面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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シリアス書けないと地底が甘くなってしまうのですがどうしても書けない。読むのは嫌いではないのですが


面倒ごとはいつの間にかそこにある

私は古明地さとり。ただの覚妖怪である。とはいってもこの種族、数が少ないのか私の運が悪いのかは知らないが未だに妹以外には会ったことがない。親などいた記憶は無いが、いつの間にか妹…こいしと一緒に生活するようになっている。実の妹なのかどうかはわからないけれどそんなことは取るに足らない事でしょう。

 

私たち以外に覚妖怪がいないわけではないと思う。様々な所で悪評を聞くほど覚妖怪は有名だからだ。好評が広がりにくく悪評が広がりやすいのは妖怪も人間も同じ。もしかすれば私たち二人の噂に尾ひれが付いて広がっているのかもしれない。特に人間たちが想像している覚妖怪の姿はひどすぎると思う。断じて全身に毛が生えているような怪物ではない。

 

でも妖怪や人間たちが私たちを避けてくれるのはありがたいことだと勝手に思っている。私は面倒ごとが嫌いだから変に絡まれる方が嫌なのだ。こいしはもう少し他の妖怪たちとも交流してみたいと思っているようだが、覚妖怪として生まれてしまった以上こうなることは必然なのだから我慢してもらいたい。

 

だが避けられるばかりでもない。時々覚妖怪を根絶やしにしようと目論む妖怪から狙われることもある。しかし覚妖怪と言うのは精神攻撃を得意とする妖怪だ。そして相手にとっては残念なことに妖怪の精神はひどく脆い。妖怪も長い時間をかけて成長すれば精神は強くなって行くが、私たちを殺してしまおうと考えるような者は非常に若い妖怪ばかりだ。私たちにとって丸裸の心を壊すのは豆腐を斬るより容易い事だ。

 

面倒なので私はいつも精神を壊して立ち去っているが、こいしは精神をすり減らすだけに止めているらしい。そんなことをしても相手からは感謝されない。それどころか屈辱を与えられたと考えて再び来ることもある。こいしは優しいが私たちには不要な優しさまで持っている。私があの子の心もわかれば何か対処はできるかもしれないが、覚妖怪同士は能力が干渉しあって正常に働かないらしい。

 

私はあの子の精神が逆に参ってしまうのではないかと思うと気が気でない。覚妖怪の精神が参るなど笑えない冗談として済めばいいのだがそう楽観もしていられない。今まで幾多の妖怪の心を見てきた私なら心を読めなくても考えていることがわかるかもしれない。物は試し。いくら面倒ごとが嫌いだと言っても妹のためなら一肌脱ぐくらい問題ない。

 

まずはあの子の普段の生活の違和感から。彼女は動物たちと遊んでいることが多い。だがよく見てみると近頃笑顔が減っているように思える。普段からあまり笑わない私と違い彼女はよく笑っていた…と思う。これは確実に何か思うところがあるのだろう。直接話をして聞いてみた方がよさそうだ。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「どうしたの?お姉ちゃん。急に呼んだりして」

「こいし、貴方最近何かずっと思案しているでしょう?私で良ければ相談に乗るわよ」

「別に……ただ少し難しいことを考えていただけよ。お姉ちゃんは気にしなくてもいいから……」

 

こいし自身は気づいていないかもしれないがこの表情と話し方は何か他人に秘密がある時特有のものだ。この表情をする者は特に人間に多い。妖怪は考え無しの愚か者が多いから。

 

「私はね、こいし。貴方が幸せならばそれで良いと思っているの。他の妖怪なんて気にする必要はないのよ」

「それよ、お姉ちゃん!お姉ちゃんはそれで良いの?!会ったことも無い他の妖怪から嫌われていてお姉ちゃんは平気なの?私は……私はそんなこと嫌よ。もっといろんな妖怪とも話してみたい」

 

これが覚の宿命とはいえそれで終わらせればこの子が可哀そうだ。ここは私が決断しなければならない。今よりも面倒ごとは増えるかもしれない。それでもこいしが良いのなら

 

「引っ越しましょうか、こいし」

「え?急に何を言っているの?話がよくわからないんだけど……まあいいわ。真の賢者は他人には愚者に見えるらしいしお姉ちゃんも何か考えがあっての事なんでしょう?それで、どこに行くかは決まっているの?」

 

考えがあるのは確かだが私が賢者など面倒ごとが好きになるくらいあり得ない話である。

 

「人間からも妖怪からも嫌われ者たちが堕とされる場所、地獄よ」

 

誰からも嫌われる私たちには地獄こそがお似合いだ。それに相手も嫌われ者ならば今より酷くなることはあるまい。確か八ヶ岳という山の辺りに入り口があったはずだ。人間から嫌われている私たちなら入り口がわかるだろう。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

やはり地獄というだけあって鬼は多い。繁華街まであるのはかなり意外だったけど。とりあえず住む場所から探す必要がありそうだ。繁華街から少し外れた場所にはまだ空いている部屋がありそうだが勝手に住むのはいけないだろう。印象も変わってくるものだ。とりあえずそこらにいる鬼の一人にでも聞いてみなければ始まらない。話し易そうな女の鬼はなかなかいないものらしい。

 

「すみません、そこの鬼さん。少しお聞きしたいことがあるのですが」

「お?なんだい?というか見ない顔だね、あんたら二人は。それでどうしたんだい」

「あぁ、すみません。私は覚妖怪の古明地さとり。こちらは妹のこいしです。来たばかりなので住む場所を探しているのですが」

「…ふむ、なるほどそういうことかい。私は星熊勇儀。私たち四天王はここの鬼たちの頭領みたいなものさ。統率しているのは地獄の上の奴らだけどね。住む場所は好きにしな。空いてるところならどこでも大丈夫だろうさ」

 

話しかけたのがまさか四天王と呼ばれた鬼の一人だとは思わなかった。彼女たちの噂は私たちもよく知っている。最強とも言われている妖怪集団の頂点。道理で覚と聞いても反応が薄かったわけだ。一瞬考えたようだが気にしないことにしたらしい。

 

「ありがとうございます。それでは」

「はいよ。また何か聞きたいことがあれば聞きに来な。ここの連中はお前さんたちを受け入れないかもしれないけど私は気にしないからね」

 

住む場所は確保できた。あとはこいしがどうなるかだ。周りの鬼たちは案の定私たちと関わりたくないようだ。ここまでは想定内だがこいしは耐えられるだろうか。

 

「どう?こいし。地獄の雰囲気は」

「まだわからないわ。さっきの鬼みたいなひとたちばかりなら楽しそうだけどあそこの鬼たちみたいにあからさまに私たちを嫌っているひとたちもいるもの」

 

地上でも地獄でも嫌われ者は嫌われ者としてしか存在できない。そこを割り切ることができるようになればこいしも楽になれるというのに。この子は不器用なのだ。心が。それは私にはどうすることもできない。こいし自身が克服してくれることを願うばかりだ。

 

 

 

引っ越してきてから数百年。この間の変化はいくつかあったが、中には思い出したくない物もある。つい数十年前にこいしが眼を閉じてしまったのだ。彼女が私に宛てた最後の手紙には『この能力のせいで無条件に嫌われるのはもう嫌。だから私は心を読むのをやめて誰からも嫌われないようにするわ。勝手でごめんなさい。』と書かれていた。これはあの子の辛さを理解していなかった私の落ち度だ。

 

彼女は眼を閉じたことで確かに嫌われることが無くなった。しかし同時に誰からも好かれなくなった。仲良くしていた動物たちでさえもこいしの事を好かなくなってしまった。当たり前だ。心を読めなければ動物たちと交流することはできない。さらに無意識を操るようになったせいで誰からも認識されない存在になってしまった。

 

彼女の望んだ他者との交流を彼女自身が捨ててしまった形になる。彼女が今どこにいるのか、それは私でさえもわからない。雲のようにつかみどころのない彼女の考えなどもう誰にも理解できない。

 

次なる変化は地獄の引っ越しだ。何やら地獄を別の場所に移すことになったらしく、ここは旧地獄と呼ばれるようになった。地獄で働いていた鬼たちのほとんどは新地獄の方に行ったみたいだが、一部はここに残ったようだ。あれからも度々世話になった勇儀さんや萃香さんなど本当にごく一部だけだが。

 

旧地獄になってから地底に越してくる者たちが大幅に増えた。地上にまだ残っていた鬼や土蜘蛛など種族で大量に越してきた者の他にも、橋姫や釣瓶落としなど単体で越してきた者もいる。

 

それは別にいいのだ。繁華街に賑やかさが戻るのは悪いことではない。しかし私は何よりも今の自分の立場に不満がある。地霊殿主人。それが今の私の立場だ。どうしてこんなにも面倒な役職につかされているのだろうか。私には権力者になりたいなどという野望は一切なかった。私はただ旧都の端で静かに暮らせてさえいればそれで十分だったのに。どうしてこうなった。




こいしの口調は次出てきたら変わっています。個人的に無意識と区別しておきたかっただけです

設定を見ようと思って求聞口授を見直したらさとりの項に誤植がありました。何故初めは気付かなかったのでしょうか
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