面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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今話で振ってあるルビは別に読まなくてもいいと思います


大誤算

   ~古明地さとり~

 

 

結局あの日の紫さんの目的は月の都を襲撃することではなかったらしい。今回の勝利条件は数百年前に苦汁をなめさせられた相手にギャフンと言わせることだったとか。レミリアさんたちをわざわざ月に送り込んだのも相手の目を眩ますためであったらしい。

そもそも紫さん自身月とまともにやりあって勝てるわけがないと思っていたようなので私の心配は完全に杞憂だったらしい。私の死ぬ覚悟は何だったのかと思うとなんだか恥ずかしい限りである。

 

紫さんは月から帰ってしばらくの間見張られていたので大人しくしていたようだがそれ以降は月を気にせず過ごしているらしい。大人しくしていた理由は幽々子さんが月の都のお偉いさんの家から超古酒を盗んできた事を隠すためだったようだ。

計画に参加した者として少しいらないか、とも聞かれたが丁重にお断りしておいた。酒の味の良し悪しなど判断できないし、変に鬼に見つかればもっと飲みたがるに違いないからだ。そんな状態になった二人を落ち着けることなどできないので飲まなかった。

 

転ばぬ先の杖。面倒になりそうなことには首を突っ込まないことが一番なのだ。

首を突っ込まなくてもあちらから来てしまっては対処のしようもないし、大体は気づかぬ間に突っ込んでしまっている。上手く躱せないこともかなり多かったり。

 

 

 

地底でももう雪は完全に融け、恐らくもう夏だろうと言う時期になった。季節変化が乏しいのではっきりと見極められないのは地底の欠点とも言えるだろう。そもそも地底に利点が少ないので総合的には欠点が多くなってしまう。

 

地底の利点は地上と比べて勢力変動が少ない、と言うよりむしろ無い事だろう。戒(私)を頭として地霊殿が存在し、それより下の住人に関しては権力に大きな差が無い。

力が全てという時代遅れな地底ではあるものの殊一匹の妖怪、一つの種族が虐げられるということは無い。それは偏に旧都を鬼が纏めているからだろう。

 

鬼は弱い者いじめを好まない。正々堂々と勝負することに拘る種族なのでいびっている者もいびられている者も見過ごせないのだ。結果加害者を反省させたりするときに旧都の建物のいくつかが頻繁に壊れるのだ。正直力で脅すのは自重してもらいたい。

修繕費だってただではないのだ。工事自体は壊した妖怪が自分で修理することにしてあるので材料を工面するだけでいいのだが、その材料の工面にお金がかかるのである。

 

地底ではまともに植物が育たない。これは当たり前である。地獄として機能していた過去があるのに、栽培に適した土地があるわけがないのだ。死人には食べられない作物をわざわざ育てさせることによってより死を実感させる地獄があったのならまた別だが多分無かっただろう。

地獄は鬼が死人を罰する場所。単純な苦痛を与えるだけが目的の地獄しかなかったと考えられる。少なくとも私が昔見た時には緑豊かな地獄は無かった。

 

そんな背景があるので木材は地上から仕入れなければならない。粘土や金属の類は地底でも結構採れるのだが、残念ながら旧都は木造が多い。火事になったら絶望でしかないし材料費も節約したいのでレンガ造りの建物にしたいところではあるのだが鬼はこの案を好まないのだ。

 

曰く

『レンガでは冷たい雰囲気の店になる』らしい。

 

数十年前に建て替えてかなり洋風になった私の屋敷は確かに冷たい雰囲気がある。それでもここは旧地獄。冬さえ乗り切れれば案外快適な生活ができる。

木造なら冬も大した防寒対策がいらないというのがあちらさんの主張なのかもしれない。それでも鬼火やらなんやらを使うのだからやはりレンガでも良いのではないかと思ってしまう。

 

……おや、地上のどこかで地震が起きたようだ。地底と地上は直接つながっているので地上の地震は地底にも届く。感じたのは僅かな揺れだけだったし変な被害が出ていなければいいのだが。

旧都の建物が地上で起こった地震によって倒壊した事例は今のところない。喧嘩や制裁以外で壊されたらたまったものではないのでこれにはかなり助かっている。だからと言って必ず地底に被害が出ないかと問われるとそうではないと思うが。

 

最近は勇儀や萃香がかなり頑張ってくれているようだから建物の被害は減っているのだが無くなっているわけではない。だが私個人の意見で大勢の意見を退けるのは望むところではない。

私がしたいのは独裁政治ではなく民主政治だ。独裁がしたいのならば目安箱など設置せず自分一人で全てをコントロールすれば良いだけ。

 

私がそうしないのは小心者だからだ。反乱を治めるのはもうごめん被る。私はただ当たり障りのない統治をしたいのだ。この狭い地底における反乱など無駄なものでしかないという事は過去の事例が教えてくれている。

それから逃げているだけの私は、民主主義という蓑を纏っている私は、地底の主という権力を笠に着て勇儀たちに旧都の治安維持を命じる私はあるいは小さな独裁者なのかもしれない。

 

 

そうだ、私は偽善の塊である独裁者なのだ。

あぁ、こんな自分が嫌になる。もういっそ地底に埋めてはくれないだろうか……そういえばここが地底だったか。嫌われ者の最後の監獄。

……馬鹿げている、こんな思考は。私はまだ死にたいわけではない。でも身体が言う事を聞かない……? 月に行ったのはもう半年も前だから今更影響が出るはずはないのにどうして……。

まぁ先ずはさっさと仕事を片付けようか。事務など手慣れている。散々やらされてきたのだから。

 

 

   ~八雲紫~

 

 

あんのクソ天人が。幻想郷の要を倒壊させるなどどういう神経をしているのだ。これだから天人は嫌いなのだ。月と同等の技術力を持つわけでもなく然して強いわけでもない。

そのくせ地上を見下す態度は月と同じ程度だ。死神を撃退できる程度の実力で威張る暇人集団の小娘が地上に喧嘩を売るなど百万飛んで二千年は早い。

 

つまり今回の件に関しては私が直接制裁を加えなくとも幻想郷の誰かが向かうだろう。個人的には私の楽園(箱庭)に手を出した無礼者を私の手で葬ってやりたいが私にも立場と言うものがある。

私が攻め入っては幻想郷と天界の全面戦争が起こってしまう。それならば見込むだけの力を持つ人妖数名を駒として使えば良いだけの事。

 

相手は天界屈指のわがまま娘。欲の無い天人に混じる欲深さ。社会的欲求や承認欲求は天界では得られまい。愛無き場所にて愛を求め、他人に興味の無い者ばかりの場所にて自らの価値を求む。異端児もいいところだ。頭ではなく力で自信を深めてきた者。

10枚落ちのハンデをやっても勝てるだろう。ましてや今回は相手の方から19枚落ち(裸玉)のハンデをくれている。どれほど適当に駒を操っても負けることなど万に一つもあり得ない。

 

今は地上にいてなかなか先に進まない地上の人妖(歩兵)も成れば異変解決者(金将)へと変わりたちまち天界に向かうようになるだろう。対峙するは一人の天人(玉将)(王将)は後ろで戦況を見守っていればいい。

9枚すべてがとられたならば私が出るだけだ。負け筋など存在し得ない懲悪。幻想郷に手を出すのは構わないが神社に手を出すのは見過ごせない。塀が崩れれば外の世界は容赦なく幻想郷を飲みこんでしまうだろう。

 

「藍、貴方は引き続き竜宮の使いを見張っていなさい。私は少し散歩にでも行ってくるわ」

 

「は、はぁ。散歩……ですか? 一体どちらへ?」

 

「貴方は何も分かっていない。散歩は何処へともなくフラフラしてみることよ。貴方は何も知らなくていいの」

 

藍は言われたことだけをしていればいい。少なくとも今の段階では自分で何かを考えられるとは思っていない。散歩の正しい意味くらいは知っておいて欲しかったけれど。

数字だけじゃなく国語にも強くなるように勉強させた方がよかったかもしれない。

 

何処へともなくとは言うものの行先は既に決めてある。まずは神社だ。一時的にでも結界が緩んだのは確かだろうからその状態を見るとともに即席の境界を引き直す必要がある。

次に人里や森、紅魔館周辺だ。里では確認されていないが森や湖付近では異常気象が確認されている。特定の人によって天候が変わるというのは調査していれば分かった。

 

これは異変と密接に関わりがあるはずだ………まさかとは思うが緋想の剣を手にしたとでも言うのだろうか。すっかり頭から抜けていたが文献にすらほとんど登場しない、天人専用の剣であるという。それを使いこなすとなればもはやどうやっても勝てる、と言う相手ではなくなる。

これは私の調査不足だ。今更予定を変更するわけにもいかないのでこのまま続けるが今回に関しては厄介なことになりそうだ。

 

完全に幻想郷の事情なのでさとりに頼むこともできない。地上と関わりがある……そうだ、萃香がいたではないか。さとりの許可が得られたら萃香も連れて行こう。

もはや10枚落としても余裕とはいかない。数はできるだけ多い方が良い。私としたことが完全に油断してしまっていた。月が上手くいったのだから今回も上手くいくだろうと慢心してしまった。

 

 

   ~ ~

 

 

結界を張り直した紫は萃香を地上に連れて行く許可を得るために地霊殿に来た。

さとりの部屋まで直通のトンネルを作るのも慣れたものである。出た先はいつも見慣れたさとりの仕事風景。しかし何処かいつもとは違う。

いつもよりさらに集中しているのか紫が来たことにも気が付かない様子だ。

 

「こんにちはさとり。少しいいかしら?」

 

いつもなら机を向きつつも紫より先に挨拶してくるさとりだ。珍しい事もあるものだと思いつつ紫は仕方なく声をかける。

 

「あぁ、紫さんですか。は……お久しぶりです。今日は一体どのような御用事で?」

 

「いえ、少し萃香を借りたいと思ってね。流石に駄目かしら」

 

萃香が地上ではなく地底を選んだことにより萃香も自由に地上に出れるわけではなくなった。現在地底と地上を行き来しているのは紫とこいしだけである。

 

「ふむ、鬼を地上に、か ……良いでしょう。今は旧都の酒場にいるはずですよ。確か温泉街に入る手前の店だったはずです」

 

紫は地底に来ていることをあまり知られてはならない。さとりが生きていると知っている者以外は紫の存在を知らないのが地底の現状だ。

故にきちんと店の指定までしておかなければ思わぬところで他の妖怪に見つかってしまうかもしれない。さとりの店の指定はこういうわけだったのだろう。

問題は飲んでいる萃香が急に攫われて機嫌を損ねないか、という事である。

 

「今の時間は一人で飲んでいるはずですから星熊の邪魔も入らないと思いますよ。少し高いお酒を用意しておくと暴れられる心配も無いでしょう」

 

萃香の扱いに関しては千年来の友人である紫の方が心得ているはずではあるが念のための忠告であろう。これにて紫の用事は終わった。あとは萃香を攫って地上に戻るだけである。

 

「……助かったわ。ではまた会いたいわね、さとり」

 

そう言って紫は来た時のように唐突に姿を消す。

さとりはもう次の書類に手をかけている。まるで焦っているように手は忙しなく動く。




実際は何かしら育てているでしょうね。外とのパイプがほとんど無いですし酒はたくさん造られているので

時間を一気に飛ばして緋想天へ
しばらくはさとり様視点さよならになるかと思います
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