~八雲紫~
「おい八雲よ、もうそろそろ私たちが異変を起こしてもいいのではないのか?あの決め事からももう四年は経ったろう?」
この吸血鬼に関わるとその時点から数奇な運命をたどるようになるという。だがもし会う前から波乱万丈な人生を歩んできていた場合はどうなるだろうか。答えはより波乱に満ちた人生になる、だ。以前までの厄介ごとすら楽な物だと思えるほどに近頃は厄介ごとが多い。
運命を操る吸血鬼に、破壊に特化した吸血鬼、強力な魔法使いに、誰よりも上手く気を使う妖怪、果てには時空を弄る人間までいる。
これがどうして悩みの種にならないと言うだろうか。最近の胃薬の消費量はさとりにも近い。
これは罰なのだろうか。私はただ妖怪を守り、人間を護るために世界を作っただけだというのに。対等な相談相手がいなければ私はとうの昔に潰れてしまっていたかもしれない。辛いわ。
「えぇえぇ機は熟しましたわ、レミリア嬢。貴方がたが何かしらの異変を起こし、博麗の巫女とスペルカードルールによって勝負をする。もうカードは用意しましたか?」
今代の巫女、霊夢がようやく実戦に慣れてきたので時期としては問題ないだろう。負けても彼女なら死ぬことは無いと断言できる。才能だけなら歴代の巫女の中でも最高だと言えるだろう。修行嫌いなので実力は歴代最高とはいかないが。
「あぁ、勿論だ。ほら、見てみろ」
『紅色の幻想郷』『吸血鬼幻想』『幼きデーモンロード』などなどどこか痛々しい名前のものばかり。外の世界ではなんと言うのだったか………確か中二病?
「綺麗そうな見た目ですわね。問題は無さそうですからしまっていただいて結構ですわ」
間違っても独特なネーミングセンスですね、などとは言えない。怒りを買っても負ける気はしないが関係を悪くするのも望むところではない。
「ではいつ行うのか、その詳しい日取りを決めてしまいましょうか。後ろのメイドさんと魔法使いさんはいかがなさいますか?」
本来はいてもいなくてもどちらでもいいが私としてはいない方が望ましい。その方が早く話を済ませられそうだし、何よりいつ背後からメイドに刺されるか分かったものではない。ナイフが刺さった程度で死ぬほどやわではないが痛いものは痛いのだ。
「パチュリー・ノーレッジよ、八雲紫。私はここに残らせてもらいましょう。異変に必要な準備は私がすることになるでしょうから」
七曜の魔女、パチュリー・ノーレッジ。直接見てはいないが感じ取れる魔力から実力はかなりの物だと推測できる。
「十六夜咲夜ですわ。お嬢様がここに残るというのに、主を敵前に残す従者がいましょうか」
十六夜咲夜。人間の身にして吸血鬼に仕え、持つ能力の底は計り知れない。微小空間を操れば、物の保存や移動など私のスキマと同じようなこともできる。人間と言うにはいささか強すぎる、という点においては霊夢にも通ずる所がある。
「まあまあ落ち着きなさい、咲夜。八雲も今はもう敵対関係ではないのよ。
まあそう言うわけでこの子たちもここに残るみたいだな。早速日取りを決めていくとしようか」
レミリアには幻想郷に敵対する気がもうないという事か。妖怪は気まぐれだから将来的にどうなるかはまだわからないけれど。
~レミリア・スカーレット~
ヨーロッパ一の妖怪集団、世界最悪の化け物の巣窟etc……。ヨーロッパにいた時の紅魔館は様々な呼ばれ方をしたものだ。
私もその呼び名に相応しい実力を持っていたつもりだった。あの化け物と対峙するまでは。
ここに来る前は紅魔館の所有する領土はヨーロッパ全域に広がっていたような物だった。それはすなわちヨーロッパで私たちより強い妖怪集団が他にいなかったからに相違ない。
ヨーロッパを落としたら次はアジアの方に進出する予定だった。そんなときにパチェが面白い場所を探してきた。そう、幻想郷だ。
曰く、妖怪の楽園。古の妖怪たちだけでなく神や妖精も住んでいる場所。広いヨーロッパを落とせたのに、小さな島国の中にある世界を落とすことができないはずは無い。
私たちは今までの実績に裏打ちされた自信を持って幻想郷に攻め込んだのだ。
内情を調べるついでにいくらかの妖怪を寝返らせるのは簡単だった。だからこそ私たちはより一層勘違いを深めてしまったのだと言える。『幻想郷の妖怪たちもそれほど強くない。油断さえしなければ乗っ取るのは容易だろう』と。
侵攻を始めた私たちを迎え撃ったのは妖怪二人だけだった。対するこちらは数百の軍勢。
初めのうちは私たちが有利だった。数の優位で圧倒し、一時は里の付近まで押していた。しかしそれに危機感を覚えた八雲が手加減をやめてからは悲惨だった。
あとで分かったことだが、八雲は自分の箱庭の住人に手をかけることを躊躇していたらしい。しかし里に妖怪を入れるわけにはいかなかったので躊躇するのをやめたらしい。
寝返らせた妖怪たちは一瞬のうちに倒れ伏し、ピクリとも動かなくなった。そこからは八雲の二人と私たち紅魔館のメイン戦力の戦いだった。
そうなった後はもう勝利の運命は見えなくなっていた。どうあがいても勝てない化け物と言うのは八雲にこそ相応しい。何せあいつは私とフランと咲夜を同時に相手取ったのだから。
油断さえしなければどんな妖怪にだって勝てると思っていた。次元が違う。八雲は住んでいる世界が私たちとは別なのだ。『バケモノめ』私の呟きに返したあいつの言葉は衝撃的だった。
『私をバケモノと呼ぶうちは幻想郷は取れませんわ。私の最も恐れ敬う彼女を単騎で倒せるくらいでなくては』
聞けば妖怪屈指の荒くれどもが住む地底を治めている妖怪らしい。怨霊ですらその妖怪を恐れ怯み、近づこうとしないらしい。もはや妖怪としての弱点はあるのだろうかとも思ってしまう。
八雲にそこまで言わせる存在。会ってみたいが会いたくもない。とりあえず戦闘になったら分が悪そうだ。気を付けておくに限る。
「ではレミリア嬢、どのような異変にするかの案はあるのですか?できるだけ恐怖を植え付けるだけの異変にしていただきたいのですが」
八雲は口調を崩さない。だから私も口調は崩さない。紅魔館当主としての威厳を失わないために、相手にペースを握らせないために。
「まあ大体考えてはいる。そこの魔女殿には多くの協力を仰ぐことになるだろうがね。当日まで楽しみにしておくといい」
ちなみにこの話し方は咲夜以外には不評である。フランは知らないが。私としても話しづらいからあまり好きではない。これで始めてしまった手前やめ時を失っている状態だ。
「そして日取りだが一週間後にしたい。こちらもすぐ準備できるとは限らないのでね。それで良いか?」
「えぇ、構いませんわ。忘れないでくださいね、スペルカードルールは必ず守る事。破ればどうなるか、それは保障しかねますわ」
破れば今度こそただでは済まない。私が一番よくわかっているから口を開こうとする咲夜を諫める。前回生かされたのも八雲の気分だったろう。二度はない。八雲の顔は一度まで、だ。
~古明地さとり~
最近は本当に思い通りに事が進む。スペルカードルールも地底中に広めることができた。戒の影響力が思いのほか大きかったのが幸いしたと思う。
数年以内にできれば…と思っていたが本当にできるとは思ってもみなかった。嬉しい誤算だ。
「さとり様、お客様がいらっしゃいましたが」
戒が部屋に入ってきた。彼女の仕事量も考えてあげないといけないかもしれない。量だけで言えばこの屋敷では私に次いで二番目だ。彼女の健康のためにも少しは減らした方が良さそうだ。
「ふむ、紫さんが来たと………?!紫さんが?!「どうかしましたか?さとり様」…い、いえ、何でもないわ。そう、紫さんが来たのね…応接間に案内した、と。分かったわ、ありがとう」
戒の中では客なのだから至極当然の事だとして片付けられていたが、紫さんがこの部屋に直接来ないのはこれが初めてである。本物なのだろうか。覚妖怪を騙すのは不可能に近いのだが。
とにもかくにもまずは応接間に行って確かめるしかなさそうだ。紫さんしか知らなさそうな質問といえばなんだろうか。まあ適当に聞いて反応を見ればわかるか。
「お待たせしました、紫さん。本日の用事を聞く前に一つ質問させてくださいね。貴方は本物の八雲紫なのですか?」
「えぇ、そうよ。私は八雲紫以外の何者でもないわ。他に何か聞きたいことはあるかしら?」
間違いなく偽物。感じ取れる妖力は紫さんの物だ。これは確実だ。だが弱すぎる。並みの妖怪に比べれば強いと思うが比較対象は生憎彼女だ。それに今更隠す必要も無いだろう。
次にその流れ。一切の澱みもない。これはそもそも生物でない事を意味する。呼吸に合わせた変動すらしないのはどう考えてもおかしい。その考えなら心が読めないことにも頷ける。生きていない物は心が無いのだから。
表情まで変化させられる技術は素晴らしい。よほど人体構造に精通している者がこの人形を作ったに違いない。声、妖力、動作、顔や手の動きに至るまで本物と変わらない。他人をよく観察しない者なら騙せていただろう。つまりこの地底では私以外なら、である。
最後にこれが人形であることを決定づける事実。紫さんの物ではない魔力が微量に感じ取れるのだ。紫さんの強すぎる妖力と魔力によってほとんど打ち消されているが完全に消すには至っていない。これより魔力の所持者自身も相当の実力者であることがうかがえる。
本当にやめてほしい。順調だと思っていた矢先にこんな厄介ごとが舞い降りるなんて。これに紫さんが絡んでいるのは確実。だが肝心の意図は?さっぱり理解できない。
「そうですね………私は意図を知りたいですね。わざわざ手の込んでそうな事をする意図は私を揶揄う以外に何かあるのでしょうか?」
だから単刀直入に聞く。どうせ自分一人で考えたところで紫さんの意図なんてわかりっこないのだ。ならば素直に聞いてしまえばいい。無駄な時間を省くことにもなるだろう。
バケモノが実はか弱い女の子ですよ、という話。紫は超強いんですけど
紅魔郷自体はさとりとの関連がゼロなので書かないです。つまり主人公たちが出てくるのはまだ先。異変中は紫様と遊んでいてもらいます
さとり様は恥をさらさないのであれば普通に聞きます
また次回も読んでいただければ幸いです