面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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今回は眼がチカチカするかもしれないです、と注意しておきます


酒は問題だらけ

   ~伊吹萃香~

 

 

春が短くなったのは紫の友人である西行寺幽々子って亡霊のせいらしい。おかげで楽しみにしていた花見もあまりできなかった。まあしていたとしても私はこっそり参加するだけだっただろうけど。

でも私は宴会料理ではなくあの騒ぎを求めているのだ。

 

それにここは幻想郷。宴会には人間だけでなく妖怪も多数参加している。というかほとんど妖怪である。私もこの前の花見に一度行ってみたがあれはなかなか良かった。

子供っぽい妖怪が多いせいで酒は多くなかったが思いのほか楽しめた。何故か紫はおろか幽々子にも居るのはバレていたようだけど。

 

問題はその宴会が少ない事だ。こうなったら無理矢理にでもみんなを集めて宴会を開かせるのが一番かもしれない。そうと決まれば早速………「何をするつもりなのかしら?」

 

「ん?なんだ紫じゃないか。何をするつもりって言われてもねぇ…決まってるじゃないか。宴会よ。今年は長い冬のせいで花見が全然できなかっただろ?

だから私が宴会を開いてあげるのよ。紫も来たかったら来ていいよ。一緒に酒を飲む奴らなんていなさそうだけど」

 

春になってから一回だけあった宴会も見てきたが紫は自分の式神や幽々子と飲んでいるだけで他の奴らとは挨拶すらろくにしていなかった。

例外は幼い吸血鬼だけだ。一勢力の長として他の勢力に挨拶に行くとはなかなか世の中が分かっている娘だ。幽々子なんて挨拶する気も無かったようなのに…。

 

「あらあら失礼ね。でもまあ私は不参加としておきましょうか。タネの分かっている宴会に萃められるほど衰えてもいないし。それにしても貴方萃めるだけ萃めて自分は姿を見せないんでしょう?あの子たちは何も気にせずに宴会を続けてしまうのではなくて?」

 

私は自身の能力で人妖を萃める。そして私が姿を見せずに宴会に参加するという事は私の妖気自体は広範囲に拡がるわけだ。

 

「それに関しては安心しなよ。私自身が薄く広がっていたら誰でも気づくだろう?それに私は鬼なんだよ?流石に馬鹿でも気づくでしょ」

 

「鬼…ね。まああまりにも気づかないようならば仕方なく私も介入するわ。解決されない異変などあってはならないのだから。私を宴会で見ないといいわね」

 

紫を宴会で見ないという事は、紫の力を借りることなく人間たちが私を退治して異変を終わらせるという事だ。流石紫、分かっている。

私が地上の人妖に求めているのはまさにそれ。薄まっている私を自力で見つけてその上で退治して見せる事。

 

パッと見た感じではそれなりに力を持っている者は多い。私に気づいてやってくる者もきっといるだろう。霧になっている私を萃められるかどうかは知らないが。

 

それよりも気になったのは紫の「鬼」という言葉への反応。地上の人間たちは鬼の強さに絶望して気づいても退治しに来ないという事なのだろうか。

それにしては何処か寂しさを感じる言い方だったけど。

 

「そうね。じゃあ始めるとしようかね。世にも恐ろしい百鬼夜行の復活だ。紫もその身でしかと受け止めな。ま、あんたは参加しないんだけど」

 

「とりあえず今日はやめておきなさい。…気づいていないのなら言わせてもらうけれどもう黄昏時よ。この時間以降は妖怪の時間。でもね、今の神社には酒はおろか食材も無いわよ。

するなら明日からにすることね。貴方も酒の無い宴会なんてしたくないでしょうから」

 

「そりゃ尤もな意見だね。分かったよ、明日からするとしよう」

 

確かに紫の言う通り。酒も料理も無い宴会なんてする意味がない。ただ人を萃めても疲れるだけだ。私ではなく人間たちが。

 

「頻度は考えて頂戴よ?毎日なんてしていられるのは貴方たち鬼か天狗くらいのものよ」

「あいよ」

 

本当なら毎日でも宴会をしたいところだがそれをすると人間の身体では耐えられない。若く、子供っぽい妖怪が多い今の幻想郷では三日に一回くらいが妥当なところだろう。

 

あーあ、勇儀の奴は今頃宴会で酒でも飲んでいるのかなあ。

 

地上に来てからはほぼ毎日一人酒だ。極たまに紫が一緒に飲んでくれる時はあるけどあいつはあまり飲まない。恐らく飲もうと思えばかなり行ける口だと思うのだが絶対にそこまで飲まない。

だから紫の奴と飲んでいても楽しくはない。天狗と飲むのも違うし。あいつらは人の顔色ばかり気にしているから一緒に飲むのは紫以上に楽しくない。酒豪なのに勿体ない。

 

地上なら華扇の奴も何処かにいると思うんだが何処にいるのか見当もつかない。腕を探しに出て行った後のあいつがどうなっているかは知らない。

………待てよ。紫なら知っているのではないだろうか。幻想郷最古参の紫なら。

 

「あー、ちょっと待ってよ紫。聞きたいことがあるんだけど」

「何かしら?」

 

「華扇の奴が今どこで何をしているか知ってるか?」

 

少なくとも数百年前に地底に来た時は一緒に来ていたはずだ。となるとあれ以降の華扇も勿論知っているはずだ。

 

「あの子の今?うーん、分からないわね。かなり長い間会ってないもの」

「そうかい。そりゃあ残念だ」

 

確信した。紫は今の華扇を知っている。だがそれを言わずにあえて私に嘘を吐いたという事は相当私にとって都合が悪いのか。それともあいつにとって都合が悪いのか。恐らく後者だろう。

紫が言わないのなら自力で探すまでだ。これからの宴会が楽しめなければ、だが。

 

 

   ~古明地さとり~

 

 

私はどうやら鬼というもののあり方を誤解していたらしい。

 

紫さんの言った通り地底は一気に春が訪れた。石花見禁止令も破って花見をしている者はいた。

だが私の予想とは異なり鬼は全く花見をしなかったらしい。これはお燐からの情報であるし、彼女なら見逃すはずもないので正確な情報でもある。

 

いくら鬼でもこの桜吹雪には勝てないだろうと考えていた私が愚かだったという事だろう。

約束は絶対に破らない、そう言う意志が感じられた。去年やらかした勇儀が必死に説得した可能性も捨てがたいが。

 

今舞っている石桜ももう少しすれば見られなくなるだろう。季節はもう晩春。地上ではもう花見のピークは終わっているだろう。

萃香にとっては残念な事だろうが地上はそもそも鬼のするような宴会自体が少ないと聞いている。彼女の能力を使えばそんなものは関係なくなってしまうのだが、まだ二年目だし自重はするだろう。

 

因みに鬼たちは花見ではなく単なる宴会と称して毎日酒を飲んでいる。これでは全く意味がないのだが言うだけ無駄であろう。

勇儀もその宴会に入ってしまっているのが残念だ。彼女さえこちらに付ければ勝ちは明白なのに。

 

「さとり様。これ今日の分の意見です」

 

どれどれ中身は………

 

「ありがとう、戒。………胃薬持ってきてくれないかしら」

 

流石に酒の瓶が足りなくなってきた。どうにかできないか

 

これは酒屋の意見か。確かに酒の瓶は地底だけで回すのに限界がある。実は地底では昔から『酒瓶リユース運動』なるものを行っている。勿論名前は違ったがしていることは今と変わらない。

飲んだ後の瓶を洗って買った店に返す、という運動である。理論上はこれで十分にやっていけるはずであった。

 

しかしそうはならないのが地底だ。飲んだ後の瓶で殴り合いをする、酔った勢いで瓶を割る…などによって酒瓶の数はどんどん減っているのが現状だ。

しかも殴り合ってもタフだから死なないのが質の悪いことが。馬鹿は死ななければ治らないというのにその馬鹿がタフとは面倒な事この上ない。

 

こうなれば今あるこの運動を強制的に法にしてしまうと言うのが一番だ。地底は基本的には文字通りの無法地帯だ。

しかし妖怪たちを縛るものが一切ないかというとそうでもない。妖怪たちへの石花見禁止令、怨霊たちへの娯楽禁止令などがその筆頭だ。

 

それにしても人間の作ったという胃薬はよく効く。即効性はないが確実に治してくれるのは有難い。消費量はかなり多いけれど。そろそろ紫さんにたのんで持ってきてもらわなければならない。次来た時にお願いしておこう。

 

 

酒瓶リユース令だと何処かふわふわしていて強制力が少ないように聞こえる。名前からインパクトのあるものにしなければ目にも止まらない。と言っても難しすぎても読めない妖怪が出てくる。地底の識字率は低くはないが高くも無い。

 

まあそんな者に対しては絵でも書いておけばいいだろう。絵なら字の読めない妖怪や子供の妖怪でも簡単に理解できるだろうし。

 

「紙と筆…ペンでも良いけど持ってきてくれないかしら」

「少々お待ちを」

 

大体の構想はできている。それを上手くまとめられるかが問題だ。私には美的センスの欠片もなさそうだし。戒がやった方が上手くいくかもしれない。

 

 

   ~ ~

 

その日のうちに地底中の酒屋という酒屋、目につく建物のの壁、温泉街のあらゆる店の中に次のような張り紙が張られた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

                酒瓶返却法施行!!

 

 

 

この法を施行するに至った経緯は次のとおりである。

 

・現在の地底において最も困っていることといえば酒屋に酒瓶が返されない事である。

 

・以前から実施している運動では十分な量の酒瓶が返却されていない。

・酒瓶は地底で納められた税によって地上から購入しているため、酒瓶不足は消費税増加に直接結

 びつくこととなる。

 

・税率の上げるのは地底の望むところではない。

 

                                        

以上より次の法を施行することを決定した。

 

・酒瓶は購入した店に五日以内に返却する事。

 

・誰がどの酒を買ったのかを店主は記録する事。購入履歴が無ければこの法は無効となるので注意

 されたし。

・何らかの原因で瓶を割ってしまった場合、および紛失した場合には一圓の罰金を科す。

 

 

またこれに関連して新たな雇用を行う。内容は以下の通り。

 

地底の空き瓶を回収する仕事をしてくれる妖怪を募集する。定員は十名まで。給金は酒瓶一本につき十銭。最低賃金は無しとする。雇用後二十日間でまったく働かなかった場合は即日解雇とする。仕事時間は自由。辞めたくなれば地霊殿に届け出る事。

 

★内容

 

 酒屋など酒を販売している店の店主から購入履歴を貰ってその酒瓶を取りに行く。受け取った酒瓶は店主に返す。返却履歴の改竄はすぐにばれるのでしない事以上。

 

●疑問などがあれば直接言っていただくか目安箱をご利用ください。また雇用の応募は無期限とします。既に定員に達している場合には受けられませんのでご了承ください。先着順なので応募はお早めに。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

絵がほとんどない上に結局文字ばかりである。それに法の名前にはインパクトの欠片も無い。だが文字に少し色がついているおかげで目立ちはする。

これがさとりの限界である。きっとお燐が考えた方がマシだっただろう。

 

兎にも角にも法は作られた。作ってすぐに施行できるのが(ほぼ)独裁の良いところだ。さとりの嫌らしいところはこの法を守らなかった場合のデメリットを非常に大きくしたことである。

罰金一圓はかなり高額であるし、もし返さない者が多数出て瓶不足に陥れば消費税をも上げると言うのだから。

 

現在の税収が消費税のみであることを考えれば妥当な事ではある。むしろ消費税のみで成り立つほど酒が頻繁に購入されているというわけだ。酒瓶不足になっても仕方がない。

 

さらに地底の雇用問題を解決する手を打ったさとりの判断は正しいだろう。酒瓶一本で十銭とはなかなかの太っ腹である。逆に言えばそれほど返却に力を入れたいという事でもある。

毎日を怠惰に生活している妖怪たちの事だ。きっと募集はすぐに埋まってしまうだろう。




毎話一度はさとり視点を入れたい

ほんの少し間に合わなかったので一時間ずらしました。申し訳ないです
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