本当は明日出したかったのですが、明日は買いに行きたい本があるので今日書きました
~古明地さとり~
「今日から私が地底の管理をすることになった。覚妖怪の呪縛から逃れて今こそ新しい地底を作るべきであるだろう。より良い地底を目指すためにまずは住人たちの意見が聞きたいものだ。そうだな………目安箱を地霊殿前に設置するから何か意見があれば書いて入れてくれ。入れてくれればその都度改善案を考えることとする。では解散!」
式神という名の傀儡にしたとはいえ敵方の頭領の言葉とあって集まった妖怪たちは皆喜んでいるようだ。地底の妖怪たちは馬鹿ばかりだと嘆きたくなるが初めの印象は悪くないようだからこらえることにする。どうやら私の管理体制が終わったことがそんなに嬉しいらしい。
地霊殿は緊急時以外は立ち入り禁止だ。ただし真実を知る者は除く。そうでもしないとこの傀儡の部下たちが祝いと称して地霊殿に押しかけてくる未来が見えるからだ。そうなれば誰一人まともな精神状態では帰せなくなるのでこれは必須の項目だろう。
目安箱は外の世界の人間が考えた物らしい。一般の妖怪たちの意見を集めるにはこれが最も手っ取り早いだろう。今こそ地底の大改革をすべき時だと判断した。今のままではいつか地底が崩壊してしまうかもしれない。今妖怪たちが混乱しているからこそ上手くいく、そうなる前の早めの一手はここで打っておく。
目安箱を地霊殿前に置く理由はとても単純。わざわざ旧都の方まで歩いて行くなど面倒でしかないのだ。たとえ取りに行くのが私の式でもそれは変わらない。命令に逆らわないからこそ過剰な負担をかけてしまうと気づかないことがある。式神の面倒な所はそこだ。それを除けば仕事や家事まで手伝ってくれるので非常に便利である。
「良いのかい?さとり。これで地底の連中の中では完全にあんたの体制が終了したことになるんだ。あんたはもう迂闊に外にも出られなくなったようなもんだよ」
「良いんですよ、勇儀。そうなるように仕向けたのは私自身ですからね。それに私は元々出歩くような事はほとんどしていませんでしたし変わりませんよ」
地霊殿に住むようになってから極端に外出の頻度が下がった。だから実際に旧都で私を見たことがある者はほとんどいないのではないだろうか。一部では『さとり虚像説』なるものもあったらしいし。大多数は実際にいることだけは知っていたようだがそれ以上の事――見た目や性格など――は大して知らなかったようだ。
「それに裏方に徹することこそが私の望んでいた生き方なのです。表舞台に出て目立つことをするのは苦手なんです。だからそう言う事はあいつにやってもらうんです。一番の解決策だと思いませんか?」
「どうだか。判断するにはいささか早すぎると思うね」
確かにその通りかもしれないが、少なくとも私にとっては最適解だったのだ。仕事量は手伝ってもらえば少し減るし、誰からも注目されない。誰が何と言おうとまさに私が(仕事を始めた後から)思い描いていた理想形だ。
~水橋パルスィ~
さとりによって打ち出された『地底大改革』はかなり順調に進んでいるようだ。自分のしてきたことを全て無かったことにする勇気には素直に感心する。しかし彼女は初対面の時からよくわからない妖怪だった。あまりにも印象的だったので今でも覚えているくらいだ。
―――――――――――回想 ~数百年前―――――――――――――――
「貴方が最近ここに越してきたという橋姫ですか?」「えぇ、貴方は一体?」
「あぁ、申し遅れました。私は古明地さとり。地底の管理をしているただの覚妖怪ですよ」
覚妖怪…聞いたことがある。確か相手の心を読んでしまう妖怪だったはずだ。彼女も可哀そうな妖怪だ。そんな能力がなければここにもいなかったのかもしれない。私の場合は能力に関係なくここに流れ着いていた気がするけれど。
「おや、貴方は私に同情してくれるのですか。優しいのですね」
そう言えば
「貴方の優しさはまた別のところにあるのですよ。自分の心は自分ではほとんどわからないものです。私でも自分の心はよくわかりません。そう言えば貴方の名前は?」「水橋パルスィよ」
自分の心ならば自分が一番理解できていそうなものだがそう言うものでもないらしい。心に詳しい者が言うのだから間違いない。
「私にだって間違いはありますよ。今回のは本当ですがね。そうそう。折角知り合ったんですしこれをお渡ししましょう」 「これは…………」
黒百合か。花言葉は確か『呪い』とか『復讐』とかだったはずだ。都合よく私に合った花を持ち歩いているとは考え難い。とすると彼女は私の種族を知った上でここに来たというわけか。
「おや、気づかれてしまいましたか。まあいいです。その花は貴方の思った通り黒百合です。花言葉もその通り。黒百合のもう一方の花言葉をご存じですか?…………実は『恋』という物もあるんです。不思議だと思いませんか?」
確かにそうかもしれない。恋と呪いがどうつながるのだろうか。
「これは私の勝手な考察になりますが、元来『恋』と言うのは『呪い』に近いものとして人間に扱われてきたのではないでしょうか。と言うのも『恋』をすると相手の事が気になりますよね。これは当然の事でしょう。そして相手に既に思い人がいたとします。すると『恋』をした張本人は相手の思い人を恨めしく、また妬ましく思うようになるわけです。
丑の刻参り。嫉妬心を糧にしてそれを操る貴方なら勿論御存じのはずですよね。あれは『恋』に破れた女性が嫉妬心によって相手の思い人に『呪い』をかけているのではないかと思っています。つまり『恋』はすぐさま『呪い』に転じ得る、と言うのを人間もよく理解していたのではないでしょうか。まあ憶測の域を出ないのですがね」
確かに丑の刻参りと言うのは私が力を得るために考案した呪術の一つだ。『恋』に破れた者が呪術を実行すると言うのは確かに納得できそうな説だ。しかしどうしていきなり花を渡してなんか来たのだろうか。
「あぁ、それは知り合った記念のようなものです。あとはそうですね…少しでも誰かと仲良くなりたいじゃないですか。花は妖怪と妖怪を繋ぐ”橋”にもなるのではないかと思いましたので」
まあ覚妖怪なら当然か。嫉妬深い私で良いのなら話し相手くらいにならなってやろう。
――――――――――回想終了――――――――――――――――
急に来たと思えばいきなり花言葉の話をし始めたりと私にとっては奇怪な妖怪に見えた。結局あれからは彼女がこっちに来たり私が地霊殿を訪れたりと思いのほか交流があった気がする。それでも私の呼び方は水橋さんから全く変わっていない。あの時貰った花は枯らすのももったいなかったので押し花にしておいた。綺麗にできたので満足している。
地底の管理体制が変更されたことでさとりがこの橋に来ることはもうないかもしれない。まあ話をしたければ私から出向けば良いだけの話であるし、今までも大概そんな感じだった。それにそんなに頻繁に心を読まれるのも勘弁したいし。
新体制で初めにさとりがしたことは地底をより良くするための取り組みと地上に出ようとしていた妖怪たちへの注意である。これは(さとりによって決められた動きをする)頭領の言葉だという事もあってかなり簡単に解決した。地上に出る事の危険性を改めて妖怪たちに示すのには少し苦労したようだが結局地底に止めることに成功している。
彼女の行動力と決断力は凄まじいものがある。時に多数を犠牲にし、時に自身を犠牲にする。彼女の身体と心は耐えられるのだろうか。話している時は強者の風格が出ているようには見えないのにいざ行動すると勇儀や萃香にも引けを取らない。
無理をしないように促すのも友人としての務めなのかもしれない。彼女が潰れると困るのは地底の全妖怪だろう。そのあたりがわかっていないからこそ馬鹿な反抗などしたがるのだ。住む場所を失うことになるなどとは全く考えてもいないのだろう。さとりが毎回苦労話をしてくるのも頷ける。
いくらお燐やお空、今回の人形など人手が増えたからと言っても、結局一番仕事をするのはさとりになる。勇儀たちにも協力を仰ぐか。こんなことをするのは私らしくないと言われるかもしれないが、結局は彼女らも友人思いなのだから変わらない。私もさとりも友人は多くない。むしろいること自体が奇跡のようなものなのだ。
彼女の便利な能力を妬んでいたのも今は昔。今となっては彼女の不幸さを妬んでしまっている始末。種族柄仕方のない事なのだが、私が不幸を妬むことはすなわち私よりも圧倒的に不幸であるという事に他ならない。私が橋姫で無かったら素直に彼女の心配もできたのかもしれない。
他人からの頼み事を断らないお人好しにも待ったをかけさせなければならない。どうにも彼女の周りの厄介ごとは彼女の行動とは無関係にも増えているように思える。気のせいなのだろうか。
友人が少ない者はその友人を大切にするはずです。百合にはつながりませんので悪しからず。実は一番さとりを色眼鏡無しに見ているのはパルスィ
表の支配者を”式神””傀儡””人形”のどれで呼ばせるかは完全に気分です。ただしさとりは”人形”を使いませんしパルスィも”傀儡”は使いません
また次回も読んでいただければ幸いです