面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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有識者会議(仮)

   ~古明地さとり~

 

 

そろそろ本当に働き過ぎで死んでしまうのではないだろうか。本来自由気ままに生活しているはずの妖怪が過労など笑い話にすらならなさそうである。当事者ならば尚更だ。

 

結界を張ることは決定事項であるし、昔の騒動を知らない地底の妖怪たちがいくら束になろうが紫さんには一撃も入れられまい。私が危惧しているのは地底の妖怪が地上に出ることである。私の負担を余計に増やさないようにするには力で抑制するだけでは駄目なのだ。

 

今思い返してみると私は統治しているというより、面倒ごとが起こった時に対処するだけになっていた。それでは妖怪たちの反乱が大きくなるのも当然である。対策を考えるために有識者会議でも開くか。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「それではこれより話し合いを始めたいと思います。先ず何か考えのある方はいませんか?」

 

「ちょっと待ってくれよ、さとり。私たちはどういう理由で呼ばれてるんだい?お空からは『話があるから来て』としか聞いていないが」

 

お空…………。どうやら私が言ったことを忘れていたようだ。丁度いたから頼んだがこういう事は素直にお燐に頼めばよかったかもしれない。お空には家事を頼んだ方が良さそうだ。

 

「すみません、さとり様。どうにも覚えていられなかったんです。さとり様が言っていたゆ、ゆ…夕食…」

 

「有識者会議よ。でも伝えに行く人たちは全員きちんと覚えていたのね。偉いわ、お空」

 

「えへへ、そうですか?ありがとうございます」

 

お空は最近ようやく人型になれた子だ。鳥頭であることを除けば灼熱地獄跡の管理者としてこれほど適任な者はそういないだろう。元々の種族が地獄鴉とあって灼熱地獄跡の温度など気にすることも無いようだ。お燐に早く追いつくために私の手伝いもよくしてくれる。この二人のおかげで今の生活は以前までと比べるとかなりましになった。睡眠時間も一刻まで増えたし。

 

「でも有識者会議、ね。貴方は一体私たちを何の専門家だと思っているのよ。勝手に他人を専門家扱いして…流石地底の主、権力があっていいわね。妬ましい」

 

口ではああ言っているが水橋さん自身も大して妬んでいないようだ。しかし彼女の不器用さはどうにかならないのだろうか。下手をすればかなり誤解されて無駄に敵を増やすことにもなると思うのだが。水橋さんが今のままで良いのならばそれでいいのだが。

 

「有識者会議と言うのはあくまでも建前です。一応建前上の専門で言うとですね…まず私が心理の専門。次に勇儀と萃香は酒と喧嘩の専門。水橋さんは丑の刻参りの専門。ヤマメは病気の専門。お燐とお空は火の専門という名のただの付き添いです。各々の専門はこの会議には全く関係ありませんから安心してください」

 

実際はただ私の知人を集めただけの集まりである。こう見ると改めて私が如何に外に出ないかがわかる。知人が少なすぎるのも地底の主としてはよろしくないかもしれない。改善しようとは全く思わないが。

 

「なるほどね。人を集めるための建前か。だんだん古明地も紫のやつに影響を受けているんじゃないかい?」

 

どうだろうか。確かにたまに話すことはあるがそんなに影響を受けるほどなのだろうか。

 

「どうでしょうか。それはよくわかりませんね。まあいいでしょう。会議を始めてもよろしいでしょうか?…………ありがとうございます。

 

今回の議題は如何にして地底の妖怪を上手くまとめるか、です。統治者が私になってから度々反乱が起こるようになっているので、それの対策でも出せれば良いと思うのです。では先ず何か意見のある方はいませんか?」

 

数百年に一度とはいえ、この頻度で反乱されてしまえば私の統治が終わるまでに何度反乱が起きるか全く見当もつかない。如何せん今回でもう既に三回目なのだ。

 

「良いかしら。私がここに来る前の地獄は知らないけれど、貴方の統治が悪いのではなくて覚妖怪が統治していることを皆嫌がっているのではないかしら」

 

「流石パルスィ、良いこと言うねぇ。確かにさとりへの反乱と言うよりは覚妖怪への嫌悪感で動いているようにも見えるね。…おっと、気分が悪くなったのならごめんよ、さとり」

 

「大丈夫ですよ。それくらいの事なら地獄に来る前から幾度となく経験してきましたからね。今更ここでそんなことを思われていても気にもしませんよ。お気遣いありがとうございます」

 

こいしのように心を閉ざしてしまう子も確かにいる。だが私はいくら他人から嫌われようが、もう仕方ないとしか思わない。隠したいことの一つ二つあって当然なのにそれを強制的に暴かれるのだ。私だってやられるのは御免だ。使う方としては便利な能力である。

 

「しかしやはりそのような妖怪が多いのですね。覚など外にはもうほとんどいないでしょうに…どうして知っているのでしょうね」

 

今外は妖怪の力がとても弱くなっている状態らしい。だからこそ結界を張って妖怪の力を戻そうとしているのだ。そんな力の弱まる外の世界で生きて行けるほど私たち覚は強くない。もしかしたらもう残っている覚妖怪は厳密には私だけなのかもしれない。

 

「若い奴らってのは噂を信じ込むばかりで自分の目で確かめようとしないものさ。悪名高い覚妖怪だって蓋を開けてみればこんなものなのにね。だから反乱しようとする奴らは若いのが多いだろう?そこそこ生きてる奴らは噂は流す癖に決して行動しようとしないのさ。まったく質の悪い」

 

そう言う理由だったのか。旧都にも出かけないからそのあたりの事情は全く知らなかった。お燐もそのあたりの話は聞いてこないようだし。流石は鬼だ。内部事情はこういうところで仕入れるに限る。酒の席では秘密が漏れることも多いし。

 

「問題は私自身ではなく私の種族でしたか。ならどうしましょうか。いっそのこと統治者を私でないように見せてしまいますか?」

 

「そんなことをしてもすぐに気づかれるような気もするんだけど、どうするつもりなんだい?」

 

「完全な別人を地底の新しい主として立てるのです。裏で私が仕事をすればいいのではないでしょうか」

 

私以外が地霊殿当主になれば反乱はかなり減ると予想できる。とにかく地上に出たい妖怪を押さえつけるための一時的な物であったとしてもやってみて損は無いだろう。

 

「今回の相手の頭は既にお燐が特定してくれています。その妖怪を式神にしてしまう事で相手を欺くのです。そしてその式神を使って地底の統治制度を少しずつ変えていけば反乱分子は大人しくなるはずです」

 

「おい古明地、式神にすると言うのがどういうことなのかきちんと理解してるのかい?」

 

「勿論ですよ。相手の自由意志を奪う事で成り立つ術ですよね。地上に出ようとすると言うのは私に反抗するのではなく地底に反抗することに等しいのです。地底を守るためにも地底の代表として見過ごすわけにはいきませんよ」

 

地上を敵に回すのは地底全体の意思ではない。個人の勝手で私に災厄が降りかかるのにその原因となる妖怪を野放しにしておいて良いはずが無い。

 

 

   ~伊吹萃香~

 

 

古明地は本気で言っているようだ。確かに奴らは地上に出ようとしている。それが地底を脅かすことになるのは十分に理解できる。しかしその頭を自分の式神として使役するとは…

 

「面白いね。どうせあれだろ?精神を破壊したうえで使役するんだろう?」

 

「えぇ、勿論です。そうでもしないと仮に式が剥がれてしまった時に暴れられる恐れがありますからね。流石に死体にしてから操るのは私にはまだ早いようですから」

 

キョンシーとか言ったか、確か死体を操る術もあったはずだ。だが冷淡なように見えて妙な優しさを持っている古明地には確かにまだ早いだろう。お燐なら喜んでしたかもしれないが。

 

地底の住人を欺くという発想も悪くない。鬼は嘘を嫌うし、勿論私もそうだがありとあらゆる嘘が嫌いなわけではない。気分の悪くなる嘘と面白いと感じる嘘がある。前者は鬼の嫌いな嘘で、後者はあまり嫌いではない。古明地の今回の計画は後者ではないが前者でもない。だからこそ面白い。”地底を守るため”その言葉に嘘が無いからこそ勇儀も何も言えないのだろう。

 

古明地はおかしな奴だ。本来なら自分を優先して守るはずなのにあいつは地底を先ず見ている。流石は地底の主か。見ていて飽きない奴だ。式神の事も紫から聞いたんだろう。最近はあいつも地霊殿を訪問するようになっているようだし。

 

「さとりは本当にそれでいいのかい?あんたの今までの功績は全て水の泡になるようなものだよ。私たちは旧地獄になってから来た者だけど大分あんたも苦労して地底を良くしてきたんだろう?」

 

旧地獄になってから来た者は多い。そんな奴らでも地底の変化は身に染みて感じているはずだ。現にこのヤマメもその一人なんだろう。

 

「良いのですよ。私のしてきた事など誰にでもできることでしかありません。結局私でなくても良かったと思っていますよ。だから私の功績などもとより無いようなものです」

 

そうではない。昔聞いたから知っているが古明地の睡眠時間は半刻足らずだったはずだ。早々に音を上げてもおかしくはない仕事を数百年続けている時点で古明地の功績は十分だ。旧都の治安も古明地の作った規則のおかげで良くなったと言っても過言ではない。

 

「古明地は自信が無さ過ぎる。謙虚さは美徳かもしれないけど過ぎた卑下は新たな敵を生みかねないよ」

 

「そう言うつもりは無いのですが…以後気を付けておきます。

 

では皆さんも私の提案でよろしいでしょうか?」

 

全員が頷く。お燐とお空はかなり不満そうだが飼い主の意向に逆らう気は無さそうだ。結局表では式神が仕事をしているように見えるが実際に仕事をするのは古明地なので変わらない。仕事を手伝うように式を憑ければ負担も多少は減るだろう。その意味でも式神は最適解なのかもしれない。

 

 

   ~ ~

 

 

式神は法則だけ理解していれば誰でも扱う事が可能だ。しかし紫並みの頭脳を持たないさとりの式は当然藍より性能が落ちるだろう。基となる妖怪の格も段違いであるので仕方のない事ではあるのだが。

 

有識者会議という名のもとに開かれた話し合いから数日たってさとりは己の式神を作り上げた。手順は簡単だ。頭の妖怪を連れてきて精神を破壊し、その上で自我を失わせるために式神を憑けるのだ。そしてさもさとりの政権は終わったかのように振る舞わせる。

 

ここにおいて旧地獄は新・地底として新たな道を歩み始める。さとりの苦労は少しでもマシになるのだろうか。




萃香から見たさとりが聖人君主っぽくなっていますが実際はそんなことないです。自分が楽になるように考えているだけなので
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