「にいさん・・・・・・」
そう小さく呟いて目を覚ますと、そこに広がっていたのは知らない場所だった。
白い天井に照明、体から伝わってくる感触からしてどこかのベットで眠っているのだろう。
目からこぼれ落ちていく生暖かい雫を腕で拭おうとしたら、そこには管のついた針が刺されていた。
(点滴か。
となるとここは病院か...)
疲労感から重たくなった体を起き上がらせ、辺りを見渡すとそこは病院と思わしきところだった。
俺の隣に吊るされたパックと刺されている針から見るに、何かしらのことが自分の身に起こりここへ運ばれたのだろう。
(「やっと目を覚ましたか」)
目を覚ましたことに気が付いたおれが頭に話しかけてくる。
俺はそれに意識を傾ける。
(...何がどうなっているのか全く分からない。説明を頼む)
(「はぁ。おれが代わってやってたら、体が急に倒れちまったんだよ。何でもおれがずっと俺に代わっていたから、それで脳が異常をきたしたんだとよ」)
溜め息をつきながら話すおれの言葉を聞くに、おれが表に出過ぎことによって、脳がそれを異常と察知したのだろう。
(そして病院に運ばれたと)
(「そういうことだ。急のことで本気でびびちまったが、こうして俺が出て来たのならまあ良いか」)
それからおれが表に出ている間のことを聞かされた。
試験の方は俺が予定していた通りの結果で終わり、Bクラスとの差は残る100近くとなったようだ。
それ以外に、一之瀬に関しての面白いことがあったようだが、確証の持てない噂であり結果的に違うかったようなので、気にすることはないだろう。
(「それにしても、目覚めると思ってもなかった俺が目を覚ますとは。どういう風の吹き回しだ?」)
いつもと違って真剣な口調で聞いてくるおれ。
俺が目覚めるのはもう少し後になると思っていたようで、こちらの意図でも聞きたいのだろう。
それに対して俺はこう答える。
(
(「ほう。それが答えと?」)
(ああ)
それを聞いたおれは唐突に笑い始める。
それも高らかに。
(「ハハッ、ハハハハハッ!そういうことか!」)
(何が可笑しい?)
(「・・・・・・いや、あまりにもおもしれえことが起こっているなと思っただけだ・・・・・・!」)
そのことに興味が湧かない俺は無視をしようかとしたが、次の言葉によってそれを遮られた。
(「無視をされる前にこれだけは聞いておく。お前は誰だ?」)
(俺は俺だが。おまえは何を言っているんだ?)
(・・・・・・うそだろ・・・・・・)
普通ならあり得るはずのない言葉に対し、そう返しおれを無視することにした。
おそらくキメ顔で言ったであろうおれはそのことに半分言葉を失っていた。
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その後、俺の様子を見に来た看護師さんから話を聞き、今の状況を把握することが出来た。
どうやら、倒れた後たまたま通った女子生徒が俺を見つけ、それで病院まで運ばれたらしい。
そこから1週間ほど眠っていたらしく、今は12月23日で学校は昨日終業式を迎えたらしい。
今は看護師さんが呼んだ医者の健康観察を受けているところである。
「体の調子はどうかな?」
「疲労感があって体が重いです。あと力が少し入りにくいです」
「ほうほう。他には?」
「ないです」
端的に答えたことを、相槌を打ちながらカルテへ記入していく。
そして記入が終わった医者はこちらへと向き直した。
「熱も下がったようで本当に良かったよ。ここへ運ばれた時は体温が42度を超えていてね、発見がもし遅れていたら、医者である僕が言うのはあれだけど、死んでいたと思うよ」
「そうですか」
「もう少し驚いてもいいと思うんだけど・・・・・・」
こちらの取っている態度に苦笑をする医者。
もし俺がそのまま倒れていて死んだとしても、この世に未練など1つもない。
あったとしても死ぬ原因を変えたいと思うだけで、生きたいなんてことは思わないのだ。
「ま、まあ目を覚ましたことだし、体の検査とかをやろうかな」
場所を移し医者の指示通りに検査を行ったところ、病などは見つからず何が原因で倒れたのかが分からないと医者は頭を悩ませていた。
結果的に明後日の朝、クリスマスの朝までは病院内で安静にしておくよう言われた。
その時に、俺が倒れたことを心配して多くの人がお見舞いに来てくれたことを話してくれた。
一応来てくれた人たちの名前を取っていたらしく、それを見せてくれた。
中には石崎、椎名、アルベルトをはじめとしたAクラスの人たちや本城、七詩、坂柳などの交流のある他クラスの人たち、そして南雲先輩や扇先輩などの2、3年生の交流のある先輩方。
意外なところで言えば鬼龍院先輩や堀北兄、そして保健室の先生と書かれた名前の知らない方や坂柳理事長の名前が書かれていた。
それを見て自分の病室へと帰ると、ちょうど扉の前でお見舞いに来た石崎とアルベルトに出会った。
「あ、黒瀬さん。元気になったんですね」
「ああ」
いつもと違って落ち着いた表情を見せながら胸をなでおろす石崎。
病院内は基本騒いではいけないため、それを守っているのか、それとも見て分かるほどの疲れから来ているのかは本人にしか分からないことだが、静かであることは俺にとって好都合である。
「黒瀬さんが倒れたって聞いた時は本当にびっくりしましたが、こうして元気になってよかったです」
それにアルベルトが頷く。
「え、えーっと────」
「立ち話よりも座って話す方がいいだろう」
何かを話そうとした石崎を片手で制し、自分の病室の扉を開けて暗に示す。
それを察した2人は中へと入り、置かれている椅子へと腰を下ろす。
扉を閉めベットの縁に座ると、石崎が口を開く。
「それでですね、黒瀬さんが寝ている間のことって知らないですよね?」
「そうだな」
「なら話しますね。────」
そこから俺が眠っている間、何が学校で起こっていたのかを話してくれた。
学校全体で見れば大したことはなかったようだが、Aクラスにとっては今後に関わる問題が起こったようだ。
「実はですね、リーダーの龍園さんが────」
「
「アルベルト・・・・・・。えっーと、俺がめいあす・・・・・・分かった、ちょっと目を冷やしてきます」
「アルベルトが言ったのは真実を言った方がいいだ」
龍園のことを石崎が話そうとしていたところ、アルベルトが横から遮ったことによって、助言としての聞き間違いで洗面所へと向かおうとする。
だが、俺が意味を教えたことでその行動を防ぐことに成功する。
それを聞いたアルベルトの首が横から縦に振っていることを見るに、言いたいことは合っていたのだろう。
中腰となって浮いていた体を再び椅子の上に戻すと、間違えたことで顔を赤くした石崎がAクラスの大半も知らないことを教えてくれた。
それは龍園が綾小路に負け、それが原因でリーダーを降りたということだ。
そのことが起こったのが昨日で、同伴していた石崎にアルベルト、伊吹も綾小路に倒されてしまったらしい。
そのことを口外しないと綾小路はその場で言ったそうだが、けじめなどと言って退学すると言い張った龍園。
そして龍園が今朝退学しようとしたところを2人で止めにいき、それが功を成してリーダーを降りるだけに治まったらしい。
だがそのことがAクラスにとっていいことかと言われれば否である。
今まで龍園が支配していたことによってAクラスまで来れたのに、その龍園がリーダーを降りたのだ。
そうなれば、このままAクラスでいられる保障が消えたも同然である。
「そんなことがあったのか」
一切顔色を変えずに話を聞いていた俺に石崎がいきなり頭を下げる。
「黒瀬さんに、龍園さんの代わりとしてAクラスを引っ張って欲しいんです。生意気言っているのは分かってます。けど俺たちに黒瀬さんの力が必要なんです。だからお願いします」
聞いていたアルベルトも石崎と同じで頭を下げる。
だが次の言葉に2人は目を見開くことになった。
「そうか。だが今の俺にはクラスのこと自体に興味が湧かない。だから他を当たってくれ」
以前なら頷いていたであろうことに俺は拒否を示す。
「そこを何とか。お願いします」
考え直してもらうよう深くお辞儀し直した石崎だが、俺の意見が変わることはない。
そのことを感じ取ったアルベルトが石崎の肩に手を置く。
それに気付いた石崎がそちらを見ると、アルベルトは首を横に振っていた。
「アルベルト・・・・・・黒瀬さん分かりました。もしAクラスを引っ張てくれる気になったらいつでも言ってください。俺たちはそれを待ってるんで」
その言葉を最後に2人はこの部屋を後にした。
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そのあとにもお見舞いとして来た生徒が病室に顔を出してくる。
大半が2年や3年の先輩たちで、同学年はあの後現れたひよりぐらいである。
日が落ち始め、そろそろ夜になろうとした頃に3人の客がやって来る。
「お邪魔します」
「あ、黒瀬くん目が覚めてる!」
「そのようだな」
部屋へと入ってきたのは本城と七詩、そして扇先輩である。
そんな変わった組み合わせは用意されている椅子へと座る。
「体の調子はどうだ、黒瀬?」
「少し体が重いぐらいです」
「それは良かった・・・・・・。一時はどうなるかと思っていた・・・・・・」
こちらの調子が戻ったことに胸を撫で下ろす扇先輩。
そのことを隣で見ていた七詩がクスクス笑い始める。
「先輩、毎日ここへ来てましたもんね」
「お前も人のこと言えないだろ」
「あはは・・・・・・」
笑われたことに対して扇先輩は睨み返す。
そんな2人のやり取りを見て、本城は苦笑いをする。
「七詩のせいで話が逸れたが、いつここを退院出来るんだ?」
「明後日の朝だそうです」
「思ったより早く退院出来るんだな」
「クリスマスの日、か・・・・・・」
「今日は黒瀬が起き上がったことが知れて良かったよ。それじゃあ俺はこれで」
聞きたいことが聞けて満足したのか、扇先輩は立ち上がり出口の方まで向かう。
それを見ていた2人もその後を追うように立ち上がる。
だが七詩だけは出口へと向かわず、こちらの耳元まで顔を近づけ、こちらにだけ聞こえるよう小声で話しかけてきた。
「ねえ、退院する日って空いてる?」
「それがどうした?」
「もし良かったらだけど、一緒に外を出かけてほしいなーって思ったんだけど、どうかな?」
そんなことを照れくさそうに頬をかきながら話す七詩。
退院後のこちらの予定は全くなく、今は少し外を出たい気分である。
そこに誰かが一緒にいたとしてもこちらに支障はないため、一緒に外へ出るのも構わないだろう。
「一緒に出てもいいだろう」
「!・・・・・・ありがとう」
喜びで声が大きくなりそうだったのか、七詩は口元を手で塞いだため籠った声で返事する。
「時間はこちらが決めてもいいか?」
「う、うん。構わないよ」
俺の提案を了承した七詩は扉の前で待っている2人の方へそそくさと向かう。
「そ、それじゃあまたね」
「元気でな」
「お大事に」
そう言って3人は部屋を退出していった。