面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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今のところは毎日投稿していますがこの小説は不定期投稿です。よほどの事が無い限り一週間に一話以上は投稿しますが


心は見えても未来は見えない

   ~古明地さとり~

 

 

 旧地獄になってようやく誰にも気にされずに静かに過ごせると考えていたのに、何故か地上の賢者とかいう見るからに強い妖怪が私たちの家を訪ねてきた。この賢者の実力は私の能力を結界ではじいている時点でお察しだ。私ではどうあがいても勝ちを拾う事はできまい。

 

こちらはもう降参状態だというのにあちらは何故か妖気を強めてきた。妖気量はこの段階ですでにそこらの鬼よりは多い。敵意はないようなので怯むことはない。それに心を読めないおかげで負の感情によって無駄に精神的負担がかかることも無い。

 

しかし私は腐っても覚妖怪。やはり心が読めないと色々と不安になる。なんとか相手の表情や仕草から考えが読み取れればいいのだが。

 

八雲紫の話は地上と地底の不可侵のお願いみたいだ。地底は(私を除いて)荒くれものたちばかりで、同じ妖怪にも嫌われるほど強力な者たちもいる。地上側としては確かに地底の戦力が恐ろしいのだろう。

 

しかしそれは私にとっては好都合。怨霊を管理するという簡単な事をしているだけで地上からの襲撃を完全になくせるというわけだ。流石にこの八雲さんのような実力者はそうそういないと思うが、それでも厄介ごとの芽は早めに摘んでおくに限る。

 

勇儀さんや萃香さんにも許可は得られたし断る理由など端から無い。

 

「なら決まりですわね。怨霊を管理することでの地上の妖怪からの不干渉、という事で」

 

「えぇ、そういう事です。ですから貴方自身も今後地底にお越しくださることのないようお願いしますね」

 

また来られたら私の胃がもたないかもしれない。そうならないためにもこの賢者を地上に縛り付ける必要があった。この八雲さん自身も私を地底に閉じ込めたかったのだろう。利害の一致があれば当然話し合いも順調に進むというものだ。これでしばらくは静かに暮らせそうな気がしてきた。話の分かる妖怪で助かった。面倒で不毛な話し合いなどしたくもない。

 

帰り際に八雲さんがおかしな質問をしてきた。私は初めに心が読めない事は言ったというのにどうしてそう疑うのだろうか。(嘘を吐いているとわかったら最悪殺されるかもしれないから)私が鬼の前で嘘を吐くはずはないのに。でも読む手段は一応ある。この賢者相手に私程度ができるか、と問われると少々怪しいが。

 

「しかし貴方のその結界は非常に強力です(心の声を遮断するなんてどういう仕組みだ)。心の専門家である(と思われている)私でも貴方の心を読もうと思えばその結界を破壊するしか方法はありません(できるかどうかは別問題)。つまり貴方の精神を破壊する、という事です(私では力不足)。これ以上何か説明が必要でしょうか?」

 

とにかく私では八雲さんをどうにかできるわけがない。できることなら関わらないのが一番なのだ。言葉には出さないが心を読めないのは厄介極まりないし。

 

とりあえず帰ってくれたようだ。ようやく一息つける。やはり強者の相手は疲れる以外のことが無い。あちらからすれば私など塵にも等しいのだろうし、できれば放っておいてほしかった。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

勇儀さんたちも旧都に戻って行きやっと平穏が戻ってきた。今家にいるのは私と、何故か私に懐いた黒猫。聞いてみたところ、ここが地獄であったころから生き続けて妖怪になりかけているらしい。となるともう百年以上は生きているのかな。よく見れば確かに尻尾が二本ある。なりかけているというかもう既に妖怪である。

 

やはり動物は良い。妖怪になりかけていると言っても心はまだまだ純粋。今の私の使命はこの子の心を汚さないようにすることかもしれない。間違っても牛鬼などと関わらせてはならない。

 

牛鬼も旧地獄になってからここに来た妖怪だ。ここには当然ながら海が無いので血の池地獄跡付近で常に生活しているようだ。性格は非常に残忍で手が付けられない程。実力自体は鬼の方が勝っているので今のところ問題はないようだが、私に敵意を向けられれば相当厄介なことになる。

 

一応今のところは血の池地獄跡に近づかなければ絡まれないので、近づかないように猫にはよく言い聞かせている。これからしばらくはこの猫を話し相手にして過ごそうと思う。傍から見ればただ頭のおかしい妖怪にしか見えないだろうが。

 

「おーい、さとり。客人だぞ」……またか。

 

「またですか?今度は一体どちら様で……お久しぶりですね四季様。何かお話があるのでしたら中でどうぞ」

 

まさか四季様が来るとは思わなかった。会うのは地獄移転以来二度目である。この方、というか閻魔様は皆他の人間や妖怪に干渉されないようになっているので心は読めない。もとより閻魔様の心なんて読んでしまえば鬱になること確実である。

 

「今日は貴女に話があって来ました。単刀直入に問いますが地底の管理者になっていただけませんか?」

 

「何故私に話を持って来たのですか?他にも適任はいると思うのですが。そもそも私では力不足です。この勇儀さんたち含め地底の妖怪たちをまとめるなんてできるはずがありませんよ」

 

反乱を起こされれば瞬時に崩壊してしまう管理体制に縛られる者などいるはずが無いだろう。

 

「貴方に頼む理由は、貴方が一番信頼するに足ると私自身が考えているからです。力を以て統治するならば鬼でも十分でしょう。しかし私は智によってここを統治していただきたいのです」

 

「そんな……私に智があるなんて買い被りすぎですよ。萃香さんの方が適任ではないですか?」

 

あの八雲さんと友人でいられる萃香さんなら力だけでなく智も存分に備えているに違いない。少なくとも私よりはマシだろう。

 

「これは私の意見だけではなくこの二人の鬼の推薦でもあります。どうか受けてくださらないでしょうか」

 

「そうだぞ、さとり。私たちはあんたなら上手くやれると思っているんだよ」

 

萃香さんや勇儀さんの推薦だと言うのは本当の事らしい。しかも面倒ごとを押し付けようと思っての事ではなく単純に私ならできると考えているらしい。ここまで強くお願いされたらもう引き下がれないじゃないか。いつも私の意思の弱さには呆れてしまう。

 

「…………わかりました。しかし怨霊の管理もしなければならないのですが…」

 

「そのことなら問題ありません。旧地獄の中心に屋敷を建て、そこに怨霊も集めますから」

 

「…………はい?ここで暮らすわけではないのですか?」

 

特に思い入れがあるわけではないし、荷物も大した量は無いので困らないがその先が旧地獄の中心と言うのは……。

 

「当たり前だろう?さとり。こんな旧都の端っこで統治しようと思ってもできるはずが無いじゃないか。屋敷の心配ならいらないよ。私たち鬼や土蜘蛛なんかは建築が得意だからね」

 

違う。私が心配しているのはそこではない、そこではないのだが……。まあいいだろう。怨霊の管理もさらにしやすくしてくれるようだし、一度了承したのに無しにはできない。鬼と閻魔に吐く嘘ほど危険なものはない。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

結局あそこからとんとん拍子に話が進んで私は地霊殿と呼ばれる建物に引っ越すことになった。

 

「貴方は今回の事どう思う?」

 

(あたいかい?あたいにはよくわからない話だったねぇ。引っ越すならばお姉さんともお別れになるのかな?寂しいねえ)

 

「貴方ももう妖怪になるんだから話は理解できるようにならないといけないわよ。それについてきたければ一緒に来ても構わないわよ。私とこいしには広すぎるもの。それにこいしは滅多に帰ってこないから貴女のような子がいた方が話し相手もいていいかもしれないわ」

 

(それならついて行こうかな。お姉さんの助けになれるように)

 

しっかり純粋に育ってくれたようでなによりだ。しかし思わぬところで面倒ごとが増えてしまうのはどうしてなのだろうか。避けているはずなのにいつの間にかそこにあって逃げることができない。これ以上面倒ごとを増やさないようにするにはどうすれば良いのだろうか。

 

地底の長が覚妖怪になってしまったことでの反乱はきっと起きるだろう。その時に私は何とかできるだろうか。勇儀さんたちは誤解しているようだが私は別に強くない。今までだって相手の精神を破壊するという反則を使って生き延びてきたようなものなのだ。

 

下手に対応して反乱したがる者たちを増やすのも良くない。どうすればこの先楽に生きていけるだろうか。未来を夢想している暇があるなら今生きることを考えるべきだ。先ずは行き延びることを目標に計画を立てていこうではないか。そうすれば自ずと良案が思い浮かぶものだ。

 

そもそも地霊殿主人になんてならなければこういう事にはならなかったのだが。つくづく私には運が無い。私には長たる資格が何一つない。鬼のような強さも、八雲さんのような頭脳も、四季様のような統率力も。だが地底の治安は私にかかっているという。あまりにもひどい。何を誤解しているのか誰も同情すらしてくれない。

 

恐らく怨霊の管理以外の事務仕事もしなければならないのだろう。楽だと思って引き受けた仕事が面倒ごとを増やす要因だったなんて誰が予想できようか。どうせ同じ眼なのならば、心を映す眼ではなく未来を映す眼が欲しかった。流石に欲が出過ぎただろうか。でもそうでもない限り私に降りかかる面倒ごとは減らないような気がするのだ。




さとりさんもあんなに端折って話していたら誤解されても仕方ないでしょう。紫様は深読みしすぎかもしれませんが

横文字を使えないと慣れているつもりでも結構不便だと感じます


次回も読んでいただければ幸いです
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