面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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一銭≒現在の五十円で計算しています。つまり一円≒現在の五千円


酒宴と後始末

   ~古明地さとり~

 

 

やはり派手な張り紙は効果が高いようだ。張り紙を見たパルスィやお燐には不評だったが目立てばいいのだ。読めなければ他の妖怪に聞け。

それに絵を見れば大体わかるだろうとは思う。下手すぎると言われたけれど。

 

それでも募集した仕事は翌日には埋まってしまった。多ければ面接をする案もあったのだが、多すぎた場合には面倒でしか無いので先着順という楽なやり方にした。

馬鹿でもできる仕事なので仕事内容に関する心配も不要だろう。

 

初めはお燐が連れている妖精たちに無賃金でやらせようと思っていたが、途中で遊びだす可能性も高い上に割れた場合の罰金もできないので大人しく妖怪を雇う事にしたのだ。

 

仕事量に比例した給金システムにすることで労働意欲を引き出すことにも成功した。何せ一本当たり十銭だ。上手くやれば毎日高い酒を飲むことが可能だ。

安い酒で良いのなら一日に、三本返却するだけでも飲める。

 

地上には七十五円近くもする超高級酒もあるらしいが地底にはそんなものはない。高くても七円程度だ。それでも十分すぎるほど高いのだが。

私は酒の味の違いが判らないので安酒または紅茶で十分だ。

 

因みに地霊殿が雇った労働者には特製のカードを持たせている。これを酒の取り扱いをしている店においてもらった箱にかざすと認証される仕組みだ。

かざした相手を指示した通りに認証する。戒に憑けた式神の応用だ。

 

外の世界では最近になって認証するシステムができたらしいが本当だろうか。他者を認識させるなんて昔の陰陽師もできた事なのに今の人間は退化してしまっているのではないかと疑いたくなる。

コンピューターと呼んでいるらしいが、それはつまり式神の事である。外の世界の式神は昔の式神より複雑で大きくなっただけの物らしい。生き物に憑けられない分劣化したとも言える。

 

話がずれてしまったがこのカードは勿論複製不可能だ。つまり偽物では認証されない。紛失した場合には即座に解雇。式神なので当然持ち主の事も記録している。落ちているカードを拾っても本人でない限り使えない。悪用もできないようになっている。

 

ここまではとても便利なのだがこのカードと認証用の箱にできないことは全て妖怪たち自身でしなければならない。例えば返却する瓶の本数。一度に何本も返却する場合は認証回数と返却数が一致しなくなる。そこで店主には返却履歴をつけてもらう事にしている。

 

店は返却された時にその都度十銭ずつ労働者に支払い、それを記録する。そして一月ごとにその履歴に従って地霊殿から店にお金を支払うという形になっている。

履歴の改竄は私の能力があれば容易く見破ることができる。実際に店主と対面するのは戒になるが扉の前からでも部屋の中にいる者の心を読むくらいなら訳ない。

 

「ごきげんよう、さとり。お久しぶりね」

 

そう、私は扉の前からでも心を読むことができる………心が読めない例外を除けば。

 

「お久しぶりですね紫さん。今日も何か用事があって?まだ例の年ではない気がしますが」

 

来年何かあるとは言われたけれど今年は何も聞いていない。強いて言うなら春が遅かった事くらいか。しかしそれはこの前解決したはず。まだ何か問題でもあったのだろうか。

 

「今日来たのはほかでもないわ。萃香の事よ」

「萃香がどうしたんです?」

 

「今度はあの子が異変を始めたわ」

 

萃香が異変を?萃香の事だからどうせ無意味に人を萃めるとかそんな感じの内容に違いない。問題はそこに至った理由だ。恐らく今年の春の異変が関係している。それまではかなり大人しかったし。地上の春といえば桜や桃、梅の花見か。なるほどなるほど。

 

「つまりできなかった分の花見を強制的にさせているのですか?萃香が異変を起こすなんてそんな理由くらいしか見当たりませんが」

 

「その通りよ。地上の人妖を萃めて宴会を開かせたいらしいわ。流石に頻度は下げてくれるようにお願いしたけれどね」

 

やはりか。地上は地底と違って宴会は少ないしそもそも酒が少ない。彼女が満足するまでは続けられそうかな。紫さんが途中でやめさせるか人間が強すぎでもしない限りは。

 

「彼女の基準で宴会を開けば並みの妖怪でも三日で降参するでしょうからね。今日の用事はそれだけですか?」

 

「そうね。用事はこれだけよ。来た理由は貴女にこれを渡しておくためだけれどね」

 

紫さんの手にあるのは胃薬。そう、胃薬なのだ。丁度最近無くなってきたと思っていたところに。

 

「あぁ、ありがとうございます。そろそろ無くなりそうだったので本当に助かりますよ。えーっと、二十銭でしたっけ。少しお待ちくださいね」

 

本当なら一瓶で十一銭らしいのだが少しだけまけてくれている。別に二銭くらいなら出すのだが紫さんが頑なに断るのでほんの少しだけお得に買えている。

 

「はい、今回もきっちり二十銭受け取ったわ。ではまたゆっくり話ができるといいわね」

 

「そうですね。ではまた会いましょう」

 

紫さんが苦労人と知ってからはなんだか親近感が湧いた。地上と地底のトップという立場も関係しているのかもしれない。

昔一度だけ見た地獄のトップは全然苦労人には見えなかったが。

 

 

   ~伊吹萃香~

 

 

花も散り桜はもう緑の葉に変わってしまったが宴会は続いている。そもそも花が散ってしまったのはかなり初めの方だったが。

もう何回目かもわからない宴会なのに人間はおろかほとんどの妖怪たちでさえ私に気づかない。

 

幽々子の奴は気づいていながら参加しているようだ。恐らく食べ物目当てだろう。紅魔館のメイドの料理はなかなか酒にも合うし美味いから。

他の奴らはそのことに気づいているのかいないのか。誰も感謝の言葉すらかけようとしない。

 

もう一人気づいているのは紅魔館の当主の吸血鬼か。霧になっている私の姿を捉えられるのは紫だけだ。だがあの吸血鬼も幽々子と同様私が()()ことだけは分かっているようだ。

私を倒しに来ないのは自分との格の違いを感じ取ったか、それとも確証が持てないからか。

 

とにかく誰も来てくれないのでかなり暇だ。初めの頃のワクワクしていた自分に戻りたい気分だ。いっそのこと宴会のさなかに姿を現してやろうか。

最近は気づいてもらえるように霧を濃くしている有様だ。未だかつてこれ程解決されたがった首謀者がいただろうか。それくらい今はつまらないのだ。

 

昨日の宴会が終わった辺りから人間たちはようやく動き出したみたいだが見当違いにもほどがある。あの様子では私の所にたどり着くまで何年もかかるのではないだろうか。

 

「あー、退屈だ。退屈すぎる。地上の奴らがこんなに腑抜けているとはね………」

 

「大人しく宴会に参加していればここまで退屈ではなかったかもしれないわよ?」

 

「………なんだ紫か。急に現れないでよ。びっくりするんだから」

 

本当に神出鬼没。鬼の私が言うんだから相当のものだ。私以上に反則的な能力を持っている上にそれを自在に操る力も持ち合わせている。

 

古明地は心理戦で相手を圧倒するタイプだが紫はそれ以上に厄介だ。相手の心を揺さぶった上で圧倒的な力を見せつけるのだから妖怪としては最強だろう。

紫相手に勝ちを拾える妖怪となれば揺さぶりの効かない古明地か、紫に対抗できる力を持つ私か往年の天魔くらいだろう。

 

勇儀も私以上に力は持っているが脳筋すぎるところがある。紫にはパワーだけでは対抗できない。こいつはあらゆる物理攻撃を往なせるから。

 

「貴方もさとりと同じことを言うのね。驚いたという割には驚いた顔をしない。貴方の事だから本当に驚いてはいるのでしょうけど。

 

無駄話はこれくらいにして…ここからが本題なのだけれど。貴方もう異変を終わらせても良いと思っているでしょう?」

 

「そうだねえ。宴会自体はそこそこ楽しめたしこれ以上はもういいかなと思っているけど。という事は紫も介入する気になったのかい?」

 

紫がわざわざ私に会いに来たという事はそういう事なのだろう。別にここで戦っても良いのだが。紫とならルール無用でやりあう事が可能だし。他の奴ら相手なら流石にルール内で勝負するけど。

 

「えぇ。でも私が直接貴方を倒すというわけではないわ。異変とは基本的に人間によって解決される物。でも貴方も見ていたのなら分かったでしょう?私以外の人妖は貴方の存在に気づけても霧状の貴方を見る事はできない。私が介入するのはその最後の一ピースを埋めるときね。きちんとルールは守って頂戴よ?貴方が暴れると地上は大打撃だわ」

 

「分かってるって。ルールを破ったら後で古明地に何を言われるか分かったものじゃないからね」

 

紫と古明地が決めたルールだし、私も一応罰という事で地上に出てきている。流された地でさらに罪を重ねるのは流石に鬼の名が廃る。

 

「人間ってことは誰だい。巫女と魔法使いっぽいのとメイドと…半人前剣士もかい?」

 

「そうなるでしょうね。一対四だけれど貴方なら心配いらないわね。殺さないように気を付けてね。弾幕勝負ならかなりリスクは減らせるけれど、あの子たちはこれからの幻想郷を担う人間たちなんだから」

 

「心配症だねえ紫は。大丈夫大丈夫。あいつらもそこそこはやるようだし死にゃしないさ。私だって手加減はしてやるしね」

 

本当なら手加減無用で殴り合える奴がいればいいんだけど。勇儀くらい頑丈で面白い奴が。

ま、どうせ地上ではルールを守った決闘しかさせてくれないけどさ。その時点で手加減しているような物。もう本気で戦う事はできないのだろう。

 

悲しい世の中になったものだ。千年少し前までは人間とも本気で戦えたというのに。決して対等であったとはいわないが人間と鬼は強い絆で結ばれていた。

人間が鬼を裏切るまでは、だが。

 

人間と勝負するのもあの時代以来だ。本気で鬼を滅そうとすると難しいがただ退治するだけならとても簡単である。鬼といえば炒った大豆を投げたり鰯の頭、柊の葉なんかを近づければ逃げてしまう。人間たちと対等になるために教えてやった弱点だ。

 

つまり正体さえわかれば私は勝負しなくても負ける可能性がある。そんな面白くない事をする人間がいたらすぐに無力化してやるが。

昔なら無力化ではなく喰っていたんだけど幻想郷はむやみに人を喰う事も許されないからねえ。

 

「鬼の貴方が手加減?それは見物ね。どうせついでに観て行くつもりではあったけれどこれは楽しみねぇ。貴方を疑っているわけではないのよ」

 

「千年以上の付き合いのある鬼を疑うほど馬鹿なことも無いだろうね。とりあえず任せておきな。どうせ二日後だろう?」

 

「えぇ。ではまたその時にね」

 

鬼のように没するというがあいつの行方は私にも追えない。気づいたらいて気づいたら消えている。あいつほど他人を振り回す妖怪もまた珍しいだろう。

恐らく紫と最も長く付き合っている者は私だろう。よく付き合っていられるものだと自分でも時々思う。胡散臭い奴は合わないと思っていたのに不思議なものだ。




早く萃夢想終わらせろよ

さとり様が「彼女の基準で宴会を開けば並みの妖怪でも三日で降参するでしょう」と言っていますがこれは萃香の酒量に合わせた宴会を開いた場合です。人間に合わせた宴会なら公式で11日連続という恐ろしい記録があったりします


また次回も読んでいただければ幸いです
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