面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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前回の早苗さん視点に ~東風谷早苗~ がついていなかったのは単なるミスです。他小説と書き方を統一しないからこういうことになるんですよねぇ
これからは気を付けます


奇跡の少女

   ~東風谷早苗~

 

 

「神奈子様~! 諏訪子様~! 大変ですっ!」

 

両親がいないのならば大声で両神を呼んでも冷たい目を向けられることも無ければ頭を心配されることも無い。先ほどまでここら一帯を覆っていた嫌な空気も無くなって秋の陽気がポカポカと……あれ? 陽気って普通春に使うんだったっけ。文学的な事はよくわからない。

そもそも季節全体を通してみれば春も秋も日照時間や気温はあまり変わらない。そりゃ秋の方が少し気温が高くて降水量も多いが五月と十月を比べれば概ね一致する程度には同じである。まあこんなことを言ったら気象を専攻している人に殴り飛ばされそうだけど。

 

「お父さんとお母さんが攫われたって……あれ?」

 

いつもは私が帰ったらすぐに『お帰り』と言ってくれるはずなのに返事が無い。二柱の事が見えて声が聞こえるのは私だけなんだからいつも通り遠慮なく大きな声で返事してくれてもいいと思うのに……っと、食卓に紙が置いてある。何々…

 

早苗よ、私たち二人はどういうわけか人質ならぬ神質になってしまったらしい。何がどうなったのかはわからないがこれを書いている今はたくさんの目が私たちを覗く気味の悪い空間に閉じ込められている状況だ。神である私たちでもここを出るのは難しいという事で、取り敢えずさらわれた事を告げる手紙だけを書かされている。

早苗の進む道は早苗自身が決めれば良い。だがもしその気になったのならば私たちを救いに来てくれるとありがたい。早苗が来なくても私たちは神だから簡単に死ぬことは無い。その辺りの事もよく考えて行動しなさい。場所は絵馬に書いてくれているらしい。罰当たりな奴よな。

 

P.S. この紙は普通の人間には新聞紙にしか見えないはずだから安心してもいいヨ

 

もっとなにか言う事があったのではないかと思ってしまうがあのお二柱の事だ、仕方ない。特に最後の追伸…恐らく諏訪子様だがこれ書く必要あったのかな。何にせよ両神が攫われてしまったのは本当であるようだ。さっき帰って来た時に大声で呼んでしまったのに…どう言い訳すればいいだろうか。

まあ救いに行くのは前提条件だとしてまずは準備をしなければならない。力のある神様である二柱を攫ってしまうような得体の知れない実力者。相手は人間ですらないのかもしれない。

 

普段は使いもしないお札や大幣を持ち、由緒正しき巫女服に着替えたら準備は完了だ。まずは絵馬を確認。その前に両親の確認だ。誘拐犯は正真正銘ただの人間である二人にはどうしようもない化け物だろう。どこにいるだろうか。

 

「あれ、こんなところに…生きてるよね?」

 

どうやら大丈夫なようだ。寝室でご丁寧に布団まで掛けられて寝ているだけだった。ただ服装は寝間着でなかったので仕事中に気絶させられたのだろう。目立った外傷も特になく一見すればただ眠っているようにしか見えない。

どうしてこの神社が狙われたのかはわからないが少なくともまだ死者は出ていないので安心した。こうなれば早急に犯人の場所まで行って問い詰めてやらねばなるまい。確実に先ほどあった不気味な女性だろう。女性を傷つけることには少々気が引けるがこうなった以上仕方ない。

 

『尤も一人で来るしかないでしょうけれど』

 

これは私の実態を知らなかったからではなく知っていたからこその言葉だったのか。私は()()()()()()()()()()()二人が攫われたら一人で行くしかないのだと思っていた。

だが実際は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()一人で行くしかないという事だったのだ。まんまと相手の罠にかかってしまったというわけだ。まずは一ポイント相手に取られてしまったことになる。次は直接対決で勝った方に二ポイントかな。それをするにもとにかく絵馬だ。

 

神聖なる湖最深部にて奇跡の申し子を待つ

 

えらくデカデカと書かれているこれがそうだろう。神を攫うという大胆な事をする割に字は繊細なようだ。それにしても奇跡の申し子か。神奈子様と諏訪子様に無理矢理話させたに違いない。

湖最深部などという普通の人なら生身で行ないであろう場所も私の持つ奇跡の力を使えば容易く行くことができる。伊達に今まで二十年近くも生きてきたわけではないのだ。

 

大きな湖、どのあたりが最深部なのかはわからないが諏訪子様はそこまで深くない湖だと教えてくれたことがあったはずだ。

 

「運を天に任せよう。奇跡の力よ、我を愛すべき者たちの元へ導き給へ。神の棲まう湖よ、汝が主への道をいざ指し示さん。さすれば路開かれん。天運『モーゼの奇跡』」

 

今更誰かが見ているかもしれないなんて考えていられない。そもそも参拝客の少ない神社の、ましてやその裏にある湖なんて人はほとんど見に来ないものだ。

モーゼは葦の海を割ったという。しかし私にはそれほどの力があるわけではないのでこの比較的浅い湖を割るので精一杯なのだ。

 

だが割れてしまえばあとは簡単。天運に従って開いた湖底を歩いて行けば自然と最深部に着くからだ。今回はプラスの奇跡ばかりが起こってくれたがマイナスの奇跡が起きることもある。

きっと今回はこの髪飾りがお二柱からのご加護を授けてくださったのだ。

 

『素晴らしい、素晴らしいですわ。その奇跡の力は本物だったという事ですわね。東風谷早苗、この私に勝てればあの二柱は返して差し上げましょう。その前にちょっとした余興を楽しんでいただければと思いますわ』

 

やはりさっき会った女性だ。だが声は聞こえるのにどこを見ても姿は見えない。まさか土に潜っているわけでもないだろうしどこにいるのだろうか。

それにしてもここまで来れば直接対決ができると踏んでいたのに余興が入るなんて聞いていない。

 

「どこに隠れているのです! 早く出てこないと………これは! ファフロッキーズ?!」

 

『そう、これこそ今回の余興、ファフロツキーズよ。まさに奇跡的な現象ですわね。さ、ぼうっとしている時間はありませんことよ?』

 

馬鹿にされている気分だ。こんなにも簡単に奇跡を起こされては奇跡の価値の大暴落である。それにしてもぼうっとしている時間が無いとは…あぁ、そういう事か。

落ちてきた魚たちが何故かその場ではねずにこちらに向かって突進してくる。まるで意思を持って私を敵視しているような動きだ。先ほどの女性に操られているとみて間違いないだろう。よくよく見れば魚の周りに水の膜が張ってあるし。

 

「くっ、こうなっては仕方がないですね……湖よ、汝が秘境へ続く路を閉じ給へ」

 

もう水を戻して飛ぶしかない。普段は決してしない飛行。だがこの量の魚を相手取るのは大変すぎるしむやみに殺してしまうのも気が引ける。流石の操られている魚も空中に留まることはできないらしい。ただ水面から跳ねる元気な魚でしかなくなった。

問題は最深部で待っていた相手も一緒に沈んだ事だがお二柱を取り戻せるのなら……あ、相手の手に渡っているからお二柱も湖の底だ。あのような奇跡は自然に負荷をかけるし一体どうすれば…。

 

「お見事。まさかそのような方法であれを乗り越えるとは思いませんでしたわ」

 

「ようやく姿を見せましたね。神奈子様と諏訪子様はどこへやったんです? 痛い目に遭いたくなければさっさと返しなさい!」

 

空中に座る(?)声の主はやはりあの女性だった。やはり相手は人間ではなかったか。だとすると恐らく邪神の類か妖か。如何せんお二柱以外の人外を見る事がほとんどないので断定ができない。

 

「フフッ、貴方がその気なのならば少しばかり遊んであげましょう。どこからでもかかって来なさいな。あの二柱を取り返したいのならば私に勝つよりほかにないですわよ」

 

言ってくれる。勝つのは私だ。こんなところで負けて良いほど私が二柱から負っている期待は軽くない。必ず勝って日常を取り戻す。

 

「奇跡の力に押し潰れなさい! 『客星の明るすぎる夜』」

 

「ふむ、昼間の星ほど地味な物は無いですわね。夜とは()()ものではなく()()()()()もの。さぁここにも夜の帳を降ろしましょうか。客星が明るく輝くように」

 

不意に辺りが暗くなる。私の放った弾幕はより一層輝きを増したが正直なめられているとしか思えない。結構自信のある攻撃だったのにこうも簡単にいなされては自尊心に傷が付く。

あろうことか相手の方は少し遠くで密度の薄くなった弾幕を軽々避けている。これを避けるにはまた手札を切るしかない。

 

「もう貴方は遠くに逃げられない。そして近寄ることも許しませんよ。貴方は奇跡的な距離から外れることはできないのです。 『ハビタブルゾーン』」

 

すかさず準備、建御名方召喚の詠唱だ。これも一つの攻撃技として完成させられれば良かったのだがこの大技を使うような戦闘になったことが無かったので考えたこともなかった。これを機に準備段階も攻撃技として考えてみよう。

 

「その身に神の力を受けてみよ。大奇跡『八坂の神風』! これで吹き飛びなさい!」

 

この召喚は神奈子様たち自身を呼び出しているわけではない。だから今回のように居場所がわからない状況であっても最大威力が出てくれるのだ。

風を司る神の風を受けて無事では済まないだろう。ましてや相手は逃げることもできない距離に縛り付けてあるので反応もできなかっただろう。あとは神奈子様と諏訪子様を探すだけ…

 

『やはり見込み通りでしたわね。素晴らしい威力の攻撃でしたわ。巻き込まれれば私ですら助かるかどうかわからないくらいには。その力に免じて最後の課題を差し上げましょう。私の攻撃を避けながらここにある檻の結界を解いてみなさいな。時間は約二分間。当然被弾すればその時点で終了ですわ。では楽しんでくださいね。  深弾幕結界 -夢幻泡影-』

 

また消えた。そして声が聞こえているという事は避けきったという事になる。こちらがいくら攻撃してもこうやって姿を消して躱されるのならこちらに勝ち目など無い。これが間違いなく最後の挑戦状だろう。目の前には動物園にでもありそうな大きな檻。

結界の張ってあるその檻の中にいるのは……神奈子様たちだ。必死に何かを訴えかけてきているようだがこちらに声は届いていない。恐らく遮音の結界も張られているのだろう。

 

普通の状態であればこの程度の結界なら二分もあればこじ開けることが可能だ。だが今は慣れない戦闘で疲れている上にかなりの密度の弾幕を避けなければならない。当たれば終了。その時点で二柱は永久に私の元から去ってしまう事になるかもしれない。

 

『さぁ、残り99秒、97、96……』

 

なんとご親切にもカウントダウン付きだ。既に六分の一の時間が経過。結界の状況は芳しくない。だがここで諦めるわけにはいかない。お二柱のために、何より私のために絶対に負けるわけにはいかないのだ。まるで熱血漫画のように私はただ気張るしかない。




参考は諏訪の1981~2010年までの雨温図です

ハビタブルゾーンってそのまますぎるよなぁ、と思いながら書いてました

早苗さんパートが思いのほか長くなってしまいましたのでさとり様視点は恐らく二話以来のお休み
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