ようこそ2人の最高傑作がいる学校へ   作:クリッピー

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今回はだいぶ短いです・・・すみません


第68話 おれの苦悩

 応接室から出た後、俺は教室まで向かっていた。

 沈んだ顔を下に向けおぼつかない足取りで歩く姿は、明らかに何かがあったことを裏付ける。

 

「俺はどうすれば・・・・・・」

 

 人の気配が全くない廊下で弱々しい声を漏らす。

それは誰かに聞いてもらいたくて放った言葉ではなく、声に出さないと今すぐにでも兄や母親の下に行ってしまいそうだったからだ。

 

(「俺の目標を達成することは永遠に出来なくなり、この学校に来た大半の目的を失ってしまった、か」)

 

 明るく常に俺のことを思ってくれた兄。

 俺が努力してやっとできるようになったことを平然とやってのける兄。

 その姿を見て俺は兄のような人間になることを常に目指していた。

 どんなに兄の背中を追いかけても段々と離れていく現実。

 天才と天才ではない凡人では、その差が開いていくのは当たり前のことだ。

 

 だからといって、諦めるつもりは微塵もなかった。

 俺と兄を見比べ、『不良品』『出来損ない』と影で罵り見下してくる父親の周りにいる奴らに見下されないように。

 兄に追い付くために。努力した。

 努力し続けた。

 

 

 だが、現実は非情だった。

 

 俺が小学1年になった時に兄は家を出た。

 なんでも海外の有名会社にヘッドハンティングされたようで、12歳という若さで海外へと行ってしまったのだ。

 母親は俺が生まれてからずっと病院にいるみたいで、家には絶対に来ない。

 

 家に残ったのは俺と父親、使用人の人たちだけ。

 そうなってしまえば、父親に媚びを売っている周りの奴らの目がこちらに向くのは必然的だ。

 

 そいつらは家に来るたび、俺に聞こえるよう陰口を叩き、嘲笑い、父親にバレない程度の軽い嫌がらせをしてくる。

 それは俺の精神を削っていき、死んでしまったほうがいいのではと思ってしまうほど追い込まれた。

 

 それでも全てを投げ出すことはしなかった。

 ここで死んでしまっては自分の生き方の全てを否定してしまうから、なにより生きている限り兄に追い付く可能性は残っていたからだ。

 

 苦痛に耐えながらも努力を怠らず、前を向き続けた。

 

 あの施設に入って精神的におかしくなったとしても、努力だけは絶対に怠らなかった。

 

 その結果、あの施設で『最高傑作』と呼ばれ、天才を凌駕するような力を手に入れた。

 だがその引き換えに1つ失うものがあった。

 

 それは感情だ。

 

 人が目の前で死んだとしても、自分が殺したとしても何も思わない。

 周りで何かを言われても何も思わない。

 全てが無に感じた。

 

 そんな中、兄は俺に話しかけては明るく振舞ってくれた。

 兄の都合上、1週間に1度会えればいいほうだったが、休日は全て俺のために費やしてくれた。

 

 最初は何を話しているのか全く分からなかった。

 

 だが段々と話しかけてくれるうちに、話している内容が入ってくるようになり、言葉を返すことが出来た。

 そして言葉を交わしていき、俺の感情を少しずつではあるが元に戻していき、中学校に入学する前には今の状態と同じ感じになった。

 

 俺がこの状態になってからは忙しくて全く会っていなかった。

 

 そして今日、久しぶりに父親から話を聞けたと思ったら、兄と母親の死を告げられた。

 あの時は何が無くなったのか分からなかった。

 だが今になって分かる。

 

(「俺がずっと掲げていた兄に追い付くという目標の消滅。10年以上もの間、目標にしていたんだ。それが唐突に消滅、叶えることが出来なくなってしまい、そこにいつか会えると思っていた母親と一度も顔を合わせずに別れてしまっては、こうなるのも仕方がないのかもな」)

 

 ずっと目標に向かって走っていた人間が、いきなりの出来事で目標を失ってしまったのだ。

 事前に知っていたのならいざ知らず、唐突にそのことが知らされどうしていいのか分からなくなるのは仕方がないこと。

 とはいえ今は学校で授業中。

 それにもうすぐ試験も控えているのだ。

 このままではいけないということは十分承知している。

 

(「だがこうなった俺を元に戻すなんて出来るのか?あの時は俺の兄のおかげで何とかなったが、今回はそんなこと出来ねえしな・・・・・・。とりあえず、おれが頑張るしかないか・・・・・・」)

 

 幸い俺とおれは入れ替わることができるのだ。

 それを使えば学校にいる間は何とか誤魔化すことができるだろう。

 だがそれは問題を先送りにしただけで、解決したとはいえない。

 やはり俺をどうにかして元に戻す方法を考えなければならない。

 

(「元に戻すのにおれ1人ではどうにもできない。俺の兄に代わる存在を作る、もしくは目標。それが1番の鍵になるはずだ。おれはそれを見つけ出す、それが役目だ」)

 

 おれの役目を確認し、強制的に俺と入れ替わる。

 

「役目はあるが、久方ぶりに外の世界を堪能できるいい機会だ。ここは楽しみながらやっていくとするか」

 

 沈んだ顔とおぼつかない足取りから一転、上機嫌の顔に鼻歌まじりにスキップするという、俺が見たら卒倒する状態で教室へと向かった。

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