マギアレコードRTA ワルプルギス撃破ルート すずね☆マギカチャート(マギウスの翼チャート)   作:鰯のすり身太郎

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Part.19/x

 

 

 空気が乾いていると、羽根は感じた。

 

 実際はどうなのか……実は夏のようにじめじめとしていたのか、それとも本当に冬のようにからりとしていたのか?

 どうだっていい。今すぐ、ここから逃げ出したい。

 

 そう思って走り出した。自分を掴んでいた手を振り払って、逃げる……。

 

 追ういくつかの足音が聞こえた。声が聞こえた。でも、空気を変えた二人はその中にいないようだ。

 

 そのうちに転んだ。下を見たら膝が笑っているのに気づいた。

 漏れそうになったため息が痙攣する。まるで気道が潰されたよう。

 

 さび付いた身体でどうにか振り向くと、そこは夜がいびつに明けていた。

 

 

 

「――――」

「――――」

 

 二人の少女がただ、無言で視線を交わし合う。

 

 時刻が真夜中であること、その服装が蛍光色の外套や異様に長いコートであること、その手に槍を思わせる長杖やカッターナイフのような大剣を握っていること……。

 奇妙なところは数知れず、あげていけばキリが無い。

 

 互いの身体に汗が浮かんでいた。

 真夏だってここまではない、というくらいのそれの一粒が、ぼつりと地面に落ち――風が起きた。

 

「な、は――?」

「――ッ!!!」

 

 追いついた、というようにふたり、黒いローブの少女が現れる。口から漏れるのはただ唖然とした空虚な声。

 

 咆吼のごとき衝撃音がとどろいたかと思えば、すぐ前で火花が爆ぜ続けているようだった。

 発生源は蛍光色の少女の耳元。赤い宝石に届かんとする刃を、すんでの所で防いでいる――。

 

 大剣を受け止める杖が悲鳴を上げる。キイキイというそれに負けないほどの大きな、それでいて何の感情もないような平坦な声。

 

「……何人、殺したの。スズネちゃん……」

「……ホタルには関係の無いことでしょう。私はただ――」

 

 力が一層強く込められる。ひしゃげ、きしむ。

 

「あなたを、殺すッ!」

 

 今まで無いほどの大きな音を伴って、杖が破裂するようにへし折れる。

 そして当然のごとく、刃は耳元の(ソウルジェム)を粉砕する。はずだった。

 

 しかし、あえなくそれは空を切る。ホタルと呼ばれた彼女の持つ奇跡、『瞬間移動』……。杖が折れ、スズネとの接触がなくなったわずかな間にそれが発動されたからだ。

 

 折れた杖が音を立てて地面に落ち、粒子となって消えていく。

 おもむろにスズネは背後に向かって剣を構える。そこには長杖の代わりに二振りの登山杖を持ったホタルがいた。

 

「……ごめん。わたしはまだ、死んじゃいけない。そして――」

 

 連撃。大剣を振るうのに難儀しそうな超至近距離でのそれを、スズネは難なく弾いていく。

 

「――スズネちゃんがこれ以上罪を負う前に、ここで止める……っ!」

 

 剣をそらし、姿がかき消える。

 

 杖が投擲され、目の前に迫っている。弾く。アスファルトにバウンドし、消える。

 四方から音があった。迫る杖。黒剣。鎖……。絶え間ない『瞬間移動』によって行われる、防御不能の連続攻撃。

 

 しかし、スズネの顔色に何一つ乱れはなかった。ただひとつ、呟いたのみ。

 

「『炎舞』」

 

 瞬間に現れたのは炎の剣。迫る武器群から守るようにそれらは展開され、そして。

 

「――行け」

 

 放たれる。杖が、剣が、鎖が、いずれもがあっけなく溶け落ちた。

 それでも炎が魔法少女を捉えることはなく。

 

「ッ――!!」

 

 彼女は、その頭上にいた。手元には長杖。

 武器が迫り消えるまでの間のほんの少し、それでも必殺になり得るほどの自由落下。

 魔女でも致命打になり得るそれが、魔法少女に放たればどうなるかなど言うまでもなく――。

 

「ふ……っ!」

「くそっ……!」

 

 だが。そんなものは何も知らずにいる場合。

 朝倉の放った渾身の一撃は、いともあっけなく防がれた。

 

「私が、あなたの戦い方を……忘れるわけないでしょ――!」

 

 硬直する身体を、スズネは思い切り蹴り飛ばす。

 飛ぶ身体は空き地を囲うフェンスに墜落し、歪ませた。巻き付いていた有刺鉄線が身体を裂き、背から血がまき散らされる。

 

 

「ホタルさっ……!」

「来るなぁッ!」

 

 駆け寄る二人を怒声で制す。それは今まで、誰も聞いたことのないほどのもので。

 

「これは……わたしの罪だ……!」

「ひっ……!」

 

 立ち上がる。支えに掴んだフェンスのトゲで手が血に塗れ、それもまるで意に介さずに。

 

 

 間を置かずに視界がフラッシュに染まる。それはまさしく炎の雨。刃を持つ焼夷弾。『炎舞』。

 

 朝倉ホタルの持つ奇跡(固有魔法)が『瞬間移動』であるなら、天乃スズネのそれは何もかもを焼き尽くす『炎』。

 魔力で鋳られた炎の剣が舞う。雨宿りする屋根も、防ぐ傘もない。故に――。

 

「っ、――!」

 

 走る。跳ぶ。弾く。ひとたびでも止まれば死あるのみ。

 だが、『炎舞』の軌道は()()()()()。直線に光のように。標的を追い曲がるときは鋭角に。

 であるのなら。既知の技であるのなら。それを防ぐことなぞ、造作も無い――!

 

 接近。スズネに携行するものは、生み出した鎖を鞭のように回して軌道をそらす。

 懐に入れば、『炎舞』は使えない。どうあれ自分も被弾する恐れがあるからだ。

 

 直線距離の空白。『瞬間移動』の絶好のチャンス。跳ぶ。刹那の斬撃。魔法(『瞬間移動』)を知り、行動を予測しているが故の罠。

 

 ……けれど。確実にその姿を捉えたはずのそれは、空を切った。

 

「ち――!」

「忘れたんじゃないの……やっぱり……!」

 

 『瞬間移動』はその速度に優れる。それはただ移動というのみでなく、連射性という点でもだ。

 朝倉は斬撃の範囲に接近し、すぐに紙一重届かない位置へ()()退いた。魔法を用いての距離の操作、彼女の好む戦術のひとつ。

 

「ツバキの技じゃ、わたしには――勝てない!」

 

 長杖を振るう。とっさに剣で庇うが、いくつかはその身体を切り裂く。

 射程は朝倉が今は上。そして大剣が身体をかすめる前に距離を取り、仕切り直す。

 

 

 あがった息を整える。ソウルジェムを浄化し、空になったグリーフシードを放りすてる。

 

 朝倉の力は、すでに全盛期のそれではない。

 例えば魔力量は、さっきの攻防で底をつきかけるくらいに衰えた。戦法も大きく制限され、今の痛み分けに持ち込むためにもいくつも賭けを通す必要があった。

 

 そして――。まだ、終わってなどいない。

 こちらのみが浄化をしたからといって、いまだ勝ちの目は薄いままだ。

 

 

 前を見据える。スズネの姿が揺らぎ、熱が迫る。

 視界をくらます剛火球! あからさまな牽制のそれですら、朝倉の攻撃とは雲泥の差がある。天乃スズネとの間にある地力の差は歴然だ。

 

 魔法によって炎をかわす。スズネは分かっていたように移動地点へ襲撃する。トンファーのように構えられた杖が凶刃をそらす。

 角度が少しでもずれていたら、構えた腕ごと切断されていただろう。読み合いの果ての綱渡り。

 

 啖呵を切ったのは、全く強がりもいいところだった。首筋に冷や汗がだらりと垂れる。

 

「まさか。ツバキに勝てたことがなかったのは、あなたの方でしょう」

 

 『瞬間移動』の弱点として、接触しているものは一緒に跳んでしまう、というものがある。

 スズネはそこを突き、自らのスピードをフルに活用してひたすらに攻め手に回り続けた。

 

 剣が杖と接していれば、『瞬間移動』はほとんど無力化され、持ち味のトリッキーさは多くが失われる。

 逃れるにはただ、スズネが剣を構え、振るう、その隙間に魔法を使えばいい――が。

 

 それが出来る時間はあまりに短く、また魔法を使うためにほんの少しでも思考を割くことすらも難しかった。

 座標の確認、それだけのことがあまりに困難。

 朝倉が攻め手に回っても、負わせられる手傷はほんの少し。一方でスズネはそのすべてが致命のそれになりうる。油断してひとつ処理し損なえば、それが死に直結する。

 

 魔力は、未だ底をつかない。実のところ、スズネは『炎舞』くらいにしか大きく魔力を使っていない。

 このままだと、終わりだ。

 

「っ、お、あ――!!!」

 

 ならばどうするか。

 

 左手の杖を消す。粒子と消えるそれの代わり、刃へその腕の表皮を、肉を食わす。

 骨までは至らないで済んだ。鮮血。――知るものか。まだ十分動く。

 

 沈み込ませた身体を、タックルのようにめり込ます。

 助走も何もなかったけれど、ふらつかせるくらいになら及第点だ。

 

 崩れた身体。追撃には……武器がない。また仕切り直すのが関の山。

 

 

 空き地が妙に広く感じられた。跳んで、身体がよろめく。杖を作り、支える。

 傷は最低限にだけふさいだ。出血しないのならどうせ変わらない。必要以上は、無駄だ。

 

「っ、だったら……」

 

 スズネの姿がゆらりとかき消える。今の今まで夜を昼のように照らしていた炎は消え、むしろ夜らしい静寂が訪れる。

 

 撤退した。……わけではない。それは未だ重くのしかかる空気が何よりも雄弁に示している。

 

「『陽炎』……。やっぱ、ツバキの……」

 

 朝倉の口からつぶやきが漏れる。

 炎を操り、光の屈折を利用した魔法の迷彩。かすかにも気配がこぼれる様子もない。

 

 分かっているのはただひとつ。確実に仕留めに来るだろうということ。

 

 息を吸う。吐く。吸う。吐く。熱された空気が肺を焼くように感じられた。

 

「――――」

 

 おもむろに、手の杖を地面へ突き立てる。

 

 回転。土煙。ゆらぐ。影。

 

「そこだ……!」

 

 右斜め後ろ。狙いは耳のピアス。振り下ろされる大剣を押さえ込む。

 

「っ、まさか、タイミングまでバレてるなんて……!」

「言ったでしょ……! ツバキの技は、通じないって!」

 

 作りだした黒剣を背後へ飛ばす。不意をうったそれは、難なく回避される。

 

 織り込み済みというように、『瞬間移動』によって先回りした。飛んでくる剣を掴み、振るう。

 パリン。飴ガラスのように、あっけなく。炎によって剣は砕かれ消えた。

 

 それでもと、身体を拘束しようと迫る鎖を、スズネは流れるように切り払う。

 『陽炎』による奇襲は失策だった。対応されたことで、攻勢はまた入れ替わる。

 

「このっ……」

 

 四方から迫る黒剣。もしくは鎖。『瞬間移動』を繰り返し、跳んでは放つの単純なリピート。

 

 ただのヒットアンドアウェイならば対応は容易だ。インパクトのタイミングで捉えればいい。

 ただの遠距離からの襲撃なら対応は容易だ。スズネのスピードであれば接近はたやすい。

 

 しかし、今は違う。視認できないまま、四方から狙撃されているに等しい。

 黒剣はまだいい。切り裂かれるくらい大したものではない。だが鎖となるとそうもいかない。拘束されては、逃れるにも大きく時間を食う。その隙に攻撃をされたり、ましてや逃げられたりすることをスズネは恐れた。

 

 魔力量のアドバンテージ。防御に炎を使わされていて、あちらは一度回復を挟んでいる。

 元のそれに差があっても、確実と頷くことは出来ない。それに、こちらはすでに魔女と一戦交えている。はたして、本当に持つか?

 

 剣を砕く。鎖を溶かす。焦りが、スズネの脳裏を灼く。

 

 今はいい。ただの一対一だ。だが、あの組織然とした魔法少女の集団に彼女もまた所属しているのならば。そう遠くない内、助けが来る可能性は高い。そうなって殺しそびれば、彼女は。

 

 ――なんとしても。殺さなくては――!!

 

「……なら。こうするだけよ……!」

 

 弾く。弾く。……弾かない。

 

 残すのは、鎖。ただし、巻き付かせるのは身体ではない。剣を、峰で鎖を切るように振るう。たちまちに鎖は巻き付くが、持って行かれる前に手をうった。

 

「……しくじった……!」

 

 短く悲鳴が漏れた。もう遅い。

 

 鎖を操るために止まった一瞬、それだけで十分だ。身の回りに作り出していた火球は、防御のためではない。それは一か八か王手に持ち込むための布石。

 

 剣をなくすことではなく、離脱と攻撃を優先されていたら危なかったが……賭けには、勝った。

 

「行け!」

 

 散弾。ひとつひとつは大きくはないが、それでいい。面を攻めるのが理想。

 

 『瞬間移動』のもう一つの弱点は、直線距離かつ、その間を阻むものがないこと。いわんや、火球なぞを通過することはできない。

 

 朝倉はたまらず後ろへ下がる。逃げ場は限られる。彼女の移動能力が魔法に依存する以上、それを防がれることには弱い。()()()()()

 

 ソウルジェムを見れば、自身の余力も数少ないことが分かった。

 ――故にこそ、全力で、仕留める。

 

 

 全力で魔力を駆動させる。

 天乃スズネが美琴ツバキから受け継いだ魔法、技術の中でも、攻撃に特化した技。

 

 カッターナイフに似た大剣に熱が集う。巻き付いていた鎖がひび割れ、溶け落ちて、赤熱した刀身があらわになる。

 

 空に魔法陣が浮かび上がる。大円に小円が8つ。感じられる力は、それまでのものとは桁が違う。

 

「っ――あれは――」

 

 朝倉が着地し、体勢を整えるまでのほんの少しの間にそれは完了した。

 

 強大な魔力を込めて作られた火球に、本命の超強化した剣。基本を突き詰めた果ての必殺。

 すなわち!

 

「「『桜火』――ッ!」」

 

 声がシンクロする。

 片方は決意を、片方は焦燥を込めて。

 

 あれは、駄目だ。放たれたら最後、逃れる術はない。込められた力が、文字通りの段違いだ。

 

 ラスト、ゼロコンマに満たない終わりまでの時間が、ずるりと弛緩して(剣を構えるのが見えた)収縮する(炎が放たれた)

 

「――――」

 

 8つの死が襲ってくるのが見えた。

 放たれたそれは、動きを封じるためのもの。後ろにはフェンス。これでは『瞬間移動』でも逃れることはできない。

 

 それでも。

 

 ただ死を受け入れることを良しとはしなかった。

 

「――――」

 

 言葉を発す暇はない。舌が一回りする時間で終わりを迎えるだろう。

 

 狙うものは、ほんの一瞬あるかないかの隙間。炎の産む通路。

 

「――――」

 

 白い視界のかけら。動かしたのは勘だったか。

 

 跳ぶ。赤熱したオレンジが視界に入った。

 

「なっ……」

「っ、あ――――あああああああっ!!!」

 

 跳んだ先は、スズネのすぐ前。

 

 だが、どうする? 武器はない。作るその間に一閃は振るわれる。逃げる? そんな暇も、隙間もない。

 

 だから、()()()()()()()

 刀身を強引につかみ取り、剣を身体に貫かせる。激痛。痛覚を遮断する暇はなかった。

 

「あ――ああッ!!!」

 

 文字通りに血に塗れた手を、スズネの手と剣の間へ無理矢理に滑り込ます。

 衝撃でひるんだ故にこその、少しの力の緩み。ぬめった手が分断し、すかさず朝倉はその自らの腕を切断した。

 

 『瞬間移動』は自分の身体と、それに付随するものが対象となる。では、魔法を使ってる最中に自分の身体でなくなるとどうなるのか?

 

 答えは、()()()()()()()()()。だから、魔法を使いながら腕を切断すれば。そして、その腕がスズネと接していれば。

 

 結果として……自らとスズネとの距離を、無理矢理に離すことが出来る。

 

「そんな……っ!」

 

 スズネは思わずといったように声を漏らす。

 焼けただれた腕が傍らに落ちていて、自らは丸腰。あそこから仕留め損なった、という事実が頭を打ちのめすよう。

 

 でも、まだ朝倉が瀕死であることに変わりは無い。魔力を振り絞り、最後、とどめの炎弾を放つ――

 

「させません!」

「なっ!」

 

 しかし、それは途中で阻まれる。

 飛来した大きなチャクラムが、炎を受け止め打ち消す。それを放ったのは、銀髪の魔法少女。

 

「この状況……詳しいことは分かりませんが、穏やかではありませんね?」

「……そこを、どいて。邪魔をしないで……!」

「同胞を殺そうとされているのに、そんなことができるとでも?」

「く……」

 

 この間だけで、相手が一筋縄でいかないことはよく分かった。消耗しきった今、倒すことは難しい。

 

「……あなた、名前は?」

「……梓みふゆと申します」

「そう……この借りは、必ず返すわ……。『陽炎』」

「っ! 消えた……」

 

 身体が揺らぎ、スズネが見えなくなる。重くのしかかるようだった殺意の混じった空気が消え、みふゆはため息をつく。

 どうやら去ったようだ、と。

 

 危ないところだった。たまたま近くにいなければ、もう少しでも遅れていたら……確実に朝倉は殺されていた。

 

 後ろを振り返る。戦いの終わったのを察したのか、彼女の部下の黒羽根が駆け寄ってきているのが見えた。

 

「ホタルさん! 無事で……あ、ひぃっ……!」

「……? どうしたん、です……か……!」

 

 そこに立っていたのは、それまでの朝倉ホタルでは無いようだった。

 

 血に染まって赤黒く変色した外套。手を失い、失血し続ける左腕。

 胸を裂き、腹にかかるように突き刺さった大剣。ところどころが炭化したかのような傷。

 

 しかし、何よりも。乖離を感じさせたのは、その顔で。

 

 いつもころころと表情を変えていたはずのそれは、なにも無い能面のそれに似て。

 

 みふゆは、初めて彼女の眼を見た。それは、夜すら及ばないほどの、汚泥のような黒い、光のない瞳。

 ぎょろ、とそれが見た時、身体が思わずすくんだのを感じた。

 

「……ス……ズ……」

 

 大剣を身体から抜こうとする。まるでそれを構えようとでもいうように……。しかし、その前にそれは粒子に消える。

 

 彼女はただ倒れ伏す。焼け付いた野に、血のそれが花開く。

 剣でせき止められていたのか、わあと吹き出た血が顔へかかった。

 

 羽根の一人が絶叫する。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

 初めから全力疾走RTA、はぁじまるよー。

 

 前回、下手したらリセット確定のイベントを引いたくさかったので、全力でそれの発生とすると思しき場所へ向かっております。

 このイベントこそが『CROSS CONNECTION』。ランダムイベントなので、確実に発生するものではないのですが……その分、発生してクリアに失敗すると確実に大惨事になります。

 具体的には、市内の魔法少女がぽこじゃか退場していきます。ハードモードだと標的も絞れないのが普通だと結構悪質ですね。

 

 ただ、その分退場……というか襲撃イベントの初回発生時刻は確実に『0:35』になるようになっています。なっているのですが。

 ……ハードモードかつ、マギウスの翼に主人公が所属していると、その限りでなくなります。

 

 そうなると、標的がパトロール中の羽根のいずれかに固定される代わり、『0:35』前に追加で襲撃イベントが発生します。

 羽根が氏のうが、まあ知ったこっちゃないのですが(今回はネームドもいないし)、そのヘルプとして高確率で、みふゆさんとアリナが駆けつけてしまいます。

 

 襲撃者である魔法少女、『天乃鈴音』はやったらめったら強いので運次第ではふたりがやられるときがありますし、逆にスズネを頃してしまっても、別のイベントのトリガーになったりフラグが折れたりで大ガバを引き起こします。

 つまり? 発生するだけ損ってことだな! 貰える経験値は割と多いです。

 

 ただまあ、起きてしまったものは仕方ないので、今は羽根のところへ全力で向かっています。現在時刻になってスズネが姿を現していないとなると、別のグループの方へ向かったとみていいでしょう。

 

 

 予兆として、昼間の内に目撃情報を貰えたり、羽根ルートだと魔女が出にくくなったりということがあります。

 また、本イベントは戦闘がない表ルートと、スズネと戦う裏ルートがあり、前回気づくきっかけになったさゆさゆのミニライブは表ルートの派生イベントによるものですね。

 通るのが裏ルートでも、表ルートのフラグは普通に機能します。同一イベントだしね。

 

 今回、そこまで羽根のグループがいなくて良かったです。さもなくば片っ端から会いに行って潰していく運ゲーになるところでした。

 

 『0:35』までに確実に撤退するので、逆に言えばそれまでに頃されてるか頃してることになりますからね……。時間制限付きです。

 

 

 スズネは魔女の結界に入り、中の羽根と共闘、その後札害までが固定なので、狙うのは羽根のパトロール範囲内の結界です。札害前にたどり着ければ羽根の信頼度とかもうまあじなのですが……。

 

 ……あ、羽根は置いてきました。いちいち説明してる暇があったら、とっとと走った方がいいからね、仕方ないね。あと(いちいちカバーしてる余裕は)ないです。

 

 

 

 う~結界結界!

 今結界を求めて全力疾走しているボクはマギウスの翼に所属しているごく一般的な魔法少女。

 強いて違うところをあげるとすればタイムに興味があるってことかナー……。

 

 そんなわけで街にある空き地の結界にやってきたのだ。

 ふと見ると魔女の結界が消えて一人の見慣れない女の子が羽根の中に混ざっていた。

 

 ウホッ! いい殺気……

 

 そう思っていると突然その子はボクの見ている目の前で炎の剣を放ち始めたのだ……

 

 

 ……言ってる場合じゃねえ! 『瞬間移動』! 間に合……ったぁ!

 あっぶねえ……羽根でも頃されないにこしたことは無いですからね、一応。

 

 さて、というわけで『魔法少女 天乃鈴音』戦……で……

 

「嘘。本当に――」

 

 ん?

 

「やっと。やっと会えた――ホタル」

 

 ん、んーーーーー…………。

 

 え? なにこれ。

 

 

 え? うん。なんかホタルちゃんも会話が出てますね、勝手に。……まさか。

 

 神浜魔法少女ファイル! ファイル確認! 今更もうロスなんか言ってられるか! マジならそれどころじゃない!

 交友関係! うわめっちゃ灰色! なんだこれ!

 

 交友関係の欄には知り合いの魔法少女の名前が書かれていますが、退場すると背景色が灰色になります。

 つまりホタルちゃんはアホみたいな量の氏んだ魔法少女と知り合いってことです。

 

 しかしモブはどうでもいい。今生きてるのは……うっわあった! 『天乃鈴音』ってありますねぇ!(やけくそ)しかもなんかやったらめったら信頼度が高い!

 

 あの……これは……RTA終了案件なのでは……。開始前に知り合ってる魔法少女がいるとか、その信頼度が高いとかは普通にあるけども……。

 えっと、ええ? このチャートで事前に知り合った魔法少女とか全く生きてこないので想定してなかったんですけど???

 

 落ち着け、落ち着こう、落ち着きましょう。いったん深呼吸、深呼吸……。

 今確実なのは、スズネが相当に殺意を向けてきてるってこと。とりあえず、このさきのことは戦闘を終わらせてから考えましょう。

 

 

 

 『魔法少女 天乃鈴音』戦! やってやるよ、やってやろうじゃねえかよこの野郎!

 しゃおらぁ! いいよ! こいよ! 練習済みだから対策はできてるんだよ!

 

 スズネはとりわけ、スピードと火力に秀でた魔法少女です。比較的防御は低めなので、むしろ頃さないように戦うのがRTAだと難しいという走者泣かせですが……ホタルちゃんは火力低めなので問題なし! 技も無駄に多彩ですが、タネが割れていればまだなんとか……。

 

 ……んー? あれ、なんでこんな一瞬で詰めて攻撃が飛んできてるんですかね……。ソウルジェム狙いだったのでとっさに防御できましたが、あと一瞬遅れてたら即ガメオベラだったんですがそれは……?

 というかやばいやばいやばい杖が変な音出してる折れる折れる折れる!!! 折れたらそのままジェム砕かれて氏んじゃう! なんだこいつ! いくら強いったってここまでってこと無かったんですけど!

 

「私はただ――あなたを、殺すッ!」

 

 生存フラグ? 生存フラグ? デデンって鳴る? いやそういうのじゃねえなこれマジで氏ぬこわい助けて……折れたァ!

 

 あっっっぶねえ! 『瞬間移動』でよかった……。氏ぬところだった……。

 

 なんなんすかねこれ……。ボス補正にしたってヤバすぎる……。

 素のステが上がってる? あと思考ルーチンも変わってるのかな……スズネが一人相手にここまでやるなんて初めて……。

 

 現状吐き気がするレベルでピンチです(言わずもがな)。

 老いぼれに強化スズネが倒せるわけ無いだろ! いい加減にしろ!

 

 こうなったら頼みの綱はただひとつ。みふゆさんかアリナが助けに来るまで……持ちこたえる!

 あの二人がスズネの襲撃に遭わせて救援に来る確率が高いのは言ったとおり。ただし、時間差がまちまちなのです。今回は遅いパターンみたいですけどね! よりにもよって!

 

 さすがに3人なら追い返せるはず……。3人に勝てるわけ無いだろ! 無いよな?

 もしくは『0:35』まで経過させればいい……けど一人で持つかなあそれ! 無理っぽいんすけどお!

 

 

 ともかく攻撃。攻撃。運良く体力か魔力削りきれればそれでもいいので……。あと防御しきるのは普通に無理……。

 

 『瞬間移動』は直線間しかいけませんが、連続で使えば多面的にも余裕で移動可能。

 移動しては攻撃を繰り返し、削る……あっ駄目だこれ読まれてるなんで? AI賢すぎんか?

 

 しかし馬鹿め! 本命は頭上だ! 魔女にも有効打になる一撃(一敗)、受けてみろぉ!

 

「私が、あなたの戦い方を……忘れるわけないでしょ――!」

 

 アッフゥン! 普通に防御されて吹っ飛ばされた……。なんだこいつ……。

 あと吹っ飛ばされた先が地味にトゲトゲで痛い……。どうして……。

 

 あ、羽根の二人が来てる。でも邪魔しないでね……。多分これ普通に瞬札されるからね……。

 

 

 ……ってなんだこれ! 『炎舞』にしたって量多過ぎんか!?

 

 スズネの魔法は『炎を操る』という猛烈にシンプルな魔法(厳密には違うけど)ですが、使いこなしまくっているのでそれを豊富な技に昇華しています。

 通常攻撃の火球。炎の剣を展開、射出する『炎舞』。空気の揺らぎを利用してか透明化する『陽炎』。余裕で魔女を虐札できる火球群と強化した武器の大剣で確実に頃しにくる『桜火』。

 初見で戦って乙った人もいるんじゃないでしょうか。僕もです(半ギレ)。

 

 で、今回の『炎舞』。普通に一発食らったら体力数割もってかれます。しかも練習より数が多いです。どうして……(2度目)。

 

 でも頑張って避けましょう。わあい『瞬間移動』君だいすき。戦闘だと使いやすい。

 

 

 ……よっしゃ接近。ははは攻撃する気だったのは分かってるわ回避ィ! 攻撃! 撤退!

 

 ……いやーきついっす。何がキツいって魔力がキツい。結構跳びのいたので今のうちに回復。

 若いならともかく、弱体化始まってるベテランだと時間稼ぎでも厳しいですね……。

 

 ってうわ! はっや! うおお氏ぬ氏ぬ氏ぬ氏ぬぅ!!

 

 『瞬間移動』で体勢立て直そうにも攻撃早すぎて、移動先の座標を取る暇がねえ!

 仕方ない、ここはあえて攻撃を食らう! 今だてったーい!

 

 いってえー……。2割近くもってかれましたね……。

 

 

 ……あ、『陽炎』撃たれた。札意が高すぎるッピ! 見えねえってのは怖えなあ……。

 でもこれは対策済みです。というか、比較的容易です。

 

 『陽炎』は結局、視認不可のアンブッシュにすぎません。しかもある程度タイミングも読めるので……。

 

「ち――!」

 

 合わせて、土煙なり水しぶきなりをばらまけば姿が若干お漏らしされるので、あわせればいいだけです。他に仲間とかがいたらこうはいかないですが。

 そして攻撃までに時間も空くので、こちらの攻撃準備も進めておけます。デレ行動かな?

 

 

 そしてここから反撃、『瞬間移動』連打タイム。跳んでは攻撃を再度繰り返します。

 

 ただし、直接殴りにいってはいけません。カウンターされる可能性があります。

 羽根武器の剣と鎖で中距離を保ちます。羽根武器くん有能。いちいち手で投げなくていいのが素晴らしい。

 

 ……鎖にひっかかった? スズネが対応出来ないとは思えない……魔力切れ?

 あっいや違うわこれマズったあ! ガバです! 大ガバ!

 

 なんだこの火球! 完全に『瞬間移動』メタってきてるんですがそれは!?

 

 

 逃げ……逃げ……あっ『桜火』。

 

 『桜火』で? しかも? 威力増し?

 

 えっこれ詰みでは。氏んだんじゃないのぉ~?(KWSK)

 

 火球一発でもまともに食らったら、即座に残り体力が吹っ飛ぶでしょう。かといって防御も出来ません。上からもってかれます。

 いっそもう食らってドッペル……いや、スズネにみられたら碌でもないことになる……。

 

 かといって頑張って避けても、本命の剣は避けらんないでしょう。多分このAIなら狙ってきてます。

 

 ならばァ! 答えはひとつゥ! もう一度スズネの前へ跳ぶ!

 タイミングは……今だ!

 

「なっ……」

 

 そして! 振られる前に! あえて! 食らう!

 うおおお凄い勢いで体力吹っ飛んでるやべえこれ残るかなあ!?

 

 だがまだまだ、ラスト、剣を離させて、『瞬間移動』を使いながら自分の腕を切る!

 

 ちょっとした裏技で、こうすることで、切った腕に『瞬間移動』を使わせられます。

 つまり、武器を持たないスズネを遠くに隔離できる! やったぁ!

 

 体力は……すっごいギリギリで残りましたね……こわかった……。

 

 

 

 でももう戦闘続行は無理ですね……スズネもだいぶ消耗してると思うんですが……。

 

「この状況……詳しいことは分かりませんが、穏やかではありませんね?」

「……そこを、どいて。邪魔をしないで……!」

「同胞を殺そうとされているのに、そんなことができるとでも?」

「く……」

 

 みふゆさん! みふゆさんじゃないか! 

 来た! メイン戦力来た! これで勝つる!

 

 ……よかった、撤退してくれましたね……寿命縮むかと思いました……。

 

 そしてそのまま気絶したので今回はここまでです。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




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○スズネの魔法
 正しくは、殺した魔女からのコピー。
 ただし上書きタイプなので、炎の他にプラス、みたいなことはできない。

○『瞬間移動』
 小回りがきくトリッキータイプ。
 応用はきかない。

○羽根武器
 剣と鎖。
 性能は低いけども、燃費という一点においては優秀、というイメージ。
 黒羽根が皆使えるし、燃費くらい良好でも……かまへんか……。

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