面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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今回結構早かったと思ったのに一週間経っているという驚き


美しく残酷な世界

   ~伊吹萃香~

 

 

最近は特に面白い事も無く毎日を無為に過ごしている気がしてならない。異変だって去年の秋に起こったきりさっぱり起きていない。今咲き誇っている花たちだって異変と呼ぶには至らない。

精々時間感覚の鈍くなっている私たちに六十年を知らせてくれるシステムのようなものだ。人間や覚えていなかった、または新参の妖怪たちは物珍しそうに見物したり解決のために奔走したりしているが、黒幕などいないのだから解決は不可能だ。

 

「おーい、霊夢ぅ~」

 

へんじがない ただ留守であるようだ。

それにしてもここのところ毎日幻想郷中を奔走しているが疲れないのだろうか。人間というのはすぐにへばる物だとばかり思っていたが。

まあ留守なら留守で構わない。別に何か用事があって来たわけではないし。強いて言うなら暇つぶし、かねぇ。

 

「あらあら、いつから神社は鬼の棲みつく魔境になってしまったのでしょうか」

 

「なんだ、お前たちも来たのかい? 残念ながら霊夢は今留守だよ。それに私はここに棲んでいるわけじゃあない」

 

吸血鬼たちの目的も私同様暇つぶしだろう。夜の帝王とも称される吸血鬼が昼間からお出かけとは随分な御身分だことで。夜に来ても霊夢は寝ているからだろうけど。

 

「それは残念。でも今日は別件でここに来たのだからいなくても問題は無いでしょう。……ほら、貴方も飲むでしょう?」

 

「っは、いいねぇ。それならもっといろんな奴らを萃めてこようか。霊夢が帰って来た時にどうなるかはしらないけどね」

 

あらゆる季節の花が咲いているために去年のようなまともな花見にはならないが……いや、去年もまともな花見は一度もできないままだったっけ。

 

「なら決まりね。咲夜、準備なさい。何、霊夢が帰って来ても問題はないわ。この異変が何なのかは知らないけれどパチェによれば害はないみたいだし、そろそろ一気に散ってしまう気がするからね」

 

この花たちに宿っている霊魂が全て三途を渡り切れば一気に散ってしまう。もう閻魔も動き始める頃合いだろうしそろそろ見納めかな。流石にあの死神も動かざるを得なくなるだろうし。

前回のように能力で萃めても良いのだがそうすると来ない奴らもいるし間違ってきてしまう奴らもいるだろう。だから今回は直接萃める。

 

 

寝坊助妖怪を叩き起こし…

「まったく…どうして萃香が私の屋敷の場所を知っているのよ」

お気楽亡霊を釣り…

「まあまあ、久しぶりの宴会ねぇ。楽しみだわ。妖夢、支度なさい……何かしら? もうすぐ忙しくなるってそんなことはわかっているわ。だからこそ今のうちに楽しんでおくのでしょう?」

山から離れて飛んでいた鴉を拉致し…

「あややっ?! 最速の私が捕まるなんて……ってまさか貴方だったとは…とほほ」

 

 

そんな感じで何も考えず適当に萃めてきたがそれなりの数にはなったから良いだろう。来る奴は私が呼ばなくても勝手に湧いてくるだろうし。

 

「それにしても花見はいいねぇ。華やかだし」

 

「そんなこと言って。貴方はどうせ花より酒でしょう? あぁ~それにしてもまだ寝不足だわ。あとでもう少し寝ておこうかしら」

 

確かに花より酒だが花見自体もきちんと楽しんでいる。こんなに花が多い花見は生まれてこの方したことが無かったから新鮮で良い物だ。

地底には季節の花と呼ぶべきもの自体が少ないし、地獄だった頃は花すら存在していなかった。

 

「まだ寝るつもりなの? 去年はもうとっくに起きていたでしょう?」

 

「去年は幽々子が禁忌に触れかける緊急事態があったもの。それに比べて今年は平和なものよね。外はそうでもないのだけれど。

それに今年は特に力を蓄えておかないといけないのよ。ただでさえ力が弱まってしまうのだから」

 

紫は大抵自分さえわかればいいと思っているからかなり飛ばして話をする。結局力が弱まる理由と何故今年なのかはよくわからないままになる。六十年の節目が何か妖怪に影響を及ぼすのだろうか。多少力が弱まっても紫なら問題ないと思うけど。

 

先ほど話に出た幽々子はいつも通りに宴会を楽しんでいるようだ。傍から見れば大食()に見えなくもないが実際のところはただの食通だと思う。食べることが好きだからこそ美味しい料理はよく食べる。幽々子がよく食べているという事は裏を返せば美味しい料理だったという事である。作った者にとっても悪い気はしないだろう。

 

「貴方にもすぐにわかるでしょうね。そう言えば刑期はあと一年程度だけれどどうするつもりなのかしら? 貴方がこのまま地上に居たいというのなら別にそれでも構わないという話になっているのだけれど」

 

地上は素晴らしい。明るく活気に満ちているし常に変化が起こり続けている。そして何より人間が住んでいるのだ。

しかし地底もまた素晴らしいと思う。あの賑やかな宴会と楽しい仲間たち。酒と喧嘩は旧都の華。あの雰囲気は地上では決してあり得ない。

 

「まだわからないよ。その時にならないと。地上には地上の、地底には地底の魅力がそれぞれあるんだからね。今すぐになんて決められそうもないよ」

 

「そう、それならあと一年じっくり考えなさいな。後悔などしないように」

 

地上と地底は原則行き来が禁止されている。自由に行き来できるのは諦められているこいしちゃんと規定から外れている紫の二人だけだ。

もし地上に残れば勇儀たち地底の連中とは二度と会えなくなる可能性も高い。そして地底に帰れば人間と二度と関わらなくなる可能性が高くなる。三年という短い時間の中で私がどういう決断をするのか、古明地はそれを確かめたかったのかもしれない。

 

「何私がいないところで勝手に宴会なんかしてるのよ。萃香! どうせあんたの仕業でしょ」

 

「えー? 私はただ吸血鬼の嬢ちゃんに付き合ってあげただけなんだけど。それにもうすぐ見納めだと思うしどう? 霊夢も一杯」

 

霊夢が神社に帰って来た瞬間に紫は姿を消している。こういう時の行動だけはやけに早い。式神の二人はまだ残っているけど。

先ほども言っていたように帰って寝るつもりなのだろう。早く帰ることができたのは紫にとってある意味ラッキーだったのかもしれない。

 

「もらうけど……なんだか釈然としないわね。そもそも見納めって言うけど私が解決してきたからなのよ? あんたらみたいにお気楽に生きてる妖怪にはわからないかもしれないけど」

 

「ははは、そりゃ凄いじゃないか。私なんて黒幕の見当すらつかなかったよ」

 

人間の寿命は短くこの現象を人生に二度見る者は少ない。だからこういう時には褒めておくに限る。不機嫌な霊夢の機嫌を取ると言う意味でも。

まあ嘘を吐いているわけでもないし罪悪感も全くない。勝手に私のせいだと決めつけられたのは不満だが。

 

 

   ~古明地さとり~

 

 

「そういえばお燐、最近何やら物騒な物を引き連れているようだけどそれはどうしたのかしら?」

 

最近お燐が妖精たちを引き連れているのをよく目にするようになった。物騒なのは主にその見た目である。中身はただの妖精であるはずなのに見た目だけは死者を模しているという気味の悪いものなのだ。

 

「これはまあ何と言いますか…妖精ですよ。最近死体が少ない気がするので、死体のふりをした妖精でもいれば代わりになるかなぁと思ったんですけどねぇ…」

 

効果は無かったと。まあ普通に考えれば当然の結果だろう。そんなもので力を増やすことができるのなら今頃地底も地上も崩壊してしまっているだろう。

作戦に協力してくれた妖精たちが何故か仮装――で良いのだろうか――を気に入ってやめてくれなくなったらしい。

 

「妖精だもの。仕方なかったのかもしれないわね。そう言えば紅魔館では妖精をメイドとして使っていたわね。その妖精たちにも館の事をさせてみるのはどうかしら」

 

これは名案。地上の妖精にできて地底の妖精にできない道理はない。紅魔館では大して役に立っていなかったようだが地霊殿ではどうなるか。私がいるから多少はマシになると思うけれど。

 

「こいつらが地霊殿の仕事を、ですか? 確かにやってくれたらあたいも戒もかなり楽になると思いますけど」

 

「簡単な催眠でもかけましょうか。あまりにもひどければやめさせればいいだけなのだし」

 

妖精は思考が単純であるがゆえに催眠はかなり効果的だ。恐怖(トラウマ)を想起しなくても簡単に思い込ませることができるのだから動物への催眠よりも楽である。

確か紅魔館の妖精メイドは片付けが嫌いだとか言っていた気がする。だが働いてもらう以上嫌いな事もやってもらわねばならない。いくら死なないからといっても使い捨てにする気はないので適度な量しかさせないつもりではあるが、決められたことはきっちりしてもらうようにしたい。

 

「大丈夫ですか? さとり様。結構数は多いですが」

 

「一気にやってしまうから問題はないわ。全て同じことを思い込ませれば良いのだからすぐ済むし。簡単な催眠ではあるけれど念のためにお燐はこっちに来ておきなさい」

 

強力な催眠を使える対象はそれこそ人間くらいのものだ。妖怪に使えば精神を壊してしまいかねないし妖精も同様である。身体は朽ちない妖精も心は朽ちる。神はそもそも私の催眠にかかるほど弱くない。

 

今からかける催眠はかなり簡素なものであり普通の妖怪ならかかっても自力で抜け出すことができる。お燐をこちら側に呼んだのは催眠の強度を間違っても大丈夫なようにするためである。

もしそうなった場合はお燐より妖精の方が深刻なダメージを受けることになるのだが、妖精たちはお燐と違って家族ではない。

それに精神の壊れた妖精がいれば地霊殿に来たがる妖怪も少なくなるかもしれない。今でもほとんどいないから効果を実感することは無いだろうけど。

 

 

お燐がこちらに来たことを確認してから催眠。私のかける催眠は人間の物とはかなり違い、どちらかと言うと洗脳に近いものかもしれない。というかもろに洗脳か。刷り込むのは簡単な仕事の事。

『食事の片づけ、館の掃除をしなければならない』

私の能力で催眠状態に陥った妖精の頭にはその言葉ばかりが浮かび上がる。

 

妖精を洗脳しやすい理由はこれだ。今までの思考を全て上書きして新しい情報を取り入れてくれる。単純な脳は不要な情報を排除し刷り込まれた情報だけを記憶する。

ある種式神より酷い操り人形状態になったことになる。嫌われ者の覚妖怪、嫌われる理由の一つは間違いなくこれだろう。妖怪優しさだけでは生きていけない。残酷な世界で生き残るためには自らも残酷に振る舞わなければならないのだ。

 

弱い者なら特に手段を選んではいられない。手段が選べるのは強者のみ。勝つためなら何でもするくらいの意気が無ければ弱者は生きることさえできないのだ。




普通の妖怪相手ならトラウマ想起で心に隙を作ったうえで催眠状態にする、という設定になってます
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