借り物競争の後に行われた、四方綱引きと男女混合二人三脚はAクラスが勝利を収め、残る競技は締めの3学年合同1200メートルリレーだけとなった。
リレーが始まるまでに時間が少しあるため、ひよりと体育祭の点数について話し合っていた。
「見ていた感じだと、あまりCクラスとの差がなさそうですね」
「いや、おそらくAクラスの勝ちは確定している。個人競技でCクラスは強かったが、団体競技では点差なし。騎馬戦と推薦競技で415点差は出来ていたからリレーで挽回できない」
団体競技では男子が勝って女子が負けたので点差なし。
騎馬戦で400、推薦競技では15点の差が出来たが、団結力のあるCクラスは個人競技でかなり強かった。
全ての競技で1人は最下位を取っていたが、大半の競技で1人は3位以内に入っており、俺の予想が当たれば200点差ぐらいになっているだろう。
だがリレーで200点差からCクラスが勝つことは出来ない。
「そう考えると、龍園くんの騎馬戦での作戦は凄かったですね。あまり称えられるものではありませんが、勝つためならあの作戦が1番理にかなっているでしょう」
女子騎馬戦で龍園が言ったことは、「ハチマキを取られるぐらいなら、自滅して相手にポイントをやるな」だ。
この作戦は正々堂々戦っている人からしたら嫌だっただろう。
なぜなら、「試合を放棄して負けろ」と言っていることはあまり変わらないからだ。
だが団結して戦ってくると分かっている相手に、1人1人の個が強いチームが勝つなんて、その個が人の何倍よりも強かった場合だけだ。
それ以外は運が味方しても確実に負ける。
その分龍園の作戦はDクラスの全員がハチマキを取られたとしても、250点に収められる。
そこに自分たちが取ったハチマキを加えれば、十分に巻き返すことのできる点差に出来る。
「あんな作戦が取れるのはこの学校にごく少数しかいない。その中でも、この作戦が真っ先に浮かぶのは龍園だけだろう」
「クク、そんなに褒めても何もねえぞ」
「別に褒めてないんだがな・・・・・・」
ちょうど龍園の話をしていたら、本人が5人のリレーメンバーを連れてやって来た。
メンバーは矢島、伊吹、園田、近藤、
途中で怪我をした木下は不参加のようだ。
「龍園くん、そろそろ時間なんですか?」
「お前らにはグラウンドの中央が見えねえのか?」
「「・・・・・・」」
言われた通りグラウンドの中央を見ると、色んなクラスが集まり始めていた。
(さっき見た時は全く集まっていなかったんだがな...)
「1人、目が節穴のやつがいるが聞け。もう俺たちの勝ちは確定した。だからお前たちの好きに走れ。分かったならさっさと行きやがれ」
リレーで走るメンバーに龍園が命令を下す。
その言葉に俺たちは受け入れ、グラウンドの中央へ向かう。
「それで順番はどうすんの?」
中央に向かっている途中、伊吹がそんなことを聞いてきた。
他のやつも気になっているようで、こちらに顔を向けてくる。
「陸上部の矢島を1番にして、園田、近藤、前田、伊吹、俺でいいんじゃないか?」
「龍園が言ってた順番ってことね」
「それ以外に思いつかないからいいんじゃないか?」
園田の言葉に他も同意する。
これ以外に順番が思いつかないから仕方ないだろう。
集合場所に到着すると、そこには俺の知っている先輩たちが多くいた。
(堀北先輩、扇先輩、名前の分からない女の先輩。
この3人が要注意ってところか?)
(「先輩で要注意はそこら辺だろ。美人先輩はやってみないと分からんが」)
(他は綾小路ぐらいだな。
高円寺の姿が見えないし)
ぎりぎり南雲先輩が入るか入らないか程度で、それ以外は敵として不十分だろう。
スタートラインを見ていると1番手の矢島がコースに入る。
今回のリレーでは12人横並びの同時スタート。
先に出た者からインコースに入ることができ、俺たち1年生はDクラスからスタートの内側にいるため少し有利だろう。
(どうやら推薦競技を休んでいた須藤が復帰。
顔を見る限り、今日1番で良さそうだな。
これでDクラスもひとつ前に進んだと言えるか)
(「お、Cクラスは腹ペコじゃねえか。矢島とどれくらいの差が出来るのか見ものだな」)
(本人に言ったらヤバそうだが、確かにそうだな)
(「合ってるしいいんじゃね?」)
おれが脳内で爆弾発言をしている中、この場は今までで1番の盛り上がりを見せる。
そしてスタートを告げる音が鳴ったと同時に、12人が一斉に飛び出した。
先陣を切ったのは須藤で後方をどんどん突き放していく。
矢島はスタートは良かったものの、途中で2年男子に抜かれてしまい4番手、七詩は5番手でバトンを渡す。
2人とも女子にしてはかなり良い方だろう。
2番手の園田は前方と距離を詰めるも抜くことは叶わず、順位をキープしたまま3番手の近藤へ渡る。
ここで3年Aクラスに抜かれてしまうも、バスケ部に所属しているというのは伊達じゃない。
前方を走っていた2年Bクラスを抜かし、4番手の前田へと渡す。
だが後方はほとんどが男子で、伊吹に渡った時には6番手になっていた。
(ちょうど半分の位置にいるが前は女子。
抜かせそうだな)
(「伊吹の脚ならいけるだろ」)
そう思っていると、伊吹にアクシデントが起こってしまった。
伊吹は前を外から抜かすために外へ出るも、その前が4番手を抜かそうと外側へ出てきたせいで、バランスを崩して転んでしまう。
すぐに立ち直って走り始めたが、やはり怪我をしたのか少し辛そうにしている。
「君のクラスメイトが転んだようだが?」
隣でバトンを待っている美人の先輩が含みのあることを言ってきた。
「俺だったら勝負を諦めるかもしれませんが、おれは諦めないですよ」
「そうでないと私が折角参加した意味が無くなる」
余程おれと戦ってみたかったようで、その目は好奇心で溢れていた。
「では私は先にゴールで待ってるとしよう」
先輩は助走を始めバトンを貰って駆け出す。
そのスピードは現役の陸上選手かと疑ってしまうぐらい速かった。
怪我をした伊吹は櫛田が綾小路にバトンを渡した時にやって来た。
そして、タイミングを計って助走を始めバトンを貰う。
先輩との距離は既に100メートル以上。
だがおれは諦めたりしない。
(おれに不可能という文字はないんだからな!)
脚に力を込めて駆け抜けていく。
前を走る綾小路と堀北先輩、そしてその前を走る勝負相手。
両者を追い抜くなど
だがその
おれが放つあの施設で鍛えられたプレッシャー。
それは前を走る者に多大な影響を与える。
「「「・・・・・・」」」
その様子を先ほどまで歓声を上げていた者は固唾を呑んで観ていた。
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「で、次は肩をやりましたか・・・・・・」
怪我の手当てを終え椅子に座っている俺の目の前にいる保健室の先生が頭を抱えていた。
「はぁ・・・・・・私は個人競技しか許可してませんよ」
「いや、「競技に出ることを許可します」って言ってたじゃないですか」
「どう考えてもそんな無茶するなんて思わないですよ!」
先生の声が保健室に響く。
それはかなりの声量で俺は耳を防いだ。
「先生。あの、うるさいんですが・・・・・・」
怪我をしてベットの上で横になっていた木下が、仕切りのカーテンをめくって言ってきた。
「それはすみませんでした・・・・・・」
「出来れば静かにしてほしかったので・・・・・・それより黒瀬くん、あなたはなぜここにいるの?」
木下に言われて、俺は少し前のことを思い返した。
(おれが全力で前を追いかけたが、最終カーブで脚に限界がきてしまった。
今回は肉離れではなく、足底筋膜炎というもので筋肉の使いすぎで現れる症状だ。
これは別段問題はないんだが、その時に前方にこけてしまい、左腕を庇ったせいで右肩からいってしまった。
その時はかなりのスピードで、着地場所が悪く右肩関節を脱臼、半袖のせいで右肩から肘、右脚と左膝にかなりの怪我をした。
その後は何とか痛みを堪えてゴールしたが、順位は最下位。
リレーに参加していた先輩方に心配されながら保健室にやって来た。
そして怪我の手当てと右手に三角巾がつけられて今になるのか)
もし左腕が肉離れしていなければここまで怪我をせずに済んだが、そんなことは過去のことだ。
今は現実を見るべきだろう。
「リレーで肉離れした左腕を庇ってこけたら脱臼した」
「普通、肉離れしたら絶対競技なんて出ないよ・・・・・・」
「それはそうだろう。正直、出なければ良かったと今少し後悔してる」
「それなら────」
だがと俺は言い木下の言葉を遮る。
「だが、出たおかげでAクラスを勝利に導けた。その代償にこの程度の怪我なんてどうてことない」
「かっこいいことを言っているようですが、毎回こんな怪我をされたら困りますよ!」
俺の言葉を聞いて、先生がまた声を荒げている。
(我ながら難儀な性格をしているが、これは仕方がない。
不良品と呼ばれないため、俺の目標に少しでも近づくためだ。
とは言え、今回は怪我をしてしまった。
今度からは気を付けないと)
「今度からこんなことにならないようにします」
「そうしてください」
また怪我をしてしまったら先生に申し訳ないので、出来るだけ怪我をしないように努力しようと思う。
そんなことを思っていたら、閉会式を終えたひよりと石崎とアルベルトが荷物を持ってやって来る。
「お邪魔します」
「黒瀬さん、怪我の具合はどうですか?」
「片手が3週間使えないぐらいだ」
「それって、生活大変じゃないですか・・・・・・」
「左はまだ使える。肘を動かすなんて簡単だ」
そう言って左肘を曲げてみる。
「ぎりぎり76度しか曲がっていませんが」
「使える範囲じゃないよ・・・・・・それ以上によく角度が分かったね・・・・・・」
正確な角度で指摘するひよりに、木下は呆気を取られていた。
「そう言えば、テントに置いてあった俺のカバンはどこにあるんだ?」
あのカバンの中に携帯が入っており、坂柳との約束で綾小路に連絡しないといけないのだ。
「それならアルベルトくんが」
アルベルトがこちらにやって来て、俺のことを配慮してカバンを開けてくれた。
「すまないが、携帯を床に置いてくれないか?」
「?」
アルベルトは首を傾げながらも、カバンの中から携帯を取り出し床に置く。
俺はそれを片足で器用に操作し、綾小路と本城に連絡をする。
「足で携帯って操作出来るんですね・・・・・・今度やってみよ・・・・・・」
「あんなに足を器用に使う人、初めて見た・・・・・・」
「凄いですね・・・・・・」
「流石は黒瀬さん・・・・・・」
「後輩は気持ち悪いことが出来るんだな」
石崎の後に変な声が聞こえたので見てみると、そこには微笑む美人先輩がいつの間にかいた。
「勝負に負けた俺に何か用ですか?」
「なに、可愛い後輩が怪我をしたからその様子を見に来ただけだ」
制服でカバンを持っている辺り、帰るついでに寄って来たようだ。
先輩は俺の足元にある携帯を見て、それを手に取り何やら操作を始めた。
「何勝手にやってるんですか・・・・・・」
「単なる好奇心だと思って見過ごしてくれ」
ため息をついてその様子を見ていると、やることが終わったようで俺の足元に携帯を戻して扉の方へ向かっていく。
「それでは私はこの辺でお暇させてもらうよ」
そう言って先輩は保健室を去って行った。
「嵐みたいな先輩でしたね・・・・・・」
「私、あんな先輩がいるなんて知らなかった・・・・・・」
俺は先輩が何か携帯にしたんじゃないかと睨み、確認してみると『鬼龍院』という連絡先が1人増えていた。
「そういうことか」
「どうかしたんですか?」
「いや、何でもない。俺はもう用がないから帰る」
手当てが終わり、ここにいる理由が特にないので帰る支度をする。
石崎たちのサポートありで椅子から立ち上がり、足底の痛みを我慢しながら扉へ向かう。
「今日は何度もありがとうございました。また怪我をしたら来ますので、その時はよろしくお願いします」
「出来れば怪我をしてほしくないですが、その時はしっかり手当てするので遠慮せず来て下さい」
俺は失礼しますと言って、保健室を後にした。
寮へと向かう帰り道、途中で石崎が思い出したかのように話しかけてきた。
「あ、そう言えば、体育祭は赤組が勝ってクラスの得点はAクラスが1位、1年最優秀賞は黒瀬さんでした。おめでとうございます!」
「そうか」
結果を報告し祝ってくる石崎に、素っ気ない言葉を返す。
「折角勝ったんですから、もう少し喜びましょうよ!」
「石崎くんの言う通りで、黒瀬くんはもっと喜ぶべきです」
「そう言われてもな・・・・・・」
最優秀賞は取れなくても、学年別なら取れると確信していたので、そこまで嬉しいとは思わない。
「それなら黒瀬さん勝ちました会をやりましょう!」
そんな小学生がやりそうな会を誰がやるのだろうかと思っていたら、ひよりがそれに賛成の意を示す。
「いいですね。私、そういうのやってみたかったんですよ」
「アルベルトもいいだろ?」
その石崎の言葉にアルベルトは首を縦に振る。
「てことで黒瀬さんの部屋でパーティーだ!」
石崎はそう言って駆けていく。
それを追いかけるひよりとアルベルト。
「あれ俺の意見は・・・・・・?あと一応怪我人なんだけど・・・・・・」
結局意見は聞いてもらえず、俺の部屋でパーティーが開かれるのであった。
プレッシャー
リレーでの堀北学との一騎打ち。
最初のカーブから直線に入る手前で後ろで何かが動いた。
オレはこの感覚を知っている。
そう、無人島試験後に黒瀬から放たれた殺気だ。
だがあれとは違い、今回は恐怖を植え付けてくる。
後ろから迫り来る何か。
止まれば死に、止まらなくても死んでもしまうという矛盾の恐怖。
人は死の恐怖から逃れられない。
それは観ている側にも分かるようで、先ほどまで盛り上がってこの場は、緊縛した雰囲気になっていた。
隣の堀北学も後ろの影響で少し顔が引きつっている。
普通の生徒がこの感覚を味わえばどうなってしまうのか。
それはすぐに分かった。
なぜなら、オレたちの前を走っていた上級生がバランスを崩して前から倒れたのだ。
オレはその人に進路を塞がれてしまい、それを避けるもロスが出てしまう。
それによって堀北学との距離が出来てしまい、後ろとの距離が詰まる。
そうなると、必然的にあいつとの距離が縮まる。
先ほどよりも確実に濃い恐怖が迫ってくる。
全力で走っていても、実際は速度が落ちてしまっており、差は縮まる一方。
直線から最終カーブに変わり後ろもカーブに入った途端、足枷のようなものが取れる。
少し顔を横に向けて確認すると、砂塵を巻き上げて黒瀬が倒れていた。
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贈り物
僕は体育祭が終わり、綾小路くんの足止めをしながらある連絡を待っていた。
「今、黒瀬から『特別棟3階に来てくれ』って来たんだが、本城は知ってるか?」
「知ってるも何も、僕はそのために綾小路くんをここに留めていたんだよ」
僕は事前に黒瀬くんから連絡を貰っており、『校舎から綾小路を出すな』と言われている。
だから、綾小路くんを足止めしていたのだ。
「そうか」
綾小路くんはそう言い残し、特別棟へと向かっていく。
『あれを送れ』
タイミング良く、そんなメールが送られてきた。
これは、綾小路くんに『櫛田桔梗が黒板に書かれた体育祭の参加表一覧を携帯で撮っている写真』を送る合図だ。
僕は彼の背中を見ながら、その写真を送信した。
(これで櫛田桔梗が退学してくれたらいいな。そしたら、Dクラスの異物を1つ取り除けるのに)