面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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途中面倒なら読み飛ばしても構いません。大した量ではないですが


命名決闘法案

   ~古明地さとり~

 

 

紫さんからの依頼を受けてからもう百年である。紫さんも何度か地霊殿に来ていたが、その度に残念な報告をするはめになっていた。考えていないわけではない。

仕事の合間の少しの時間ではあるが一応いくつか案は考えたりもした。

 

だが納得のいく案が思い浮かばないのだ。幻想郷の決まり事に則った解決案を考えるにしても単純ではない。妖怪の恐怖を人間に知らしめるだけでも力は得られるのだが、そうすると人間に少なくない被害が出てしまう。

妖怪の力をこれ以上弱らせないためにも人間の数は一定に保つべきだから一気に人数を減らしてしまう事態は避けたいところだ。

 

となると妖怪が人間を襲う事は実質不可能なのではないか。どうにか被害を少なく済ませる方法は無いだろうか。

 

いや、そもそも人間が一方的に喰われると考えているのが間違いなのかもしれない。人間は全員霊力という妖怪特攻の力を持っていたはずだ。昔の人間たちのように、とは言わないまでもかなりの練度を誇る人間が地上にはいるらしい。確か博麗の巫女と言ったか。

 

彼女はその豊富な霊力を以て妖怪を屠ることが可能らしい。想像しただけでお腹が痛くなる。胃薬はもう切らしているから自力で治るのを祈るしかない。

 

…と、そんなことはどうでもよくて、その巫女と言うのは心底恐ろしい人間だが、そういう人間がいるという事は妖怪と戦う事も可能なわけである。逆に博麗の巫女がいなくなれば、人間は妖怪に対抗する手段がなくなってしまうという事だ。

 

つまり紫さんのあの依頼の真意は『博麗の巫女を死なせないで、妖怪と戦わせる手段を考えろ』という事だったのか。妖怪の弱体化、という言葉に惑わされて真意を見抜けなかったという事だ。

 

なんとも滑稽。今まで散々考えてきた百年間は全くの無駄だったというわけだ。彼女の考えに追いつくのに百年もの時間を要した自分を嘲笑ってやりたいくらい。私ほど滑稽という言葉が似合う妖怪もそういまい。

 

ここまでたどり着けばあと少しだろう。あと数日も考えればきっと何か思いつく。もう少し頭を柔らかくする必要がありそうだ。流石に百年も待たせるのは自分でもどうかと思う。

 

 

   ~八雲紫~

 

 

前回の訪問からはもう二十年ほど経っているだろうか。最近は(藍に頼んでいる部分があるにも拘わらず)仕事が忙しくてなかなか地底に赴けなかった。前回行った時はまだ答えを出せていなかったし、前回までの様子なら今でも答えは出ていないかもしれない。

 

だが対策は急務になった。あの蝙蝠たちのせいで幻想郷は少なくない被害を受けてしまった。妖怪の弱体化も目に見えてはっきりした。

私や幽々子では柔軟で突飛な案は出ないだろう。藍は創造性が無いからそもそもあてにできない。

 

やはりこういう時に頼りになるのはさとりしかいないのだ。地上の代表としての付き合いだけだったなら頼ることはできなかっただろう。過去の私を褒めてやりたい。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「こんにちは。お元気かしら、さとり」

「こんにちは。えぇ、私の方は問題ありません。紫さんもお変わりないようで安心しました」

 

結局目に見えて驚いてくれたのはあの時が最初で最後だったようだ。本人は驚いているというが…。疑いたくはないが本当に驚いているようには見えないのだから仕方ない。

 

「お元気そうですが何か憂い事があるようですね。相談があるならいつでもどうぞ」

 

やはり見抜いてくるか。さとりの観察眼は伊達ではない。普通なら気づけないであろう変化すら見落とさないのだから大したものだ。

 

「やはりわかるのね。では後で聞いてもらいましょうか。それより例の件はどうにかなりそうなの?前回から二十年近く経ったけれど」

 

本題はここから。如何にして妖怪の弱体化を止めるか。さとりの表情から察するにどうやら何かしらの案は出たらしい。

 

「はい、勿論です。とはいってももうあれから百年ほど経ちましたし、思いついたのもつい最近ですけどね「聞かせてもらおうかしら」はい。先ず私は『如何にして妖怪の弱体化を防ぐか』という事をずっと考えて()()()()()()わけです」

 

()()()()()()?となるとそれとは異なる方面で結論が出たという事か。

 

「それは間違いだったのです。その考え方をしているうちはどうやっても答えにはたどり着かない。その場しのぎの案しか出ませんから。そこで『如何にして妖怪が力を示しやすくするか』に考え方を変えたわけです。確か異変…でしたっけ、それを起こし易くするには、という事です」

 

なるほど。発想の転換か。転換させる、それ自体は思いつくだろうがまさか異変を起こす方に転換させるとは。確かに異変が起きれば人間は怯え、異変を起こした妖怪の力は強くなる。しかし下級の妖怪ならまだしも大妖怪となると対抗できるのは博麗くらいになる。

 

今代はまだまだ幼く大妖怪に太刀打ちできる程ではない。だからこそ先の異変は妖怪だけで片を付けたのだ。そう簡単に異変が起き続けるのもどうかと思うが。

 

「具体的には決闘方式にするのですよ。命のやり取りの必要ない時の殺生ほど無駄なことは無いでしょう。食料として必要なのなら今まで通り外から入れて来ればいい。

しかしそれ以外の場合、妖怪は特に人間を殺す理由はない事になります。逆もまた然り。妖怪退治となればとりあえず滅す、と言うのが今までの風潮だったわけです。

 

そこを変えるのです。恐れを得るとはすなわち人間との決闘に勝つことを意味し、退治するとはすなわち悪事を働いた妖怪を決闘にて打ち負かすことを意味するように変えるのです。

 

悪事の規模にもよりますが、基本的にはこれだけでも十分でしょう」

 

決闘…か。それならば幻想郷の要となる巫女が事故によって死亡するリスクも減らすことができるだろう。それに巫女ほどではないにしろ多少力のある人間ならばそのルールに則って妖怪退治に参加することも可能。そんなことをする人間が果たしているのかはわからないが。

 

「もし守らない妖怪がいたらどうするの?その妖怪を滅すことになるんじゃないかしら?」

 

「紫さん、そこが貴方の腕の見せ所なのです。如何にしてそのルールを幻想郷中に広めるか、如何にしてそのルールを認めさせるか。それは私にはどうしようもありません。地底の妖怪へなら可能ですが。

決闘の詳しい方法は考えられていませんからそれについてはそちらで考えていただけると良いのですが」

 

頭は固いが保守的な天狗は問題ないだろう。あいつらは自分たちさえよければ基本的に口出ししてこない上に、天魔の決定なら誰一人反抗してくる者はいないはずだ。天狗なら河童やら山姥にも通達してくれるだろう。

 

不可侵条約なるものもあった気がするが、山を牛耳っているのは主に天狗、次いで河童だ。この二種族が乗れば山の総意ともとれるので、山姥や山を住処にしている野良神もそれに乗って来るだろう。

 

問題があるとすれば誇り高き蝙蝠とその部下。あとは風見か。前者についてはこちらの勝者権限を使えばどうにでもなるだろう。しかし後者は…………なるべく穏便に済めばいいのだが。

 

「分かったわ。詳しいルールに関してはこちらで決めておくとしましょう。決まったらまた連絡するわ。案を出してくれてありがとう。一応これで何とかなりそうだわ」

 

「いえいえ、こちらこそ百年もかかってしまって申し訳ありません。本当に。

 

では一応用事が済んだので相談を受ける時間にしましょうか。紅茶、緑茶、コーヒー。どれがいいですか?」

 

「そうね。それなら緑茶を頂こうかしら」

 

カウンセラーさとりによるカウンセリングタイム。不定期とは言えここに来たら大体やっている気がする。今日相談したいのは勿論、最近幻想入りしてきた外来種の扱いとこれからの脅威についてだ。幼いくせに力を持っているから悩みの種としては十分すぎるのだ。

 

それだけでなくそこに付き従うあの館の住人は揃いも揃って実力者揃いだ。萃香たちをはじめとしたさとり率いる地底組と比べれば幾分かマシだろうが、そんなことは慰めにもならない。規模と頭の質が違うから。

 

紅魔館に関しては主よりその友人の魔女の方が要警戒だと思う。機知に富み、機転を利かせることができそうな彼女は、ある意味当主の誇る力よりも恐ろしい。

 

 

   ~古明地さとり~

 

 

具体的な方法までは考えきれなかったが、そこは紫さんが何とかするだろう。私では考えられないような事を瞬時に考えてくる。きっと私が出したあの案も想定の一つには入っていたことだろう。

 

私は恐らく彼女の考え通りに動く駒としてはまだマシな働きをする部類に入るのではないだろうか。……………藍さんと比べてはならない。

 

「お久しぶりね、さとり」

「そこまでではないでしょう、紫さん。まだあれから四か月しか経っていませんよ。それで、今日はどんな用事で来たのです?」

 

背後から急に呼びかけられるのは本当に心臓に悪い。いつ来るかも教えてもらっていないのに。紫さんは私に早死にしてほしいのだろうか。確かに覚妖怪なんて邪魔でしかないだろうが。

 

「あれから不眠不休で考えてね、ついに草案ができたから見せに来たというわけ」

 

不眠不休は絶対に嘘。紫さんは言っては何だが睡眠好きの妖怪である。普段も私の何倍寝ているかわからないくらいの。そんな彼女が寝ずに過ごせるわけがない。現に今の様子を見てもとても健康そうである。血色も私よりいいし。

 

「えらく早かったですね。お疲れ様です」「当然よ」

 

当然といえば当然か。元々紫さんも考えていた案だったはずだし。

 

「早速見てもらいましょうか。これよ」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

命名決闘法案

 

 

 

 妖怪同士の決闘は小さな幻想郷の崩壊の恐れがある。

 

 だが、決闘の無い生活は妖怪の力を失ってしまう。

 

 そこで次の契約で決闘を許可したい。

 

 

 

理念

 

 

 

 一つ、妖怪が異変を起こし易くする。

 

 一つ、人間が異変を解決し易くする。

 

 一つ、完全な実力主義を否定する。

 

 一つ、美しさと思念に勝る物は無し。

 

 

 

法案

 

 

 

 ・決闘の美しさに名前と意味を持たせる。

 

 ・開始前に命名決闘の回数を提示する。体力に任せて攻撃を

 

  繰り返してはいけない。

 

 ・意味の無い攻撃はしてはいけない。意味がそのまま力となる。

 

 ・命名決闘で敗れた場合は、余力があっても負けを認める。

 

  勝っても人間を殺さない。

 

 ・決闘の命名を契約書と同じ形式で紙に記す。それにより

 

  上記規則は絶対となる。この紙をスペルカードと呼ぶ。

  

 

 具体的な決闘方法は後日、巫女と話し合う。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「良いのではないでしょうか。ただ困ったことがあるのですが」

 

そう、このルールだと私はまともに勝負することができない。

 

「言ってみなさい」

「私の攻撃方法とは基本的に相手のトラウマを想起するものです。つまるところ相手によって私の出す攻撃が変わるわけです。どうすればいいのでしょうか」

 

トラウマとは個人によって異なり、決して同じ物は存在しない。覚えの正確さも人によって異なるからだ。だからこそ私が想起する攻撃は必ず初見になる。似ているだけの異なる攻撃。私の妖力の都合もあるし。

 

「なるほど…確かにそれは困ったわね。ではこうしましょう。貴方は相手と対峙したその瞬間に相手のトラウマから攻撃に使う物を厳選し、それを紙に書きとる。それでも時間は限られるでしょうから数枚は自分で考えなさいな」

 

それなら一応ルール違反にはならない…のか?まあ立案者が良いと言っているのだから良いのだろう。想起する攻撃は瞬時の判断が必要だが、想起()()()攻撃なら判断は不要だし考えておいて損はない。

 

「ちなみに形態はどうするのです?この『美しさ』の部分がよくわからないのですが」

 

決闘における美しさとは一体何だろうか。技の美しさか?決めポーズの美しさかもしれない。

 

「この決闘は所謂弾幕で行うの。例外を除いて避けられない弾幕はNGよ。美しさを捨てて勝利のみを求めた時点で敗北、というわけね。これは写しだからここに置いておくわ。原書はもう博麗の巫女の方に送っておいたし。さて、何も質問は無いかしら?………ならいいわ。地底の妖怪にも広めておいて頂戴ね。いつか必要になるかもしれないわ」

 

「わかりました」

 

必要になるかならないかに関係なく広めるつもりではある。地底の荒くれどもの喧嘩ともなれば被害が大きい。このルールを地底にも導入することで少しでも被害を少なくしようと言うのが目的となる。

 

納めてもらっている税金は僅かなのでそんなことに金は使っていられないのだ。壊されたら壊した者に請求してもらいたいものだ。甚だ不服である。

 

とりあえず広めるのは急務。戒たちに頑張ってもらおう。圧倒的な力を持つ勇儀や萃香、反乱軍の頭であった戒がいればかなり楽に済むとは思うが。




紫さん実は本当に四日ほど寝てませんでした。四か月間の残りは寝たり、清書したり、写しを書いたりしてました。つまり紫の「当然よ」は「(不眠不休で考えたんだから)当然よ」なわけです

そろそろ互いの誤解解けないんでしょうかね。付き合いはもう五百年くらいになるはずなんですが


また次回も読んでいただければ幸いです
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