ようこそ2人の最高傑作がいる学校へ   作:クリッピー

59 / 77
第56話 目覚める獅子

 騎馬戦を終えると、龍園と須藤がまた揉めていた。

 

(確か平田の騎馬が騎手の転倒によって脱落していた。

 もしそれをやったのが龍園なら、今起こってるのにも納得がいく。

 もう止める気にはならないし、それは俺の役目だから無視するか)

 

 面倒事に首を突っ込む気がないおれは、あの騒ぎを無視してテントに戻る。

 テント内にあるパイプ椅子に適当に座ると、そこがたまたま伊吹の隣で話しかけられてしまった。

 おれはすぐさま俺と切り替わる。

 

「本当に化け物じみてるわね・・・・・・」

 

「そ、そうか?頑張れば誰でも出来ると思うが」

 

「2方向から来る手を防いで、そこからハチマキを奪うなんて普通は無理。黒瀬って案外馬鹿?」

 

 伊吹の言葉に否定したら、一蹴りされた上に馬鹿と言われてしまった。

 

(俺は見てただけだけど、今思ったら誰でも出来る技じゃないな...。

 相手の行動と意思を読み取り、見えない部分は人特有の気配で読み取る。

 俺とおれでも集中しなければ出来ないことが、普通の人に出来るわけがないよな...)

 

「クク、伊吹にそこまで言われるほど馬鹿だったとはな」

 

 そんなことを思っていたら、揉め事から戻ってきた龍園が会話に入ってくる。

 

「あんた、一度死んでみる?」

 

「そりゃあはこえーな」

 

 伊吹は須藤と遊び終わった龍園に遠回しに馬鹿と言われ、青筋を浮かべていた。

 龍園に馬鹿にされたのが、余程嫌だったんだろう。

 だが龍園は反対にそれを楽しんでいるように見えた。

 なかなか面白い関係のようだ。

 

「はー・・・・・・そういえばさっき、また揉めてたみたいだけど何かやったの?」

 

「騎馬戦で少し接触したら、あいつらが転倒したぐらいだ」

 

「こっちからは全く接触したように見えなかったけど?」

 

「そんなことぐらい造作もねえよ」

 

 周りから見えないように接触して転倒させるのは、クラス自体を支配している龍園だからこそ出来る芸当の1つだ。

 他のクラスは真似することすら出来ない。

 

「逆にバレれば即アウトになるかもしれないことを、周りから見えるようにするのは馬鹿のやることだからな。見えなくて当然だ」

 

「そ、それぐらい分かってる・・・・・・」

 

「クク、さっきまでの勢いが無くなったじゃねえか。もしかして分からなかったのか?」

 

「う、うるさい!分かってたに決まってんでしょ!」

 

 いじられる伊吹は顔を赤くして声を荒げていた。

 隠そうとして必死なんだろう。

 

(少し伊吹をいじってみたが、強弱がはっきりしていて面白い。

 龍園がよく伊吹に絡んでいる意味が分かった気がする)

 

「伊吹さん、あんなに声を上げてどうかしましたか?」

 

「どうせ、龍園さんの作戦に不満を持ったとかじゃね?」

 

 先ほどの声を聞いてひよりと石崎、アルベルトがこっちに来た。

 クラスメイトの数人がこちらを見ていることから、伊吹の声が大きくてこちらに来たようだ。

 伊吹は人から注目を浴びるのが嫌なのか、それとも周りに人が集まってきたのが嫌なのか分からないが、怒りながらどこかへ行ってしまった。

 

「何だよあいつ、感じ悪いな」

 

「駄目ですよ石崎くん。伊吹さんの悪口を言っては」

 

「もし伊吹に聞かれてたら、脛に蹴りがとんでくるだろうな」

 

「そ、それは冗談でも言わないでくださいよ・・・・・・」

 

 石崎は伊吹の蹴りを食らったことがあるようで、身震いを起こしていた。

 俺も食らったことがあるので石崎の気持ちは嫌でも分かる。

 

「クク。安心しろ、石崎。後で伊吹に言っておいてやる」

 

「本当にやめてください!あの蹴りは痛いんで!」

 

 半ば涙目になっている石崎を見てほくそ笑む龍園。

 

(これは伊吹にまで伝わるパターンだな。それも噓を付け加えられて)

 

 ちなみに石崎がこの後伊吹に蹴られたのは言うまでもない。

 

-----------------------------

 

 種目は午前中最後の競技、200メートル走へと移る。

 

 今回は走るだけなので、おれに代わることなくスタートラインに立つ。

 事前に聞かされていた相手は須藤のはずだが、ここへ来て姿が全く見えない。

 その代わり、俺の横には先ほどまで一度も見なかったやつがいた。

 

「久しぶりだねえ、ブラックボーイ」

 

「船の上以来だな、高円寺」

 

 そう、俺の隣にいるのは今までの種目に参加していなかった高円寺だ。

 

「どういう風の吹き回しか知らないが、今回も勝たせてもらう」

 

「それなら私も本気で走らせてもらおうじゃないか」

 

 そう言って構える高円寺。

 俺もそれを見て構える。

 

(今回は陸での純粋な速さ勝負。

 前回みたいに最後まで待たず、最初から本気で走るか)

 

(「いいねえ、いいねえ。久しぶりにやっちまおうぜ!」)

 

 スタートの合図が鳴り、一斉に俺たちはスタートする。

 先行を切ったのは俺で、すぐ後ろに高円寺がいることが分かる。

 俺はスタートから出来るだけ姿勢を前のめりにしている。

 これは速く走れる方法ではない。

 むしろ、スピードが落ちているかもしれない。

 だが俺はこの態勢を崩す気はない。

 

(あの施設でずっと使ってきた走り方。

 90度とは言わないが、姿勢を前のめりにして走る。

 一般的には姿勢を上げた方が速く走れるかもしれないが、俺にはこっちの方が速く走れる)

 

 順位が変わることなく100mを超えた時、後ろから聞こえてくる足音が変わった。

 先ほどまでとは違い、確実に地面が抉られているような音。

 脚に入れている力が変わったのだろう。

 じりじりと詰められる距離。

 だいたい残り30mのところで高円寺が並んできた。

 

(このままだと負けてしまう。

 あまり力を入れたくなかったがやるしかないな)

 

 俺も先ほどよりも脚に力を入れて走る。

 この後のことを考えるとあまりやりたくなかったが、出し惜しみをする相手ではない。

 俺と高円寺はこの後、どちらも前を譲ることなくゴールをした。

 

「ふーっ・・・・・・」

 

 ゴールをして少し乱れた呼吸を整えていると、高円寺が近づいてきた。

 

「久しぶりに張り合えて楽しかったよ。今回も君の勝ちのようだが、次は負けないから覚えておくといい。それじゃあシーユー」

 

 竜巻のような男はそう言って去って行った。

 

(高円寺は今回俺が勝ったと言っているが、本来勝っていたのは高円寺のはずだ。

 あいつがゴール手前で少しでも体を前に倒していれば、確実に俺は負けていた。

 やはり侮れない相手で変わりないようだな)

 

(「久しぶりに熱い戦いだったじゃねえか。おれもリレーであの先輩に勝たねえと」)

 

(運が悪ければ負けるかもよ)

 

(「おれの運がどれだけなのか見せてやるわ!」)

 

 あまりいい予感はしないが、おれには頑張ってもらわないといけない。

 これで体育祭午前の部が終わり、昼休憩に入った。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。