面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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ねぇ、嘘は、悪いことじゃないのよ。


嘘のすゝめ

   ~古明地さとり~

 

 

本当に私を揶揄う以外の意図が思い浮かばないのだが。というか来るなら今まで通り直接来てくれた方がこちらとしても楽なのに。………悲しい事ではあるがもう完全に紫さんの登場の仕方に染まってしまった。

 

「あらあら、何を言っているのかしら?さとり。普通に来るのが手の込んだことだと………それはいつもの私に対しての当てつけのつもりかしら」

 

やはり無機物の人形はどこまで行っても人形止まりだ。それ以上の事ができない。だからこそ話していると気持ちが悪い。

口調は脅しているようなのに彼女の纏っている妖力は僅かな揺らぎすらないのだ。

 

ただ紫さんのものではない魔力だけが僅かに変動しているのみ。あぁ、気持ち悪い。

 

「紫さん自身がそう思っているのなら大いに結構ですね。次からはこうして来ていただきたいくらいです。できるのなら、ですが」

 

会話はかみ合っているようでかみ合っていない。いや、かみ合わせないようにしていると言った方が正しいか。とっとと本物に出てきてほしいのだ。こんなモノとずっと会話していると頭がおかしくなりそうである。

 

コンコンコンッ「さとり様、お客様がいらっしゃいましたが」

 

今会話している人形は正確には客ではないから出ても良いのだが………うーむ、どうしたものか。

 

「名前は?」

「それがですね………こちらもまた八雲紫と名乗る方でして…」

 

人形の追加か、はたまた本物か。いかん、混乱してきた。「通して頂戴」

 

見て判断すれば一発だ。来る方法から本物である可能性は限りなく低いと思うが、人形である可能性もまた低いように思う。

 

「こんばんは、さとり。流石は貴女だわ。それを人形だと瞬時に看破するなんて」

 

「貴方は…どうやら本物のようですね。しかしどうして扉から入ってきたのです?」

 

これが一番わからない。だって彼女に扉という概念が存在するのかすら疑問だから。真に扉という概念が無いのは死神連中だと思うが、紫さんも似たようなものではないだろうか。

 

「貴方が言ったんでしょう?次からは扉から入ってほしい、と。だから実行してあげたわけ。どうだったかしら。扉から入るのも悪くはないかもしれないわね」

 

「次回からは是非いつも通り入ってきてください。こちらの方が心臓に悪いとは思ってもみませんでしたよ」

 

いや、本当に。おかしなキノコでも食べたのかと本気で疑った。見た感じでは正常っぽいが、普段から行動の読めない紫さんがこんな事をするのは異常でしかない。恐怖しか覚えない。

 

「あら悲しいわ。貴方が散々言ってきたからそうしてあげたというのに」

 

およよ…と泣く紫さん。そんな下手な嘘泣きを慰めるような変人はここにはいないでしょうに。

 

「そう言えば貴方どうやってこれが人形だと見極めたのかしら。私の友人に頼んで作ってもらった私そっくり人形は藍でも騙せるはずなのだけれど」

 

切り替えが早すぎやしないだろうか。そんなことより藍さんも紫さんの悪戯の餌食になっていたのか。この人形は確かに紫さんそっくりだ。作った人は天才だと思う。だが詰めは甘い。

 

「人形に紫さんの妖力と魔力を纏わせるのは素晴らしい発想だと思います。しかしその量がいつもの貴方よりはるかに少ない。更には感情に付随するはずの揺らぎが一切無い。これはいくら貴方でも不可能な事なのです。

 

そして極めつけは他人の魔力が含まれている事。この質の魔力を持つのは貴方クラスの大妖怪か、鍛えている魔法使いのみ。貴方クラスの大妖怪はほとんどいない事を考えれば恐らく魔法使いでしょう。この人形を貴方だと思い込むのも無理でしたね」

 

藍さんは強力な妖怪だが他人をよく観察するのに慣れていないのだろう。だから相手の妖力の僅かな変化を察知しない。圧倒的強者の特徴だ。相手の僅かな変化を突くのではなく、力で押しきることができるから。

 

「そこまでわかっていたのね。本当に貴方には驚かされてばかりだわ。…そこまで気づいているのならもはや隠す必要も無いわね、出てきてもいいわよ………アリス」

 

 

   ~八雲紫~

 

 

実を言うと初めから気づかれていることはわかっていた。どこまで気づいているのか、それを知るためにわざわざここまで引き延ばしたのだ。

結論として全て気づかれていることが分かった。

 

よくよく見ればこれを人形だと断定するのは難しくない事だろう。先ず纏っている妖力量が少ない事に疑問を覚えなければそこまでなのだが。

 

私は普段から纏っている量を最低値として設定している。見かけ上それより少なくすることも可能であるが、他人からなめられないようにするためにもこれくらいは出しておかないといけないのだ。人形に纏わせているレベルの量では大妖怪クラスは威圧できない。

 

だからこれは偽物のゆかりん人形である。それだけの理由でも良かったのだ。私が他人に求めるものなんてその程度であるし。

 

さとりは他人を観察することが得意だ。それを知っていたから彼女の二つ目の理由もまだ予測できた。私の感情を推し量るのにも纏う妖力や魔力の微量な変化を感じていたらしいからだ。

 

だが三つ目、これは私ですら予測もしなかった看破だ。此度の計画に協力してくれたアリスの魔力は私のものに紛れて非常に薄くなっている。私が感じ取ろうとすればそれこそ数分間無言で集中しなければならないだろう。

 

さとりがそれをせずとも見破ったと言うのは偏に彼女の知覚が私のものをはるかに上回っているという事実に他ならない。

さらにその質から魔法使いであるところまでたどり着いた。恐ろしい知覚。しかし私の目的は果たすことができた。「出てきてもいいわよ………アリス」

 

彼女にはさとりが覚妖怪であること、覚妖怪とは心を読む妖怪であることまで話してある。その上で出てくるかどうかは彼女の判断だったがどうやら出てきてくれたらしい。心を読まれても平気なのだろうか。

 

「はじめまして、アリス・マーガトロイドよ」

「こちらこそはじめまして、古明地さとりです。今回の人形を作ったのは貴女だったのですね。骨格や肉の付き方まで細部にわたって非常によくできていましたし、動きも違和感は無かったですよ。素晴らしい腕を持っていらっしゃるようですね」

 

私が初対面の時はこんなに機嫌は良くなかったと思うのだけれど。さとりがべた褒めするほどに素晴らしい人形だったみたいだ。というか骨格や肉の付き方て…貴方医者じゃないでしょうにどうしてそんなに詳しいのだろうか。

 

「貴方医者でも目指しているの?」

「いえ、医者になっても地底の妖怪たちとは会いませんから意味はないですよ。ただ最近少し医学書を齧っているのは事実です。

もしもの時のために人体の急所という物を知っていた方が良いかと思いましてね。非力な私でも死なないようにですよ」

 

医学書まで齧っているのか。それもう読書では無くないか?というかさとりが非力って………。

 

「おや、私は強いだろうって?そんなことはありませんよアリスさん」

 

私の心を読んだのかと思って一瞬ドキリとした。「嘘は良くないわよ、さとり」

 

「確かに嘘は良くないものかもしれませんが時として自分を護る最強の盾となる事も多いですよ。ですから一概に悪いものだとは思いません。

あの鬼でも嘘を吐きたくなる時はあるのです。彼らの矜持で口には出さないようですが。

 

しかし本当にそれでいいのでしょうか?嘘は政治にもよく使われます。民を導くのに都合が良いですからね。それは悪いことでしょうか。私はそうは思いません。

 

最近地底に入ってきた読み物がありましてね。そこにはこういう趣旨の文が書かれています。

 

戦時中の日本はラヂオ放送で事実を捻じ曲げて流し続けた。

 

このような文です。もし嘘を流していなければどうなっていたでしょうか。犠牲となる兵は減っていたでしょうか。兵の被害は減っても一般国民の犠牲者はさらに増えていたのかもしれません。

 

物事には犠牲が付き纏います。嘘は犠牲を生みますが、同様に真実も犠牲を生みます。犠牲の無い平和など吹けば飛ぶように儚い物、安っぽい物なのです。

真実でも嘘でも犠牲は必ず生じるのです。ならば少しでも民の不安を拭い去れる嘘を吐いた方が良い気がしませんか?」

 

私も嘘を吐かないことは無い。一概に嘘は悪であると言えないことも知っている。幻想郷を結界で覆う際にも犠牲は多数あった。人を襲えなくなった妖怪たちが良い例だ。その際は妖怪の弱体化を犠牲にして妖怪の存続を採った。

 

数年前の吸血鬼異変だってもともと幻想郷に住んでいた多くの妖怪を犠牲にして吸血鬼たちを生かした。それは彼女たちが新たなパワーバランスの一角になれる力を持っていたからにすぎない。

 

幻想郷の未来のために、幻想郷の構成員を大量に始末する。結局私は自分に嘘を吐いているだけなのだ。己の行動の全てを『幻想郷のために働いている』と正当化するために。

 

「とまあこれは私の考えですので強要はしませんよ。

 

さて、話題を変えましょうか。そう言えばアリスさんはどうして魔法使いに?………ほう、魔界ですか。だから心を………。今回はどうして紫さんの人形を作ったのです?…おや紫さん、彼女に言ってなかったのですか?」

 

そう言えばアリスには私そっくりの人形を作って、としか言っていなかったような気がする。

 

「悪気はなかったのよ。忘れていただけ。今回こんな事をしたのは貴方の()()を確認するためよ。そしてアリスにリアルな人形を作ってもらったのは次の計画のための練習ね。さとりもアリスも私の思っていた以上だったわ。計画は順調に進められそうね」

 

「その計画とは?」

「今はまだ言えないわ。生まれ変わりの年まではね」

 

生まれ変わりの年。日、月、星で気質の三精。春夏秋冬で生命の四季。そして火水木金土で物質の五行。このうち人を惹きつけ、月も星も隠す『日』、誕生を表す『春』、すべての物が還る再生の『土』が合わさった時、幻想郷は花で覆われる。

 

六十年周期で訪れる。幻想郷もそれに合わせて結界を張った。次に訪れるのは第120季、つまり二年後である。

 

「あぁ。アリスさんはまだ若いから知らないのですね。簡単に言えば自然があらゆるものを再生しようとする年の事です。六十年に一度ですからこれから何度も見ると思いますよ」

 

人間は一生のうちに二回見られたら途轍もなく運がいいと言える。だが妖怪は違う。悠久の時を生きる妖怪にとっては六十年などただの節目に過ぎない。

 

今代の巫女、博麗霊夢。彼女はその年の事を知らない。そして彼女にそのことを教えるべき人間はもういない。




紫様がどうしてこんな事をしたのかを明言するのは花映塚辺りになります


また次回も読んでいただければ幸いです
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