面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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今回少し長めです


能力とは何か

  ~古明地さとり~

 

 

こちらの提示するつもりだった価格の上限はワイン一本あたり地上通貨で七千円ほどだ。これは流石に高すぎると分かっている。何故なら私にはその製法まで知ることが可能だからである。

対して紅魔館の魔法使い、パチュリーさんが提示してきた額は一本あたり一万五千円と言う法外な(幻想郷に法など無いが)ものだ。と言うかレミリアさんすら高すぎると感じているようだから交渉は難航しなさそうだ。

 

「随分と吹っ掛けてきますね。交渉の場に私情を入れるのは間違いというものですよ」

 

いくら私の事が嫌いだからと言ってもそれをこの場に持ってくるのはまた別問題だ。ここは正式な交渉の場。紅魔館側で最も重役なのもレミリアさんである。

 

「言ってくれるわね。元はと言えばこのワイン用のブドウだって美鈴が丹精込めて育てた物。そこらの大農園で育った大量生産の物とはわけが違う…」

「パチェ、もうやめなさい。今この話にブドウの違いは関係ない事だ」

 

確かにブドウの質は良いのかもしれない。だが製法と人件費を考えれば提示された額の四分の一でもまだ高い。少なくとも私はそう考えている。

 

「うちの魔法使いが迷惑をかけたね。悪かった」

 

「いえいえ、こちらも神経を逆撫でするような発言になってしまいましたから。お互い様ですよ」

 

パチュリーさんに悪気が無かったわけではないからレミリアさんも『パチェにも悪気はなかった』と言わなかったのだろう。お互いの事をよく理解しあっている間柄のようだ。

私は相手を理解できても相手が私を理解しようとしない場合が多いので少し新鮮で眩しく見えてしまう。私の場合は居ない方が良いのだろうが。

 

「さてさて、仕切り直しといこうか。流石に今回ばかりはパチェに任せた私が馬鹿だったようだ。少なくともこのワインに一万五千の価値は無い。人里や八雲に売りつけた時だって精々八千円程度だったからな」

 

レミリアさんもパチュリーさんが私情を持ち込むことまでは予想できなかったらしい。そこまで私を嫌うのならば何故この場にいるのか。レミリアさん一人に任せると心配だったからのようだ。

結局この場を乱したのはパチュリーさん自身だったわけだが。

 

「それでもまだ高すぎる気はしますが……レミリアさん自身はどうお考えです?」

 

「さとりなら既にわかり切っているだろう?」

 

私はわかっているが他の人たちはそうではない。だからレミリアさんが自分の口で言わなければ他のパチュリーさんたちは納得しないだろう。

 

「私はもう少し安くても良いと考えている。それでも十分すぎるほどに元は取れるからな」

 

私相手に隠し事は通用しない。一部を除いて、だが。だからレミリアさんも遠慮なく元を取れると口に出したのだろう。それはこの場にいる全員が気づいた様子。まあかなりあからさまだったし当然と言えば当然か。

レミリアさん自身がそう意見したという事で紅魔館側の意見もそれに概ね一致したようだ。やはり見た目は幼くても当主であることを改めて理解させられる。紅魔館の最高権力者は目の前の小さな吸血鬼。その発言に乗る重みは他の住人の比ではないらしい。

 

元が取れるのは当たり前である。百円で売っても元は取れるのだから。材料費はゼロ。既に紅魔館で雇っている者が育てて作っているから人件費も無いようなものである。そもそも作るのには手間もかかっていない。十六夜咲夜さんの能力で時間を弄っているだけだから。

 

「しかし安すぎるというのもまた問題だ。私の従者たちにも失礼だからな。それに良いブドウを使っているというのも間違いではないはずだ。私が最大限譲歩できる額はこのくらいだな」

 

示された数字は三千五百。今日の私の目的は地底にワインを売ってもらう事であり、値段の交渉は二の次だったのだ。想定よりは十分安くなったのでこれ以上の交渉はお互いに不毛だと思う。

そもこちらは売ってもらう側。無理のない額ならば値切り交渉は打ち切りにしても問題はない。

 

「わかりました。ではその値で交渉成立としましょうか。……おや、私から約束を破るなんてことはありませんよ。鬼は約束を破りませんしそれを許しません。それに悪魔との契約とも言うべきこの約の拘束力は計り知れませんからね。…あぁ、レミリアさんではありませんよ。後ろに控えている方々に言っているのです」

 

信用されていないようだ。まあそれもそうか。今日初めて会った上に心を読むという誰にも好かれることの無い能力。精神の弱い妖怪や怨霊には特攻ともいえる。そのせいでこんな面倒な仕事をやらされているし、こんな不便な生活をさせられているのだ。

 

「そうか。とりあえずこの契約書にサインをしたら昼食でも食べて行きなさい。咲夜、準備しておいて」

「かしこまりましたお嬢様」

 

一瞬で消えた。時間を操る能力か、便利なものだことで。契約書は本来ならレミリアさんの魔力だけで十分な拘束力になるのだが、今回はパチュリーさんが魔法で拘束力をさらに強化したらしい。そんなことをしなくても私から約束を破ることなんて()()()()無いのに。

やむを得ない事情があった場合は破ったこともあったがそれ以外では破っていない。何より鬼からの反応が怖かったからなのだが。

 

こういう署名をする時には筆ではなくペンで字を書くことが多い。普段から書類仕事ばかりしているせいでペンの方が慣れているのがこういう時ばかりは役に立つ。

だが最近はペンばかり使っているので筆が苦手になっているような気がする。執筆には筆を使うようにしようか。

 

「お食事の準備ができましたよ」

 

私も時間を操れれば仕事をすぐに終わらせて執筆も読書もたくさんできると思う。だが問題は能力の使い過ぎによる手痛いリターンがあるのか、である。

 

高速で動き光速に近づけば近づくほど周囲の時間の進みは遅くなり老いも遅くなる。その究極系が時間停止でありその空間中では完全に歳を取らない。

時間を停止させずに遅くしたり速くしたりする場合には、それに準ずる時空間の中で動いているはずであるから結果として周囲との時間のずれは修正されているのではないかと考えている。

もしくは完全停止以外の場合には周囲と歳の取り方が異なるかもしれない。その時には自分の時間を遅くするほど老いが遅くなり自分の時間を速くするほど、つまり高速で動くほど速く老いることになる。完全に停止させられないのであれば彼女は他人より先に年老いる。完全に停止させられるのであれば他人と等しく年老いる。

 

かの有名な水江浦嶋子、筒川大明神は生前竜宮城に行ったという。淳和天皇は蓬莱国だと確信していたようだが浦嶋子の話では海底にある竜宮城である。甲羅が五色に彩られた亀に摑まって流された先で見た栄華を極め、兎が皆楽しそうに歌い踊る地。三年経って帰って来た時に地上では既に三百年が経っていたという。浦嶋子も何らかの方法で超高速移動をしたのではないだろうか。

 

ウラシマ効果によって咲夜さんの寿命は延びるのか、それとも逆に縮むのか。その辺りの事はまだ彼女もわかっていないようだから考察しても無駄であろう。

 

 

  ~レミリア・スカーレット~

 

 

さとりは咲夜に興味があるようだ。昼食の間もちらちら見ていたようだし。

悪魔の館に仕えているたった一人の人間。それだけでも十分珍しいが恐らくさとりの興味を最も引いているのはその能力だろう。人間には過ぎた物と言わざるを得ないほど強力な能力。毎日忙しいというさとりには羨ましい能力だろう。

 

「えぇ、まさにその通りですよ。彼女の能力があればもう少し趣味に使う時間も作ることができますからね」

 

今は自室でさとりと二人で話している。咲夜やパチェには入ってこないように言ったし、勇儀という鬼にもそう伝えた。理由は私が一対一でさとりと話してみたかったからだ。心を読めるのなら私も無理な話し方をしなくていいし、嫌悪感の強そうな二人を排除すればさとり自身の話も聞きやすいと思ったのだ。

 

「さとりの趣味って何なのかしら?」

 

「読書と執筆、あとは動物たちと触れ合う事でしょうか。心の読めない本の中の登場人物たちは私にとってとても魅力的なのです。動物たちは…単純に可愛いからですかね。そこらに怨霊やらうちのペットが集めてきた死体やらがあるのでいつかは妖怪化して仕事を手伝ってくれるかもしれませんし」

 

死体を集めてくるペットまでいるのか。思っていたよりも物騒なのね。嫌われ者たちの棲む場所と言うだけで世紀末な気はするけど。

 

「失礼ですね。地底でも旧都の方に行かなければそこまで世紀末ではないと思いますよ。最近は行っていないので知りませんが少なくとも百数十年前まではそうでした。私の屋敷付近はほとんど近寄ろうとする妖怪がいないので平和ですよ。

管理の関係上怨霊は多いですがね。ペットも良い子たちばかりですよ。死体を集める猫に死体を啄む鴉、後はかつて私を殺しに来た狼とか……」

 

やばいじゃん。それの主人をしているさとりっていったい…。

 

「…まあまあ半分冗談ですよ。死体を集めているのはあの子の種族の関係なので仕方ないですが鴉の子はもう人型になって普通の食事をしていますし、狼の子も私の右腕としてかなりいい仕事をしてくれます。また機会があれば紹介できればいいですね」

 

「びっくりさせないでよ。それにしても旧都って地底の最も賑わうところなんでしょう? 百数十年も行っていないって言う事は何かあったのかしら?」

 

恐らく店もそこに固まっている。私たちで言うなら里に買い物に行かないようなものである。食材などはどうしているのだろうか。妖怪なので多少は食べなくても平気だが、流石に百年以上ともなれば話は別だ。それに飼っている動物たちは確実に飢えてしまうはずだ。

 

「鋭いですね。私は百年以上旧都に行っていませんがペットたちは行っているのです。買い物だったり、あるいは地底の近況を調査してもらったりと。本来は私がするべきことなのですがそういうわけにもいかないのです」

 

忙しいからだろうか。八雲の話によればさとりは一日に二、三時間程度しか寝ないとか。それでよくやっていけるものだと思う。

 

「これは私だけの都合ではなく地底全体の問題になるんですよ。昔…と言っても百年前程度ですが、その時に地底で大きな反乱があったのです。大結界騒動の余波のようなものでしたかね。

その時に覚妖怪の統治からの解放が叫ばれたんですよ。先ほどかつて私を殺しに来た狼の子がいると言いましたね? その子が反乱分子のトップをやっていたわけです」

 

覚からの解放か。気持ちはわからなくもない。しかし何故反乱分子のトップがさとりの右腕となっているのだろうか。

 

「まあまあその話はすぐ出てきますよ。

さて、先ほどの続きですが覚妖怪と言うのは嫌われ者の集う地底においてなお嫌われる種族なのです。トラウマを引き出せば精神的に脆くなる。そうなった妖怪はもはや人間より弱いかもしれません。そんな妖怪が地底を支配しているというのは気分が悪かったのでしょう。レミリアさんのその感情も正しいものですよ。あって当然です」

 

このような感情を向けられることにも慣れているのだろう。軽い言葉の裏に何と悲しい過去があることか。他人に嫌われるような能力を持っていない私は彼女の気持ちをわかってあげられないのだろう。

 

「その気持ちだけ受け取っておきますよ。ありがとうございます。反乱は無事抑えられました。その方法は彼女を私の式神として使役するという荒業だったのです。地底では彼女が無事に私を倒して地底のトップになったという事になっています。

えぇ、勿論私がそうさせたのです。それが最も手っ取り早く、かつ地上に妖怪たちを出さない方法でしたから。つまりその日から地底では私は死んでいるのです。地底のトップは私ではなく彼女、そういうわけで私は旧都に行っていないのですよ」

 

「それを知っているのはあの鬼を含めたごく少数、というわけね」

 

伊吹萃香はどうなのだろうか。最近になって地底から出てきた鬼ではあると思うのだが。

 

「萃香も勿論知っていますよ。勇儀と萃香は親友とはまた違った関係にあるので地霊殿にもよく来ていましたしね。今は訳あって地底に帰って来ませんが。だから彼女に限らず誰にも私が来ていることは言わないでくださいね。本来ならば地底から妖怪が出てくること自体が拙いのです。その昔紫さんと決めた約定があるので」

 

私は約束を守れる自信があるが他の者たちはどうだろうか。一応家族なので信頼はしているのだがぽろっと何処かで出ない保証はない。パチェに頼んで何か魔法でもかけてもらおうか。

 

「それが良いかもしれませんね。最悪レミリアさん以外の記憶を改竄することも考えますが…」

 

記憶の改竄か。それは流石に最終手段かな。とりあえずパチェに魔法をかけてもらって、それで漏れてしまったら改竄も視野に入れるか。

それにしても外が騒がしいな。鼠でも入ったか。今日の美鈴なら問題なく追い払えるだろう。それができなくてもまだパチェに咲夜もいる。今日ばかりは館に鼠一匹入れない様徹底しているから気にはしなくて良さそうかな。

 

「鼠というのは…ほう、こんな悪魔の館に忍び込む人間がいると。最近の人間は妖怪をも恐れないのですね。愚かしく嘆かわしいことです」

 

どちらかと言うとスペルカードルールのおかげで妖怪とも気軽に戦えるようになったという感じだろうか。さとりの懸念しているほどはひどくないと思うよ。

でも今日来たのは間違いだっただろう。恐怖させるという妖怪の本分から見れば今日来たのは正解だったわけだが。

 

「スペルカードルールですか。地上でも無事に広がったんですね、良かったです。それにしても規格外の人間はいつの時代もいるものですね。巫女は例外として」

 

「確かにね。咲夜もそうだけどあの魔法使いも大概規格外ね。でもまだあの子たちは人間の枠組みに収まる分可愛いものだと思うわよ? さとりは知らないでしょうけどあの巫女はもはや人間の枠からはみ出している。対妖怪なら無類の強さを誇るでしょうね」

 

元々人間の持つ霊力は妖怪特攻の力。その中でもあの巫女がもつ霊力は別格だ。ヨーロッパにいた時だってあれほどの人間は見たことが無かった。

対神ならどうなるかわからないが、少なくとも対妖怪ならばあの八雲をも打ち倒すかもしれない。

 

「それほどですか。会いたくはないですね。今まで一度も博麗には会ったことが無いのでこれからも大丈夫だとは思いますが」

 

まあ会わないに越したことは無い。人間と言う事もあって扱いやすくはあるのだが。少し報酬をちらつかせればすぐに釣れそうなくらいには彼女は人間である。協力を仰ぐのは簡単であるがやり方を間違えれば退治されかねない。

それにあの巫女なら何かあれば地底に攻め入る可能性も十分ある。

 

「ペットの粗相や変化には気を付けておくことね」

 

「それは貴方の能力からの助言ですか。私にはごちゃごちゃし過ぎてよくわかりませんが心には留めておきましょう」

 

運命と言うのは複雑怪奇。何か干渉があればすぐに変わってしまうほどに儚い物だ。くれぐれも鵜呑みにはしないでもらいたい。私でさえ完璧に理解できているわけではない運命という物の不確かさ。自分の能力を自分がわかっていないなんて恥ずかしい事だ。

 

「そんなことはありませんよ。ほとんどの者は自分の能力について理解できていません。その能力を以て何ができるのか、それは試してみなければわからない事ですし。

私だって恐らくレミリアさん以上に自分の能力についてよくわかっていませんよ。そもそも私には『心』と言う物がわからないのです。良い機会ですし少し心について考えてみましょうか」

 

私が何か心についての助言をできるとは思えないが聞くだけならできる。心を読める者から見た心とはいったい何なのだろうか。少し興味が湧いてきた。




私は物理学専攻では無いので思いっきり間違っているかもしれません。間違っていたら指摘するか寛大な心でスルーしてください

因みに私はパチュリー好きですよ。一応誤解無きよう言っておきます
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