第59話 新たな風
体育祭が終わり、制服でいることが鬱陶しかった暑さから、逆にないと肌寒く感じてしまう季節に変わる。
そして学校の生徒会も3年生が辞め、新たな体制へと変化する。
「約2年、生徒会を率いて来られたことを誇りに思うと同時に感謝します。ありがとうございました」
現生徒会長である堀北先輩は短い挨拶を終え、元の位置に戻る。
今は全校生徒を体育館に集め、堀北先輩が率いていた生徒会から新たな生徒会へ交代するための式が行われているのだ。
(ただただ話を聞いてるのは本当に暇だな。
やっぱりリバーシでもやるか)
(「お、それはいい案じゃねえか。おれも暇だし相手になってやんよ」)
(脳内リバーシを極めた俺に、初心者のお前が勝てないことを教えてやるよ)
(「おれのテリトリーでよくそんなこと言えるな・・・・・・まあいい。ボコボコのボコにしてやるから覚悟しとけ」)
この後あった南雲先輩の演説を聞かずにリバーシを楽しんだ。
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(「あれー?脳内リバーシを極めたやつはどこにいるんだー?あ、俺のことか。すっかり忘れてたわー」)
体育館での式も終え寮へと帰ろうと用意をしている中、おれが脳内で煽ってくる。
まあ、あんな大口を叩きながら全敗した俺が悪いんだが、流石におれがあんなに出来るなんて思ってもいなかった。
俺が10分近く考えて石を打っても30秒以内に打ち返してくるし、なにより誘導が上手すぎる。
どうあがいても、開始10手以内に罠に嵌ってしまうのは1種のトリックでも使っているのかと思ってしまう。
(本当にお前って凄いよな。
実際にやったことのないことをいとも簡単にやるなんて)
(「俺に初めて褒められた・・・・・・やべえ、なんかむずかゆくなってきた・・・・・・」)
(前言撤回、お前は嫌なやつだ)
心の底から思っただけなのに、心地悪いとか言われるのは本当に心外だ。
これからは絶対に褒めないようにしよう。
(「そう言えば、運動出来ねえやつらの願いごとは叶えてやったのか?もしかして、忘れたなんて言わねえだろうな?」)
(それはもう済ませてある。
全員ポイントが欲しいって言ってきたから1万ポイントを渡してやった)
100メートルで誰も3位以内に入ってはいなかったが、毎日努力して筋トレはしていたのを俺は知っている。
体育祭の終わった後日全員に聞いたところ、ポイントが欲しいとのことだったのですぐにポイントを送り付けたのだ。
(「クラスポイントの方はAクラスが1068、Bクラスが754、Cクラスが773、Dクラスが0か。本当にDクラスのやつが可哀想に思えてくるわ」)
(内側に爆弾を抱えてる時点でかなり辛いはずなのに、そこへ俺たちが攻撃を仕掛けたらこうなる。
だが、落胆するような出来事ばかりじゃない。
見た感じだと須藤や堀北が少し変わったみたいだし)
(「須藤マンと堀北が変わっても、クラスの雰囲気が変わるわけじゃねえんだよ。むしろ最悪だろうな」)
ポイントが少しでも残っていれば少しは変わったかもしれないが、今は0ポイントでAクラスとの差が1000以上ある。
あまりにも大きな差がついてしまっているが、今後の試験次第ではDクラスがCクラスに上がる可能性もAクラスがDクラスに可能性もあるのだ。
元クラスメイトとして、今後ある試験を頑張って乗り切ってほしいと思っておこう。
「黒瀬さーん!一緒に帰りましょう!」
鞄を持って俺の横に来た石崎が、そんなことを言ってくる。
石崎の声が大きかったせいで、まだ帰っていないクラスメイトに見られてしまう羽目になってしまう。
「分かった」
この場から早く離れたかったので、立ち上がって机の上に置いてあるカバンを持とうとしたら、前の席に座っているアルベルトがいつの間にか持っていた。
「別に怪我は治ったから大丈夫なんだが・・・・・・」
「そんな短期間で治るはずがないじゃないですか!肉離れですよ、肉離れ!最低でも3週間はかかる怪我ですから、荷物は俺たちが持ちますよ!」
「本当にだいじょ────」
「アルベルトも別に迷惑じゃないよな!?」
「Yes」
アルベルトもそう言って頷く。
本当に左腕は2日ぐらいで治り、脱臼した右肩は強制的に直したので今は全く支障がない。
あるとしたら、石崎とのやり取りぐらいだろう。
学校に行くときも帰るときも、全く同じようなやり取りを繰り返している。
こちらのことを心配してくれているのは分かっているが、正直注目を集めてしまうのはもの凄く嫌である。
「はあ・・・・・・分かった。とりあえず早く帰りたいから行くぞ」
俺が足早に教室を出ると、後ろから「待ってくださいよー!」と大声で言いながら追いかけて来た。
これもいつものことなので無視して歩く。
「そう言えば最近の龍園さん。何か不気味じゃないですか?」
隣に並んで来た石崎がこちらを向いてそれを尋ねてくる。
それに同じく横に並んで来たアルベルトも頷いて同意する。
「確かにそうだな」
それに関しては俺も同意する。
体育祭が終わってからの龍園はどこかおかしい。
具体的に言うと、普段アルベルトや石崎と行動しているのに最近1人で行動することが多くなった。
何気によく口角が上がっているのも変だ。
体育祭で何かあり、それが堀北絡みのものであることは分かっているが、俺たちは何が行われていたか全く知らされていないので考えようにも無理なのだ。
「龍園さん曰く、「次の試験が始まるまでに1人でやることがある」って言っていましたが、何か分かります?」
「次に備えて準備をしているとは考えにくい。まだ次に何があるのか知らされていないからな」
俺たちは次の試験があることは何となく分かっているが、詳細は教えられていない。
いつ行われて、何をやるのかを知らされていない状況下で、出来ることなんて限られてくる。
それに、そもそも龍園がこんな前に準備をして試験に挑むはずがない。
「確かに。次にある試験に向けて、龍園さんが準備してるなんて思えないですよね」
「あるとしたら新たなターゲットが見つかったとかじゃないか?」
「それならありえそうですね。龍園くんが船の上の時、堀北さんの次はDクラスの裏で動いているやつを潰すとか」
「そう言えば、そんなことを言っていたな」
「そうだったんですねー・・・・・・って、いつの間にひよりがいるんだよ!?」
石崎はいつの間にか隣にいたひよりに驚く。
俺は少し前から気付いていたので、特にリアクションをすることはない。
「今日は部活がお休みだそうで、たまたま帰る途中、黒瀬くんたちが見えたのでこっそりついてきちゃいました」
何とも可愛らしい理由に、ラブコメならドキッとするかもしれないが、一応1人ではなく複数を指しているので、可愛いと思ってもドキリとはしない。
「話を戻すが、そのDクラスの裏で動いているやつが今回Aクラスにではなく、龍園に何かを仕掛けた。それによって龍園は裏で動いているやつに3回やられたことになる」
「え、えーっと、そうなるとDクラスのやつは、龍園さんの作戦を見破ってることになるんですよね?」
「逆にそうじゃないと、ここまで龍園がおかしくなった理由が更に分からなくなる」
3回も作戦が自分の思惑通りに動かなかったら、流石に誰だってあんな風になる。
龍園はそれを嬉しそうに狙っていたかもしれないが。
「ここまで来たら、自ずと答えも分かってくる。おそらく龍園は次の試験でそのDクラスのやつを炙り出す気で、その候補を絞ってるんじゃないか?」
「それなら有り得そうですね。ですが、それなら石崎くんたちを使うと思うんですが」
ひよりの言っていることは正しいだろう。
あの龍園が1人で候補を探す訳がない。
動くにしても、石崎やアルベルトなどを使うはずである。
だが実際はそうじゃない。
そうなると、何か他にやることがあるのかもしれない。
「正直、このまま話しても答えは見えて来ない。一旦忘れよう」
「私もこれ以上は意味がないと思います」
「じゃあ俺が体育祭で失敗したことでも聞きます?」
俺たちがこんなところで話し合ったとしても、答えが導き出せないのなら意味がない。
それを聞いた石崎は話題が無くなり話さなくなるのが嫌なのか、新たな話題を提案してくる。
「それは却下」
「石崎くんの失敗談は何が面白いのか分からないので大丈夫です」
「
「アルベルトが却下してくるほど俺の話は駄目なんですね・・・・・・」
アルベルトに拒否されたのが余程痛かったようで、かなり落ち込んでしまった。
結局、寮のエレベーターの中まで同じ状態になっていたが、明日になるとケロッとした表情で俺の部屋の前まで来たのであった。