マギアレコードRTA ワルプルギス撃破ルート すずね☆マギカチャート(マギウスの翼チャート)   作:鰯のすり身太郎

9 / 25
Part.9/x

 

 

 ちょ、ちょっと待ってください! 待って! 助けて! 待ってくださいお願いします! なRTA、はぁじまぁるよー。

 前回はゆきかのトラブルで月咲の父親が魔女の口づけを受けてしまったところからですね。

 

 

 ゆきか怖いでしょう……(レ)

 畜生、今回の真のトラブルはこれかぁ! これは一本取られたぜ!

 

 これですよ、これ。この理不尽なトラブル、急に来るシナリオブレイクの危機、これこそがゆきか、これこそがRTAです。

 ……こんなもんでRTA走ってる実感を感じとうなかった……。ちくせう。

 

 

 

 えー、そういうわけで、皆さんお待ちかね、リカバリーのお時間です。

 今回のイベントは、魔女に魔法少女の家族が襲われるイベントですね。放っておくと対象の魔法少女が戦闘不能になったり、最悪魔女化したりして超特大級のガバを引き起こすイベントです。

 ちなみにですが、まだ魔法少女になっていないキャラがこれの対象になることもあって、そうなるとたまにこの時契約することがあります。その場合、通常とは異なる固有魔法を持っていたり、キャラの動きが変化したりするので当然ながら再走の対象になります。

 

 今回はすでに月咲が契約済みのようで良かったですね、ほんと。

 月咲単独での契約とかどうなるのか全く想像できません。マギウス関連も間違いなく無茶苦茶になるでしょうし考えたくもありませんが。

 

 それでですが、こういう場合魔女を見つけるまでに時間制限があるときがあります。

 時間制限はこちらからは確認できませんが、超過すると魔女のせいで自殺やら何やらさせられて前述のようになって詰みます。通常プレイでも念のため捜索前にセーブしておくのがいいでしょう。

 

 今回の場合、父親は事前に取り押さえられましたが弟子たちがすでに連れ去られてしまっているようです。……最悪すれすれのパターンだな!

 急がないと月咲関連のイベントや動きが大幅に変化してシナリオもRTAもお亡くなりになります。急いで追跡するのじゃー!

 

 

 というわけで見つけたのがこちらの建物になります。(QP)

 魔女の口づけも残ってたし時間経過もさほどしてなかったので今回の追跡はだいぶ楽な部類でしたね。というか追うのすら難しいレベルだったら一日分リセですよリセ! 大ロスもいいところです。

 

 お邪魔するわよ~。……おや、犠牲者が結界に入ってないうえに生きてますね、珍しい。最悪全員自殺済みも想定してたんですが。

 といっても、ゆきかの特性なのか知りませんが、こういうイベントで引き寄せられる魔女は普通よりも特殊な行動をとる魔女が割合多い気がします。試走ではカレー屋のトラックばかり取り込むやつを引いたこともありました。

 本当にRTA抜きならいろいろな意味で有用なんですよね、こいつ。戦力的にもイベント目的にも。でもRTAにランダム要素は必要ねぇんだよ!

 

 ……それで今回の魔女ですが、強さ的にはたぶん最初にゆきかと戦った奴よりかはまだマシかなってレベルですね。つまり普通に強い部類です。二人そろってならともかく、片っぽだけのピーヒョロ姉妹じゃ何の役にも立ちません。最悪カバーしきれず乙ります。ふざけんな!

 これなら一緒に結界には入れない方がよさげですね。ダメージ管理するのが面倒くさいゆきか共々置いていきましょう。一応一人でも勝てる算段は十分あります。

 

 というわけでじゃあな! 代わりのグリーフシードはやるから入ってくるなよ!

 

 

 そういうわけで結界です。本RTA初戦もそういえば今回と同じ立ち耳くんでしたね。問題はそのときよりやたら強くなってるってことですが。

 使い魔の強さは大したことないですが、こいつは数がやたら多いタイプみたいですね。事故要素が多くなるので一体一体が強いタイプより個人的には嫌いです。つくづく嫌な乱数引きやがって……。

 

 ちなみにゆきかが引っ張ってくるイベントは厳密にはイベント判定されてません。当然クリアボーナスも入らないので、レベリングに使えるようでむしろ真逆なんですね。そんなんだから誤射背水戦法が人気になるんだと思うんですけど(名推理)。

 マギウスチャートで誤射背水戦法はゆきかの信頼度的にきつい、と以前お話ししましたが、戦闘で下がった分他の時にひたすら信頼度を上げるという方法でカバーすることも一応できます。ただそれをするとRTA中ずっとゆきかを見続けるという、大変心臓に悪いことになるので個人的にはしたくありません。

 一応うまくいけばだいぶ短縮にはなるんですけどね……こいつに限ってそんなうまくいくことはないでしょう。安定は大事です。

 

「きゃっ……!」

 

 この声が絶えずついて回るわけですからね。もう十分堪能したよ……(74敗)。

 ……ん? は? なんで? なんで結界に入ってんの? なんで? 来るなって言ったやんけ。やめてくれよ……。信頼度上げたいわけないじゃん……。

 

 まあ来ちゃったもんはもうどうしようもないです。月咲がこなかっただけマシですし、ゆきかならむしろ早期決着も狙えるかもなので前向きにいきましょう。

 全てはチャンス(レ)、最深部へ向けて、イクゾー!

 

 

 立ち耳の魔女くんオッスオッス! じゃあ……氏のうか。

 オラッ! 『瞬間移動』! もう終わりだぁ!

 

「◇▽〇□◆!!」

 

 あるぇー? 全然効いてないんですけど。うせやろ? 

 あ、そうだ(痴呆)。そういえば今回、特殊な動きをしてる魔女でしたね。行動がおかしな魔女はたまにステが変に振られてるときがあるんですよね、稀にですけど。

 

 ……ライダー助けて! 火力低いんですよホタルちゃん! 武器は杖だし、魔法で増やした手数で攻めるタイプだから!

 くそう、立ち耳は防御低い方なのに抜けないなんて……火力偏重ならむしろカモれたのに……。この時ばかりは『装甲無視』とかが欲しいですね……持ち主もう氏んでるでしょうけど。

 

 というか逃げるな! 動くと当たらないだろ! 動くと当たらないだろ!? オォン!(被弾)

 

 いやーきついっす。一応火力は無理やり出せなくもないんですが、この野郎やたらめったら逃げるのでスカされかねません。

 ……あっ、ゆきか吹っ飛ばされた。せっかく削れても壁に当たってスタンしたらそのまま体力持ってかれかねないので回収します。

 

 さて、ゆきかの削られ具合は……わりと良さげですかね? まだレベルが低いので削り切れはしないでしょうが、足止めなら十分できるかな。

 

 

 そうと決まれば後はよし! あとはゆきかをけしかけて……どこいくねーん!

 ……あの野郎勝手に魔女に突っ込んでいきやがりました。何考えてんだほんと。ギャンブラー怖いな、とづまりしとこ……。

 

 まあええわ。こっちはこっちで準備しましょう。

 杖を地面へ投げて、手放すギリギリで空中にワープ。再度魔法で移動して杖をつかみ、また上空へ瞬間移動。これを今回は5回繰り返します。

 

 ラスト、魔女の頭上へ瞬間移動。位置エネルギーアタックを食らえ!

 ……まだ生きとるやん(ガバ)。仕方ないのでこのまま傷をほじほじしてあげましょう。くぱあ。なんだよおまえの傷穴ガバガバじゃねえか。

 

 

 やっとこさ結界が消えましたね。ぬわあああん疲れたもおおおん!

 見ろよこの無残なソウルジェムをよぉなぁ! 今日だけで二つ手持ちのグリーフシードが消えました。おのれゆきか。

 

 じゃああとは月咲の信頼度ケアして帰ります。結界締め出しは当然ながら信頼度が低下するので。後々の同僚ですからね。それなりに大事にしておきましょう。

 

 

 

 

 オッハー! 昨日は本当にひどい目に遭いました。

 なんだってグリーフシード集め中に変にイベントに参加せにゃいかんのか。もう許せるぞオイ!

 

 おかげさまで無駄に消耗してしまいました。ある程度貯蓄できたらあとはマギウスが結成されるまでニート生活を送るつもりだったんですが、こんなんじゃ隠居できないよ~。

 

 他魔法少女と会わないためにバイトもできない、だから金がなくてジェムの濁りを抑えるアイテムや施設も利用できない、そういうわけでジェムの濁りがマッハなのでグリーフシードの余裕がなく貯蓄できない、という負のスパイラル状態なので少しの消耗が本当につらいです。

 正直に言えば、これまで他の魔法少女に提供してきたグリーフシードは全部自分で持っておきたかったんですよね。ただそれで信頼度ガタ落ちになってもそれはそれで困るんだよなぁ……(2敗)。

 

 現在の神浜で一番魔女化に近いのはたぶんみふゆさんですが、2位はホタルちゃんかもしれないですね、この感じだと。

 

 完全に余談ですが、みふゆさんはマギウス結成後にドッペル発動、『里見灯花』に勧誘されるという流れを引き起こしますが、これはそれまでにジェムを定期的に浄化させていても確実に発生します。

 なので、時間的にギリギリの時は信頼度上げのためにグリーフシードを毎日貢ぐという手もあったり。今回は時間的余裕があってグリーフシードの余裕がないという、この手法が使えるときの真逆の状態なので、全く関係ないんですけどね。

 

 

 ……あ、やっべ昨日電話してなかった(ガバ)。仕方ないので今電話します。

 

 ……出ねえ! まだ寝てんじゃないかこれ!

 仕方ないので2度寝しつつ今回はここまでです。御視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 〇 〇 〇 〇 〇

 

 

 

 

 

 

 魔女の口づけ。魔女のターゲットにされた人に現れる印。

 わたしがそれを見たのは初めてのことではありませんでしたが、今回はそれが現れた人が人でした。

 

「……まさか、お父ちゃんが魔女に狙われるなんて」

 

 そう。今回襲われたのは月咲さんのお父様。

 もしもわたしが同じように、お父様やお母さまを魔女に狙われたとき、果たして冷静でいられるでしょうか?

 ……きっとできないでしょう。身近な大切な人がいなくなるかもという恐怖なんて想像もしたくないですから。

 

「月咲、どけ。俺は、もう……」

 

 月咲さんのお父様が彼女を押しのけようとしたとき、そのままふらりと倒れました。ホタルさんが気を失わせたようです。

 

「……ほんとはこういうこと、したくないんだけどね」

「ホタルさん……」

「それよりも月咲ちゃん、お弟子さんたちは? もしかすると同じように襲われてるかも」

「……! ウチ、工房の方を見てきます! 二人は家の中をお願いします!」

 

 慌てて鍵のかかってない家の中を見てみても、そこには誰もいませんでした。

 戻ってきた月咲さんも、工房には誰もいなかったとのこと。つまりは。

 

「連れてかれちゃったってこと……!?」

「幸い、ではないけど。まだ魔女の気配が濃く残ってる。すぐに追えばまだ大丈夫なはず……」

「急ぎましょう! 魔女からお弟子さんたちを助けないとっ!」

「そうだね。急ごう」

 

 そういったホタルさんの声は、少しこわばっているようで。

 夕日に照らされた顔は、日の光とは対照的に青白くなっていました。

 

「ホタルさん、その……大丈夫ですか? 随分顔色が悪いですけど……」

「えっ!? ……あぁ、大丈夫大丈夫! そんなことよりも、一刻も早く魔女を追わないとね」

「でも……」

「寝不足とかだって。気にしないでよ」

 

 急ごう月咲ちゃん、と走り出した二人へ、わたしはそれ以上何も言いだせませんでした。

 

 

 

「……ここだね」

 

 残された魔力を頼りに追跡した先、そこは工房からそう遠くない場所にある公民館でした。

 

「そういえば今度、お父ちゃんがここで竹細工の体験をやるって……」

「だから魔女に目をつけられてしまったんでしょうか? とにかく入ってみましょう」

 

 日を遮る戸、うなるような呟き。その元には絶えず手を動かし続ける何人もの人たち。

 

「みんな! それに、むかいのおばさんも……!」

「よかった、結界には取り込まれてなかったか。そして……なんだろこれ?」

 

 ひょい、とホタルさんが床一面に散乱している何かのうちの一つを拾い上げました。

 きれいに編み上げられたそれは、丸く縁どられた小さな可愛い工芸品。

 

「あ、それウチの工房で最近試作してたコースターです!」

「コースター? あ、それにこれは……折り紙ですね」

 

 口づけを受けたらしい人たちを見ると、それぞれみなさん、なにかを作っているようでした。

 ある人は折り紙、ある人は竹細工。また別の人は編み物。

 よく見れば散らばっている中には、作ってからだいぶ経ったようなものも混じっています。

 

「……何かしら持ってこさせられたり、作らされたりしてるってことかな? ともかく、魔女はここで!」

 

 杖が壁へ振るわれると、青緑色のドアのような、魔女の結界への入り口が明確に姿を現しました。

 

「あってたね。すぐに殺してしまうような魔女じゃなかったのはまだラッキー……って言っていいのかな」

 

 するとホタルさんは、くるりと振り返るなり予想してなかった言葉を放りました。

 

「……で、悪いんだけど二人は先にここの人たちを連れて行ってもらってもいいかな?」

「! ……それってどういうことですか?」

「あー、別にグリーフシードを独り占めにしようってことじゃないんだ。なんなら今、代わりのグリーフシードを渡してもいいし……」

「だったらなおさら理由を教えてください! なにか理由があるんですよね!」

 

 それを聞くと、目を伏せて、迷うように口を開き、一言。

 

「……じゃあ、ここの魔女は強いから、かえって足手まといになる、とか」

「なっ!?」

「ともかく、任せたよ! グリーフシードは、あげる!」

 

 そう言ってグリーフシードをわたしたちのほうに投げると、逃げるように結界へ入って消えてしまいました。

 

 

「ホタルさん、どういうことなんだろう……そりゃ、ウチは契約してからそう長いわけじゃないけど、だからってあんな言い方……!」

「つ、月咲さん……」

 

 確かにホタルさんが言い残した言葉はずいぶんひどい言い方というか、トゲのある言葉でした。投げ渡されたグリーフシードもその言葉の傲慢さのようなものを強調しているようです。

 

 ……でも、何かおかしくないでしょうか。

 今回の魔女だって、わたしとホタルさんが初めて会った時の魔女に比べたら感じる魔力の量は多くありません。それにその時だって一緒に戦っていたわけで……。

 

「月咲さんっ!」

「わっ!? ど、どしたの? ひょっとして……怒った?」

「いえ! でも気になるので聞いてきますっ! 申し訳ありませんが、あとはお願いしますね」

「えっ、ちょ、ちょっとー!」

 

 そうです。そう仲良くなるほどの付き合いだとは思っていませんが、それにしたって何かおかしい気がします。

 もしかすると何か悩み事とか、そういうのがあるのかもしれないですし……これまで何度かお世話になった分、助けになれるならなりたいですから。

 

 

 

 ドアの先、結界の中は、一面包装紙やチラシ紙などで満たされた空間でした。

 しかし、中の光景は重要なものではありません。そのまま結界の奥へ奥へと進んでいけば、そのうちに紙のこすれる音がとりわけ激しく響いてきます。

 

「きゃっ……!」

 

 レイピアを構え進んだ矢先、いきなり足元へと何かが勢いよく飛んできました。

 足元で爆ぜたそれは、使い魔。飛んできたその先、探していた姿は杖を一振りして辺りの使い魔を一掃するとぎろりとこちらをにらみつけました。

 

「……ゆきかちゃん。言わなかったっけ、入ってくるなって」

「いいえ! お弟子さんたちを連れてけ、とは言ってましたけど入ってくるなっては言ってませんでしたっ!」

「……あれ、そうだっけ?」

「そうですっ! それになにか、おかしな感じでしたから。わたし程度じゃ何にもできなくて、もしかしたらもっと拗らせちゃうかもですけど……それでもっ!」

 

 そのまま奥へ奥へと進んでいこうとする彼女は、どこか普段とは違った様子です。

 一目散に歩いていく彼女にどうにかついていくと、そのうちにもれたため息を感じました。

 

「どうも、だめだね。神浜に来て、久々に気が抜けちゃってるな、わたし」

「えーと……ホタルさんは、前にも神浜へ来たことがあるんですか?」

「いや。来たのは最近、初めてだよ。ただみんないい人ばっかりで、居心地もいいしすっかり気に入っちゃった。でも……」

「でも?」

「ううん、何でもない。それよりも……あぁ、一人で結界に入った理由だよね」

 

 ふいにホタルさんは口を開きはじめました。珍しく笑わず、右手で杖を担ぎ、左手はぐっと握りしめて、目を細め、ぽつぽつと。

 

「……まあ、一言でいえばね。腹が立ったっていうのかな」

「腹が立った……って、私たちに、ですか?」

「いや。魔女と……それと、自分にだね。いつまで子供なんだ、って」

「それはどういう……」

「きっとくだらないことだよ。まあ、だからこその苛立ちでもあるんだけど」

 

 そうつぶやいて手をより固く握った姿は、これまで見た姿とは似ても似つきません。

 

「……そうだ。わたしは、私はこんなことじゃダメなんだ。だって……」

 

 どんどんと小さくなる声は、それ以上聞き取れませんでしたが、指の隙間、ちらりとお守りのようなものが見えて。それはなにか、見てはいけないもののような……。

 

 

「よし、ちゃんと切り替えないと。まずは……ゆきかちゃん!」

「はいっ!?」

「ごめん! 私のせいで随分迷惑かけたり心配かけたりしちゃった。それにひどいことも言っちゃったし……本当にごめん!」

 

 けれど、そんな姿はいつの間にか消えていました。声で我に帰ると、ホタルさんが勢いよく頭を下げています。

 

「いえいえっ! そんな、謝られるようなことじゃないですから! そんなに気にしないでくださいっ」

「……ありがとう。それじゃあ、急いで魔女を倒しちゃおうか!」

 

 顔をあげ、笑みを浮かべた彼女は、普段通りのホタルさんです。

 くるくると杖を振り回しながら進んでいく彼女に、わたしはそれ以上何も聞けずについていくばかりでした。

 

 

 

 最深部、ドーム状にひらけた、結界の終わり。劇場やドールハウスを思わせる装飾の数々。

 私たちがそこへ降り立つと、色とりどりの紙くずやそれに混じったアクセサリーの地面から、巨大なウサギのぬいぐるみの怪物が姿を見せました。

 

「この子がここの魔女か……。ずいぶんとまあ、手広く集めたんだね」

 

 わたしたちを見るなり、魔女はその姿をおぞましいカタチへと変え襲い掛かります。ホタルさんは押しつぶさんとする耳を杖で受け流すと、そのままかき消えるように姿を消しました。

 

「◇▽〇□◆!!」

「やぁッ! ……効いてないか」

「今のうちに……はぁっ! ……嘘っ!?」

 

 その姿は魔女の背後へと移っていましたが、振るわれた一振りは魔女にさしたるダメージを与えられてはいません。

 その隙にとわたしもレイピアをふるいましたが、軽くさけられてしまいました。

 魔女は私たちを振り払い、地面の中へ潜っていきます。そしてじわじわと追いつめるように現れては潜り、現れては潜りを繰り返し消耗を強いてきます。

 

「ど、どうしましょうっ! このままじゃジリ貧っ……きゃあ!」

「ゆきかちゃん!」

 

 長期戦になればなるほど、魔力は減り動きも鈍っていきます。そのうち攻撃を避けきれず吹き飛ばされてしまいました。

 ホタルさんが魔法を使って受け止めてくれたのでどうにか壁へと打ち付けられることは避けられましたが、依然ピンチなことには変わりありません。

 

「すみません……。これじゃほんとに足手まといですね。前戦った魔女よりも弱いなんて思いあがって、ホタルさんの言うことを無視して、わたし……」

「謝らないで。私にもたくさん反省することは……っ! あるからね」

 

 『瞬間移動』の魔法を使ってどうにか避けてこそいるものの、次第に息も上がっていっているのが分かりました。一人ならともかく、わたしも連れてだと魔法を使わざるを得ないというのが負担になってしまっています。

 

「いったん引きましょうっ! このままじゃホタルさんの魔力が切れちゃいます!」

「……っ! これ以上人に手をかける前にここで仕留めたいんだけど……くっ!」

 

 地面からアリジゴクのように飛び出る怪物の耳。

 どこまでも元気に動くそれとは対照的に、ホタルさんの右耳のソウルジェムは穢れが蓄積して黒く濁りつつあります。魔法が使えなくなるのも時間の問題でしょう。

 

 しかも敵は魔女だけではありません。紙で形作られたような使い魔たちもわらわらとわいてきます。

 一体一体は強くなくとも、魔女と一緒に現れられてはそうもいっていられなくなってきました。

 

「使い魔はわたしが引き受けますっ! だからその間にホタルさんは脱出して下さいっ!」

「何言ってるの! それぐらいなら私が時間を稼ぐからゆきかちゃんが逃げて!」

「でも、こうなったのは私の責任ですからっ! だから早く!」

 

 実際、そうするほかに手はありません。神出鬼没に暴れまわる魔女、行く手を阻む使い魔たち。二人そろって無事帰還と行くのは難しいでしょう。

 だったらせめて、忠告を聞かなかった報いとしてわたしが残るべきです。ひょっとするとこの魔女もわたしの体質につられたりしたのかもしれないですし。

 そう決意してからはすぐです。えいと飛び出すなり、コインを辺りへと飛ばしまくって使い魔と魔女の注意をわたしへ集めます。

 

 勢いよく射出されたコインに触れた使い魔が次々に爆ぜていくのが分かりました。それでも油断せず、魔女の攻撃へ備えレイピアを固く握ります。

 ……少し間違えば、わたしは終わり。使い魔に気を取られて魔女の攻撃を受けても、魔女を警戒しすぎて使い魔への攻撃をおろそかにしても。

 それはなんて恐ろしくて、冷酷なことで、そして……。

 

「だったら! 魔女の動きをほんの少しだけ止めて! 地中に逃げるのを妨害して! それさえできればあとは何とかするから!」

 

 ホタルさんの叫ぶ声が聞こえました。

 動きを止める? 逃がさない? これまであんなに翻弄されてきたのに? わたしが? そんなこと。

 

「わかりましたっ! やってみます!」

 

 そんなアタマよりも先に、口が自然と動きました。

 あぁ、なんて。なんて。こんな。こんな!

 

 気づけば体の周りにカジノコインが浮かんでいました。

 両手に収まりきらない量のそれらはたちまちに消え、気づけば残りはもう少し。

 体を熱が包んでいきます。焼けきるような高揚が!

 

 足元に確かに気配を感じ、すぐさまに飛びのきました。

 突き出される魔女の耳、紙一重で避けたそれへ握ったレイピアを突き刺し、そして引きずり出す!

 

「□◎×△●▽!?」

 

 暴れる魔女へコインを幾度も投げつけ、動きを封じる。それにそう長い時間は必要ありません。

 

「――ハァァーッ!!」

 

 暴れる魔女の頭を、空から何かが射抜きました。

 

「これで、終わり!」

 

 それはその頭へと深々と刺さった杖。そしてそれを握る外套の魔法少女。

 彼女はもう一本、その手に杖を作り出すなり突き刺し、その傷穴をこじ開けます。

 

 バラバラと色とりどりの紙が吹き出していって、視界いっぱいに満ちた時。気づけば結界は消え、わたしたちは元の建物の中へ戻っていました。

 

 

 

「あー……疲れた。ほんと、こんなに苦戦するなんてなぁ……」

 

 折り紙や細工品の散らばった床、日も暮れてすっかり暗くなった部屋にポツンと存在感を放つグリーフシード。

 わたしたちが結界の中へいたのはそう長い時間ではなかったはずですが、口づけを受けた人たちもいなくなってなんだか違うところに出てきてしまったような感じです。

 

「それじゃあね、ゆきかちゃん。もう遅いし、急いで帰らないとまずいんじゃない?」

 

 そういってホタルさんは出ていこうとします。その姿を急いで引き止めました。

 

「待ってくださいっ!」

「ど、どしたの? そんな大声で……」

「あっ、いやそれはつい……じゃなくて、ですね。ホタルさん、今から月咲さんのところへ行こうとしてます?」

「まぁ……そうだね。お弟子さんたちのことも気になるし、謝りにもいかないとだから……」

「だったら、わたしもついて行っていいですか? わたしだってみなさんのことは気になりますし」

 

 それを聞くと納得したようにうなずいて、じゃあ一緒に行こうか、と彼女は言いました。

 実際のところ、もし二人がちゃんと仲直りというか、うまく話がつけられなかったらと心配だったのもあったんですが……結果的にはそれは杞憂で済み、ちゃんとホタルさんの謝罪を月咲さんは受け入れ、無事解決となりました。

 

 

 

 ……問題はその後。帰りが遅くなったことを両親にひどく心配されたわたしは、どうにか二人をなだめないといけなくなり……。

 学校でいじめか何かがあるのか、とか悪い友達を作ったんじゃないか、とかと矢継ぎ早に飛んでくる質問へ答えるうち、わたしは一睡もせず学校へ行く羽目になりました。

 

「あのー……七瀬さん? 随分お疲れのようですけど、大丈夫かしら?」

「え? あぁ、大丈夫です……ちょっと夜更かししてしまっただけですので……」

「ならいいんですが……無理はなさらないようにね?」

 

 生徒会長はこうおっしゃってくれましたが、だからといって保健室へ行くのもなぁ……と我慢して授業を受けて……これが間違いでした。

 

 その後奮闘むなしくぐっすり眠ってしまったわたしは、それを見つけた先生にきっちり絞られながら無理しない大切さを痛感する羽目になりました……うぅ……。

 

 

 




Archive
〇魔女の強さ
  ピンキリ。ガワが同じでも瞬殺されるヤツも苦戦させて来るヤツもいるからこれもう分かんねえな。
  本小説内では何かしらゲーム的要因が絡むと強化されて出てくるイメージ。

〇火力の賄い方
  地味。ホタルちゃんも気にしていた過去があったりなかったりするかもしれない。

〇寝落ち
  抗えば抗うほど眠くなっていく危険な現象。
  日頃の睡眠が予防の秘訣。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。