。
(綾小路と会う前に怪我をして、会えませんなんてダメすぎる。
せめて会ってからにしろよ!)
俺は右手で坂柳の左手首を掴み、左手で背中を支える。
咄嗟に取った行動で身を寄せる形になったので、坂柳の顔がかなり近くにある。
(「お、神室とひよりにも手を出したかと思ったら、坂柳にもいくのか!いいじゃんいいじゃん、ハーレムまで頑張れ!」)
(あれは仕方なくだし、こうなったのはお前のせいだからな!
お前が出てこなかったらこうなってなかったわ!)
「あ、あのー・・・・・・」
おれに茶化されたせいで忘れかけていたが、坂柳がかなり近くにいるのである。
それも、周りには体育祭を楽しんでいる生徒がいる。
こちらを向いてはいないが、向かれればかなり危ないだろう。
俺は坂柳を抱えた状態で態勢を戻し、左手で倒れる時に落ちた杖を彼女に返す。
杖を握ったのを確認して、俺は坂柳から離れる。
坂柳の方を見ると、頬が赤くなっているのが分かる。
「色々とすまん。俺は偏頭痛持ちで頭痛がするとああいう顔になってしまうんだ」
「そ、そうだったんですね。とは言え、今後もし同じことが起こってしまってはいけないので、その顔はやめてください」
「分かった」
噓を言ったが、坂柳にバレなかった。
いつもの坂柳なら見抜いていてもおかしくない気もするが、それがないということは今日は調子が悪いんだろう。
(「けっ。どこの鈍感野郎だ。坂柳はな、動揺してんだよ、俺のせいで。それぐらい分かれよ」)
酷い言われようだがそれぐらいは理解している、つもりである。
「あなたが原因ですが、私を助けてくれたのもあなたです。ありがとうございます」
「助けるのは当然のことだ。それに、今回は完全に俺のせいだからこれぐらいはしないとな」
「それでもです。もしここで怪我をしていたら、私は自分を呪いそうですし」
感謝をこちらに述べる坂柳の言葉を聞いて、しっかり助けられて良かったと俺は安堵する。
「そろそろ次の競技も始まる頃ですし、黒瀬くんはテントに戻った方がいいのでは?」
「もうそんな時間か。それじゃあ、また後で」
「ええ。しっかりと見ておくので頑張ってください」
坂柳と別れ、Aクラスのテントに向かった。
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種目は団体戦である棒倒しに変わり、赤組対白組の戦いが始まる。
棒倒しでは殴る蹴るなどの暴力行為は禁止されているが、つかみ合いや押し合いについては容認しているようだ。
俺たち赤組はAクラスとDクラスで、正直言ってこの勝負は勝てると思っている。
Aクラスのフィジカルはどのクラスよりも高く、この勝負で後れを取ることはまずない。
棒倒しについて龍園が平田に説明しに行くようで、俺は石崎と話しながらもその話に聞き耳を立てる。
「おい平田。1回目は俺らが攻めるから、2回目はお前らが攻めろ」
「おい!何勝手に決めてやがる!」
龍園が平田にそう言い放つと、そこに須藤が入り込む。
「てめえに話してねえよ、この猿野郎が」
「何だとてめえ!もう一度言ってみやがれ!」
「須藤くん、暴力なんてしたら龍園くんの思うつぼだよ」
今にも龍園を殴りそうな須藤を止める平田。
平田に言われたことで、須藤は悪態をつきながらも少し離れる。
「龍園くんも煽ったりしないでくれるかな。今は協力してくれないと、勝てる勝負にも勝てなくなる」
「クク、それぐらい分かってるぜ。それでどうなんだ?俺の案は飲んでくれるのか?」
「・・・・・・分かったよ。その代わり、僕たちの輪を乱すようなことはやめてくれないかな?」
「善処してやる」
2人の話し合いが終わり、こちらに戻ってきた龍園が作戦を伝える。
「おいてめえら、前半は俺らが攻める。死ぬ気で攻めやがれ。そうじゃないと分かってるよな」
それを聞いたクラスメイトは事前に聞いていた通りに並ぶ。
今回はアルベルトを先頭に、防御陣を潰しながら確実に棒を倒すというもの。
試合開始のホイッスルが鳴り、俺たちは相手の棒に向かって走る。
「お前ら、何としてでも守り抜くぞ」
相手の防御陣はBクラスで、指揮は葛城が執っているがまとまっている雰囲気はない。
俺たちはアルベルトが相手をなぎ倒している間に、敵の棒へと攻撃を仕掛ける。
俺は少し助走をつけ、一番外側にいたBクラスの生徒の肩を踏み台にして跳躍する。
「いってえ!」
俺が踏んだやつの叫び声が聞こえる。
おそらく戸塚だと思うが、可哀想とは思わない。
飛んだことによって阻まれることはなく、そのまま棒の真ん中を掴み、背負い投げの要領で棒に力を入れる。
「うお!?棒が浮いた!?」
「お前ら、棒を離せ!巻き込まれるぞ!」
力を入れたのはいいが、思った以上の力が出たようで棒が浮いたようだ。
それを見た審判はホイッスルが鳴る。
開始からものの数秒で、白組の棒を倒してしまった。
俺はそのままの体勢で着地すると、肩に棒を担いだ状態になったので、その場に棒を捨てる。
「流石にあの力は意味不明でしょ・・・・・・」
「棒が浮くなんて思ってなかったわ・・・・・・」
そんなBクラスの声を聞きながら赤組の棒へと戻る。
「棒を力で浮かせるなんて、化け物みたいじゃねえか」
「アルベルトならいけると思うがな」
ただ、アルベルトの跳躍に耐えられる物が少ないだけで、おそらく出来るだろう。
(「彼女にアピールか~?このイケメンやろー」)
おれが話しかけてきたのを無視して、棒の防衛に参加する。
攻撃へと代わったDクラス。
須藤が何やら鼓舞しているが、あまり効果は無さそうだ。
2回目の試合が始まりの合図が鳴り、両組の攻撃陣が攻める。
今回攻めてくるのはBクラスで、向こうも交代したようだ。
とは言え、アルベルトがいるこちらはどちらが攻めて来たとしても全く関係ない。
アルベルトはBクラスの生徒を何人も押し返し、残ったやつも石崎などのフィジカル系が抑え、棒に攻めてくるやつは5人程度に減ってしまう。
そんな人数で棒を倒すことはできるはずがなく、逆に白組の棒が倒れて試合は終了した。
「おい龍園!てめえ、よくも俺の背中を踏みやがって!」
「ああ?俺は知らねえな。ちょうどいい踏み台があったことしかな」
またも龍園と須藤が揉めており、今回は龍園が須藤を踏んだようだ。
「それよりてめえは棒を守るはずだろうが!」
「ああ?それこそ知らねえな。俺は守るなんて一言も言ってねえからな」
「なんだとー!!」
白を切り続ける龍園に須藤が掴みかかりそうになった瞬間、数人のDクラスの生徒がそれを止める。
「やめろ寛二!俺は1発殴らねえと気が済まねえ!」
「問題を増やすなよ!お前が殴っちまえば、クラスに迷惑かけるんだぞ!」
池はそう言っているが、確かにここで暴力沙汰になればDクラスは何かしらのペナルティを食らう。
それが何かは知らないが、クラスポイントは絡んでくるだろう。
そうなればまた0ポイント生活に逆戻りである。
(クラスのためとはいえ、池があんなことをするようになったとは思っていなかったな。
元クラスメイトとしてだが、成長して俺は嬉しいぞ)
元クラスメイトの成長を内心で喜ぶ俺であった。
2回目の棒を倒したのは、龍園です(黒瀬くんは棒を守っていて全く見ていなかったので仕方ない)