面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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今回は眼が痛くなるかもしれないです、と警告しておきます


もはや嫌がらせ

   ~古明地さとり~

 

 

とりあえず賭博場は急ぎで作ってもらった。改めて考えると賭博場があるのと無いのとでは地底の管理のしやすさが大きく変わるからだ。先ず鬼たちによる宴会が少なくなり倒壊する建物が減る。次に地底の妖怪全体の娯楽が増えることで地上に出たいと思う者が減る。最後に経済が回りやすくなる。

 

今までは酒屋ばかりが儲かって飲食店は避けられがちだったが、これからは勝ってまとまった金が入った者がきちんとした飲食店で食事するようになってくれるだろう。賭博場の管理は勇儀に任せているので卑怯な真似――確かイカサマと言ったはず――はできない。イカサマをしたことが明るみに出たら即座に出禁である。

 

数少ない娯楽を失くしたくないのと何より面白くないのでそんなことをしてまで勝ちに行く妖怪は今のところいない。ちなみに出禁とは言うが発覚した直後、まだ場内にいるうちはどうなるか保障できない。一度出てしまえばもう中に入らない限りは安全を保障する。地底の妖怪たちからの評価がどうなるかは知らないが。

 

「さとり様~、今日の分の要望を持ってきましたよ」

 

「あら、今日はお燐が持ってきてくれたの?ありがとう」

 

この時間にお燐の仕事が終わっているのは珍しい。戒が丁度地底の偵察に行っているから助かった。お燐は最近呼び慣れてきたのか心の中でも私を様付けしているようだ。なんだか少しだけ寂しい。

 

「最近は戒も忙しそうにしてますからね。あたいだって少しはさとり様の役に立ちたいんですよ。効率を考えて半分ずつ読みましょうか」

 

こんなにひねくれた私からこんな良い子が育つなんて驚きだ。手伝いなら今でも重要な仕事をしてくれているし、もっと言うなら疲れた後の癒しになってくれているだけでも十分だったりする。

 

「こんなものがありましたが」

「あら奇遇ね。私も少し面白そうな意見があったわ。ほら」

 

地霊殿にあるような温泉を旧都にも作ってほしい。酒でも飲みながらが入れる温泉が良いね

温泉に入るにしても地霊殿まで行くのは面倒だから旧都にも作ってくれ

たまには温泉で身体を休めたいものね。毎日橋の傍に立っているだけでも疲れるわ

蜘蛛が入っていても問題ない温泉を作ってほしいね。勿論地霊殿のやつ以外でね

                         桶ごと入れる温泉だと尚良し

 

全部同じではないか。というか誰が書いたのかまるわかりだ。これは絶対に計画的な犯行だな。いや、犯行ではないのだけど。まとめて入れてくるあたりが嫌らしいと感じると同時に彼女たちの本気度がうかがえる。

 

「…………これは勇儀さんたちの字ですね。どうします?さとり様」

 

「良いでしょう。これは恐らく必要になるはずのものよ。温泉自体は何処を掘っても出るはずだからあとは温泉街に良さげな場所を探すだけね」

 

温泉は確かにあった方が良い。温泉に浸かれば心休まる、と言うのは今まで何度も経験してきたし見てきた。争いを減らすためにも作っておいて損はない。温泉街でもお金が回るようになってくれるし。地形の調査はいつも通り戒に任せれば良いだろう。最近彼女に任せていることが多くなりつつあるのは申し訳なく感じるが。

 

「また戒の奴に行かせる気でしょう。あたいが行ってきますよ。こう見えても旧都付近は歩き慣れていますから」

 

「ありがとう、お燐。いつも助かっているわ。じゃあよろしく頼むわね」「お任せを」

 

お燐が出て行ってまたいつもの静かな部屋に戻ったが今日の分の私の仕事はもう終わったのだ。最近は人手が増えたおかげでかなり早くに仕事が終わるようになった(何故かお腹が痛くなる事も増えたが)。その日の仕事量にもよるが、大体お空が灼熱地獄跡から帰ってくるまでには終わるようになった。

 

それでも睡眠時間は前までとそう変わっていない。その理由は最近の私の趣味にある。私は読書が好きだ。本の中の登場人物の心の中は読めないから自由に想像することができて楽しいのだ。時には私の思っていたものと全く異なる考えだった、という事もある。私以外の人間や妖怪の気持ちを考えるには読書は素晴らしい材料となる。

 

ただ最近は執筆の方に力を入れるようになっている。今まで生きてきた中での私の経験を活かして、心理描写に拘った小説を書こうとしているのだ。これが思っていたよりもはるかに難しい。何度書き直しても納得のいく文章に仕上がらないのだ。

 

「『そして蛇が蛞蝓に溶かされるが如く、弥助の心は利恵に溶かされてしまったのである。弥助にとっては運の悪いことに、利恵の狙いはまさにそこであった。顔は美しくても家は貧s

 

「ちょっと、何してるんですか。入るならせめて一言入れてくれませんか?紫さん」

 

いきなり私の書いている小説を朗読されるのは流石に勘弁したい。誰かほかの者が聞いていなくて本当に良かった…「続き、気になります!」「私も読みたいです」…………終わった。

 

「どうしてお空も戒も断りもなしに入ってきているのよ」

 

お空は百歩譲って仕方なかったとしても、私の式神である戒は大丈夫だと思っていたのに。

 

「いえ、私もお空さんも一応扉は叩きましたし断りもいれましたよ」「そんな……………」

 

もう駄目だ。私が完全偽名で出そうとしていた本なのにもう世には出せない本になってしまった。あと少しだったのに今ではもうごみでしかない。これもすべて悪いのは紫さんのせいだ。私が睡眠時間を削ってまで書いていたのにそれも水の泡だ。

 

「紫さん?貴方のせいで私は生きる希望を失いそうなのですが。どうしてくれるのでしょうか」

 

「悪かったわねぇ。まさかあの子たちがいるなんて思いもしなかったもの」

 

嘘つけ。いくら心を読めなくても流石に今のは嘘だと分かる。口元は見えないが言い訳が雑な者特有の妖気の流れだ。いくら大妖怪といえども妖気の流れ方を自在に変えることは不可能だ。多少一部に集めたりすることは可能だが流れ方はいくら気を付けても変えることができない。心拍などと同じような物である。嘘を吐く時の一瞬の揺らぎ、それは防衛本能なのだ。

 

「でも今日はそんな貴方に良い物を持ってきてあげたわ。はいこれ」

 

口の広い瓶に入った丸っこく白い物体。一体これは何なのだろうか。そもそもどう使う物なのだろう。瓶に入っているくらいだし一気に飲み込むのだろうか。液体でもないのに?

 

「何か分からないような顔をしているわね。これは人間が開発した『胃薬』という物よ。お腹が痛いときにこれを二粒水と一緒に呑めばあら不思議、少しすれば腹痛は収まるわ。貴方最近よくお腹が痛くなっているようだからあげる」

 

何処で見ていたのかは知らないがこの薬は役に立つ。素直に感謝しておくと同時に疑問に感じていたこともついでに聞いておこう。

 

「ありがとうございます。これで悩みの種が一つ消えましたよ。

 

ところで地上は大丈夫なのですか?結界騒動があったと思いますが」

 

「あぁあれね。連中はちょろいからすぐに片が付いたわね。今では結界の内側で暮らしているわ」

 

相変わらずよくわからない言葉を使ってくるが、要するに結界を張ることで解決したという事でいいのだろう。流石は紫さんだ。地底よりもはるかに恐ろしい地上の妖怪たちも彼女の手にかかれば瞬殺らしい。

 

「流石は紫さんです。地上は今どんな感じなんです?もしかしt…「『顔は美しくても家は貧しかった彼女は、家のために金を持っている者に貢がせたかったのだ。しかしその時の利恵はまだ知らなかった。弥助が賭けに勝つことで大金を手にしただけの成金であったことを。その後彼が』……………ちょっと何するのよ、お姉ちゃん」それはこっちの台詞よ。どうしてさっきの続きから読むのよ」

 

どうせ燃やしてしまうから良いのだがこれ以上恥ずかしい思いはしたくない。というかいきなりの事で頭が追いついていなかった。

 

「って、え?…え?こいし?!どうして今ここにいるの?」

 

「えー?今更それを言うの?お姉ちゃん。私はお空達が入って来た時くらいからいたよ?一人知らない人がいるけど」

 

だから紫さんが読んでいたところの続きから読み始められたのか。納得はするがやはりこいしに気づかなかったことは悔しい。姉として本当にこれで良いのだろうか。

 

「申し遅れました。私はさとり様の式神で地底の表の支配者をしています、万頭狼戒です。以後よしなに、こいし様」

 

「ふーん、戒が表のってことはお姉ちゃんが裏で糸を引いているのかな?「はい」やっぱりね!地底を支配できるのはお姉ちゃんだけだもんね」

 

いや、私でなくてもできると思うけど。今は私だというだけではないだろうか。

 

「まさにその通りよ。あの時の星熊勇儀には本当に感謝していますわ。鬼に人を見る目があるとは思っていなかったけれど、あの時から認識を改めなくてはなりませんでしたもの」

 

こいしには賢者口調で話すのか。なんだか意外だ。あの口調を使うのは初対面時か相手が偉い立場にある時だけかと思っていた。それにしても私を褒めるのもやめていただきたい。居心地が悪くなるではないか。

 

「ただいま帰りましたよ~さとり様。あれ、なんだか随分人が多いね「あっ、お燐!」あはは、お久しぶりですね、こいし様。それにしても本当にどこに行っていたんです?」

 

こいしは何故かお燐を気に入っている。理由は…………初めて人型になったから?それとも単に猫好きなのだろうか。それにしてもお燐が地底で姿を見かけなかったという事はまた地上に出ていたのだろう。心配をかけさせるのもほどほどにしてほしいものだ。言っても無駄だと分かっているので言わないが。

 

「どこだろうね~。私にもわからないよ。そんなこと考えていないもの」

 

やはりこいしはそんな子になったのだ。過去は過去の物として私の記憶にだけ残しておけばいい。一緒にいたことすら忘れてしまう座敷童とは違うが、こいしの事をはっきりと覚えておける妖怪は私以外ではほとんどいないのではないだろうか。記憶には残るがはっきりとは残らない。なんと悲しいことではないか。私には何もできないのがどうしようもなく悲しい。

 

「こいし様、今日は夕飯食べますよね?」

 

「そうしようかな。よろしくね!お燐」「はい、とびっきりの料理をお作りしますよ」

 

妥協しかできなくて、後悔しかしない人生だ。だが時は容赦なく進む。いつまでも過去に縋っているわけにも行くまい。地底の支配者として先を常に見ていなければならない。

 

「そうそう、お燐。良い場所は見つかったかしら?」

 

今は温泉街を作ることを目標にコツコツやって行けばいつかこの職からも解放されるかもしれない。このくらいの期待はさせてほしいものだ。




だが面倒ごとは容赦なく降りかかる

何となく勇儀は大胆な感じがするので太めの字に、萃香は繊細な部分があるような気がしたので細めに設定してあります。それ以外は内容を見れば誰かわかるでしょう。まだ出てきていないキャラもちゃっかり意見書いてますが

今回はさとり様の考えはあくまでもさとり様の物として扱ってください。心理描写苦手なんです

ようやくさとり様の相棒胃薬君も出せたので満足しています


また次回も読んでいただければ幸いです
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