面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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今回はちょっと書き方を変えてます。個人的にはこっちの方が読みやすいかな、と思います


面白い奴か、危険因子か

   ~星熊勇儀~

 

 

 地上では最強と呼ばれた妖怪の山からここ地獄に越してきてどのくらい経っただろうか。

 

人間に裏切られたことで多くの鬼は私たち四天王とともに地獄に来て働いている。ここにいるのは幽霊たちばかりなので張り合いはないが裏切られることも無い。良い環境とは言い辛いが、仕事終わりに繁華街で酒を飲んでいれば嫌なことも忘れられるというものだ。

 

最近新しい妖怪が地獄にやってきた。種族は覚。確か心を読んだり精神を壊したりする妖怪だったと思う。隠し事ができない上に精神を攻撃されるのだから妖怪からも人間からも嫌われている。私に隠し事はないが心を読まれるのは決して気分の良い物ではない。

 

それでも私がさとりに悪い感情を抱いていないのは、あいつがそこらにいる弱い鬼たちではなく真っ先に私に話をしに来た事を評価しているからだ。心を読めるのなら私が力の勇儀だと分かっていたのだろう。その上で怖気づくことも無く空き家があるかどうかを聞きに来たのだ。なかなか肝が据わっている奴だと思う。

 

さとりは教えてやった空き家に住むようになってからはほとんど外に出て来なくなった。妹のこいしの方はたまに出てきては私や萃香と話している。曰く、無条件で自身を嫌わない人間や妖怪と話してみたかったらしい。私たちは丁度良い相手だったみたいだ。

 

心を読める者の考えは私たちにはわからないものだ。私たちからすれば便利な能力な気がするが、本人たちにとっては嫌われるだけなので嫌らしい。他人に嫌われると言うのは当たり前にあることだし、現に私たち鬼もそうだ。私たちが人間から嫌われている理由は単純、強すぎるからだ。やろうと思えば下っ端の鬼でも数人いれば都くらい簡単に機能不全にできる。

 

私たちは人間からは嫌われているが仲間の事はあまり嫌わないものだ。しかしさとりたちはその仲間がいない。だから私たちのような存在は有難がられるのだろう。仲間の鬼たちにも何とかして彼女たちを嫌わないように仕向けたいのだがそれは萃香に止められた。

 

「おい萃香、どうして私を止めるんだい?あいつらにもわからせればいいだけじゃないか」

 

「それが良くないんだよ勇儀。よく考えてみなよ。あいつらだって心を読まれるのが嫌でわざわざ古明地たちを敬遠してるんだ。そんなところに古明地たちと仲良くしろ、と言ったって意味ないさ。たとえ勇儀の言葉でもね。ほい、酒」

 

「どうも。しかしそんなものなのか?簡単なことだと思ったんだけど」

 

そもそも心を読まれて困ることなど端から考えていないだろうに。

 

「鬼である以上隠し事なんて無い、勇儀はそう思ってるんだろう?」

 

「よくわかったね。しかしその通りじゃないのかい?私たち鬼は自分の心にも嘘は吐かんだろう?」

 

「それが違うのさ。賭博場の規則に則らない鬼がいることは勇儀だって知っているだろう?鬼の連中のほとんどは元々人間だ。誰かを恨んで鬼になってるんだから隠し事の一つや二つはあって当然なのさ。だからあいつらに古明地たちとの関りを強要しない方が良い。下手すりゃ古明地たちに手を出しかねないからね」

 

「それは困るな。折角面白そうな奴に会えたというのに殺されてはたまらないね」

 

「確かに私らに気兼ねなく話しかけてくる奴なんてここじゃあいつらくらいのものだからね。紫に気に入られるかもしれないね」

 

「あぁ、あの地上の賢者殿かい?あいつに気に入られると可哀そうだね。ただの手駒にされちまう」

 

あの妖怪と友人でいられるような連中は少々頭が切れるくらいでは駄目だ。何が言いたいのかわからない事を話し、それを理解できるような奴でないといけない。そうでなければ話について行けずに知らず手駒にされているというわけだ。それを考えると萃香は凄い奴だと思う。

 

賢者殿の式神でさえ彼女にすればただ従順に言う事を聞くだけの駒なのだろう。さとりにはそうなってほしくは無いのだが。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

なんと地獄の場所が変わることになったらしい。地獄は相当広いが故そう簡単に代わりの場所が見つかるわけはない。となると計画自体はもう数百年以上前から始めていたのかもしれない。鬼たちのほとんどは地獄の引っ越しとともにここを出て行くらしい。私など一部だけがここに残るようだ。

 

この広い旧地獄に残されているのは私たち鬼の一部とさとりたち、地獄鴉と何故か黒猫までいる。あとは怨霊たちと一緒に地獄に落とされてきた舟幽霊その他。さとりは繁華街まで来ないし鴉と猫と怨霊は話すこともできない。実質この元繁華街にいるのは鬼だけになっている。騒ぎの好きな私たちには少し物足りない。嫌がるさとりを連れ出して宴会でも開こうか。こいしは何処にいるかわからないし……。

 

 

旧地獄になってからしばらくすると地上で嫌われていた妖怪たちが地底に住むようになった。地獄に行かなかった鬼や土蜘蛛なんかは陽気な奴らなので宴会も頻繁に開かれるようになった。良いことだ。ここは旧都と呼ぶようになったが賑やかさは繁華街の頃と遜色ない。

 

今日も宴会をしようかと考えていると一瞬感じた気が高ぶるほど濃密な妖気。

 

「お前さん強いね。どうだい?私と一戦……」

 

あまり見ない服装。それにこの顔何処かで見たことがあるような……。そうだ、この胡散臭そうな顔は地上の賢者殿だったか」

 

「胡散臭いなんて失礼ですわね。途中から声に出ているわよ」

 

「おや、すまないね。鬼は正直だから許してくれよ。私は山の四天王の星熊勇儀」

 

「正直だからこそ、よ。まあいいですわ。私は貴方の予想通り八雲紫。この辺りで一番統治者に向いていそうな妖怪に心当たりはありません?」

 

「私は駄目だし他の鬼の連中も統治はできないだろうしなあ。そうなるとさとりかねえ。あいつなら上手くやるだろうさ」

 

「覚……ですか。その妖怪の名前は?」

 

「あ?あぁ、あいつは名前がさとりなのさ。種族も覚だけどね。家まで案内してやろうか?」

 

「えぇ、よろしくお願いしますわ。閻魔が来るまでには退散してしまいたいですから」

 

力のある妖怪のくせに閻魔が怖いのか。それとも単に苦手なだけなのか。

 

           ・

           ・

           ・

 

「ほら、着いたよ。ここがさとりの家だ。それじゃあ私はここで……」

 

「お待ちなさい。貴方たちにも関係のある話になりますから一緒に聞いて行ってくださいな。そこの萃香も」

 

「あれ?気づいていたの?勇儀は全然気づいていなかったのに」

 

私はそういう事が専門外なだけだ。鬼ならば力こそ正義なのだ。

 

「勿論気づくに決まっているでしょう?私はその手の術が得意ですもの。本当なら貴方たち以外の四天王の方にも話を聞いてもらいたかったのですが」

 

「それはできないだろうね。何せ一人は地獄と一緒に行ってしまったし、もう一人は地上に探し物に出たきり帰って来ていないからね。いくら賢者殿でも場所がわからなければ連れてくるのは不可能だろう」

 

「なら仕方ないですわね。二人には聞いていただきますが」

 

「おーい、さとり。客人だぞ」

 

「……なんでしょう。まったく、自分の事を客人だなんて……。あー、貴方は一体……ふむ、なるほど。地上の賢者様ですか。まあそこにずっと立たせているのも悪いですしどうぞお入りください。何か面倒ごとの予感がしますが

 

「貴方……私の心が読めているの?」

 

「いえ、読めません。正直驚いていますよ。私の能力が通用しないのは妹くらいだと思っていましたから。一応言っておきますと貴方の事が分かったのはそこの鬼二人のおかげです。さあ、狭いですが適当にお座りください」

 

流石さとりだ。想定外の事態が起きても顔に出さないとは。それにこの妖力を受けても何とも思っていないようだしますます面白い。

 

「では早速本題に入らせていただきます。今回私が地底まで来た理由、それは……

 

 

   ~八雲紫~

 

 

今まで地獄のあった地底から地獄がなくなり、地獄の連中という統率者がいなくなったようだ。そのことに危機感を持った閻魔が統治者を作って地底を管理させるつもりらしい。近頃地底に引っ越す者が急激に増えている。どの妖怪も地上では嫌われている者ばかりだ。

 

私の理想を実現させるためにはこの嫌われ者たちを地底に閉じ込めるのが一番だ。閻魔が地底に赴く時間より早めに行くことで私の計画を進める。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

地底の管理者に相応しいらしい古明地さとりという覚妖怪。私の心は読めないはずだがまるでそのように感じない。心理に詳しい者はわざわざ心を読む必要も無いという事なのだろうか。私が急に家を訪ねても、少し強めに妖気を出してみても動揺は見られない。脅しが効かない以上私の案も破棄されかねない。扱い辛い妖怪だ。

 

「今回私が地底まで来た理由、それは地上と地底の不可侵を要請するためです。地底の怨霊管理をしていただくことを条件に地上の妖怪からは一切の干渉することも致しません。いかがでしょうか」

 

これはかなり地上に有利な条件だ。さとりならわかっているだろう。ここでどう出てくるか、そこでこの妖怪への評価は大きく変わるだろう。ただの扱い辛い駒なのか、それとも……。

 

「ふむ、……まあいいでしょう。怨霊を管理()()()()()地上からの干渉は無くなるのですね?それなら構いませんよ。しかし一応勇儀さんと萃香さんにも聞いておきましょうか」

 

「私は別に構わないよ。地上に出ても今の人間はつまらないからね」

 

「私も今のところ地上に出るつもりはないからいいよ。それに怨霊の管理は古明地の得意分野だろう?なら私たちはただ遊んでいるだけでいいんだもんね」

 

「なら決まりですわね。怨霊を管理することでの地上の妖怪からの不干渉、という事で」

 

「えぇ、そういう事です。ですから貴方自身も今後地底にお越しくださることのないようお願いしますね」

 

なるほど、そう来たか。さとりは駒にすらならない異端な妖怪だったという事か。これは初めての完敗かもしれない。

 

「えぇ、分かったわ。最後に一つ聞かせてもらっても良いかしら?」「どうぞ」

 

「貴方、本当に私の心を読めていないの?」

 

「初めにそう言ったではありませんか。鬼に誓って嘘ではないですよ。ただ貴方の心を読む手段が皆無か、と聞かれるとそうではありませんけど」

 

「それは……どういう事かしら?その手段を使っていない証拠でもあるの?」

 

この質問は大陸の西の端では悪魔の証明と呼ばれている。当人にしかわからない事ならば完全に証明することは不可能に近い。

 

「そうですね……証拠を出すことはできません。しかし貴方のその結界は非常に強力です。心の専門家である私でも貴方の心を読もうと思えばその結界を破壊するしか方法はありません。つまり貴方の精神を破壊する、という事です。これ以上何か説明が必要でしょうか?」

 

「いえ、結構よ。それでは失礼させていただきます」

 

心を読む手段はあるらしい。それは嘘ではないのだろう。先ほどの返答の意味は恐らく私の精神などいつでも破壊できるという脅迫の表れ。彼女を地底に閉じ込められたのはとても幸運だったのかもしれない。地底への不干渉。破った者が現れた時、私の精神は持つだろうか。




これは勘違いタグ必要ですね。付けておきます

次回はさとり視点です


次回も読んでいただければ幸いです
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