面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

45 / 66
今週一話しか投稿していないのに二話投稿した先週UAを超えていました。新規の方が来てくれているのはいつでも嬉しいものです。そのおかげで今話は執筆が捗りました。文字数はいつも通りの4500字余りですが(1話投稿時点では平均3500にしたかった)


元凶は身近なところに

   ~八雲紫~

 

 

他の客に見つからないようにそっと店の中を確認する。まあそっとと言ってもスキマの中から覗いているから見つかりようはないのだが。萃香は……いたいた。

一人で飲む酒は美味しくないとか地上にいた時はほざいていたというのに地底にいればそんなことお構いなしに一人酒を楽しんでいる。無限に酒の湧く瓢箪を持っているくせにわざわざ金を払って飲みに来るのは彼女なりの拘りなのだろうか。

 

『ごきげんよう、萃香』

 

「……なんだ紫かい? あんたは旧都(こっち)に来ちゃいけないって言われてなかったっけ? 古明地のやつに。バレたらただじゃすまないよ。あんたも私も、ね」

 

反応が薄い。少し前にも思った気がするがどうして地底に棲む私の知り合いはこうも驚かないやつらばかりなのだろうか。地上の妖怪や人間は私が出てきたら十中八九驚いて良いリアクションをしてくれるのに。やはり棲んでいる環境の違いか。

片や温室のような平和な楽園、片や地獄の跡地と言うに相応しい忌避されるべきものたちの楽園。

 

ちょっとやそっとのことでは驚かないように生きていなければ残っていられない場所なのかもしれない。それならば合点が行くというものだ。支配者はあのさとりだし。

子は親に似る。住人たちは知らず知らずのうちにそこを支配している者に似てくるのかもしれない。そうだとしたら私の威厳は無いに等しくなってしまうが実際のところどうなのだろうか。

 

ま、紫がここに来たってことは何か理由があるんだろう? 少しばかり場所を移そうか…………おい店主! 勘定頼むよ」

 

ここで萃香が独り言ちていてもただの危ない奴扱いになってしまうので場所を移すのは良い判断だろう。今でこそ大した役割も担っていない萃香だが過去は鬼や天狗たちを率いた四天王の一人だ。そんな者が危ない方向に行こうとしていると見られれば恐らく星熊勇儀が間髪を入れずに飛んでくる違いない。今回の事は私と萃香で完結させておきたいのだ。

 

 

 

「ここなら良いだろう。なんなら地霊殿に行っても良いんだけど……なんだ嫌なのか。古明地のやつに内緒で事を進める気?」

 

「いえ、もうさとりのところには行ってきたわ。貴方を連れ出す許可も既に貰った。今私が地霊殿に行きたくない……いや、さとりに会いたくないのにはいくつか理由があるのよ」

 

先ほど会った一瞬だけだったが確かにいつものさとりとは違う点がいくつかあった。発言も少しおかしな場面があったがそれ以上に私に気づかなかったことが一番の異常事態である。

さとり……貴方は一体どうなってしまったというの?

 

 

   ~伊吹萃香~

 

 

紫は古明地のやつに会いたくない理由があるという事だがさっぱりわからない。そもそも理由は知らないが私を連れ出す許可をもらいに行ったのならば会っているはずだ。

それもこいつの行動原理を考えれば私の飲んでいた酒場に来る直前に。とことんまで無駄を省くのならば一度地上に帰るなどと言う馬鹿な事はまずしない。

 

「古明地とあんたの間で何かあったのかい? ……ははぁん、さては地底にいる私を連れ出すなんて古明地がそう簡単に許可しないだろうしそれ関連だろう?」

 

いくら緊急事態が起こったとっても地底は地上に不干渉、同様に地上も地底に不干渉という約定があったはずだ。地上の事は地上で解決してほしい古明地とどうしても人手が欲しい紫。

そこで対立したとしても不思議ではない。私としては紫も古明地も敵に回したくはない相手だね。どちらも厄介な事この上ない。

 

「……違うわ。あの子も一瞬何か考えていたようだけれど結局は快く認めてくれたもの。それよりも私が危惧しているのは……いえ、やめておきましょう」

 

「なんだい、そこまで言っておいて思わせぶりで終わるなんてひどいことをするもんだね」

 

古明地との対立が原因ではない、となるといよいよもってわからなくなる。気になるが古明地のところに分身は飛ばせない。その昔、一度やった時には心を折られかけた。

あの時は仕事が忙しくていら立っていたからやりすぎたと言っていたが、今もそうかもしれないと思うとこの私でも流石に無理だ。あいつの想起とやらがあれほど効くとは思っていなかったし。

 

「これくらいじゃないと地底ではやってられないでしょう。それよりも貴方に聞きたいことがあるのだけれどいいかしら?」

 

「ああ良いよ。でも今回私の酒を中断させてまで来た理由ってそれ?」

 

お詫びにと貰った酒がかなりよさそうなものだったから強くは言えないが、ただの質問なら出来ればあとにしてほしかった。

あのまま店にいたら勇儀も来たかもしれないのに。

 

「まさか、そんなわけないじゃない。貴方を呼びに行ったのは地上で用事ができたから。これからする質問は先ほどさとりに会ったことを踏まえての物よ」

 

私が嘘を吐かないと分かっているからか。古明地もそうだがこいつもなかなか嫌な奴だ。他人の弱みを握っているからそこに付け込める。

まあ私が嘘を吐かないのは弱みでも何でもないけどねえ。

 

それにしても古明地に会ったことを踏まえて私に質問を飛ばしてくるか。本当に何があったのだろうか。あいつは簡単にどうにかなってしまうような奴じゃなかったと思うんだけど。

でも今の紫の様子を見るにただ事ではない気がする。そもそも他人に大して興味の無い紫が古明地を心配している時点で異常事態なのかも……なんて笑いごとじゃなさそうだ。

 

「まず一つ。直近でさとりに会ったのは何時か覚えているかしら」

 

「確か昨日だね。一日の感覚なんてほとんど無いようなものだけど寝て起きたのが今日だとすれば会ったのは昨日だ……どこか変わったところ? うーん、別に無かったと思うけどねぇ。あぁ、でもあいつはそういう事を上手く隠すから気づかなかっただけかも」

 

昨日は迷惑承知で勇儀と温泉に浸かりに行ったからよく覚えている。客は当然私たち二人だけだったが快く入れてくれたし……もしかして古明地が快く入れてくれたのがおかしいのか? 違うと思うけどねぇ。私たちだけじゃなくパルスィたちもたまに入りに行くと言っていたし。

湯加減を褒めた時だってお空の事を自慢してきたしおかしい様子は無かったような気がした。あれが演技だったのなら何処かで役者として活躍した方が良い。

 

「隠していた、か。それは無いわね。私が会った時はあからさまに変だったもの。という事は……萃香、さっさと地上に行きましょうか」

 

唐突に何を言いだすんだか。そもそも先ほどの質問に対する感想がどこか外れているように感じたのだが気のせいだろうか。昨日会ったという情報よりも最近の古明地の様子を気にかけている? わけがわからないよ。

…………と考えていると突然床の抜けるような感覚。この落下に抗うのは容易いがどうせ紫に押し込まれるだけだろう。

 

仕方ない。かなり力は劣るが分身を置いて行くか。地底に何かあっても困るし。

 

 

   ~八雲紫~

 

 

萃香の話が本当であるならば(尤も鬼は嘘を嫌うので本当だろうが)さとりに何かあったのは昨日萃香が帰った後から今日私が行くまでの間になる。

地底だけに何かあったのならば萃香が知っているしそれを話したはずだ。それが無いとなればあと考えられるのは地上で起こった事件に関係した事象。

 

そしてこの間で起こったことと言えば今朝の博麗神社倒壊とそれを引き起こした地震だ。この件を解決すればさとりに起こっている異常も解決できるかもしれない。そうと決まれば善は急げ。早速萃香を連れて出発だ。

さとりは地底の要。奇しくも地上の要である博麗神社が倒壊した同日に地底でも要が崩れているとは。クソ天人はどこまで被害を出せば気が済むのだろうか。ああ忌々しい。

 

「相変わらず思い立ったが吉日を体現してるねぇ。振り回されるこっちの身にもなってほしいものだよ」

 

「おほめにあずかり光栄ね。さ、行くわよ」

 

嫌味など気にしなければなんてことは無い。いちいち気にしていたら賢者などやっていられない。組織や勢力の重役は嫌味の得意な連中ばかりだ。

無視してもネチネチと嫌らしい天狗は別だがそれ以外の重役たちは一方的に嫌味を言うことで満足するらしい。そんな奴らと付き合っていれば嫌でもスルースキルは身に付く。

 

「それよりも貴方力を何処かに置いてきたの?」

 

萃香から感じる力が明らかに普段よりも弱い。地底で話している時は普通だったことを考えれば地底に分身を置いてきたというのが妥当か。または地上に着いた直後に身体の一部を霧化したか。

 

「まぁね。ほら、私って昔は四天王だったわけじゃない? だから私が急に消えたらちょっとした事件になるかもしれないと思って分身を一匹置いてきたのさ。勇儀なんかにはすぐ気づかれるだろうが地底で何かあったらすぐわかるだろう?」

 

純粋な目でこういわれると何も言えなくなるではないか。天人に対抗するためにできるだけ力を削がないようにしてほしかったなど今更言えるはずが無い。

本当に鬼はずるい。でもこれができるのは萃香だけかもしれない。星熊勇儀にやられても別に可哀そうだと思わないだろうし男など尚更だ。となるとこのサイズと付き合いの長さによるものか。

 

因みに萃香が分身を置いてきたことによって地底で何か起きた時にすぐわかるというのは嘘だ。萃香自身は忘れているだけなのだろうが分身を使えばあとから何があったかを知れるだけだ。

遠く離れた分身と本体が交信できるわけでは無いので、今回に関しては地底の混乱を防ぐくらいの意味合いしか持っていない。

 

「で? 異変って言ってたけど何処に向かってるの? 雨が降ってきたから早いとこ何処かに行きたいんだけど」

 

晴れているにも拘らず雨が降ってきた。これは私の気質による天気雨だろう。地底に行く前にも降られたし。だが今回は少し降ってくる雨が少なくなってきたような……それに雲量も増えてきたような。萃香のものだろうか。これぞまさに疎雨。なんとも萃香らしい。

 

「天界よ。そこに目的の人物がいるはず…………どうかしたの?」

 

「どうしたもこうしたもないさ。そいつってもしかしなくてもどこぞの不良天人じゃないかい? 二年くらい前かな、暇だったから天界に行ってみたことがあったんだよ。やけに自信満々な奴がいたからボコボコにしてやったんだけど、そしたらなんか

   『お前を倒せるようになったら地上に宣戦布告してやる』

とか言ってたんだけど…………今回の異変私のせいかなぁ。あれからまだ二年だからどんな秘策があるのかは知れないけどさ、まあ楽しみだよね」

 

十中八九お前のせいだ。と言うか萃香が天界に行っていたなんて初耳なのだが。しかも理由が暇だったからって……天界にもほぼ不干渉を決め込んでいたというのにまさかこちらから先にちょっかいをかけていたとは思わなかった。

これで天人に対して強く出られなくなってしまった。

強く出られないだけで戦闘になったら遠慮なく日ごろのストレスを発散させていただくけれど。

 

「どうしたんだい紫。あんたも楽しみなんだろう?」

 

断じてそんなことは無い。私はただの幻想郷の一管理者なのだ。戦闘狂ではない。えぇ、決して。

 

 

それにしても冥界に月、天界まで幻想郷と深い関りができてしまった。そのうち地底も幻想郷と関わる日が来てしまうのではないかと思うと気が気でない。

…………胃薬はまだ残っていたかしら。




何度か書いていますが紫様も苦労はしているんです。数多ある胃薬の中から選んだのはドレでしょうか。余計に胃が痛くなりそうです
可哀想に……強く生きて……

因みに前回最後の方のさとり様の発言ですが明らかにおかしいのが一つ、他もちょこちょこおかしかったりします


投稿の方はこれまで通りボチボチと。次話は早くて土曜日でしょう
流石にこの頻度は続けられないです。目標は低く、二週間で三話以上投稿出来たらいいですかねぇ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。