いつもより長めで、よう実要素ほぼないです
試験に向けての勉強会は順調にことを進めていた。
最初は基礎すら曖昧だったやつらも、今では基礎をしっかりと叩き込んで応用問題も少しなら解ける程度までには成長している。
それも中学生の範囲までだが。
空いた時間には、クラスメイト全員の前回行われた中間テストから苦手な分野を絞り込み、それを資料みたいなのにしている。
これは坂柳に渡すもので、あの後連絡したところ『Aクラスから退学者が出ないようにはするので安心してください』と言われたが、何もない状態から退学者を出さずに低く点数を取らせるのは難しい。
なので、こうやってまとめることで確実に退学者を出さずに済み、尚且つ絶対に負ける布石を打つ。
我ながら完璧である。
そんな放課後を送っているが、今は我々学生の本分である授業を受けているところである。
皆真面目に黒板に書かれた文字をノートに写し、内容を理解しようとしている。
そんな中、突然教室につけられているスピーカーから放送が流れた。
『1年Aクラス黒瀬神威くん。担任の坂上先生の指示に従い、今すぐ応接室に来てください。繰り返します。────』
その放送のせいでクラス内は少しざわつくが、すぐに教科の先生が静かにさせる。
あまりに唐突の放送だったので呆気を取られてしまったが、呼ばれたのが俺なので早くしなければならない。
そう思っていると前の扉が開き、坂上先生が入ってくる。
「えー、黒瀬くん。先ほどの放送があった通り応接室まで行くので、私について来てください」
その様子はいつもの坂上先生とは違い焦っているように見えた。
額には汗が浮かび上がっており、急いで来たことが分かる。
俺は無言で席を立ち、坂上先生と一緒に教室を出る。
終始クラスメイトからもの凄く見られたのは仕方ないだろう。
「坂上先生、そんなに急いでどうしたんですか?」
何故か分からないが、教室を出てからずっと早歩きな坂上先生。
その速さは異常で、競歩の選手と間違えるほど。
確かに今すぐと言われたが、そこまで急ぐほどなのかと思ってしまう。
「そうしないと、最悪私の首が飛んでしまうからね。君が今から会う人はそれぐらいの権力を持っている」
それを聞いて、俺が今から会う人が誰なのか分かってしまった。
(確かにここは国の管轄内。
俺と会うのも簡単なはずだが、わざわざ会って話しをすることなんてないはずだ。
あいつは俺を見捨てた。
これに変わりはない)
今から会う人のことについて考えているながらそんなことはないがとも思う。
そうしているうちに、いつの間にか目的の場所についていた。
「君が呼び出された理由は分かりませんが、相手の方に絶対粗相のないようにしていくださいね」
そう言って先生は扉をノックする。
「校長先生、黒瀬神威くんをお連れてしました」
「入ってください」
その声を聞いて坂上先生は驚いた表情を浮かべるが、すぐに元に戻して扉を開ける。
そこにはおそらく40代ぐらいの男性と向かいに座る40代前半の男、その後ろには見慣れた執事がついていた。
「では私はこれで失礼致します・・・・・・」
扉を開けた瞬間から体が縮こまっている坂上先生は逃げるように部屋を後にする。
「君が
そう言って坂柳理事長は軽く礼をする。
俺もそれに合わせて礼をする。
(この人が理事長...物腰が柔らかな人だな。
坂柳ということは同級生の坂柳の父親?
それにしても理事長は校長も兼ねているのかと思ったが、坂上先生の表情からおそらく校長は別にいる。
どうでもいいことだけど)
そして坂柳理事長の対面に座る男、俺の父親の方を見る。
(藤堂
人望が厚く、国民からも多く支持され、次期総理大臣と言われるほど。
本来なら俺も藤堂だが、なぜ黒瀬なのかは面倒事に巻き込まれないようにと父親が思って、母親の名字である黒瀬を名乗らせるようにしているらしい。
俺は母親の名前も顔も知らないからなんとも言えないが)
その視線に気付いた父親はこちらを向く。
「神威とこうして話をするのは4年ぶりになるな・・・・・・」
「そうですね」
俺たちはそれきりひと言も交わさず互いの顔を見続ける。
威厳のある顔つき、こんなやつが息子を呼ぶなんて絶対怒るとしか思えない。
実の息子ですらそう思ってしまう。
それを見ていた執事である本城の父親はこのままでは話を始められないと思ったのか、わざと咳払いをする。
「ゴホン。義治様、立ち話もあれですので、神威様を座らせる方が良いかと」
「それもそうだな。神威、とりあえず座ってくれ」
静かに聞いていた坂柳理事長に手招きされたので、その隣に座らせてもらう。
座ったことを確認した父親は話を始める。
「今日は神威に謝罪、そして大事なことを伝えに来た。本来ならもう少し時間を合わせて訪れるべきだったのだが、俺の都合上この時間しか空いていなかった。まずそれを謝らせてくれ」
椅子に座ったままではあるが、俺に対して詫びを入れてくる。
それに合わせて後ろの本城さんも頭を下げる。
「あまりに突然で驚きましたが、謝るほどではないです。顔を上げてください」
そのことに少し動揺してしながらも、顔を上げるよう言う。
「ありがとう」
再び顔を見合わせる俺たち。
そんな中、申し訳なさそうに坂柳理事長が父親に質問する。
「あの藤堂さん、僕はここにいていいのですか?あまり聞かれたくないように思えたのですが」
「いえ、その必要はありません坂柳理事長。私はあなたに神威の置かれている立場や過去を知ってもらわないといけないと思っています。私と神威が親子であることを驚いていたあなたです。
この学校の理事長として、生徒のことをしっかりと理解する必要があると、ここに息子を預ける1人の父親として思うのですがどうでしょう?」
「それはそうですね。無粋な質問、失礼しました」
この学校の理事長ですら、俺と藤堂義治の関係、俺の過去を把握していないようだ。
どれほど隠蔽していたのかが目に見えて分かる。
「では義治様。義治様が話される前に神威様に1つ、よろしいですか?」
「全然構わない。それより本城、俺はお前を1人の保護者として同伴させているんだ。執事として振る舞うのはやめてくれ」
「分かりました。では今からそうさせてもらいます」
本城さんは軽く頭を下げて、俺の前、父親の隣に座る。
そして先ほどの口調から砕けた感じに話しかけられる。
「神威くん、私の息子とはもう会っているよね?」
「ええ」
それを聞いて本城さんは胸を撫で下ろす。
「それは良かった・・・・・・。私からは以上だ。本題に入っても構わないよ」
もっと聞いてくるのかと身構えていたが、本城さんはこれで満足のようだ。
それに頷いた父親はこちらをしっかりと見据えてくる。
「今から話に入ろうと思うが、その前に言っておく。これを聞いてお前は俺をもっと嫌いになるだろう。だがそれは当然のことだ。俺はそれほどの過ちを犯してしまったんだからな・・・・・・」
「・・・・・・」
その話を聞けば何かを失うと本能的に悟る。
だが絶対に聞かなければならない。
今の自分よりも上に上がるため、何かを失うと分かっていてもそれを聞くことにした。
「まずは謝罪からさせてくれ。俺がお前を俺の弟が所長をやっている研究所、『ブラッディルーム』に送り込んでしまったこと、連れ出してから別荘に行かしてしまったこと、そしてその後3年間無視し続けたことを謝らせてくれ。本当にすまなかった」
そう言うと立ち上がり、誠心誠意の謝罪をする。
それもあまり見たことがないほど真剣な顔つきで。
その話を聞いていた坂柳理事長は驚いた表情でこちらを見てくる。
だがこちらの邪魔をしないため、声には出さなかった。
話を聞いた俺は、自分なりに思っていることを話す。
「過去のことを謝られたとしても何も変わらない。ですが、その背景に何があったのかを語ることで未来を変えることは出来ます。だから顔を上げて話してください」
「分かった」
顔を上げ再び座ると、父親がなぜそのようなことをしたのか、その裏側を話し始める。
「まずあの施設に送った理由だが俺は元々凡人でな、ここまで成り上がれたことを奇跡としか思っていないんだ。それで俺は自分みたいな人間にならないよう、安定した将来を歩んでほしくて英才教育を行った。
俺はそれで良かったが、俺と違って才に恵まれた弟は違った。『あれでは社会に出ても安定なんてしない。俺のところに預ければ絶対に安定した将来を望めるぞ』とな」
「・・・・・・」
「罠だと最初は思ったが、俺より才能のある弟だ。俺のところより優秀に育ててくれるだろうと思ってお前をあそこに送り込んだ・・・・・と」
そこから先は語らず下を向く。
あそこに送り込んだことを今でも相当悔やんでいるんだろう。
その先は俺の知っての通り、その場所は非人道的なことを平気で行うところだった。
おそらく父親がそのことに気付いたのは俺をあそこから出す数ヶ月前ぐらいだろう。
(職業柄、多忙であるから遅くなるのは仕方がない。
いや、むしろ出れたことに喜ぶべきか)
「ではここからは執事である私が。私たちが研究所の本来の目的を知ったのは神威様が12歳の誕生日を迎えた時です。それまであそこの情報は全く外に発信されることがなく、スパイを送り込もうにも不可能でした。ですが、その時期から中のことを一部の人間ではありますが公開され始め、そこで私たちは神威様をあそこから奪還すべきと考えました。そして、義治様の弟である
「僕がそこの施設のことを知ったのもその時期でした。今でも稼働していると思うと、本当に恐ろしいところです」
俺の誕生日、だいたいこの時期ぐらいに公開され始めたようだ。
坂柳理事長も知っているとなると、結構な人が知っているのだろうか。
「実際、あそこに需要を求める人間がいるので仕方がありません。それにもし停止させれば戦争は確実に起こるでしょう。少し話が逸れましたが、あそこから連れ出した後、私たちはあの男が神威様の命の狙ってくるだろうと思い、別荘のあるところへ移しました。ですがそこにはあの男の刺客が既におり私たちがそこを去った後、その刺客が行動を起こしました」
「そういうことだったのか・・・・・・」
別荘に行った時、俺は出された食事の中に入っていた強力な睡眠薬によって眠らされた。
常に近くにいてその食事を運んできたのは1人、サングラスをかけた男だった。
そいつは裏であの男と繋がっていて、俺を殺すためもしくは別の目的で動いたのではと考える。
「別荘には他の方がいましたがその者によって全員殺されていました。そのため、私たちがそちらに向かうまで状況が全く把握出来なかったのです」
今話された2つのことの裏側にはあの男がいた。
俺に恨みを抱くほど会ってもいないのに何故か俺が狙われた。
今ある情報であの男が何を思って企んだことなのか全く分からない。
「代わりに話させてすまない。ここからは俺の口から話す」
心に整理がついたのか、父親は再び顔を上げその続きを話し始めた。
「別荘に刺客がいたことが分かり、それなら日本に帰った方が安全と思って日本に連れてきた。神威が外へ出るときは数人の監視をつけ、出来るだけ行方が分かるようにはして対策を講じた。
だがそれでは足りない、具体的には自分の安全は確保できていないと。それで色々な可能性を潰していくことにした。その結果、お前があいつと繋がっている可能性が浮かんでしまった。そして行動に移し、お前が黒か白かを伺っていた。その時の俺は本当にどうかしていた。自分の息子ですら信じられなかったのだからな」
俺が無視され続けていたのは、あの男と繋がっている可能性を感じてしまったから。
その可能性に至ってしまうのもあの男を知る人間なら仕方がない。
それほど何をしてくるのか全く分からない男だからだ。
過去のことを知り自分の中で色々と整理してみる。
(父親が謝罪したこと全てがあの男と繋がっていた。
だからといって許すわけがない。
そもそもあの男の話を鵜吞みにした父親が俺をあそこに入れた。
そして別荘に放置され、日本に帰ったら無視される。
そんなことされたら、理由があったとしても許す気にならんな)
(「それもちょうど小学生の時だし」)
(年齢関係なく肉親にやられたら嫌だろ)
(「それもそうだな。本人も許してもらえるとは最初から思ってないみたいだし」)
本人も許してもらえると思っていないなら早く話を終わらせるべきだ。
それに今は授業中。
内容は分かるが、これでクラスポイントが差し引かれるなんてことがあってはごめんだ。
(とりあえず父親の話で、あの男が俺を始末しようとしていることは分かった。
それが分かっただけでも今後の予想は出来る)
おそらくあの男は俺がこの高校に入学したことを知っている。
中学の時に動きを見せなかったのは変だが、今は護衛も邪魔になる障壁もないような場所だ。
そうなれば俺がこの学校に在学している間、色々な形で介入してくる可能性が出てくる。
その中で1番有り得そうなのが来年、再来年に生徒として刺客を紛れ込ませてくること。
そしてケヤキモールの従業員になりすましてくることだ。
これからはそういったことを警戒しつつ生活を送っていくことにしよう。
俺は父親の方に向き直り淡々と告げる。
「話を聞いて理解はしましたし、色々と予想することは出来ました。ただ許す気は全くありません。次の話に移ってください」
「分かった。では次の話に移る」
その言葉を予想していたのか、間髪入れずに言葉を返してきた父親。
そして話は次に移る。
「今から話すことは俺にとっても神威にとっても辛いことだ。もしかしたら精神に異常をきたすかもしれない。その時は坂柳理事長、よろしくお願いします」
「分かりました」
坂柳理事長が相槌を打つと、父親はこちらを見る。
「・・・・・・今から3週間前、お前の母親である
「え・・・・・・」
父親の口から告げられた衝撃的な言葉に、俺は開いた口が塞がらなかった。
(顔の知らない母親が死んで兄が殺されたって?
噓だろ...いつか会えると思っていた母親と俺の憧れであり目標である兄が死んだなんて...)
その言葉を聞いて自分の中の何かが無くなった。
それが俺の中で大事なもので、今までそのためだけに生き延びてきたと言っても過言ではない。
「は、はは・・・・・・。話はそれだけですか?」
乾いた笑い声を上げ、声は先ほどまでと比べものにならないほど覇気のないものに変わっていた。
「・・・・・・ああ。教室に戻るなら戻ってくれて構わない」
「神威くん・・・・・・」
「それではまたいつか・・・・・・。あ、本城さん。中学の時に世話をしてくださってありがとうございました」
「いえいえ。執事として当然のことですから」
応接室を出る間際、中学生の時にお世話になった本城さんに感謝をしてから後にした。
「・・・・・・坂柳理事長、私はこの後仕事があるので神威に手紙だけ書いて帰ります。その手紙を渡しておいてください」
「分かりました」
坂柳理事長はそれ以上の言葉は口にせず、手紙を書き始める義治様の方を見ている。私はそれを一瞥して扉の方を見る。
(神威様は一度だけ私に言った。
「俺はまだ見たことがない母親を見るため、自分の兄を超えるために生きていると思っている」と。
だが、その人たちは他界してしまった。
永遠に玲奈様に会うことは出来ず、将也様を永遠に超えることが出来なくなってしまった。
常に目標に向けて生きてきた神威様がここまで失ってしまうと何をするのか私には全く...。
それに私たちはこれで帰らないといけない。
となれば彼女に頼むしかないですね)
義治様が手紙を書き終え、坂柳理事長にそれを渡すと外に出る支度を始める。
「義治様」
「また口調が戻ってるがどうした?」
「ここには彼女がいるはずです。帰る前にひと声掛けたほうがよろしいかと」
「そうだな。神威のことを見てもらうよう頼んでおこう。坂柳理事長」
「どうかしましたか?」
「少しこの場所で寄りたいところがあるのだが、行ってもいいだろうか?」
「私が同伴でいいのなら」
「ありがとうございます。では行きましょう」
そうして私たちも応接室を後にした。