ロモス王国を北上し、ギルドメイン大陸に向かう途中のことだ。ポルトスの町へ向かう街道の横に、ブラッドはそれを発見した。
「アバン。あの青いのはなんだ? 青玉か、それともブルーメタルか?」
太陽の光に照らされる海を指差し、ブラッドは首を傾げた。
きらきらと波打ち、時折生き物が見え隠れするそれは、まるで鉱物には見えない。しかし魔界で青と言えば真っ先に挙げられる二つの鉱物しか脳裏に思い浮かばず、ブラッドは言い様もない違和感に襲われていた。
生まれて初めて見る「海」の正体に頭を捻る彼を見かねて、アバンは苦笑しながら答えた。
「あれは海です。太陽と同じく、大地に恵を与える生命の源です」
「海だと? ……これが!?」
馬鹿なことを言うな、と言いかけてブラッドは言葉を飲み込んだ。そう言えばここは地上であったのだと思い返す。
ブラッドの中で脳裏に浮かぶのは魔界の海だ。
魔界の海は燃えたぎるマグマそのものである。こと魔界において水は貴重品だ。
ジオン大陸には5か所の小さな湖があるが、それはマグマに照らされる赤色の水だ。このように地平線まで続く水の青は想像すらしたことがなかった。
時折魚の跳ねる海を見つめ、その美しさにブラッドは感嘆の溜息をつく。
「……全く、地上には美しいものが多くて羨ましい限りだ!」
そう叫んで、ブラッドはふと思った。
これだけの水があればどれだけの魔族が救われるだろうか。自領にいる魔族だけではなく他の大陸にいる魔族の飢えすら凌げるだろうか。
しかしそれは叶わぬことだとブラッドは頭を振った。
海だけあっても魔界は救われないのだ。
どうせ大魔王バーンの地上消滅計画が成功すれば地上の大地は吹き飛び、太陽も海も魔族のものになる。
大魔王なら必ずやり遂げる。
かの大魔王の実力を、数千年の執念を知るブラッドにはその確信があった。
騒がしい魔族の青年の口元に浮かぶ笑みに、ヒュンケルは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「お気楽め。ブルーメタルなんか海と似ても似つかないだろ。それに、海なんてすぐ見慣れるぞ」
「おやあ? ホルキア大陸からラインリバー大陸にきた時、ヒュンケルも似たような発想をしていましたよね?」
「先生!」
けらけらと笑う師の姿に、たまらずヒュンケルは睨み付けた。
ここ一週間ですっかり見慣れた師弟漫才を背後に、どこまでも続く青い海を見つめブラッドは呟いた。
「ああ、本当に美しいなあ。魔界のあいつ等にもみせてやりたいなあ」
遠い魔界に思いを馳せる。脳裏に浮かぶのは親衛隊長をはじめとした臣下達の姿だ。
目を細めて海を眩しそうに見つめるブラッドにアバンは微笑んだ。
「魔界は大地深くにあると文献にありました。よければ、詳しく教えてもらってもいいですか?」
気遣うようなアバンの穏やかな声に、ブラッドはゆっくりと頷いた。
「……そうだなあ。俺ばかりが質問していても不公平だ。聞きたいことがあれば、答えられる分だけ答えよう」
それでは、とアバンは魔界の概要を尋ねた。
どのような大地なのか、魔族はどう暮らしているのか。
他愛もない世間話をするようにブラッドは答える。
魔界はいかに不毛の大地かと聞かれれば、地上とは比べ物にならないほど枯れ果てた大地であり、住居も畑も僅かな湖周辺に多いこと。
光源は魔力で作られた偽物の照明と燃え滾るマグマしかないこと。
魔界の海と言えばマグマを指すこと。
毎日の糧は僅かに育つ作物とモンスターの血肉、稀に地上から流れ込んでくる食物を食べて細やかに暮らしていることなどを話した。
仮にも王であるブラッドは他の魔族に比べれば裕福に過ごしているが、それでも地上の王には遠く及ばないだろうと予測している。
それでも、それが魔界の実情で限界であった。
太陽が頂点に昇る少し前となった。
ブラッドの話を歩きながらメモしていたアバンは小さく息を吐いた。
「……壮絶、その一言に尽きますね」
黙したまま話を聞いていたヒュンケルも静かに頷いていた。
光の差さない地底で過ごす、というのはかつての彼にとって馴染みのあることであったが、魔界のそれは更に異常が過ぎた。
常時マグマの濁流や死の瘴気に怯える毎日など、ヒュンケルが過ごした穏やかで幸せだった頃から考えると信じられない。
それはアバンも同様だった。
地上の勇者としてあらゆる場所を旅した彼であっても、魔界の生活は過酷であると感じた。
そんな神妙に表情を曇らす二人を見てブラッドはむっと眉根を釣り上げた。
「同情など必要ない。同情こそ魔族が最も忌む感情だ。ましてや自分より弱い人間に同情されるなど、普通の魔族なら憤死ものだ。即刻お前達を惨殺しにかかるぞ」
「……それをしないってことはやっぱお前普通の、一般的な魔族じゃないんだな」
「当たり前だろう。でなければ人間と旅などするものか!」
ヒュンケルのじと目に胸を張って答えるブラッド。
そのあまりに堂々とした姿を見てアバンはくすっと笑みを漏らした。
「そうですね、何も知らない我々がすることではありませんでした。ブラッド、すみません」
「俺は構わん。だが他の魔族には向けるなよ。まあ人間と旅する魔族など俺ぐらいだろうが!」
「ブラッドは旅をとことん楽しんでますものね~。魔族も人それぞれ、ということですか。
とはいえ世界征服しか頭になかった、どこかの魔王とは大違いです」
「噂の地上の魔王か。三百と余年しか生きていない若造と比べないでほしいものだが」
地上に出現した魔王は魔界でも噂の的であった。とはいえ馬鹿なことをした魔族がいたものだ、程度のものであったが。
その魔王が地上に進出を始めたころには既に大魔王バーン、冥竜王ヴェルザーが勢力を二分し、それぞれが地上侵攻計画を立てていたのだ。
全く無名の魔族の地上侵攻など、魔界では余興扱いでしかなかった。
ふとブラッドは思い出した。
(……そういえば大魔王(バーン)が新しい玩具を手に入れてそれが地上の魔王だったっけ。
あれ? ではそいつ、アバンが倒した奴か?)
思わずアバンを見つめるブラッド。もし大魔王の拾い物が目の前の勇者が滅した存在なら彼らの因縁は根深いことになりそうだ。
もしかしたらアバンは近い未来に大魔王バーンとですら戦うかもしれない。
否、アバンが地上の勇者なら大魔王バーンと間違いなく戦うことになるだろう。……そして間違いなく、命を落とすに違いない。
そこまで考えてブラッドは思考を取りやめた。
面白いとはいえ人間を心配する必要はないし、分かり切った結末を考えるのはそもそも性に合わないのだ。
ブラッドの視線に気付いたのか、アバンは不思議そうに首を傾げた。
「おっと、顔に何かついてました?」
「眼鏡がついてるな。ではなく、お前早死にしそうだよな、と思って」
「!」
「おやおや、そう見えます?」
「見える。……そうだな、アバンはどちらかというと自己犠牲で他者に遺志を託して死にそうだ……ってヒュンケル、すげー形相してるけどどうしたよ。十に満たないガキのする顔じゃないけど」
奥歯を噛みしめ、ぎりぎりと眉間に皺を寄せ殺気を放つ少年の形相に一歩引くブラッド。
そんなブラッドをギン、と睨み付け、ヒュンケルは不意にアバンを睨んだ。
弟子のそんな視線を受け目を瞬かせるアバンであったが、ふ、と幼子を安心させるように笑みを形作った。
「……心配いりません。私は早死になんてしませんよ」
「……別に心配なんてしてないです!」
「これは失礼。てっきり心配してくれたのかと思って、先生嬉しくなっちゃいました」
「だから心配なんてしてないです!」
一見、実に仲の良い師弟のやり取りにブラッドは肩を竦めた。
ブラッドには知る由もない複雑な経歴を持つ二人だが、少なくともヒュンケルは本気でアバンを嫌っている。
しかしぐにぐにと頬を捏ねられたり、仕返しにアバンの頬を引っ張ったりするあの様子を見れば、心の底から嫌い切ってる訳ではないだろうな、とブラッドは思う。
きっといつの日か何だかんだ言ってヒュンケルが絆されるだろう。そう確信していた。
その過程は少し気になるが、それを理由に地上に長居する気は流石のブラッドにもなかった。
だがそれを少し惜しいとは思う。
「……地上へきて一週間経つ。いい加減俺も動かにゃならんしな」
「ブラッド?」
「おい変人魔族、どうした?」
「よしクソガキはそこに直れ。……と、言いたいところだが、その前に昼だ。アバン、いつも通り任せた」
空高く輝く太陽を指差し、ブラッドは感傷を誤魔化すように頭を掻いた。
昼食はロモスで焼いたアバン特製の胡桃パンと、折角だからと海に向かったアバンが獲った新鮮な魚のスープであった。
ブラッドは初めての海の幸を興味津々に楽しみながら、ヒュンケルは態度にこそ出さないがさり気なくおかわりをするなどし、アバンはその様子に頬を緩めるのだった。
昼食を終え少し経つと、三人は他愛もない話をしながら再び街道を歩く。
その途中でブラッドは太陽の位置によって輝きを変える海に何度も目を輝かせ、アバンはそれを楽しそうに聞き、ヒュンケルはそんな二人を仏頂面を保ちながらも横目で追っていた。
ポルトスの町に到着したのは夕暮れ時であった。
ポルトスの町はロモス北西の小さな町だ。当然城下町であるロモスほどの活気はない。
しかし人々が今を懸命に生きているという意味では、ロモスと全く変わらない熱気がそこにあった。
町に入るとふう、と汗を拭う動作をし、アバンはにっこりと笑った。
「ベリーナイスタイミングで着きましたね! 旅の疲れもありますし、今日はベッドでゆっくり休んでしまいましょう」
まるで疲れを見せない表情で言うアバンに、ヒュンケルは胡乱気な眼差しを向けた。
「よく言いますよ、ちっとも疲れてないくせに」
「おや! そうでもありませんよ~。見てくださいこのカール、いつもよりちょっと垂れてるでしょう?」
「分かりませんよそんなの!」
アバンの指差す左のカールを見るも、ヒュンケルには全く違いが分からなかった。
そもそも野宿の時ですら崩れない謎のカールなのだ。稀に水浴びをする時に崩すことはあっても、一瞬目を離せば普段通りの二重カールになっている程アバンはカールに情熱を懸けている。
今も全く同じだ。分かるはずがない。
そのままカールの違いを力説しそうであったアバンに、ブラッドは苦々しい表情を浮かべて肩を叩いた。
「お前の身嗜みにかける情熱はともかく。宿を取らないといけないんじゃないか?」
「むむ、それもそうですね。宿屋は町の東側ですので、ちゃっちゃと行っちゃいましょう」
アバンの案内で宿はすんなりと見つかった。
ロモスの石造りの建物と違い、木造のこじんまりとした民宿だ。
中に入れば食堂と併設したカウンターに、人の良さそうな黒髪の男性が座っている。どうやら宿の主人のようであった。
「いらっしゃいませ、三名様だね? 12Gだよ」
「はい、こちらに。厨房は使えますか?」
「料理でもするのかい? 忙しくないときにカミさんに言ってくれりゃいいよ」
店主の言葉に頭を下げると、アバンは手慣れた動作で台帳に名前を記す。
三人部屋は二階ということで木製の階段を上り、宛がわれた部屋の鍵を開けた。
元は四人部屋なのだろう。四つのベッドが四隅に置かれており、中央には小さなテーブルがある。
ベッドはどれも洗濯が行き届いた清潔なシーツに、よく日干しをした布団が載せられていた。
変わりませんね、とアバンは笑う。
「値段の割にはいい宿でしょう? 昔のパーティでもよく利用したもんです」
「昔のパーティ……地上の魔王を倒した奴らか。そういえばパーティメンバーはどうしたんだ?」
ブラッドの知る限り、それらしき人物をアバンの周辺で見たことはない。
その問いに答えたのはアバンでなくヒュンケルであった。
「……魔王ハドラーを倒した後だったか、ひと月前はパプニカにいたよ。でもその一週間後くらいに、魔法使いのジジイの瞬間移動呪文(ルーラ)でそれぞれの家に帰ったってよ」
「付け足すなら私のパーティメンバーの二人は子持ちでしてね。娘が心配だから傷を癒したらすぐ帰るって言ってさっさとおいてかれちゃった訳ですよね、私とヒュンケルは」
「あれは先生が断ったんでしょうっ! 大体先生はいつも……」
当時の心境を思い出したのか、怒り心頭でアバンに抗議するヒュンケル。
弟子を必死に宥めるアバンの姿を見ながら、ブラッドは更に問いを続けた。
「勇者に魔法使いか。他にどんな奴らがいたんだ?」
「そうですねえ。さっき言った夫婦の戦士のロカ、僧侶のレイラ。一度だけの助っ人でしたが武術の神とまで言われる拳聖ブロキーナ。そして魔法使いもとい、大魔道士マトリフの五人が私のパーティでした」
「拳聖、大魔道士……人間にしちゃあたいそうな肩書が揃ったもんだ。その五人に地上の魔王はやられたって訳ね」
「ハドラーは情けない魔王だからな」
いつにも増して不機嫌そうにヒュンケルは呟いた。
そんな弟子の様子に苦笑を浮かべ、折角だからとアバンは荷物から地図を取り出すと、テーブルの上に広げた。
「さて、地理の勉強です」
にこりと笑って二人を招くと、アバンは地図の左端……南西の大陸を示した。
「これが今、我々のいるラインリバー大陸です。その中心近く……ここが先日のロモス王国ですね」
「ほう、世界地図か」
「……ラインリバーから東の大陸がホルキア、でしたね」
地図をなぞりラインリバー大陸から南東の小さな大陸を示すヒュンケル。
正解です、とアバンは微笑みを浮かべた。
「私とヒュンケルはホルキア大陸から海を渡りこのラインリバー大陸にやってきました。上陸地点は大体魔の森の南でこのあたり。
そしてブラッドに出会ったのが大陸の東側……山脈と魔の森の隣接地点ですね」
アバンはそう言ってロモス王国を示す王冠マークよりやや南東にある森を指差した。
そのまま指を北上させると、地図に描かれた山と森の境目を叩く。
「あ、因みに魔の森の中心にあるネイル村にロカとレイラが住んでます。
娘さんはベリーベリーキュート、とロカが自慢してたことですし、ヒュンケル、会いに行きます?」
「断固拒否します。そんなことよりもっと修行がしたいです。先生、基礎修行だとか言って森とか山とか歩かせるだけじゃないですか。
俺は早く剣を覚えたいんです」
実に嫌そうに顔を歪ませるヒュンケルであった。
そんな弟子の様子にアバンはチッチッチ、と指を振った。
「ノンノン。基礎こそ上達への近道、ですよ! 今は身体をつくってる真っ最中です。
ここをナメると後で痛い目見るのは自分ですよ」
「まあ道理だな。幼少期に無茶をして戦士として大成できなかった、とか魔界でも良くあることだし」
「ぐっ……!」
大人二人に冷静に諭され、ヒュンケルは悔しそうに唇を噛み締めた。
そのまま行き場のない感情を発散させるように、流れるようにブラッドの腹を殴り始める。
ブラッドは口元に笑みを浮かべながら額に青筋を浮かべた。
「このクソガキめ。何故俺を殴る?」
「お前ならどれだけ殴っても問題ないだろ」
無言の鉄拳がヒュンケルの頭に炸裂した。
これまた一週間で見慣れた光景に、アバンは苦笑を浮かべた。
そして睨み合いからの口喧嘩に入りそうな雰囲気が醸し出されたその瞬間。どこからともなく腹の虫が鳴り響く。
「……お腹空きましたし、先にご飯にしましょうか」
あえて虫の名は言わずに、アバンは苦笑を浮かべた。
頬を赤く染めたまま仏頂面を浮かべているヒュンケルを伴い先に食堂へ向かう旨をブラッドに伝える。
罰が悪そうに頭を掻いていたブラッドはそれに快く頷いた。
「すぐに向かう。地上の食事は美味いからな、俺の分も頼むぞ」
「はいはい。早く来ないと私たちで食べちゃいますからねー」
「……お前の分なんかないんだからな」
にこにこ笑顔の師匠と悪態を吐く弟子を見送り、ブラッドはふう、と一息ついた。
この旅を続ける中で、初めて一人になれたからだ。
ブラッドは荷物から小指の爪ほどの大きさの紫水晶の欠けらと六芒星魔法陣を描いた紙を取り出すと、紙の中心に紫水晶の欠けらを置いた。
ブラッドの血で書いたその魔法陣の上に乱暴に座り込むと、瞑想を始める。
六芒星は魔族の魔力を高める魔法陣だ。その上で魔法を使うことで、より増幅した魔法力で探査ができるのだ。
(何だかんだで放置していた地上にきた真の目的、冥竜王ヴェルザーの依頼を完遂するに相応しい大地を探さにゃな)
テーブルの上に置かれたままの世界地図が浮き上がる。それはブラッドの目の前に飛んでくると、ぴたりと動きを止めた。
ブラッドは大陸名と地図に描かれた特徴を読み上げる。
「最北は不毛の大陸こと死の大地。その下が極寒の大地マルノーラ大陸。中央にあるのが地上最大の大きさ、ギルドメイン大陸。南西はラインリバー。南東はホルキア。後は小さな島々か」
随分と大陸が多いものだ、と呟くと、ブラッドは目的に合う大地を探すべく意識を集中した。
(――マルノーラは×。ギルドメインは△。ラインリバーは×。ホルキアは△。小島は殆ど×……特にデルムリン島は論外、穢れがなさすぎる)
地上は随分と穢れが少ないな、とブラッドは思った。
穢れとは瘴気だけでなく、人々の吐き出す負の感情全てを指す。
日常生活のちょっとした不満も含むのだ。穢れがない地域は流石に存在しなかったが、それでも瘴気溢れる魔界に比べれば白もいいところだ。特にロモス南端にあるデルムリン島など、穢れなき純白と言ってもいい。
ブラッドにとって天界を思い出す非常に不愉快な地域であった。
(まあいい。本命は死の大地だ)
世界の最北にあるという草一本も生えぬという不毛の大地、死の大地。いかにも、といった名前のそこはさぞかし呪術を行うのに相応しいだろうと思い、意識を集中する。
その瞬間、ぞわり、と背後に悪寒が走った。
覚えのある魔力を探知したのだ。思わず声を吹き出しかけたブラッドの背中に冷や汗が流れた。
(大魔王の魔力だと!?)
ブラッドが狙っていた死の大地に、絶賛地上侵攻計画を進行中である大魔王バーンの魔力があったのだ。
大魔王がそこにいるのは間違いない。であれば、その居城であるバーンパレスもまた近くにあるに違いない…というか死の大地に偽装していると考えられる。
ブラッドは大魔王バーンが苦手である。彼の魔力が燃え滾る熱を連想するのもあるが、比較的彼と年齢の近いため大魔王があの手この手で魔界を制覇しているのを見ているからだ。
大魔王ほどえげつない奴は魔族にいない。それがブラッドが大魔王バーンを苦手とする最大の理由だ。
そんな魔力の持ち主は現在は落ち着いているようだった。
どうやら探知魔法には気づかれていないようだ。
しかし何の拍子に気づかれるか分からない。
ブラッドは見なかった振りをして死の大地から意識を逸らすと、比較的穢れの多いギルドメイン大陸とホルキア大陸を中心に次点を探る。
(……及第点なのはホルキアか。だがギルドメインに変な反応があるな。それを確かめてからにするか)
探査魔法を打ち切ると、紙を畳み宝石をしまう。
魔力切れで地面に落ちた地図をテーブルに戻すと、ブラッドは食堂へと向かうのだった。
旅の終わりは静かに、しかし確実に近づいていた。
○ちょっと出てきた人達
魔王ハドラー(地上の魔王)
アバンと戦った地上の魔王。ヒュンケル曰く「情けない魔王」。
しかし魔王を名乗るだけあって強大な力を持つようだ。
現在は大魔王バーンに拾われた模様。再び登場する日も近い……?
戦士ロカ
アバンのパーティメンバー。実はアバンの親友でカール王国の元騎士団長。
今年1歳になる娘がいる。
親ばか全開で嫁にはやらんと叫びつつ妻に頭を殴られている。
僧侶レイラ
アバンのパーティメンバー。ロカの妻。
親ばか全開の夫に鉄拳を下す日々らしい。
拳聖ブロキーナ
アバンのパーティメンバー。武術の神とまで言われる凄腕の武道家。
大魔道士マトリフ
アバンのパーティメンバー。ヒュンケル曰く「魔法使いのジジイ」。
彼の瞬間移動呪文(ルーラ)によってパーティメンバーはそれぞれの国に帰った。
しかしアバンとヒュンケルは置いて行かれた模様。