面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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試練

   ~八雲紫~

 

 

この子の奇跡の力は本物だと判断できた。その上でこちら側に来るのか来ないのかは彼女次第だろう。今も隠れて観察しているが浮遊も違和感は無いようだし弾幕にも多少の不慣れな動きはありつつも問題なく対応できている。

彼女は知らないことであろうが今回こんなに面倒な事をしたのにはきちんと理由がある。私が彼女に課した試練は全て彼女の実力を測るための試験なのである。幻想郷に来ても大丈夫な人間なのかを試すのが目的であり神奈子たちを攫うのが目的ではない。

 

試験は合格で良いだろう。会場への現れ方もそうだが、勝てないと分かっていながらも神奈子たちを救うために私に向かってくるその勇気と二柱への思いは十分に評価できる。もう私が彼女を試す意味は無いだろう。

 

『一週間後の15時に神社を移転させますわ。それまでにあの子の意志を確かめておいてくださいね。では次は幻想の楽園でお会いしましょう』

 

結界を破れていないあの子には決して届かぬ声で二柱に告ぐ。あとは意図的に一部の弾幕を消してここまでの道を作れば私の仕事は一旦一区切りだ。

残り時間内にこの結界を解くのはまだ不可能だろう。こちらも緩めておかなければならない。私が緩めていると悟られないように。

 

『33、32、31……あら残念でしたわ、まさか破られるなんて。こうなっては仕方ありません。約束通りお二柱を返しましょう…またお会いできることを祈っておりますわ』

 

「私は…二度と…会いたくないですね…。相変わらずどこにいるのかも…わかりませんし」

 

あらあら悲しい事を言ってくれるものだ。この子が道を踏み外さなければ会うことは無いだろう。だがしかし既にこの子は他人と歩みがずれてしまっている。踏み外すのは時間の問題だと、私はそう考えている。

こちら側に来ればこれから何度も会う事になるだろう。ともすればこれから何千年もの付き合いになるかもしれない。霊夢とは決定的に異なる人間だが霊夢が生きている間は仲良くしてやってもらいたい。私からこのような形で干渉することはもうあまり無いだろうし私を敵視するのもやめていただきたいものだ。原因は私なのだけれど。

 

取り敢えずは一週間後。転移先は……保守的な奴らに新しい風を入れてやるか。かつて山の神として信仰されていただけで今は腐りきった奴らに本物の山の神を教えてあげるなんて…うんうん、私ったらなんて親切なのかしら。

…………これであいつらももう少し操りやすくなればいいんだけど。話を聞かない者に話しかけるほどいら立つことは無い。頭でっかちもいい加減にしてほしいものである。

 

 

   ~古明地さとり~

 

 

「……というわけなのよ。地上の事はあまり関係ないでしょうけど一応、ね」

 

はぁ~、地上に新たな神が来たか。まあ正直それを聞かされたところでどうもしないのだが。だってそうだろう、神と付き合うほど面倒なことは無いと私は考えている。

神とはそもそもの力が規格外である上に自分本位であることが多いのだ。自分の信仰のためなら平気で災害を起こそうとする者たちとどう付き合えと言うのだろうか。

 

付き合うのが面倒ならばどうすればいいだろうか。そう、端から関りなど持たなければいいのだ。付き合わなければ済むだけの話なのだ。だから今回地上にやってきた二柱プラスアルファについてもあまり気にすることは無い。

 

「それにしても紫さんが認める人間ですか。地上はさらにカオスになりそうですね」

 

博麗の巫女に森の魔法使い、紅魔館のメイドだけでも十分に厄介な人間ぞろいだというのにそこにさらに増えると地上の妖怪も大変だろう。人間側には()()の茨木さんもいるし冥界に行けば半人の娘もいる。改めて地底にいて良かったと思える。

 

「そうなのよ。まあいざという時のバランサーの代わりがいることは悪くはないわ。特に地上は変化が大きいもの」

 

外の世界に比べれば変化を止めた世界に見える幻想郷の緩やかな変化も時を進めることを諦めた世界とも言われる地底に比べれば随分速い。季節然りパワーバランスの変化然り。

違いは人間がいるかいないかだろう。人間が多ければ多いほど変化は速くなる。それは人間と人外の寿命差ゆえだ。残されている時間に対してするべき量が等しければ当然時間が長い方がゆっくりと物事を進めるに違いない。私の執筆がまさにそう…あ。

 

「やはり地上は大変ですね。地底に籠って正解でしたよ。…それより紫さんに頼みたいことがあったんでした。これを里の鈴奈庵という貸本屋に持って行ってくれませんか?」

 

紫さんの変装の上からさらに変装するという強硬手段で里に通っていた(流石に紫さんのまま里に通う勇気は無かった)のだが、明らかに怪しい雰囲気を醸し出している私でも分け隔てなく接してくれた小鈴さんにはこれくらいの礼をしても良いだろう。

 

「これは?」

 

「借りていた本ですよ。返すのを忘れていたんです。この紙と一緒に机にでもこっそり置いておけばいいでしょう。お願いできますか?」

 

噓八百を並べたがこの本を置いてきてほしいというのは本心である。ついでに置いておく紙に書いてある事は非常に単純だ。

『多くの書を貸してくれたことには非常に感謝しています。この本はお礼のつもりなので店に置くなり読むなりは小鈴さんのご自由にどうぞ』

とドイツ語で書いてあるだけだ。何故ドイツ語で書いたかと問われれば私が理解できる異国の言語がこれくらいしかなかったからである。紫さんには読めないはずだが最近になって何故か能力が開眼したらしい小鈴さんには読める、それが重要なのだ。

 

「まあいいわよ。あそこの店も最近は要警戒だし霊夢が干渉するより前に少しばかり監視しておく必要もあるもの。それにしても分厚い本ね。よく借りようと思ったものだわ」

 

そりゃまあ普通の本に比べれば分厚いし読書好きでも無ければ読む気も起きない見た目である。でも某イギリスの魔法使い物はまだ五巻分しか幻想入りしていないにもかかわらずもっと長かったしそれに比べればマシだろう。

紫さんもその気になればこのくらいの量軽く読み切ってしまうだろうし。むしろ百年でこれだけってのが悲しいところである。趣味に使える時間を誰か増やしてくれないだろうか。

 

「えぇ少しばかり興味がありましたので。話は戻りますが幻想郷に二つの神社があっても大丈夫なんでしょうか? あの巫女が商売敵を放っておくとも思えませんが」

 

神社への信仰…というかお賽銭のためならば何でもしそうなあの巫女がそれを邪魔するような勢力を放置するとは思えない。ましてや相手は実態のある神を擁する大きな神社だというのだから尚更だ。放っておけばなけなしの信仰が持っていかれるのは必至だろう。

 

「それに関しては心配いらないわ。彼女たちをとても幻想郷的な作法で歓迎したもの。霊夢も今のところはこれ以上どうこうするつもりはないでしょう」

 

幻想郷的な歓迎作法と言えば気に入らない奴がいればぶっ飛ばすというとても単純なものだろう。想像するだけで恐ろしい世界である。その頂点に君臨する八雲紫、その実態はここ数か月で嫌というほど理解させられた。

 

「もしかしてまた誰かを焚き付けたんですか? 貴方は他人からどう思われているのかを今一度考えなおしてみるべきではないでしょうか」

 

大抵地上に新勢力が誕生する時には紫さんの干渉がある。他人の神経を逆撫でして先制攻撃をさせてしまえばあとは正当防衛と名付けて徹底的に痛めつける。そして幻想郷に逆らわない新勢力として招き入れるのだ。

つまりほとんどの勢力が紫さんをどう思っているかと言うと……流石に面と向かって本人に言う事はしないでおこう。言ったところでこの妖怪なら暖簾に腕押し、全くの無頓着な気もするが。

 

「確かに愛され過ぎることも大罪だわ。でも私は神々も恋する幻想郷、その母たる妖怪。幻想郷が全てを受け入れるように私もその愛の全てを受け入れるのよ。それが如何に歪んだ愛であっても」

 

きちんと自覚はある様で何よりだ。まあそんな胡散臭い思考をしているからこそ紫さんを詳しく知らない者たちからは嫌われているのだろうけど。

私だってこう付き合いが長くなければ嫌わない道理はないと思う。だって胡散臭い事この上ないのだから。自分が手の上で踊らされているようにしか感じない相手と付き合うのは難しい。

 

「目には愛を、愛の殴打には愛のパンチを。私は幻想郷の全てを愛しているわ…だからこそ時には愛の鞭も必要だと思わないかしら?」

 

その愛の鞭とやらで過去にレミリアさんたちを絶望に追い込んだという妖怪が何を言うか、と言ってやりたい。

 

「まずは加減を知りましょう。その愛とやらで殺されてはたまったものではありませんから」

 

「加減はしているわ。勝つべきときと負けるべきときの区別もしっかりしているし…そうそう、勝ち負けの話で思い出したのだけれど……さとり、共に月に攻め込む気はないかしら?」

 

ふむ、今日来た本当の理由はこれか。地上に出ない私にとって不要な情報を伝えに来ただけではなかったようだ。それにしても月、か。千年ほど昔にとある妖怪が無残にも敗北して帰って来たという妖怪にとっての最大の禁忌。それどころか地上に住む者にとっての禁忌とも言える。

地上で会った月人は地上を単なる庭や監獄としか考えていなかったし、そもそも持っている技術力が河童と比べても桁違いらしい。

 

「やめておいた方が良いですよ、紫さん。元月人という者たちを見たから言えますがあそこは只者ではない者たちの巣窟です。勝ち筋など計算するだけ無駄になるような場所ですよ」

 

「かつて一匹の妖怪がいました」

 

おろ、紫さんが何かを話し始めた。これは口を挟まずに聞くべきだろう。変に突っ込んでも仕方がない実話のような雰囲気であるし。

 

「あるとき妖怪は自分が月にも自由に行けることに気づきました。そこでその妖怪はこう考えました。『結界に阻まれた月の都で少しばかり遊んでやろう』と。十五夜になると月と地上の間に道ができます。妖怪はそこを通って月にたどり着きました。しかし月の都を覆う結界は妖怪の思っていたものよりもはるかに強力で破るのに時間のかかるものでした。

そこで妖怪は一度地上に戻り、その時の事を踏まえて策を練り直したのです。しかし妖怪は満月の周期がずれ始めていたことを知りませんでした」

 

月の周期がきっかり二十八日ではない。これは周知の事実であり少しばかりの教養があれば地底に閉じ込められている妖怪でも知っている事だ。

 

「そして数多の妖怪を具して再び月に侵攻したのです。しかし二十八日で訪れていた満月が二十七日と三分の一になったことに気づくことができなかった妖怪たちは当然帰り道を確保できないままとなってしまいます。満月でなければ道は開かない、そこに月の賢者たちの仕組んだ罠があったのです。三分の二日分の余裕がなくなった妖怪は抵抗を試みましたが、その兵器の前にあえなく敗北しました。殺生を好まない月人は動くこともできず降参するしかなかった哀れな妖怪たちを地上に強制的に送還しました。これが幻想月面戦争騒動、いわゆる第一次月面戦争の真実です」

 

完全敗北で消されたのかと思っていたがそうではなかったらしい。というか月人が殺生を好まないなんて本当だろうか。八意永琳なんて人を殺すことに何の忌避感もなさそうな人物だったが。

 

「そして妖怪は三度立ち上がりました。勝利の方程式を引っ提げて今こそ月人を陥れようと計画を進めているのです」

 

「つまり……千年近く前に月に攻め入ったのも紫さんだったと? でも何故……どうしてです?」

 

ならどうしてまた再び攻め込もうと考えるのだ。月の脅威を最もその身に受けてきたはずの紫さんが何故懲りずにまた負けに行こうとする? 私には理解ができない。

 

「言ったでしょう? 勝てるから行く、それだけよ。さてさとり、貴方も来てくれるかしら?」




殴打(punch)に気づければ(eye)にも気づけたかもしれない

珍しい紫様の暴露話
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