ようこそ2人の最高傑作がいる学校へ   作:クリッピー

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第54話 天から授けられた才の鼓動

 保健室で治療を終えクラステントに戻ると、ちょうど障害物競走が始まったところだったので、急いでスタート地点に向かう。

 障害物競走では最終レースを走ることとなっていて、それなりの時間があったため、着いたときにはまだ4組目がスタートした後だった。

 

「黒瀬さん、競技に出て大丈夫なんですか?」

 

 俺が来たことに気が付いた石崎が心配してくる。

 

「一応大丈夫だ。先生にも許可は取ってある」

 

「それでも肉離れですよ?左手がほとんど使えない状態で、この後の競技をやるのは無茶ですよ・・・・・・」

 

 石崎の言っていることはもちろん承知である。

 左手がほとんど使えない状態、それも肉離れした状態で障害物競走、騎馬戦に参加するのはかなり無茶である。

 だが、それは一般人に言えることだ。

 

「まあ見ておけ。俺が1位になるところをな」

 

「や、やっぱりちげぇ・・・・・・。俺、一生黒瀬さんについていきます!」

 

 俺の言葉に感化された石崎が、目をキラキラさせながら大声で俺の名前を呼んだせいで、周りから注目を浴びてしまった。

 

(石崎のせいで周りからの視線が...うっ...)

 

(「カカ、そんなのいつものことじゃねえか」)

 

 俺に笑われながそう言われてしまったが、いつもは注目されることを事前に知っているから大丈夫なのだ。

 だが、今回みたいな不意打ちにはめっぽう弱い。

 

(おれ、変わってくれ...。

 どうせお前にこれと騎馬戦は代わってもらう予定だからいいだろ?)

 

(「元々おれを使う予定だったのかよ・・・・・・ま、別に暇だし全然いいけどな」)

 

 これで俺が痛い思いをしなくて済んだのだが、おれが素直にお願いを聞くとは思えない。

 何か裏があるのかもしれない。

 

(1つ聞くが、俺に何かを要求する気じゃないだろうな?)

 

(「カカ、そんなのあるに決まってるだろ。逆にない方が頭おかしいんだよ」)

 

 一部の人を敵に回しそうな発言をしているおれ。

 だが、言っていることは合っている気がする。

 

(確かに、無償で手伝うっていうのは詐欺っぽく思えるよな...)

 

(「ということでおれは、おれが指定した日に代わってもらおうことを所望する」)

 

(ほう。分かった)

 

 唐突に話を進められたが、いつものことなのでしっかり対応する。

 

(「ちっ、しょうもねえな。もうちょっといいリアクションしろよ」)

 

(いつものことだし。リアクション取れっていう方が難しい)

 

(「そうかよ。あと、時間がねえから代わるぞ」)

 

(はいはい。いいですよ)

 

 それを合図に俺とおれが入れ替わった。

 

-----------------------------

 

「えー黒瀬くんはいませんか?不在の場合は失格になりますが」

 

 俺との会話が長すぎたせいで、出番がいつの間にか回ってきていたようだ。

 失格にはなりたくないのでスタート位置につく。

 同じ組には快速の柴田マンとチンパンジーの須藤マンがいた。

 おれが須藤と当たるように変態の龍園マンが調整したのだろう。

 

(おれが龍園を変態と言えた側ではないが)

 

 スタート準備をするとちょうど前の組が終わったので、おれの最初で最後のレースが始まる。

 

(最初の立ち上がりはトップ。速度を落とさずに平均台を渡り切るか)

 

 左手の怪我など気にしてないような走りで首位に出たおれは、細い平均台を普通の地面と変わらない速度で駆け抜ける。

 

(平均台の次は網をくぐるのか。楽勝すぎて鼻で笑えるわ)

 

 少し口角を上げ、平均台の後に待ち構えていた網をくぐる。

 俺は地面を抉るかのように右手だけを使い、指の爪を地面に食い込ませて進んでいく。

 

(次はズタ袋で、最後に50m。後ろが気になって仕方がねえ)

 

 最後の障害物のズタ袋に両足を入れて後ろを確認すると、須藤がやっと網をくぐり始めたところだった。

 

(あいつらじゃ、相手にもならないか...。

 もっと、もっと強い奴はいねえか...潰しがいのある奴は...)

 

 そう思ったせいで、おれから不気味なオーラが滲み出てくる。

 

 それに気付くものはこの学校にいるのだろうか。

 

 おれはこのレースを大差を付けて終わらせた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 俺は非常に機嫌が悪い。

 とにかく悪い。

 どれぐらい悪いかというと、地球を割れそうなぐらい。

 それは冗談だが、それぐらい機嫌を損ねたは久しぶりである。

 そんなものはおれが関わればすぐに出てくるのだが。

 

 目の前にいる銀髪ロングの先輩。

 その先輩に現在絡まれている。

 理由など言うまでもない。

 おれのせいだ。

 

「あ、あのー・・・・・・どいてくれませんか?」

 

「それは少し無理なお願いだな」

 

「手を肉離れしているので保健室に行きたいのですが・・・・・・」

 

「見れば分かる。それならこの美人な先輩が君の手当てをしようじゃないか」

 

 早くこの先輩から離れたいのだが、なかなか通してくれないのだ。

 幸いにもクラステントから少し離れたところにいるため、人が集まることはない。

 

「結構です。それより先輩は競走に参加しなくていいんですか?もうすぐ男子の部が終わりますが」

 

「あいにく私はこの体育祭に興味がないんだ。だからあんなのに参加する気は、()()()()()微塵もなかった」

 

 この先輩は高円寺に似た性格の持ち主のようで、体育祭には参加していないようだ。

 

(それにしても、眠れる森の美女を起こしてしまったかもしれない...。

 少し嬉しいけど、こういうタイプの人間は願い下げだ)

 

(「いいじゃん、いいじゃん。可愛いから許してあげろよ」)

 

(お前だけは絶対に許さない)

 

「もう終わりか?もう少し喋るやつかと思ったが、案外口下手なんだな」

 

 おれと話したせいで、先輩に口下手野郎だと思われてしまった。

 何故か心が傷ついた気がするが、気のせいだろう。

 

「単純に先輩と話すのが嫌だったからです」

 

「口下手かと思ったら毒舌だとはな。これは面白い」

 

(「それは面白いよな!流石俺!」)

 

 そう言って笑う先輩だが、どこに笑いの要素があったのか全く分からない。

 おれは何故かそれに共感しているが。

 

「それで、何か用でもあるんですか?ないなら早く戻りたいんですが」

 

「そう急かすな後輩。私には私のペースがある。ゆっくり話そうじゃないか」

 

「俺にはゆっくり話している時間なんてありません。話しがしたいのなら手短にしてからにしてください」

 

 なかなか引き下がってくれなさそうだったので、俺から話を切り上げてここから離れようとしたが、次の言葉に足を止めてしまう。

 

「私の堪かもしれないが、君は()()()()()だろ?」

 

(「案外鋭い勘を持った奴じゃねえか。俺に気付いたやつはこれで3人目だな」)

 

(脅威と言えるほどの勘だな...と言っても俺が言えた立場じゃないが)

 

「確証は持っていなかったが、反応を見る限り本当のようだな」

 

 俺が多重人格という言葉に足を止めたせいで、先輩がそれを悟り確信まで至ってしまったようだ。

 

(「見るからに向こうはおれを所望してるようだな。変わってもいいだろ?」)

 

(はぁ...別にいいぞ。

 終わったら教えてくれ)

 

 本日2度目の入れ替わり。

 これはおれがまいた種なので仕方ないだろう。

 

「ふー・・・・・・おれの存在に気付いたのはこれで3人目。名誉に思っていいですよ、先輩」

 

「ほう。私は君の3人目ということになるのか。多重人格というものは案外気づかれないものなんだな」

 

「基本的におれは出てこないので仕方ないですね」

 

 入れ替わったことに平然と受け答えをしているが、やはり興味があるのか、こちらをくまなく観察している。

 

「・・・・・・君は人格が入れ替わったことで、雰囲気と目の色が変わるようだな」

 

「それが俺とおれを見分ける方法になるので。これから長い付き合いになりそうなので、しっかりと覚えておいてください」

 

「私も君とは長い付き合いになると思っている。だからしっかりと覚えておこう」

 

 先輩とはこの学校にいる間、色んなところで関わっていくと思っている。

 大半が試験と関係すると思うが。

 

「もう少し話しておきたいですが、ここまでのようですね」

 

「そのようだな」

 

 グラウンドの方を見ると、競技1つ1つの回転率がかなり良いため、既に2年女子が終わっており今は3年女子が走っている。

 

(この先輩と体育祭でやりたいことがあるから一応聞いてみるか)

 

「最後に1つだけいいですか?」

 

「全然構わないぞ。可愛い後輩の頼みだからな」

 

 おれはそれを聞いて、一息入れてこう言う。

 

「おれとリレーで勝負してください」

 

「そこは告白でもしてくると思ったが、勝負の申し出とはな」

 

 驚いた表情を一切見せず、それについて考える先輩。

 そんなことを言っているが、おれがそう言うことは予想していたようだ。

 

「折角の体育祭、それに後輩の頼みときた。それを断る先輩がどこにいると思う?」

 

「確かにそうですね」

 

「ルールはどうするんだ?私にハンデをくれるなら喜んでもらうぞ」

 

「それなら先輩は女性ということで、先輩が4分の1を過ぎたところでおれがスタートします。それで先にゴールした方が負けた方に何か命令できるというのでどうですか?」

 

 先輩と言っても相手は女性である。

 ここでハンデを設けないのは男として沽券に関わることだ。

 こちらの提案に先輩は頷く。

 

「私はそれで構わない。むしろ、そんなにハンデをもらっていいのかと思っているぐらいだ」

 

 先輩の実力がどの程度か全く未知数だが、おれに気付いたり今の発言から、かなり上にいることが分かる。

 それでもハンデを与えるのは当然だろう。

 

「走順の方はどうする?私としては1番手がいいのだが」

 

「おれはアンカーですね。もし変えたいのであれば変えますが」

 

「そこまでする必要はない。私が君に合わせるからな」

 

「ありがとうございます」

 

「感謝するのは私の方だ。何しろ初めて私がハンデを貰って勝負をするのだからな」

 

 それだけ先輩が強いのか、ハンデありの勝負は初めてのようだ。

 そこまで言われたら、逆に勝ちたくなってくるというもの。

 

「なら、先輩の初めてを黒く塗り潰してあげますね」

 

「ふっ、可愛くない後輩だが気に入った。お姉さんはそれに応えないために、全力で相手をしてやろう」

 

 おれはこの美人な先輩とリレー勝負をすることが決まったのであった。

 




鬼龍院先輩を登場させました(いい加減本城くんを出してあげなさい)
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