マギアレコードRTA ワルプルギス撃破ルート すずね☆マギカチャート(マギウスの翼チャート)   作:鰯のすり身太郎

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1st.懐古

 

 

 走る。走る。走る。

 アスファルト。暗闇。街灯。目に映るのは鮮やかなモノクロ。

 

 どうして走っているのか? 息が切れて、思考が薄れて、それでもと。 

 ……分からない。ただ、なにか走らなければいけないという気持ちばかりがただただ絶えず爆ぜ続け、自分(エンジン)を駆動させている。

 

 フォームが崩れていく。当たり前だ。

 マラソンランナーが長く走れるのは、そのフォームもペースも計算されたものであるからで。ただ、足をはやくはやくと動かしているだけのソレが長く続く道理はない。

 

 客観的にみれば、きっと滑稽だろう。けれど、そんなアタマを働かせることすらも困難だ。恥を考えるソレがあれば、きっと走ってなどいない。

 空気に溺れるように、走る。走る。走る。

 

 

「    」

 

 転んだ。どれだけ走ったか。考えても分からない。いや、はたして考えることすらしたかどうか。

 

 立ち上がろうとして、足がひくついていることを知った。

 ……関係ない。止まってはいけない。動かなくても動かさなくてはいけない。

 

「……あはっ。無様だねぇ……。そんなに急いで、どこへ行くつもり?」

「 え   」

 

 立ち上がろうと手を振る。声が聞こえたので顔をあげた。

 

 ……少女。赤い帽子に、紫の髪。名前は■■■■。

 わたしは、彼女を、■■なかった。

 

 ――でも、それっていつのことだっけ。

 

「ねえ」

「  あ   」

 

 右へ顔を向ける。

 まだ幼い女の子。長髪、銀、灰色のコート。潤んだ瞳。

 

「――、なんで私を見捨てたの?」

「  それ  は  」

 

 なにか、口から出そうな言葉が、吐息になって消えていく。

 言わなければ、言わなければ、けどなにを?

 

「あなたが見捨てたから、私は■■■」

「……いや、死ななかったわ。良かったわね」

「 な   え   」

 

 左へ顔を向ける。

 そこには大きくなったその女の子。同じ姿。ただひとつ、瞳はひどく曇っていて。

 

 息が乱れる。

 空気が喉までで空回りする。

 

「でも、ふふ。その分殺したわ。あなたが逃げたから。私にツバキを殺させて、そして」

「あなたが()()()()()()()()間、ずっと」

「 あ ああ あああ……」

 

 気づけばその手は真っ赤に染まっている。

 

 そっと頬へ触れられる。

 

 自分の手も、()()だった。

 

「あ、あああ、ああああああ……!」

「ねえ、後ろも見てみたらどう?」

 

 いつのまにか紫の少女は消え、代わりにつり目の少女がいた。名前は■■■■。

 わたしは、彼女を、■えなかった。

 

「また逃げるの?」

「自分勝手なことばかりだね」

「結局、誰一人」

()()なんて、できなかったじゃん」

「まあ、当たり前でしょ」

「だって、始まりから――」

「   」「   」「   」「   」「   」…………

「そうですよね、ホタル?」

「ああああ、あああああああっ……」

 

 後ろ、そこにはたくさんの人がいた。

 各々バラバラの格好をして、名前があって、そしてみんな()()()()()()

 

 目の前で恨み言を吐きながら魔女になった、狂ってしまって自分でジェムを砕いた、濁りきる前に殺してくれと懇願した……。

 

 みんな、足下から溶けて、瞬く間にヘドロのように腐り落ちていく。

 黒くおぞましいそれが、足に、手に、まとわりついて、そして、

 

「「あなたのおま「あえの「なき」みの「おたま」あな」えたき」のみあのなた「おあまきな

 

「あ、あああ、ああああああああっ、あああああああ!!!」

 

 ■■■■■■。■■■■■■。■■■■■■。■■■■■■。■■■■■■。■■■■■■。■■■■■■。■■■■■■。■■■■■■。■■■■■■。■■■■■■。■■■■■■。

……………………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

「……ルさ、……タルさん、ホタルさん!」

「あ、あああっ! ああっ、あああぁ、ああ……?」

 

 そこはありふれた、それでいておぞましいあの夜の道ではなかった。

 蛍光灯の明かり。真新しい木製のテーブル。きちんと手入れされているらしい観葉植物。

 そこはどうやら、どこかのリビングのようだった。

 

「……っ……あぁ……。……えっと……」

「よかった……。ずいぶんうなされていたみたいですから。すみません、腕を見せてください」

「……腕?」

「はい。さっきまで悲鳴をあげて、ひどく腕をかきむしって……」

 

 それを聞いて、はっとしたように彼女は寝かされていたソファから飛び退いた。

 真っ白であったはずのそれは、部分部分に赤く斑点が出来ている。

 

「えっ、あぁっ! ごめん! 私のせいで汚しちゃって……。シミになったら大変だし、すぐ洗わないと……」

「そんなことはどうでもいいんです。ワタシが聞きたいのは……」

「どうでもよくないよ! こんな立派なのに……」

「ホタルさん!」

 

 ズレた心配をする彼女に、もう一人はいくらか苛立ったようだった。

 強く名前を呼ばれると、彼女はあたふたとしたような顔を緩めて、普段どおりに小さく笑みを浮かべる。

 

「……ごめんごめん。ここ、みふゆちゃんの新しい家でしょう? せっかくなのに汚しちゃったら悪いと思ってさ」

「……はぁ。どうしてここにいるか、分かってますか?」

「気を失ったところまでは覚えてるよ。だからまぁ……運んでもらっちゃったのかな? ごめんね迷惑かけて……」

「それに関しては気にしないでください。仲間なんですから、助け合うのは当然です」

「そうは言うけどさ、ずっとお世話になるわけにもいかないよ。ありがとね、私はもう帰る、ねっ!?」

 

 慌てたように出て行こうとするが、数歩も進まないうちにふらと倒れてしまう。

 あと少しで激突、という寸前で腕をつかまれ助けられる。彼女の体重は同年代と比べても病的に軽いと、素人でもはっきり分かるほど。

 腕をぐいとひっぱれば、いともあっけなく身体が持ち上がった。

 

「ありがとー。……参ったなあ、歩くだけでも大変だなんて」

「当たり前です。あれだけの失血をして、平気なわけがないじゃないですか。たまたま黒羽根の子の魔法が回復できるものだったからこれだけで済みましたけど、本当だったらもっとひどいことになってたかもしれないんですよ」

「……あっちゃあ。あとで謝らないとだね……」

 

 腕を引かれ、朝倉はそのままぱたりとソファへと倒れ込む。その顔は、蒼白を通り越して真っ白だったのだが、自分では気づけなかったようだった。

 それでも笑う姿は、痛々しさすら通り越して、いくばくか滑稽ですらある。

 

 

「……それで。あなたは何をそこまで隠そうとしているんですか」

「隠す、って、そんな。私がそんなこと、みふゆちゃんにすると思う?」

「では何故、あんなに焦ってここから出て行こうとしたんですか? そもそも、どうして気がつくなりソファの心配をするなんて、不自然なことをしたんですか? ……見くびらないでください。それくらいのこと、ワタシにだって簡単に分かります」

「……本当に、参ったなあ」

 

 言って、横になる。その姿は観念した、といっているようでも、ふてくされたようでもある。

 だらりと弛緩した身体。背もたれに顔を隠しながら、小さく小さく言葉を継いだ。

 

「まあ、隠し続けるのもこうなったら大変だし。いいよ、何でも話してあげる。何一つ面白くないだろうけどね」

「……では、まず。さっきうなされていたのは……」

「あぁ、うん。眠るとね、必ず夢を見るんだ。ひどい悪夢。中身は……まあ今日と同じような夢を、いつも。だから今までもずっと寝てなかった。久々に寝ちゃったみたいだけどさ、今日は」

「必ず、ですか?」

「そう、必ず。馬鹿みたいでしょ?」

「っ……」

 

 吐き捨てるような台詞は、それでいて嘘を言ってないとみふゆに確信させた。

 今でこそ道を違えたが、七海やちよと共に神浜の西の魔法少女のリーダー格であった時、多くの魔法少女と会ってきた。その経験が真実と叫んでいる。

 しかし一番に戸惑わせているのは、その投げやりな語調だった。彼女の普段の人懐っこいひょうきんさはなりを潜め、むしろ今は厭世的ですらある。

 はたして、彼女は、自分の知っている……。

 

「わたしはわたしだよ」

「!」

「別に今までだって、演技とか嘘とかじゃないよ。ただ肩の力を抜いてるだけ。体調が悪い上に、自分の話もしてテンションも上げてってのは、まあ……ねえ? ちょっと大変っていうか」

「……では、そんなにやつれているのは」

「それ? まあ、あんまりご飯とか食べてないからじゃない? 味もよく分からないし。……あぁ、運んでもらったもんね。軽くて楽だったならよかったんだけど」

「……! どうして、そんな!」

「それよりも、さ。本当に気になってるのは、そこじゃないでしょ」

 

 向き直る。その顔は、あの時見た光のない濁りきった眼、笑みの浮かんでいない口元。

 

「聞きたいのは、あの襲撃者の女の子のこと。そしてわたしとの関係。違う?」

「……教えて、いただけるんですか」

「そういう約束だものね。ま、簡単に言えばわたしが恨まれるようなことをしたってことなんだけど、さ……」

 

 そう言って彼女は口を開く。寸前、濁りきった虹彩からですら分かるほどの、強烈な何かが見えた気がした。

 

 

 

 

 

 ……わたしが生まれたのは、ここから……神浜市からはそれなりに遠いとこでね。母親は身体が弱いだか、病気だかでそのときに死んだんだって聞いた。で、父親が一人でわたしを育てた。……一応ね。

 

 ただ、気の毒っていうかなんていうか、相当そのことがあの人にはこたえたみたい。結果として、わたしにその代わりをさせればいいってなったんだね。

 で、家事やら何やらも全部やらされて、母親のと違うってがなられて……。物心ついてからはそんな思い出ばっかだね、そういえば。

 あ、そうそう、ピアス穴も開けられたっけ。どうだったかな、泣いたんだったっけテキトーにされるがままだったっけ……。あぁ、ごめん。どうでもいいか。

 

 

 で、大体がそんな調子でね。学校にも最低限くらいしか行かせてくれなかったり、趣味も母親のしか駄目だったり。

 そんな時、あれが……インキュベーターが現れた。

 

 初めは動物も喋るんだなとか思ったなあ。実際はそんなんじゃなかったし、話す動物なんていないんだけど、アニメとか見たことないしね。みふゆちゃんのときはどうだった? 実際ああいうマスコットっているのかな。だとしたらわたし、アニメとかまともに見れないなあ……。だって怪しくって仕方が無いものね。

 ……あ、うん。続きね。正直つまんないからねこの話……。わたしは別の、もっと楽しい話がしたいんだけど……。

 

 うん。それで契約だね。願いがなんだ、とか戦うのがどうこうとか、正直よく分からなかったのだけども。なんでもしてもらえる、って分かったときに(分かりやすく言い換えるくらいはしてくれた)ひとつ、思ったことがあった。

 

 母親の趣味は写真とか地図を見て、世界旅行をすることだった。といっても気分だけってやつだけど。

 だから世界の観光名所とか、きれいな山とか海とかの写真を見ることがひとつだけ、わたしがしてもよかったことだったんだ。

 

 それを、実際に見てみたかった。家にしかほとんどいられなかったっていうのもあって、あのすっごく綺麗な景色に憧れたんだ。

 だから『自由に旅がしたい』……。そう言った。ずっとあの家にいるのが嫌だっただけかもしれないけどね。

 

 結果? 叶ったよ。だからここにいるんだしね。

 あの人はそれまで、わたしを家から出すのは本当に最低限しかさせなかった。そういうことを言うだけでもまー、大変なことになるくらいで。でもその日、ぽろっと漏らしちゃって……。

 

 でも、かえってきたのは思ってたような反応じゃなくて、むしろやりたいようにやれだかなんだか……。

 何かの気まぐれだと思ったんだけど、それでもそのまま家にいることはないと思って。そのまま逃げるように家を出た。そうして外にいれば、いつかああいう景色だって見れるってね。

 

 

 ただまあ……。外にあんまり出れなかったってのは、当然電車だとかバスだとか、そういうのの使い方も分からないってことじゃない。

 ましてやああいう写真ってのは大概海外で、そんなところに行くのには飛行機やら船やら。あとパスポートもいるね。

 

 けど、なーんにも分からなかったわたしは、歩いてればそのうち着くだろうとしか思ってなかった。笑っちゃうでしょ?

 あとお金もあの人から振り込まれてはいたんだけど、引き出すのもまた、ダメ。まあやり方が分かってからもほとんど手をつけてないけど。

 

 結果、ずっとふらふら歩いては野宿みたいなのが当たり前になった。それでもその前よりはずっと楽しかったけど。野宿っていうのも、そのうちホテルとかに忍び込んだりもするようになったっけ。……今はやってないよ? だからそんな目で見ないでってば。

 

 でも、わたしがやってたのは町から町への移動だ。のろのろとしたものでも、それは事実。

 となると……。あ、分かった? そう。他の魔法少女との衝突が起こる。

 

 魔法少女にはだいたい縄張りがあって、その中の魔女を狩る。そこに他のが入り込んできたら当然、排除する。

 今考えれば当たり前だけど、そのときのわたしはそんなこと知らなかった。そのくせ、律儀に魔女を倒すって事はきっちりやってた。

 ……まあ、つまるところ他の子の縄張りへ、手出ししまくってたことになるわけだね。

 

 で、とーぜん襲われる。魔女と戦ってる最中だったり、倒し終えたあとだったり、あとはいきなり不意打ち気味にだったり。

 それはまあ、分からないなりに仕方ないかなっては思ってたんだ。本当のことは別として、グリーフシードが大切なことは知ってたし、奪うのだってそういうのだってアリだってね。

 でも自分に非があるってことは分からなかったし、応戦はしてた。最初はやっぱりそれでも負け続けて……。

 

 ……そのうち、戦い方が分かってきた。魔女相手じゃなく、魔法少女相手の戦い方。

 魔女よりも、魔法少女の方が弱点はむしろ多い。倒すのにだって力はいらないし、あくまで人なんだからやることだって予想がつく。戦意を失いだってするし。

 そうなるとあとは簡単。負けることもめっきりなくなった。

 

 

 そういうのが長いこと続いた。歩いて、魔女を狩って、歩いて、魔法少女と戦って……。

 全然写真で見たような景色は見つからなかったし、知らないところへ行くのは楽しかったけれど、どこへ行っても襲われてばっかりで辟易してた。

 

 そんなある日だった。一人の魔法少女に、わたしは負けた。

 その人が美琴ツバキ。……わたしにとっての、そしてあの襲撃者の……スズネちゃんにとっての大切な人。

 

 

 

 そのときのわたしは……まあ相当荒れてたのかな。

 なにせ、どこに行っても敵ばかり。あの人から離れられたのはよかったけど、別にいい環境ってわけでもないよね。それがどれだけ続いたんだっけ……。一年? 三年? それともほんの数ヶ月? カレンダーも何も見ないし、クリスマスとかの行事だって当時はよく知らなかった。

 

 

 その日も魔女と戦って、終わるなり魔法少女に襲われた。確か2人組だったかな。

 でもまあ、その子達も魔法少女相手に戦い慣れてるってこともなくて、あっさり。いつもどおりの日だった。

 ……そのすぐ後だよ。ツバキが来たのは。

 

 倒れてるふたりを見て、ツバキはわたしがやったってのをすぐに察した。もともとは魔女の気配を感じて探してたみたいだったけど。

 で、いろいろ聞かれたんだけど……わたしは、そのふたりの仲間なんだと思って、ろくに話も聞かず襲いかかった。またいつものように適当に相手すればいい、どうせすぐに終わるだろうってね。

 

 でも結果は、さっき話したとおり。結構がんばったと思うんだけど、負けた。

 後から、似たような魔法を使う仲間がいたってことも聞いたけど、うん。きっとそれがなくても勝てなかっただろうね。

 

 後から話を聞けば、わたしは魔法少女を襲う危険な魔法少女っていうので噂になってたらしい。一応、こっちから襲ったことはなかったんだけど……似たようなものだったのかもね。

 なんであれ、恨まれてるだろうとは思ってた。負けたなら殺されたって仕方ないとも。……でも、ツバキはそうじゃなかった。わたしにどうしてそんなことをしたのか話して欲しいって言うんだ。

 

 わたしはヤケになって、生まれから家庭から、もうなんでも全部話した。そのうち不思議と涙が出てきて、止まらなくなって、それでもって泣きながら、鼻水だって垂らしながらさ。

 ……きっと滑稽だっただろうけれど。それでもツバキは全部ちゃんと聞いてくれた。そして最後に、わたしを抱きしめて「辛かったでしょう」って言ってくれて。

 ……あはは。それでまた泣いちゃったっけ。情けない。

 

 

 それでまあ……なんていうか。このときに縄張りのこととかなんだとか、魔法少女としての常識を教わって。そのときのわたしは、魔法少女としてだけでなく、人として生きてく常識も何もなかったから、ただただ途方に暮れちゃった。

 で、ツバキはそういうのもみんな私が教える、っていうから、わたしはありがたくお世話になることにした。ちょっと話しただけだったけど、あの人とは全然違うんだってことが分かったから。

 

 教わったのは魔法少女としてのあれこれ以外にも、普通のことも。

 ツバキはお屋敷に住み込みで働いてたんだけど、合間合間にわざわざ時間を割いてくれて……。

 ……え? ああ、そうだね。ツバキは住み込みで働けるだけの年齢ではあっ……た……。いや、やめよう。なんか寒気してきた。よく考えるとなんであんな強かったんだろうツバキ……?

 

 

 ま、まあそれはそれとして。そういう日がしばらく続いた。スズネちゃんと出会ったのはそのうち、魔女の結界の中でね。

 ……ただ、無事ってわけでもなくてさ。スズネちゃんの両親は助けられなかった。そのときスズネちゃんはまだ魔法少女じゃなくて、家族で魔女に襲われたんだ。

 それで天涯孤独になったスズネちゃんを、ツバキは引き取って育てることにした。家族を失ったっていうのはすごくショックだったみたいで、最初は全く笑いもしてくれなくて……でも、そのうちにだんだん心を開いてくれて。

 でも、そしたら顔が怖いとか言われたっけ……。全然笑わないじゃんって。それから頑張って笑うようにしたりしたなあ。懐かしいよ。

 

 ……うん。本当に楽しかった。幸せだった。

 お姉ちゃんですね、なんて言われてさ、家族って感じがしてとっても嬉しかった。スズネちゃんがツバキに憧れて魔法少女になってからは、調子に乗って魔女以外との戦い方も教えちゃってツバキに怒られたなぁ。

 

 あそこは本当に暖かい場所だったけど、わたしはツバキの家に住んでたわけじゃなくて、入り浸ってるぐらいだった。

 なんでもおんぶに抱っこっていうのは流石に申し訳なくて、ツバキには一緒に住めばいいって言われてたけど断ってたんだよね。それまでずっとどうにかなってたんだし、って思って。

 ――これが、ダメだった。取り返しのつかないことになっちゃった。

 

 

 ……結果だけ。ツバキは……魔女になった。……わたしのせいだ。わたしの、わたしの……っ!

 ……っ。あぁ、ごめん。今でも、思い出すと辛くなる。わたしの罪……。

 

 ツバキが魔女になったところは、実はわたしは見ていないんだ。スズネちゃんと一緒にいたとき、一緒に魔女と戦っていたときに……なった、らしい。

 わたしが一緒に行動していれば。わたしがツバキのソウルジェムをきちんと見ていれば。あんなことにはならなかったんだ……。

 ……魔女に堕ちたツバキを。ツバキを手にかけたのは……。スズネちゃんなんだ。わたしがそれを知ったのは、魔女の気配を感じてから……全部終わってしまってから。公園で、泣いてるスズネちゃんと、落ちてるグリーフシードと、インキュベーターを見て。

 

 魔法少女が魔女になってしまうということ。ツバキがそうなってしまったこと。スズネちゃんにそんなことをさせてしまったこと。

 それを告げられたわたしは……。何も考えられなくなってそこから逃げ出した。現実を受け入れられなくて、走るしか出来なくて。

 ……だからさ。スズネちゃんがああなっちゃったのは、きっとわたしのせいなんだ。見捨てて逃げるなんてことをしてしまったから、魔法少女を殺すなんてことをするようになったんだよ。あのとき、逃げずにそばにいられれば……。

 

 ……そうして走ってたら、気づけば夜が明けるくらいになってた。そのとき住んでたところからも遠く離れて、やっと起きてしまったことを理解した。

 魔法少女の真実もだけど、ツバキが死んでしまったことと、自分が見捨てて逃げたことでスズネちゃんも絶望するだろうってことが頭にあった。インキュベーターにもそれを改めて言われて。

 ……だけど絶望しきる寸前、思ったんだ。魔法少女が魔女になってしまうのを、ただ受け入れたくないって。なにもかもインキュベーターのいいなりに、思い通りになんてなりたくない。そのまま死ぬなんて嫌だって。

 

 また町に戻ることはできない。そうしたらきっと、魔女になってしまったスズネちゃんがいて……そんな勇気はなかった。

 それが罪のひとつ。あのとき戻れてたら、って今は思う。でも、できなかった。だけど、ただそのままダラダラ生きてたわけでも無かったんだ、一応。

 

 

 わたしの願いが『自由に旅がしたい』なのは言ったよね。それを使って、旅をして……その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうして悲劇をひとつでも減らすって誓った。

 

 でも、さ。はは、あはは! ダメだった! 全部、全部全部! わたしは、失敗し続けた!

 ははは、はははははは! そりゃあそうだよね! ずっと戦うばかりで、ふれあうなんてしたことなかったんだから! 償うって思いながら、結局はさらに増やしていくばかりだった! ははは、ははは、はぁー……。

 

 ……加澄京佳。美月美都留。入鹿歩美。それに……あぁ。うん。()()()()()()人たち……あはは。まだまだいるんだけどね。

 信じてもらえなくて何も出来なかったことがあった。魔法少女が人じゃないっていう、真実を知って耐えきれなかった子がいた。わたしがいないとき、魔女に負けてしまった子がいた。目の前で魔女になってしまったこともあった。ジェムが濁りきる前に殺してくれって言ってきた子がいた。他には……。

 ……ごめん。やめるよ。でもわたしが積み上げてきた罪を、忘れてしまうわけにはいかないから……。

 

 ……まあ、そんなわけでさ。わたしはひたすら失敗し続けて、ここへ流れ着いた。

 あとはみふゆちゃんが知ってるとおり。わたしはもう、直接会う勇気すらもてなくなってて、結局みふゆちゃんはドッペルを出すまで追い詰められてた。自分がいるから魔女になってしまうんじゃないかって考えたら、止められなくなったんだ。だから会いにも行かず、電話ばっかりしてた。

 でも、ドッペルシステムのおかげでまた知り合いが魔女になってしまうことはなくて。そして、それをもたらしたマギウスの救いにすがった。

 

 これで、話は終わり。つまらない話だったでしょ?

 

 

 

 

 

 語り終えると、こてんとまた横たわった。そしてそれきり、ただただぼおっと天井を眺めている。

 

「……それは……」

 

 みふゆは言葉を詰まらせた。何か言うべきなのだが、何を言えばいいか分からない。そんな風である。

 ちらりとそれを見て、首だけ向けて口を開く。沈黙を破ったのはまたも朝倉だった。

 

「まあ難しい話じゃないよ。わたしは混乱してスズネちゃんを見捨てて逃げた。結果、スズネちゃんに魔法少女を殺すなんてことをするようにさせてしまった。……多分、魔女を増やさないため、ツバキや自分のときのような悲劇を繰り返さないために。優しいから……」

「でも……だったら、どうするんですか?」

「……魔法少女を殺すのは、わたしがやってたことよりも確実に魔女を減らしただろうけど。……でも、そんな罪をスズネちゃんが負うことはない。やめさせて、マギウスの救済をなす。そして、それまでの、そのための罪は……」

 

 かぼそい声が静かに響く。淡々としたそれは、危うげでいながら力強い。

 

「……全部、わたしが負う。手を汚して苦しむのは、全部罪を犯してきたわたしだけでいい」

 

 立ち上がった彼女の顔は、普段どおりの笑みに戻っていた。目は、細まって見えない。

 ゆらりと立ち上がるが、血を失ったのは治っておらずにまた倒れてしまう。横になるのをソファから床へ変えただけで終わった彼女のポケットから、何かが落ちたのをみふゆは見た。

 それは一つのお守り。少し考えて、襲撃者の少女の髪留めに使われていたそれと似ていることに気がついた。朝倉のものには鈴はついていないが。

 

「……これは?」

「あぁ……真似かな。ツバキがやってたんだ。死んだ人の名前を紙に書いて、お守りに入れる。意味は……忘れちゃったんだけど」

 

 拾って握りしめた。少し膨らんでいるそれを大事そうにもって、笑う。

 

「要は、罪の証ってわけ。救えなかった子の名前が入ってる。……見る?」

「っ、いいえ……」

「これを見てるとさ。いてもたってもいられなくなる。そして、まだ死んじゃいけないって思うんだ。……みふゆちゃん」

「……なんですか」

「わたしは……まだ生きてないといけない。必ず救済を果たさないといけない……。だからさ」

 

 

 もしもわたしが、また逃げようとしたら……そのときはさ。絶対に止めてね。お願いだよ……?

 

 

 




Archive

○今回の話
 朝倉蛍 魔法少女ストーリー第一話『懐古』
 つまるところ、ガバ!

○解放条件
 『CROSS CONNECTION』クリア。
 知り合いの魔法少女が一人以上死亡している。
 天乃鈴音と戦闘し、お互いに生存する。
 信頼度が一定以上の魔法少女と会話する。

○出てきたモブの名前
 今後登場予定なし。(特に意味は)ないです。

○なんで朝倉は電話ばかりしていたの?
 救えないのが続いたので、自分が関わるから魔女になるのではと思い始めた結果。
 こんなで成功するはずもなく、じき絶望しきるところだった。
 本編には特に関係ない。

○『自由に旅がしたい』
 野宿などでの安全性の飛躍的な上昇が効果としてある。
 ゲーム的にも恩恵はあるが、いかんせん地味。

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