面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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雪の降る晩春、雪の止む初春

   ~古明地さとり~

 

 

萃香を地上に出してから早数か月。外はもう雪が降り始めている。もう少しすれば地霊殿にある露天風呂も雪が積もって綺麗に見えるようになると思う。今はまだ積もるほど降っていないが。

 

勇儀もきっちり二か月間酒を断って生活できたようだ。罰が終わった後は珍しく酔いつぶれるまで飲んでいた。それほど辛かったのだろう。しかしそこで約束を守り切る辺りが鬼たる所以なのだ。精神力はそこらの妖怪の比ではない。

 

萃香の様子はわからない。でも紫さんから苦情が届いていないという事は何も問題を起こしていないという事だろう。起こされたら流石に私の責任だ。

紫さんからの許可が下りたとはいえ、地上送りにしたのは私の判断だからだ。

 

勇儀の刑期に対して萃香はかなり長いが、これには一応意図がある。地上に出たいと思っていた彼女に今の地上を見せて最終決定をさせるための口実だったのだ。

つまりどうせいつかはやろうと思っていたことである。

 

それを刑罰という形で行う事で約定の穴を突き、合法的に萃香に地上を体験させる。表面上は罰と思わせるために色々地上の悪そうなところを言っただけだ。勿論あの言葉に嘘はない。私は今の地上をああいうものだと思って言ったのだ。

 

デメリットばかりを並べられると必然的にその行動が罰ゲームであるように感じてくる。メリットを何一つ言わずデメリットを数多く述べる。そうすれば当人たちだけでなく周囲にいる者たちもそれが罰だと感じるようになるものだ。この程度なら心理操作などしなくてもいい。そもそも紫さんに対してはできないし。

 

萃香が地上を気に入れば二年半後以降も地上を主な住処にすれば良い。気に入らなければ今まで通り地底で暮らせばいいだけだ。気に入らなかった場合は萃香にとって相当重い罰になるだろう。逆に気に入った場合には全く罰にならない。まあそれならそれで良いだろう。

 

「はあ、疲れましたね。寒くなっても来ましたし仕事に支障が出そうです。寒くなくても仕事は中断されるんですけど………ねぇ、紫さん?」

 

「よく気づいたわね。死角にいるし気配もかなり薄くしていたはずなのに」

 

紫さんの妖力は他の妖怪より際立ってわかりやすい。それに最近感覚が鋭くなった気もするしそのせいでもあるのだろう。

 

「人間は年老いて仙人より仙人らしくなる、と言われています。長く生きれば感覚が鋭くなるのは妖怪も同じだと思いませんか?」

 

外に出ない上に尋ねてくる者はほとんど扉から入ってくるので紫さんが来た時くらいにしか実感できない変化だが。

 

「そう言う物なのかしらねぇ。まあいいわ。寒くなって来たしもうすぐ冬眠するから今日はそれを伝えに来たのよ」

 

紫さんは元々の感覚が鋭いからわからないだけなのではないだろうか。それにしても冬眠か。熊などの動物みたいに冬の間は一切起きない、というわけではないらしいが実態は謎のままだ。もうかれこれ千年近い付き合いになるにも拘わらずだ。

 

謎の多い女性は魅力的だというが…紫さんの場合は謎が多すぎて敬遠されているんだろう。何を考えているのか私ですらわからないのだから他の者にわかるはずが無い。

 

「あとは萃香の事ね。あの子は宴会が好きなのに、出てきた時には既に異変解決の宴会が終わっていたようで随分がっかりしていたわ。今は大人しいけれどこれがいつまで続くか見物ね」

 

萃香はやろうと思えば強制的に人を集めて宴会を開かせることが可能だ。疲れる以外に特に害はないけれど。地上も宴会好きは多いと聞くし多分大丈夫だろう。鬼にはついて行けないだろうが。

 

何にせよ今のところは特に地上に不満があるわけではないようだ。楽しみにしていた地上、精々楽しんでもらいたいものだ。罰を与えている側としては複雑だが。

 

「あー、眠い。もうそろそろ帰るわね。また春以降に会いましょう」

「えぇ、おやすみなさい」

 

寒いと言っても地上に比べればかなりマシなはずだ。地底は地上と違って太陽はないがマグマがある。それもそこかしこに。これのおかげで広い地霊殿もそこまで寒くならないのだ。

その分雪はかなり早くに融けてしまうけれど。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「そう言えばお空、温泉の温度もう少し上げられないかしら。この前要望が入っていたわ」

 

「大丈夫ですよ、さとり様。熱くなりすぎない程度に上げればいいんですよね?」

「えぇ、よろしくね」

 

初期の頃ほどではないが今でもちょくちょく目安箱に要望が入る。少なくなっているのは良いことだ。その分地底の妖怪たちが満足しているという事だから。

 

今年の地底は少し様子がおかしい。雪はもう既に融け切ったというのに石桜が現れないのだ。去年も石桜のせいで大変なことになったが、今年はどうしてしまったと言うのだろうか。

量は年ごとにばらつきがあると言っても全く無い年は今まで無かった。これが地底での異変なのか、それとも地上の異変の影響なのか。

 

怨霊の監視を少々緩められるのは有難いが、この異常は地底の妖怪全体を不安にさせるはずだ。現に戒は質問攻めにあっているらしい。

こういう時に限って頼りになりそうな紫さんは来ないし私一人で解決できそうな問題ではない。

 

もう皐月である。本来なら石桜はもう桜吹雪になって地底を覆っている時期のはずだ。これが地底での異変ならば手の打ちようはないし、来年からどうなるかも分かったものではない。

 

もう一つの可能性、地上での異変の影響。実はこちらの方がよろしくない。石桜が現れないという事は地上で桜が咲いていないという事だからだ。

原因はわからない。桜が咲かない程の異常気象なのか、可能性としてはかなり薄いが地上の桜が全て枯死したか。

 

地底の妖怪たちの不安を軽減するために適当な話をでっち上げても良いのだが…。そうするか。私の中で最も納得できそうな予想を地底全体に向けて発表する。

勿論予想だという事は伏せて。そうしないと不安は無くならない。

 

先ずは第三者目線で納得できそうな予想をする必要がある。一つ一つ順を追って考えて行けばたどり着くだろうか。

 

分かっていることとしては

 

・雪が止んだことから冬は正常に終わった。(少なくとも地底では)

・地底の春を告げる石桜が無い。→地上では桜が咲いていない?(もしくは地底だけが異常)

・冬眠の報告をした次の年には毎回している紫さんが起きた報告をしに来ない。→地上で何かしら

 の異常事態があってその対処をしている?(もしくはまだ寝ている)

 

大体この三つだ。ここから凡そ正しいと思われることは予想できよう。あとは戒に伝えて広めてもらえば騒ぎは収束するはずである。

 

 

 

「さとり様、今日も何かしらの要望が入っていましたよ」

 

どれどれ………ふむ、最近たまに入れられている内容と変わらないか。

 

「丁度良かったわ。戒、地底全体に大々的にこう発表しなさい。『地底に春が訪れないのは地上の春告精がさぼっているからだ』と。春告精と言うのは春が来たことを伝える妖精で、彼女が通った後は一瞬で春が訪れるそうよ」

 

勿論紫さんから聞いた情報だ。春には妖怪にも劣らない力を持つらしい。私の予想はこんなものだ。あえて地上の桜の話を出さなかったのには理由がある。

地上の桜が咲いていないから地底でも石桜が咲かない、と知っている妖怪がどれほど少数か分かったものではないからだ。

 

それならば少しでも想像しやすいように言うのが良いだろう。『地上が春でないから地底も春ではない』というよりもはるかに理解しやすいはずだ。

 

地底はそれ一つで独立して存在しているのではない。外部からの干渉を遮断しているとそう見えなくもないが、実際は地上の影響をかなり受けているのだ。季節があること自体が何よりの証拠だ。

地獄だった頃は完全に独立していた覚えがあるが今はもう違うのだ。

 

『地獄』として独立するのではなく『旧地獄』として幻想郷と相互に関わり合う世界になった。地獄の時から石桜自体はあったが。

 

「わかりました。あ、それともうすぐ来客がある様です」

 

客は………藍さん?どうして紫さんではなく藍さんなのだろうか。どうやら一旦は急ぎの用で帰ったらしい。主人と違ってきちんとアポを取るところは素晴らしい。

でも紫さんはむしろそのままでいてほしい。逆に心臓に悪いから。難しいところだ。

 

とりあえず藍さんが来るまでにできるだけ仕事を片付けておくか。そうでもしないとまた寝る時間が遅くなってしまう。

 

何故こんなに大量の仕事をしなければならないのだろうか。流石にもう慣れてはいるが、辞められるのであればいつでも辞めたい。

私が求めた気楽な生活は何処へ行ってしまったのだろうか。「はぁ」

 

「ため息なんてついてどうしたの?」

 

何もないところから急に現れられるといくら感覚が鋭くなったと言っても意味はない。普通に驚いてしまった。

 

「いえ、ただ仕事が多くて疲れているだけですよ。それでどうして紫さんなんです?藍さんだと思っていたのですが」

 

「私が異変の事後処理をしていたのは本当よ。それが思いのほか早く終わったから私が来たの」

 

異変の事後処理なんて初耳なのだが。というかやはり地上で何かしらの異変があったようだ。あとは私の予想が正しかったかどうかを確認するだけ。

 

「異変とは春が来ない、またはそれに類するものでしょうか?」

 

「へぇ。…えぇ、そうよ。春が長らく来なかったの。良く分かったわね」

 

ここまでは私の予想通りか。春告精は果たして関係あるのか。

 

「地底にも影響が出ていましたからね。前にも言った石桜が未だに見られない。これは地上でも桜が咲いていないと考えられましたからね」

 

「あぁ、地底の。まったくあの子ったら………」

「あの子とは?」

 

あの子とは誰だろうか。言いぶりからして私の知人ではない。そしてこの異変と直接の関係があるのだろう。

 

「私の友人で冥界のお嬢様よ。その子が幻想郷から春を奪っていたの。この前巫女やらに負けていたから今は春を返しているわ。もうすぐ地上でも桜が咲き乱れるでしょう。

そうすれば地底でも桜吹雪が見られると思うわ。友人が迷惑をかけて悪かったわね」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ。地底でも不安を感じている者が多かったくらいですから」

 

春告精は全く関係が無かったらしい。つまり私の導き出した解答は二十点と言ったところか。しかし『春を奪う』って凄いパワーワードな気がする。

誰がそんなことを思いつくだろうか。そもそも季節を奪うという発想がどこから出てきたのか知りたいところだ。流石は紫さんの友人。することも桁違いだ。

 

何はともあれもうそろそろ桜吹雪が見られるようになるらしい。去年の一件で石花見は禁止したが守る者はいないかもしれない。困った妖怪たちだ。




石桜に関してはかなり独自解釈が入っていると思います。ここの設定を真に受けないでください

一気に時間を進めて妖々夢終わらせました。主人公と関係のないところで進む話を長々書いても仕方ないですから


また次回も読んでいただければ幸いです
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