保健室で治療を終えクラステントに戻ると、ちょうど障害物競走が始まったところだったので、急いでスタート地点に向かう。
障害物競走では最終レースを走ることとなっていて、それなりの時間があったため、着いたときにはまだ4組目がスタートした後だった。
「黒瀬さん、競技に出て大丈夫なんですか?」
俺が来たことに気が付いた石崎が心配してくる。
「一応大丈夫だ。先生にも許可は取ってある」
「それでも肉離れですよ?左手がほとんど使えない状態で、この後の競技をやるのは無茶ですよ・・・・・・」
石崎の言っていることはもちろん承知である。
左手がほとんど使えない状態、それも肉離れした状態で障害物競走、騎馬戦に参加するのはかなり無茶である。
だが、それは一般人に言えることだ。
「まあ見ておけ。俺が1位になるところをな」
「や、やっぱりちげぇ・・・・・・。俺、一生黒瀬さんについていきます!」
俺の言葉に感化された石崎が、目をキラキラさせながら大声で俺の名前を呼んだせいで、周りから注目を浴びてしまった。
(石崎のせいで周りからの視線が...うっ...)
(「カカ、そんなのいつものことじゃねえか」)
俺に笑われながそう言われてしまったが、いつもは注目されることを事前に知っているから大丈夫なのだ。
だが、今回みたいな不意打ちにはめっぽう弱い。
(おれ、変わってくれ...。
どうせお前にこれと騎馬戦は代わってもらう予定だからいいだろ?)
(「元々おれを使う予定だったのかよ・・・・・・ま、別に暇だし全然いいけどな」)
これで俺が痛い思いをしなくて済んだのだが、おれが素直にお願いを聞くとは思えない。
何か裏があるのかもしれない。
(1つ聞くが、俺に何かを要求する気じゃないだろうな?)
(「カカ、そんなのあるに決まってるだろ。逆にない方が頭おかしいんだよ」)
一部の人を敵に回しそうな発言をしているおれ。
だが、言っていることは合っている気がする。
(確かに、無償で手伝うっていうのは詐欺っぽく思えるよな...)
(「ということでおれは、おれが指定した日に代わってもらおうことを所望する」)
(ほう。分かった)
唐突に話を進められたが、いつものことなのでしっかり対応する。
(「ちっ、しょうもねえな。もうちょっといいリアクションしろよ」)
(いつものことだし。リアクション取れっていう方が難しい)
(「そうかよ。あと、時間がねえから代わるぞ」)
(はいはい。いいですよ)
それを合図に俺とおれが入れ替わった。
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「えー黒瀬くんはいませんか?不在の場合は失格になりますが」
俺との会話が長すぎたせいで、出番がいつの間にか回ってきていたようだ。
失格にはなりたくないのでスタート位置につく。
同じ組には快速の柴田マンとチンパンジーの須藤マンがいた。
おれが須藤と当たるように変態の龍園マンが調整したのだろう。
(おれが龍園を変態と言えた側ではないが)
スタート準備をするとちょうど前の組が終わったので、おれの最初で最後のレースが始まる。
(最初の立ち上がりはトップ。速度を落とさずに平均台を渡り切るか)
左手の怪我など気にしてないような走りで首位に出たおれは、細い平均台を普通の地面と変わらない速度で駆け抜ける。
(平均台の次は網をくぐるのか。楽勝すぎて鼻で笑えるわ)
少し口角を上げ、平均台の後に待ち構えていた網をくぐる。
俺は地面を抉るかのように右手だけを使い、指の爪を地面に食い込ませて進んでいく。
(次はズタ袋で、最後に50m。後ろが気になって仕方がねえ)
最後の障害物のズタ袋に両足を入れて後ろを確認すると、須藤がやっと網をくぐり始めたところだった。
(あいつらじゃ、相手にもならないか...。
もっと、もっと強い奴はいねえか...潰しがいのある奴は...)
そう思ったせいで、おれから不気味なオーラが滲み出てくる。
それに気付くものはこの学校にいるのだろうか。
おれはこのレースを大差を付けて終わらせた。
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俺は非常に機嫌が悪い。
とにかく悪い。
どれぐらい悪いかというと、地球を割れそうなぐらい。
それは冗談だが、それぐらい機嫌を損ねたは久しぶりである。
そんなものはおれが関わればすぐに出てくるのだが。
目の前にいる銀髪ロングの先輩。
その先輩に現在絡まれている。
理由など言うまでもない。
おれのせいだ。
「あ、あのー・・・・・・どいてくれませんか?」
「それは少し無理なお願いだな」
「手を肉離れしているので保健室に行きたいのですが・・・・・・」
「見れば分かる。それならこの美人な先輩が君の手当てをしようじゃないか」
早くこの先輩から離れたいのだが、なかなか通してくれないのだ。
幸いにもクラステントから少し離れたところにいるため、人が集まることはない。
「結構です。それより先輩は競走に参加しなくていいんですか?もうすぐ男子の部が終わりますが」
「あいにく私はこの体育祭に興味がないんだ。だからあんなのに参加する気は、
この先輩は高円寺に似た性格の持ち主のようで、体育祭には参加していないようだ。
(それにしても、眠れる森の美女を起こしてしまったかもしれない...。
少し嬉しいけど、こういうタイプの人間は願い下げだ)
(「いいじゃん、いいじゃん。可愛いから許してあげろよ」)
(お前だけは絶対に許さない)
「もう終わりか?もう少し喋るやつかと思ったが、案外口下手なんだな」
おれと話したせいで、先輩に口下手野郎だと思われてしまった。
何故か心が傷ついた気がするが、気のせいだろう。
「単純に先輩と話すのが嫌だったからです」
「口下手かと思ったら毒舌だとはな。これは面白い」
(「それは面白いよな!流石俺!」)
そう言って笑う先輩だが、どこに笑いの要素があったのか全く分からない。
おれは何故かそれに共感しているが。
「それで、何か用でもあるんですか?ないなら早く戻りたいんですが」
「そう急かすな後輩。私には私のペースがある。ゆっくり話そうじゃないか」
「俺にはゆっくり話している時間なんてありません。話しがしたいのなら手短にしてからにしてください」
なかなか引き下がってくれなさそうだったので、俺から話を切り上げてここから離れようとしたが、次の言葉に足を止めてしまう。
「私の堪かもしれないが、君は
(「案外鋭い勘を持った奴じゃねえか。俺に気付いたやつはこれで3人目だな」)
(脅威と言えるほどの勘だな...と言っても俺が言えた立場じゃないが)
「確証は持っていなかったが、反応を見る限り本当のようだな」
俺が多重人格という言葉に足を止めたせいで、先輩がそれを悟り確信まで至ってしまったようだ。
(「見るからに向こうはおれを所望してるようだな。変わってもいいだろ?」)
(はぁ...別にいいぞ。
終わったら教えてくれ)
本日2度目の入れ替わり。
これはおれがまいた種なので仕方ないだろう。
「ふー・・・・・・おれの存在に気付いたのはこれで3人目。名誉に思っていいですよ、先輩」
「ほう。私は君の3人目ということになるのか。多重人格というものは案外気づかれないものなんだな」
「基本的におれは出てこないので仕方ないですね」
入れ替わったことに平然と受け答えをしているが、やはり興味があるのか、こちらをくまなく観察している。
「・・・・・・君は人格が入れ替わったことで、雰囲気と目の色が変わるようだな」
「それが俺とおれを見分ける方法になるので。これから長い付き合いになりそうなので、しっかりと覚えておいてください」
「私も君とは長い付き合いになると思っている。だからしっかりと覚えておこう」
先輩とはこの学校にいる間、色んなところで関わっていくと思っている。
大半が試験と関係すると思うが。
「もう少し話しておきたいですが、ここまでのようですね」
「そのようだな」
グラウンドの方を見ると、競技1つ1つの回転率がかなり良いため、既に2年女子が終わっており今は3年女子が走っている。
(この先輩と体育祭でやりたいことがあるから一応聞いてみるか)
「最後に1つだけいいですか?」
「全然構わないぞ。可愛い後輩の頼みだからな」
おれはそれを聞いて、一息入れてこう言う。
「おれとリレーで勝負してください」
「そこは告白でもしてくると思ったが、勝負の申し出とはな」
驚いた表情を一切見せず、それについて考える先輩。
そんなことを言っているが、おれがそう言うことは予想していたようだ。
「折角の体育祭、それに後輩の頼みときた。それを断る先輩がどこにいると思う?」
「確かにそうですね」
「ルールはどうするんだ?私にハンデをくれるなら喜んでもらうぞ」
「それなら先輩は女性ということで、先輩が4分の1を過ぎたところでおれがスタートします。それで先にゴールした方が負けた方に何か命令できるというのでどうですか?」
先輩と言っても相手は女性である。
ここでハンデを設けないのは男として沽券に関わることだ。
こちらの提案に先輩は頷く。
「私はそれで構わない。むしろ、そんなにハンデをもらっていいのかと思っているぐらいだ」
先輩の実力がどの程度か全く未知数だが、おれに気付いたり今の発言から、かなり上にいることが分かる。
それでもハンデを与えるのは当然だろう。
「走順の方はどうする?私としては1番手がいいのだが」
「おれはアンカーですね。もし変えたいのであれば変えますが」
「そこまでする必要はない。私が君に合わせるからな」
「ありがとうございます」
「感謝するのは私の方だ。何しろ初めて私がハンデを貰って勝負をするのだからな」
それだけ先輩が強いのか、ハンデありの勝負は初めてのようだ。
そこまで言われたら、逆に勝ちたくなってくるというもの。
「なら、先輩の初めてを黒く塗り潰してあげますね」
「ふっ、可愛くない後輩だが気に入った。お姉さんはそれに応えないために、全力で相手をしてやろう」
おれはこの美人な先輩とリレー勝負をすることが決まったのであった。
鬼龍院先輩を登場させました(いい加減本城くんを出してあげなさい)