別小説でもやったのですが読んでいない方が大多数のはずなのでアンケートを付けておきます
お答えいただければ幸いです
~八雲藍~
近頃、というかここ四か月ほどの紫様は少し変だ。以前までと比べ、睡眠以外で屋敷内で過ごす時間が大幅に増えているように思える。食も少し細くなったようで、疲れているのが目に見えて理解できるほどに表情も優れない日が多い。
こうなり始めたのは今年の春あたりだっただろうか。
『今回こそは必ず目にものを見せてやるわ。藍、今年は忙しくなりそうよ』
そう言って張り切っていたはずなのにしばらくするとだんだん疲れが見え始めてきたのだ。こんな紫様を見るのはいつ以来だろうか。もう数百年以上は見ていなかった気がする。
「藍、貴方は私の心配をするのではなく自分の心配から始めなさいな。結界の管理然り、橙の教育然り。私は貴方に心配されるほど落ちぶれたつもりはないわ」
「申し訳ありません。ですが私は……」
式として主を放っておくような真似はできない。たとえ紫様が問題ないとおっしゃっても私からすれば問題なのだ。万に一つとは言うものの0.01%など途轍もなく起こりやすい確率なのだ。
四つ葉のクローバーを見つけるよりも起こりやすい事象であるのに人間は滅多に起こらない事だと信じて疑わない。紫様の体調が悪くなる確率が万に一つだとしてもそれは十分に起こり得る。
「なるほど。彼女の言っていたことがようやく理解できたわ……いえ、こちらの話よ。それに孝行したいのなら自らの成長を見せなさい。貴方はあまりにも式に引っ張られ過ぎている。
式神とは外の世界のコンピューターで言うソフトウェアのようなものだと数年前に紫様から聞かされた。ソフトウェアはあくまでも使用者の指示に従うだけのものであってそれ単体で考えを起こすことは許されないのではないのだろうか。
「それはコンピューターの話よ。コンピューターに搭載されているハードウェアはそれ単体で考えることができない。それこそ使用者がいて初めて動くことができる状態ね。
でも貴方はどうかしら? もう覚えていないでしょうけれどあなたも元はただの狐だった。常に自分で考えて行動できていたのではなくて?」
「その通りだと思いますが…どうして考えていることが分かったのでしょうか」
少なくとも声に出したような覚えはない。顔に出ていたのだろうか。
「貴方の考えている事など手に取るようにわかるわ。その呆けた表情も、ね。
さて、そろそろ計画も最終段階に移るわ。明日は起こしに来ないで頂戴。流石に少し、疲れたわ」
「そうですか……くれぐれもお体には気を付けてくださいね。ではおやすみなさい」
やはり相応の疲労は溜まっていたらしい。明日は何時起きてくるかわからないがいつもよりさらに栄養のあるものを用意しておかねばなるまい。早く元のように元気なお姿になってほしいものだ。
もうすぐ日が昇る。橙が起きだす頃だろうか。天気は晴れ。神社上空の雲間から太陽が出てくるまで推定11分と26秒52といったところか。
~古明地さとり~
「お疲れ様だったわね、さとり。私のいない間の幻想郷はどうだったかしら?」
朝、本来ならば紫さんが寝ているはずの時間帯である。
「本当に疲れましたよ。いつ気づかれてもおかしくはないので何であってもまともにのどを通らない状態でしたし。あ、明日は藍さんが起こしに来ないので注意してくださいね……幻想郷に関しては平和もいいところでしたね。正直に言うなら私のいない間の地底の方が心配でならないのですが」
三年前に話だけを聞き、一年前にその内容を聞いて臨んだ私にとって絶望的な計画。
その名も『八雲紫影武者計画』
何でも紫さんが外の世界に数か月間用事があったらしいのだ。紫さんが幻想郷を留守にしていることが知れ渡ればレミリアさんたちのような勢力が何をしでかすかわからない、という事で私が成り代わっていたのだ。いつバレてもおかしくはないし、バレたら私が消される鬼畜な計画である。
勿論私の姿ではなく紫さんの姿でだ。三年前に見せられたアリスさんの紫さん人形をさらに改良したらしくよりリアルになっていた。さらに前回はアリスさん自身が操作していた人形を着ぐるみ状にすることで、中に人が入ることができるようになっていたのだ。
特殊な魔法が組み込まれているらしく、私よりはるかに大きいはずの紫さん人形の中に入っても不自由は感じなかったし、むしろ生身であるかのように扱えるほど高性能だった。
「ここに帰ってくる前に少しだけ地霊殿に寄って来たわ。安心なさい、地底は特に問題も起きていない様だったわ。地霊殿は少し雰囲気が暗かったけれど」
今回の計画の内容まで知っているのは私の知る限りでは私と紫さんとアリスさん、あとは最近初めて会った摩多羅隠岐奈さんの三人のみ。私が地上に来ている事を知っているのはいつもの茶会のメンバーたちだけだ。
「それなら良かったです。それにしても紫さんの能力は便利な物ですね。あれだけ制限していても恐ろしく使い勝手が良かったですよ」
「当たり前よ。それくらいでないと地上の賢者はやっていけないわ」
境界操作をかなり制限していた――――人形に付与するにはそれが限界だっただけだが――――にもかかわらずその利便性はこの上なく良かった。スキマを介した移動や結界操作も四か月間藍さんにバレなかった程度には使えたのである。これでも本来発揮できる能力の百分の一以下だというから驚きしかない。
「そういえばスキマの中からちらっと見ただけだけれど、地霊殿の子たちも今日貴方が帰ってくると分かっていたようよ?」
「あぁ、これは地霊殿にもまだいくつかありましたね。万が一の時のためにお燐には常に持たせているのでそのせいでしょう」
万が一とはただの確率の話ではない。人間の持つごくわずかな時間に対してその事象が起こる可能性が無に等しい時に使う言葉なのだ。万とはただの数字としての意味を持つのではない。古来からこの国に浸透してきた『八』とほとんど同じ意味で用いられているのだ。
すなわち本来なら
コンピューターは数字をただの数字としてしか認識できない。『万に一つ』を0.01%と解釈した藍さんは悪い意味で式神に縛られ過ぎているのだ。主人に忠実なのは悪い事ではない。むしろたたえられるべき心がけである。
しかしそれが能動的なものではないのであれば決して褒めることはできない。式神が難しいのはそこである。心を読んでも忠誠心が能動的なものなのか受動的なものなのか判断できないのだ。
「そういえばそれ、貴方のところにはたくさん渡していたわね。さて、そろそろ地霊殿に送りましょうか。早く帰ってあげないといけないわ」
「その前にこの着ぐるみを脱ぎたいのでアリスさんのところに行きましょうよ」
紫さんは自身そっくりの人形を目の前にしてどうしてこうも平然としていられるのだろうか。あろうことかそのまま送り帰そうとまでしてくる。これは天然なのかわざとなのか、相手が紫さんだからわからない。
「あらそういえば忘れていたわね。アリスはもう起きているでしょうし早速向かいましょうか」
まさか天…然…? いやいや紫さんはただ私を揶揄っているだけだろう。騙されるな、私。
「さとり様‼ ようやく帰って来たんですね! お帰りなさい!」
「えぇ、ただいまお燐…こらこら抱き着いてくるなら猫の姿になって頂戴。私が潰れてしまうわ」
アリスさんに着ぐるみを剥いでもらってから地霊殿に帰ってくると目の前にお燐がいた。きっと紫さんが気を利かせて出る場所をここにしたのだろう。紫さんが空気を読むなんて珍しい。もういなくなっているようだし。
「四か月ほども会えなかったんですからこれくらい許容してくださいよ~。それに猫の姿になると抱き着く、というより引っ掻くに近くなりますし」
もうすっかり誰かが傍にいる生活に慣れてしまった。昔の私は一人で生きて行くべき宿命を持つはずの覚妖怪がこうなってしまうとは思ってもみなかっただろう。でも悪くない。
「仕方ないわね。ほら、そこにいるお空も戒もいらっしゃい」
「さとり様~! 会えなくて寂しかったです」
「私も…自分の未熟さを改めて実感できました。やはりさとり様あっての地底だと分かりました」
今日は私が帰ってくるという事で休みにしたらしい。急遽休みになったので勇儀や萃香たちには声をかける暇が無かったらしいが私は別に家族だけでも十分嬉しい。
私がいない間は地底の管理を戒に、地霊殿の管理をお燐に任せていた。この四か月間は裏も表も無く戒が地底の主として仕事をしていたのだ。その上で未熟さを実感したらしい。良いことだ。それをこれからの成長につなげてくれるのなら私はもっと楽に仕事ができるようになる。
既に昔よりはかなり楽になっているのだが、楽を知ることでさらなる楽を求めようとするというのは人間も妖怪も同じなのだ。
それ抜きにしても
「ふふっ、それならこれからもっと精進して私を追い越すくらいにはなってもらわないといけないわね。心配せずとも貴方ならいつかなれるでしょう」
「…そうでしょうか。私にはさとり様より強くなっている未来が見えないのですが」
実力だけで言うなら戒は既に私を追い越しているはずだ。つまり既に戒は私より強いとも言える。しかし実際に戦うとなれば私が今の戒に負けることは無いだろう。戦闘は
しかしこの世界は圧倒的な力で勝ってきた者の方が多い。地上なんかはまさにその典型と言っていいだろう。紅魔館のレミリアさんや花畑にいた幽香さんもそうだ。遠めに見ただけだが博麗の巫女もそうだっただろう。
頭脳派なのはアリスさんや竹林の素兎、天狗もその中に入ってくるかもしれない。天狗はもとの力が強いのだが、保守的で好戦的では無いのでここ四か月間で戦闘を一度も見ていなかったりする。私程度では測りかねているのだ。
頭脳と力の両方を備えている者も勿論いる。その筆頭が紫さんである。あとは竹林に住む月人二人もそうだろう。総合力で言うならどちらも紫さん以上の実力者であるかもしれない。
その枠に収まりきらない実力者も当然存在する。昔会った地獄の女神や、つい二月ほど前に会った幻想郷の賢者である秘神なんかはまさに規格外の化け物だろう。住んでいる世界が違うが故にほとんど会うことは無いことが最大の幸福ともいえる。
「未来など誰にも見えないものよ。複雑に絡まり合った運命の糸を忠実にたどる事など不可能なんだから。でもだからこそ成長するためのモチベーションが生まれるのよ」
「どういう事でしょうか?」
「相変わらず頭が固いのね。良いかしら? もし自分が誰よりも強くなっている未来が見えたとするでしょう? その時貴方は強くなろうと思って努力できるかしら?……そう、どうせ強くなるのなら努力など不要だと思ってしまうでしょう。そうするとどうなるか……未来は変わってしまうのよ。これを少しでも努力する方向に導けるのが運命操作能力というものよ」
レミリアさんでさえ見えた運命をそのままたどらせることはできないはずだ。たった一つの行動でその人の運命は容易く変わってしまう。運命を操作することは他人を操るという事に他ならない。完全操作ができない以上レミリアさんの能力も完全ではないという事なのだ。
逆にもし彼女の能力が完全になってしまえば世界は全て彼女の手に落ちる。故に彼女の能力は永遠に完成しないことが約束されているともいえるのだ。これはレミリアさんにとっても悲しい事ではなく喜ばしい事だろう。本を読んでいて知ったが思うがままの世界ほどつまらない物はない。
「さて、三人ともそろそろ落ち着いたかしら。お茶にしましょうか」
疲れた後のお茶はいいものだ。コーヒーも悪くないが今はお茶が飲みたい。紫さんはもう寝ている頃だろうか。この一年間は紫さんの真似をする練習から何からすべてが大変だった。やはり私は日の当たらない場所で仕事をしているくらいが丁度良いのだと実感できたのは良かったかもしれない。あと地上の恐ろしさを知ることができたのもプラスだっただろう。
???「弾幕はパワーだよ」
???「弾幕はブレイン」
次回はここの内容を少し掘り下げます
会話文の書き方
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前話まで同様一行空白を入れる
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今話のように間に空白を挟まない