マギアレコードRTA ワルプルギス撃破ルート すずね☆マギカチャート(マギウスの翼チャート)   作:鰯のすり身太郎

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Part.3/x

 やることなくなっちゃったよ、なRTA、はぁじまるよー。

 

 みふゆさんとの交友も持てたし、アザレアイベントを知らせてくれる魔法少女の確保にも、前回のかこちゃんとの接触で成功しました。(うまく進みすぎて)ビビるわぁ! 

 

 …いや、本当に驚いてます。本チャートは結構運が絡むところが多く、そのせいで相当数再走するはめになっているんですが、この状態にこんなに早く持ちこめたことは今までなかったです。これは自己べあるで!

 

 これからの動きですが、アザレアイベントの発生が確認できるまでは前にお話しした通り、他魔法少女と出会わないように時間を絞って魔女退治をしていきます。朝から昼にかけてはパトロール、それ以降は町を散策しつつアザレア組がいないか確認をすることをひたすら続けます。といっても、アザレア組の確認についてはほとんど不要なのですが。数日おきに夏目書房に通ってかこちゃんと話をするだけで十分です。

 ここに関しては、ななか組にすぐ出会えた場合の動きをチャートに書いてなかったため、リカバリの動きをそのまましてしまっているためです。予想外の幸運を生かせてない感じですね。想像力が足りてないんだよね、それいちばんいわれてるから。(HGN)

 

 

 というわけで、見どころさんがあるまで倍速します。魔女とはポツポツ遭遇するものの、やはり時間もあって魔法少女とはネームドでなくとも遭遇しませんね。

 この時間帯で遭遇する可能性があるのは、本編で鶴乃ちゃんにギリギリ未成年呼ばわりされた『七海やちよ』か、みふゆさんくらいです。

 ごくまれに芸能活動中に魔女を察知したさゆさゆこと『史乃沙優希』と会うこともあるそうですが、相当確率は低いようでこれまで走ってきた中で一度も出会ったことは無いです。名前を似せるなりなんなりしないと、まずそうはならないでしょう。

 

 調整屋は、学校のある時間でもたまにやっているので、開店時期が本来より早まっている本作では、その店主である『八雲みたま』とも来店すれば出会えます。ただ、ベテラン故の高ステで調整がなくとも序盤はどうとでもなるので、グリーフシードをある程度ため込んでから来店することにしています。ベテランだとレベル上がりにくいからね、しょうがないね。アザレアイベント発生までか、発生してすぐには一度行っておくように気を付ければ大丈夫です。

 

 

 ……なんで等速に戻す必要があるんですか? 昨日かこちゃんに会っても発生確認できなかったじゃない。というかそもそも、就寝したばっかなんですけど。一日の開始時点で何があるっていうんです?

 

「あのっ、そこの方! こんなところで倒れてますけど、大丈夫ですかっ? …あぁ、やっぱり通報した方がいいんでしょうか…でも、わたしが見つけちゃったってことは、そう簡単に済む話じゃないですもんね、きっと…!」

 

 ファッ!? ウーン……(ショック氏)

 

 …失礼いたしました。そのうち会うはめになるとは思っていたのですが、目を覚ました瞬間目の前にいるとまでは予想できませんでした。

 彼女がマギウスの翼の誇るジョーカーにしてRTAの破壊者、『七瀬ゆきか』です。水名区の水名女学園の生徒で、通常だと黒羽根になるため、いちおう本チャートでも交友を持ってもメインシナリオに影響がない、貴重な魔法少女のひとりです。いちおう。

 

「あぁっ! よかった、目を覚ましたんですねっ。たまたま通りかかったらここに倒れてるのを見かけて…」

 

 このあたりのセリフから何となく察せるかもしれませんが、彼女は魔法少女の中でもかなりのお人好しの善性の人間で、困っている人は助けるのが当たり前、と思っているような、他作品で主人公をやっていそうな精神性の持ち主です。

 『死に際になると強くなる』という固有魔法を持っており、ある程度育成すると単独でやちよさんを倒すくらいのポテンシャルまで秘めています。黒羽根ってなんだよ(困惑)

 

 これだけだととても優秀な味方ユニットですが、彼女がそれに収まらないのは『願い』のためです。『願い』によって、彼女は危険なトラブルに巻き込まれる、という体質を持っており、これがRTAにおいてはどでかい変数になります。

 一緒に行動すれば魔女や使い魔と遭遇しまくるのは日常茶飯事、迷子を見つければ章ボスクラスの魔女が出る(5敗)、ゲーセンに行けば『水波レナ』と出会い、最終的にかもレトライアングルがマギウス入りする(1敗)。先述のやちよさんを倒した時も、巡り巡って再走になりました。控えめに言って劇物です。(累計74敗)

 

 本チャートでRTAを走るにあたって、最大の懸念はこの子でした。トラブル体質は実のところデメリットのみでもなく、運が良ければイベントを短縮したり、ガバをとり返したりということが狙えます。それに本人の戦闘力も高いですし、ある程度信頼度を上げておくと発生す信頼度イベントで、メインシナリオ第一章の『はじまりのいろは』発生をいち早く探知して成功率を高められる点は非常に魅力的でした。

 

 考えに考え抜いた結果、私は彼女の信頼度もある程度上げるチャートにすることにしました。

 実際のところ、ゆきかガバによる再走はメインシナリオ開始前に固まっており、開始後はむしろ、未確定要素が少なくなるのでだいぶマシになります。(当社比)であれば、まだ全体の半分程度で被害が収まるので、そうならないことに期待し、タイム短縮にかけるだけの価値はあると判断しました。

 ……うそです。(そこまでガチじゃ)ないです。試走中、顔見知り程度に信頼度をとどめていたのに、トラブル体質発動の結果なぜかみかづき荘入りをやらかしやがったため、考えるのがめんどくさくなっただけです。マギウスの翼に入った時点で交友を持つリスクは常にありますし。どうあがいても予測できないなら、もう最初から有効活用を狙ったほうがマシだってはっきりわかんだね。

 

「はあ、ここに住んでると……あの、ここ廃墟ですよ? さすがに危ないんじゃ…」

 

 流れ者だからね、しょうがないね。ホテルなどに忍び込むこともできなくはないですが、チャート上性格がお人好しなので、無理にそうするとジェムが穢れます。それにそのことがバレると、信用に値するかの隠しパラメータでもあるのか、後々マギウスを裏切った後も信用してもらえない、ということが起きることがあります。だからホタルちゃんにはホームレスみたいな暮らしをしてもらう必要があったんですね。

 

 しかし、それにしたって何故この時間帯にゆきかが出てきたんでしょうか。本来なら今頃は登校途中くらいだと思うんですが…

 

「あー、えーと、どう言えばいいんでしょうか…。使い魔…じゃなくてっ、なんていうかその、嫌な予感? みたいなものを感じ取ったというか…。」

 

 あーはいはいはいはい、使い魔を見つけて追ってきたらしいですね。それでこちらが魔法少女と気づいてないから隠そうとしているみたいです。別に隠していてもしょうがないので、とっととカミングアウトします。

 

「えぇっ! 魔法少女の方だったんですね…。わたし、今まで他の魔法少女の方とお会いしたことがなかったので、仲間を見つけられたみたいでちょっと嬉しいですっ」

 

 そう…(無関心)こっちはそれどころじゃないです。使い魔、それを追うゆきか、一般不審魔法少女。何も起きないはずがなく…。

 

「あ、そうでしたっ。使い魔を追ってきたんですが、一体どこに」

 

 はい。

 

「行っちゃったんでしょう」

 

 はい。

 

「か?………!?」

 

 魔女の結界ですね(諦め)。なんで拠点の近くまで来る必要があるんですか? なんで…。

 こうなったものはもうどうしようもないです。こいつのせいで出てきた魔女は、そのゆきかがギリギリ生き残れる程度がほとんどで、章ボスクラスはさすがにだいぶレアです。…まぁ今回がそうでないとは言い切れないんですが。祈るしかないよ…。

 

 ただ、使い魔の感じからするとたぶん平均よりもかなり上の強化魔女ですね。だいたいホタルちゃんひとりならボロカスになってギリギリいけるかレベルでしょうか。……なんで? こんな序盤で会っちゃいけない奴だと思うんですけど。

 

 まあまだマシ。まだマシ。ボスクラスよりかは危険じゃない。切り替えていきましょう。ここまで早くこいつと出会うとは思っていませんでしたが、いままで順調すぎた反動と思うことにします。強魔女退治、いざ鎌倉。

 

 

 とはいえ、さすがに使い魔程度にはやられはしないので、最深部まで、じゃ…流しますね。(倍速)ついでにこいつの解説をします。

 『七瀬ゆきか』はバニーガールのような衣装に身を包んだ近接型の魔法少女です。武器はレイピアのため遠距離攻撃は基本できないんですが、そのくせソウルジェムが首輪から鎖に繋がれているので戦闘中に揺れまくるという、特攻野郎Aチームも真っ青な命知らずでもあります。余談ですが、こいつがソウルジェムを割られて氏んだところはこれまで何度もやってて一度も見たことはありません。なんだこいつ。

 本来なら黒羽根の一人でしかなく、戦闘力もそれなりですが、彼女の強みは固有魔法の『死に際になると強くなる』という特性にあります。その上昇率は目を見張るものがあり、おかげで未育成でも強力な魔女を狩ることができますし、トラブルに巻き込まれてもしっかり生還してきます。ちなみに余談ですが、ドッペルが解禁されると前述の章ボスクラスも単独で倒すときがあります。なんだこいつ。

 

 こいつの強みを活かすのに手っ取り早いのが、有名な誤射による背水戦法です。ですがしょっちゅうやると信頼度が落ち、トラブルに巻き込まれた時に協力できずそのままガメオベラするので(2敗)、本チャートでは誤射戦法はしません。というかそもそもホタルちゃんは近接武器なので、誤射の言い訳がききません。飛び道具もそのうち使えるようにはなりますが、現状だと無理ですし。

 

 

 さて、そうこうしているうちに最深部です。しまっていこー!

 

 まずは普通に戦って削っていきます。だいたい目標は半分くらいか、ゆきかが7割くらい削られたくらい。ヘイトを稼ぎすぎるとゆきかへ攻撃が行かず、強化倍率が下がるのでやりすぎないように注意しましょう。 

 …そろそろですね。魔女もゆきかも弱ってきたので一気に仕掛けます。っておまえゆきか、攻撃来るのに殴ろうとするんじゃぬぇー! 

 あっぶえ! いくらガバの化身ゆきかといえど、ホタルちゃんの性格もあって氏なれてたらリセでした。最後にセーブしたのが結構前なので、もう少しで大ロスです。あのさぁ…ガバ行動起こすなって、イワナ、かかなかった…?

 

 ままええわ。今回は許したる。改めて、イクゾー!

 まず目の前へ跳んで、攻撃の発生を確認したら『瞬間移動』再発動。魔女の上へ移動し、落下しつつ杖を突き刺してそのまま追撃します。そして魔女が暴れだしたら退避。さっきまでの攻撃でヘイトが一気にたまってこっちに集中して攻撃しようとしてきます。

 

 何の問題ですか? 何の問題もないね(レ)。これが狙いです。いったん魔女の認識範囲のギリギリまで跳んで強攻撃を誘います。…来ました、タイミングを合わせて杖を投擲、そのまま頭部をガードします。

 オォン! アォン! …9割体力を持っていかれました。けどジェムは無傷なので実質ノーダメ。穢れもまだ大丈夫そうです。安心。

 ダメージがあまりに大きいのでここで気絶、ホタルちゃんは戦闘離脱扱いになりますが、ホタルちゃんが瀕氏になったことでゆきかが強化されます。

 …いや、「ゆきか自体が氏にかけてるわけじゃないじゃん」とは思うんですけど、適用されるんです。窮地に追い込まれるほど強くなる、というほうがこいつに関しては適切な気がします。実は固有魔法のほかになにか補正かかってたりするんですかね?(調査を怠る走者の屑)

 

 ともかく、これであとはゆきかが倒してくれますし、後の戦闘もスキップできます。経験値は減るけど、時間的にはうまあじ。

 

 

「…タルさ……で…か……して………ま…」  

 

 体力が一気に減って気絶したところで今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

  ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

 それは、わたしがいつもどおりに家を出て、水名女学園へ登校している中での出来事でした。犬も歩けば棒にあたる、なんて言いますけど、わたしがあたってしまったのは、棒なんかよりもずうっとたいへんなものでした。

 

(…っ!? これってもしかして…結界!?)

 

 わたしがぶつかってしまったもの。それは魔女の使い魔でした。…ああいや、実際にぶつかってしまったわけではなく、あくまで結界に放り込まれたってことなんですけど。とにかく、魔女に使われる下っ端の彼らであっても、放っておけば必ず人を襲います。わたしも経験は少ないですが、それでも魔法少女のはしくれ。彼らを見過ごすわけにはいきません。

 …いかない、んですが。

 

「あぁっ、ちょっと、逃げないでくださいっ」

 

 …予想外に強い使い魔で、戦っているうちにうっかり逃げられてしまいました。仕留めた、と思ったらすんでのところで避けられ、あぁっ、と声を漏らしたその時には結界は消え、使い魔もいずこかへ行ってしまいました。

 

 そんなわけで、残った魔力をたどって、その使い魔を追っていたんです。そして気付けば、水名のはずれにまで来てしまっていて。

 

(随分遠くまで来ちゃいました…それに、なんだか嫌な予感がしますっ。具体的に言うと、またなにかトラブルに巻き込まれているようなっ)

 

 トラブル。そう、トラブルです。魔法少女になるとき、キュウべえはなんでも願いを一つ叶えてくれます。私も例外でなく、魔法少女である以上、ちゃんと願いをかなえてもらえました。

 …そもそも契約のことも魔法少女のことも、ほんとのことだとはまったく思わず、リアルな夢か何かだと思っていたんですが。せっかくだし願いを口にしてみたっていいかな…なんて思ってしまったのが運の尽きでした。

 私が願ったのは、『生きている実感』…。そしてそれ以来、わたしは常にトラブルに巻き込まれるようになってしまったんです! しかもその多くは、死にそうな目に遭ってからやっとの思いで生還できるようなものばかり。魔法少女になって日が浅いですが、すでにそう願ったことを強く後悔し始めていました。

 

(まあでも…そのたびに少しスリルを感じて楽しんでいる自分もいるような…って、あれ?)

 

 そんな中、わたしは廃墟の中になにかがあるのを見つけました。人くらいの大きさのなにかに、上からかけられているぼろ布。それがあるのは、区内でもとりわけ人どおりの無いはずれの廃墟の中。それらが指し示すことは、つまり。

 

(まさかっ…死体遺棄事件……っ!?)

 

 さすがのトラブル体質の私でも、そんなものに巻き込まれた経験はありません。背骨の中の神経をピーンッと引っ張られたような緊張が襲いました。

 

(それでもさすがに…通報とか、した方いいですよね……あぁでも、こういうときは110か119、どっちなんでしょうっ)

 

 今までにない恐怖と緊張で、私の思考はすっかりパニック気味になってしまいました。そしてしばらくしてから、そもそも布の中身が死体と決まったわけじゃないことにようやく気付いたわたしは、とりあえず布の中身を見てみることにしました。

 布の前へ立って改めてそれを見てみると、やっぱり見れば見るほどに死体のように思えてきました。また混乱しそうになったわたしは、スゥハー、スゥハーと深呼吸をして今一度覚悟を決め、そして。

 

「いざ、いきます…それっ! ……って、ほんとに死体じゃないですかぁっ!…ううん、あれ?」

 

 ぶわさぁっと音がするくらいに勢いよく布をひっぺがすと、その下には女の人が倒れていました。嫌な想像が当たってしまったと、思わず腰を抜かしかけましたが、よくよく見てみると、胸のあたりが規則正しく動いていることに気付きました。

 

(生きているみたいですけど、さすがにこんなところで倒れてるなんて不自然ですっ。魔女の口づけは…無い、みたいですね。となると、誘拐とかでしょうか…? 

なんにせよ、放ってはおけません!)「あのっ、そこの方! こんなところで倒れてますけど、大丈夫ですかっ?」

 

 返事はありませんでした。仮に本当に誘拐だとしたなら、彼女は薬とかで眠らせられているのかもしれません。本当に大変なことに巻き込まれてしまった気がします…!

 

「…あぁ、やっぱり通報した方がいいんでしょうか…でも、わたしが見つけちゃったってことは、そう簡単に済む話じゃないですもんね、きっと…!」

「…えーと、ちょっと」

「ひゃあ!?」

 

 どうすべきかと悩んでいると、いきなり困ったような声が聞こえて、すっかり驚いてしまいました。そしてあわててあたりを見回して、何も変わりないことを確認してから、ようやく女の人が目を覚ましたらしいと気付きました。

 

「あぁっ! よかった、目を覚ましたんですねっ。たまたま通りかかったらここに倒れてるのを見かけて…その、大丈夫ですか? 誘拐されたとか殺されかけたとか、そういうことだったりしちゃいますか…?」

「え? え? 誘拐とか殺人とか、どゆこと?」

 

 すっかり困惑しっぱなしの彼女の様子から、どうやらそういった物騒なことではなさそうだと感じたわたしは、ほんっとうに安心して、内心胸をなでおろしました。

 ただ、それならそれで一つ疑問が残ります。すなわち、どうしてこんなところで倒れてたのか。その答えはまったくもって予想外のものでした。

 

「あぁ…そーゆーことね。だいじょーぶ、私はここで倒れてたわけじゃないよ。」

「大丈夫って、普通こんなところに倒れてるのを大丈夫なんて言わないです! だったらなんでそんなことになってるんですかっ」

「わたし、今ここに住んでるの。あと、倒れてたんじゃなくて寝てただけ。まあ、心配してくれたのは嬉しいけどね?」

「はあ、ここに住んでると……えぇ? あの、ここ廃墟ですよ? さすがに危ないんじゃ…」

 

 辺りを見ても、まさしく廃墟、と言わんばかりのありさまは変わりません。2階の床は中途半端に作られたまま放っておかれてるうえ、天井もないので空が見えてますし、もちろん家具もありません。どう見ても家には見えない…というか、そもそも人が住める環境とは思えませんでした。

 しかし、もう一度彼女を見ても、嘘をついているとは思えないまっすぐな瞳をこちらへ向けているばかりでした。これが嘘なら、彼女はきっと稀代の詐欺師でしょう。…詐欺師というと、そもそも廃墟といえど、建物を無断で占拠するのは、何か法に触れている行為なんじゃないでしょうか。

 

「ねえねえねえ、ちょっといい?」

「…! はいっ、なんでしょうっ」

「うん、自己紹介しておこうと思ったんだよね。私は朝倉ホタル。今は世界を回る旅をしてるんだ。あなたは?」

「はあ、それはなんとも…あっ、わたしは七瀬ゆきかです。……えーと、このあたりの水名女学園というところへ通っています…?」

 

 詐欺師ではなさそうですが、とびきりに変な人というのは分かりました。そうでないと、いきなり自己紹介を始めたうえに、世界を回る旅とかは言いません。やっぱり面倒ごとの予感がしてきました…!

 

「じゃ、ゆきかちゃん。ちょっと不思議に思ってるんだけどさ」

「と、いうと…?」

「いや、なんでこんなとこに学生のあなたが来たのかな―って。このあたり、全然人通りもないし、住んでる人だっていないでしょ?」 

 

 そういえば。そもそもここへ来たのは、逃げた使い魔を追ってのことでした。でも、世界に災いを振りまく魔女がいて、それをわたし達魔法少女が倒してるんです、今回はその下っ端の使い魔を追ってきました、だなんて言おうものなら、完璧に痛い子です。やばい人です。まず信じてもらえることは無いでしょう。

 

「あー、えーと、どう言えばいいんでしょうか…。使い魔…じゃなくてっ、なんていうかその、嫌な予感? みたいなものを感じ取ったというか…。」

「あ、やっぱり!」

「へ?」

「あなた、魔法少女でしょ? 指輪が見えたからそうだろうとは思ってたけど、使い魔とか言うってことはやっぱり当たってたね!」

 

 そういうとホタルさんは、ほら私も、と魔法少女特有の指輪を見せてくれました。

 これには本当にびっくりしまいました。何故かって、あのキュウべえという不思議な生き物とわたしが契約してから、今までに一度も他の魔法少女と出会ったことは無かったんですから。

 

「えぇっ! 魔法少女の方だったんですね…。わたし、今まで他の魔法少女の方とお会いしたことがなかったので、仲間を見つけられたみたいでちょっと嬉しいですっ」

「あはは、私も嬉しいよ。…ところでさ、実際のところなんでここに来たの?」

「あ、そうでしたっ。使い魔を追ってきたんですが、一体どこに行っちゃったんでしょうか…」

 

 そう言った途端、辺りが結界に取り込まれました。そこにはさっき逃がしてしまったものと同じ使い魔がたくさんいて、これは…

 

「……!? 魔女の結界っ!」

 

 わたしたちのどちらがそう叫んだのか、その言葉に合わせて羊飼いを模した使い魔が一斉に笛を鳴らし向かってきました。

 

「ゆきかちゃん、戦える!?」

「は、はいっ! いけます、ゲーム開始ですっ!」

 

 いつの間にか魔法少女姿に変身していたホタルさんが、わたしに呼びかけます。この使い魔一体一体が、普段戦っているものより強いと思うと身がすくむようでしたが、それでも鼓舞するように声を張り上げました。

 

 ホタルさんの戦い方は、わたしが一体にあっぷあっぷな中で見ていただけでも、とても熟達した動きのように感じました。敵の動きをけん制し、うまく攻撃を誘ってからぱっと消えて同志討ちさせる。杖を思い切り振りながらワープ? して死角へいきなり攻撃をたたきこむ。

 そのおかげもあって、わたし達は特に被害なく、辺りの使い魔を一掃できました。

 

「いやあ、おつかれ。そっちはどう? 怪我とかしてないかな」

「ホタルさんがほとんど倒してくれましたから…おかげさまで、私は大丈夫です」

「そっか、よかったぁ。…ずいぶん強い使い魔だったからさ。この先の魔女も相当だろうし、無理とか油断はダメだよ?」

 

 それを聞いて、わたしはすっと心が冷えるように感じました。無意識で感じていた油断とか、慢心とかに気付かれていたのかもしれません。ずっと浮かべていた笑みを消したホタルさんの顔には、なにか複雑なものが見えるようでした。

 

「……ま、ゆきかちゃんは思ってたよりずっと強いみたいだし、大丈夫だとは思うけどね! 私が魔法少女になりたてのときにあの使い魔を倒せって言われたら、もっと大変だったと思うし」

「いやいや、そんなっ! わたしなんて、そんなに大したものじゃ無いと思いますっ」

「自分を卑下することこそダメだよ~? もっと自信を持っていいと私は……っと、とうとう最深部だね」

 

 そんなうちに、気付くとわたし達は魔女の潜む最深層へたどり着いていました。

 結界の中に充満する嫌な空気はより一層重みを増したようで、嫌でも魔女の存在を意識させます。

 

「いた。…来るよ!」

 

 結界の奥、柵の中。大きな二つの角を持った魔女が身体をぶるりと震わせ、叫びました。その大気を震わすような叫びはその魔女の力を何よりも表しているようで、戦いもまた、熾烈なものになりました。

 

 

「……これはまた、ずいぶんと、強力なことだね…!」

 

 魔女の放った衝撃波がわたし達を襲います。ホタルさんはそれをどうにか見極めて、ぎりぎり避けながら攻撃をしているようでしたが、それでも使い魔のときのように余裕のあるものではありませんでした。

 わたしはというと、それらをどうにか処理するのが精いっぱいで。なんとか致命傷こそ避けていたものの、だんだん身体中に傷が増えていくのを感じていました。

 攻めあぐね、それどころか耐えているのが精いっぱい。ホタルさんは必死に食らいついていましたが余裕はなさそうでしたし、わたしの命はまさに絶体絶命、というやつでしょう。

 

「ふ…ふふふ…っ」

 

 あぁ、でも、それってとても…

 

(生きてるって感じがします!)

 

 頭の中がだんだんアドレナリンで満たされて、どんどん高揚していくのが自分でも分かりました。死を思って生を感じる。まるでほんとにやばい人ですけど、それでもっ!

 

「……! 隙、ありですっ!」

 

 魔女の攻撃の合間を縫って、その懐に飛び込みました。そのまま振るわれたレイピアは魔女にとっても予想外だったようでぐらりとよろめきました。

 

(これは、いけます! このまま押し切って…)

「ゆきかちゃん!? っ、とりあえず下がるよ!」

 

 そのまま追撃しようとした私を、驚いたような声のホタルさんが無理やり掴みました。そして彼女の魔法で跳んだ先、見えたものはさっきまでわたしがいたはずのところへ突進する魔女でした。攻撃に専念していましたから、きっとあれは避けられなかった。なら、あれをまともに食らっていたら…そう思うとぞくりとしました。

 

「…怪我は平気? ごめん、私も手いっぱいでフォローできなかった」

「いえいえっ! まだまだこれくらい、わたしは平気ですっ! むしろわたしこそ、結局おんぶにだっこで…」

 

 その言葉を聞いていたのか、いなかったのか。ぼそりと、仕方ないか、と呟くなり、彼女は私にこう言いました。

 

「…ゆきかちゃん。とどめというか、後詰め、お願いしていいかな。ちょっと、いまだと倒し切れるか怪しいからさ」

「……え? それってどういう…」

 

 思わず聞き返すと、そのときすでに彼女はそこへいませんでした。まさか、と魔女のほうを見ると、その時悲鳴のような音が聞こえてきました。ホタルさんが杖を深々と魔女の身体へ突き刺していたんです。

 そのまま魔女の前、しかし遠くへ彼女は跳び、新しく杖を作り出して構えました。魔女は怒り狂ったようにそこへ突進します。

 瞬間、投槍のように杖を投擲すると、それは突進の威力すら持って魔女を貫きました。しかし。

 

「あぁっ、ホタルさんっ!!」

 

 魔女はそれでも耐えており、攻撃をまともに受けたホタルさんは結界の隅まで吹き飛ばされました。見るからにそのダメージは深刻で、ちらりと見えただけでも腕はおかしな方向に曲がり、吐き出した血で黄緑だった外套はすっかり真っ赤になっていて。その姿は、どこか高揚していたわたしの心に冷水を浴びせました。

 

「ホタルさん、大丈夫ですかっ!? しっかりしてください、今助けますからっ…!」

 

 とどめを刺そうとする魔女との間にすべりこんだわたしは、すかさず渾身の魔力を込めてレイピアを突き出しました。

 

「ショーダウンですっ…!」

 

 その剣先からコインがあふれだすと、コインは洪水のように押し寄せて魔女を引き裂いていきました。ホタルさんの決死の攻撃で瀕死だったのでしょう、それはあっけないものでした。

 

 

 コツン、と音を立ててグリーフシードが落ちると、辺りは元の廃墟へ戻っていました。ホタルさんはその一角に横たわり、気絶しています。

 

「ホタルさんっ! しっかりしてください、ホタルさんっ!」

 

 あわてて近寄ると、小さく呼吸しているのが分かりました。どうやら死んでしまったわけではないようでしたが、だからといって一安心とはなりません。こんな重傷、放っておけばそうなるのは時間の問題なのですから。

 不慣れながらも傷を魔法で治していると、そのうちに意識を取り戻してくれました。そしてすこし辺りを見回すと、彼女は安心したように大きくため息をつき、また横になってしまいました。

 

「…よかった。どうにかふたりとも無事だったみたいだね」

「無事って、わたしはともかく、ホタルさんはひどい怪我じゃないですか! 腕だって折れてるし…」

「あはは、大丈夫だって。なんてったって私、魔法少女だからね。…そうだ、申し訳ないんだけど、隅に置いてあるちっちゃいカバン、とってきてもらえないかな」

 

 そういって彼女が目を向けた先には、大きめのリュックのほか、小ぶりなカバンがありました。言われた通りそれを持っていくと、おもむろにそれを揺すって中身を出し始めたのです。

 ぽろぽろとその中から出てきたものは、財布、お守り、そしてグリーフシード。それでどうにかソウルジェムを浄化すると、回復した魔力で右腕だけとりあえず動くようにしたようでした。

 

「はい、これ。ゆきかちゃんも戦ってだいぶ穢れたまってるでしょ? ちゃんと浄化しといたほういいよ」

「えぇっ、そんな悪いです…って、そういえばさっきの魔女が落としたグリーフシードはどうすればいいんでしょう…?」

「あぁ、さっきの奴の? まあ、とどめさしたのはゆきかちゃんだし、ゆきかちゃんが貰えばいいよ」

「いやいやいや、そうはいっても、あれはほとんどホタルさんが倒したようなものじゃないですか。だからわたしだけが貰うって言うのは何か違うような…って、うわわ!?」

「はい、隙ありってね」

 

 そう言って彼女は、おもむろに自分の持っていたグリーフシードでわたしのソウルジェムも浄化しました。そしてそのまま、こうつづけたんです。

 

「貰うのを悪いって思っちゃうなら、魔法少女の先輩からのプレゼントだとでも思ってよ。私も今回は助けられたし、そのお礼も兼ねて。ダメかな?」

「はあ…そこまで言うなら、かえって受取らない方が失礼な感じがするというか…では、うけとらせていただきますっ」

 

 わたしのそんな姿を見て、笑いながらホタルさんは変身を解きました。…変身? 

 

「あ、すっかり忘れてました…」

 

 自分が変身しっぱなしだったことに気付いて、あわててわたしも変身を解きました。この姿、わたしが密かな嗜みとしているメダルゲームのことを大声で言ってまわっているようで、少し恥ずかしいんですよね…万が一通りすがりの誰かに見られていたなら、もう生きていけないかもしれません…。

 

 そんなことを考えていると、突然携帯電話が鳴り始めました。受信先をみると、そこにあったのは水名女学園の文字。…ひょっとして。

 

「あの…今、何時かわかりますか…?」

「今―? えーと、11時27――」

「ごめんなさい、もう大丈夫です…」

 

 わたしが家を出たのが大体7時から8時ごろ。そして今は11時。つまり、わたしはその間、学校へ行かずに授業をすっぽかして、電話にも出ずにずっとどこかへ行っていたということに…!

 

「もう、どうしてこうなっちゃうんですかーー!!」

 

 水名のはずれにある廃墟。そこにわたしの叫びと、「うわわっ!?」というホタルさんの驚きの声が響きました。




Archive
○寝起きドッキリ
  昔懐かしいドッキリのひとつ。最近テレビで見ることは減ったが、そのインパクトは絶大。

○七瀬ゆきか
  後の一般黒羽根(大嘘)。今話では魔法少女になって日が浅いのでだいぶ初々しい感じになった。歩くガバ生産機の異名を持つ。

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