面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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時間をまた一気に飛ばします

前話の後書きに補足の説明を書いて置きました。日曜日の午前中までに読んだ方で興味のある方はどうぞ


何もわからない

   ~八雲紫~

 

 

神社の再建も無事に終わり、不良天人の陰謀は果たされずに済んだ。もう既に萃香は地底に帰ってしまったがやはり鬼、あの日にした約束通りに再建が終わるまでは地上にいてくれた。

あの天人の勝負の行方は聞いていないが戻って来た萃香が満足そうだったので聞かないことにした。私には全く分からないことであるが戦闘狂と呼ばれる奴らは戦うこと自体に意味を見出すらしい。勝負は勝敗をつけるからいいのではないのだろうか。不思議だ。

 

あの天人もたまに地上に降りてきているようだ。地上を見下していた少し前からは想像もできないことであるが、彼女もまた萃香や霊夢たちとの戦いの中で何かを見つけたのだろうか。

 

「何か深くお考えになっているようですがいかがなさいました?」

 

「少し……わからないことがあってね。でも貴方が気にするべきことでも無し。どうせ貴方に聞いてもわからないと言うでしょうしね」

 

式神たる藍が戦いにおける価値を見出すなど不可能な事。式神(コンピューター)にとっては戦闘とは相手に勝利するための一つの手段でしかない。私も意味は見いだせないが見ている世界は藍と私で似て非なる物。私はよほどの時でなければ別に勝利を最優先にしているわけではない。

適当に負けないように立ち回っていれば勝手に相手が負けてくれるだけ。勝利を目指さずとも勝利は付いてくる。式神には言っても無意味だろうけれど。

 

「紫様でもわからないことを私がわかるはずがございません。余計な口をはさんでしまいましたか。しかしもう夕餉ができますがすぐに召し上がられますか?」

 

やはり藍には言いたい事の半分も伝わりはしないか。堅物すぎるからねぇこの子は。隠岐奈くらい柔軟になれとは言わないが、せめてさとりのところの猫くらいにはなってほしいものだ。話していても全く張り合いが無いし妖夢ほど弄り甲斐があるわけでもない。

藍と延々と話し続けるならば坊主と禅問答でもやっていた方がよほど有意義ではないだろうか。このあたりは好みの問題か。誰かと話すのが好きな者にとっては式神は些か物足りないが、苦手な者にとっては丁度良い話し相手になり得るのかもしれない。

 

「いただくわ。冷めてしまうのももったいないものね。考え事などいつでもできること。それに貴方の口出しなど妨げにもなりはしないから心配する必要はないわ。さ、行くわよ」

 

 

 

食事の風景を見ていても藍は何処か機械的と言うか形式ばった食べ方をするのがよくわかる。模範的に配膳するまでは良いのだが、食べる順序や量までも毎回決めているかのように思われる。

そこまで指示しているつもりは無いのだが何処かにそんな命令が書き込まれていただろうか。自分で憑けてやった式だがなんだか心配になってきた。

 

「それにしても最近は寒くなってきたわね。こたつでも出しましょうか?」

 

「確かに地上は寒くなってきていますね。ここは一定の気温が保たれていますが」

 

お前は機械かと突っ込みたくなる。こういうものは風情で会話を続けるものでしょうよ。もう何度目かわからない受け答えなので慣れてはいるが、毎年季節が一つ移ろう毎にそう思っている気がする。確かにここは私の過ごしやすいように気温を保ってあるがそういう事ではないのだ。

 

こういう時は幽々子……いや、さとりにするか。結局萃香の一件を伝えた時以来会っていないし、私もそろそろ冬眠したいので別れの挨拶でもしておこう。

最近神奈子がたまに行方不明になるから地底にいないか確認もしたいし。あの二柱は外の世界に行かないと思うし、幻想郷にいないとなればもうあとは冥界、天界、地底、彼岸、地獄くらいのものではないだろうか。

 

後ろ二つはまずあり得ない。冥界も幽々子からの証言が正しければ無い(もっと気になる事を言っていた気もするが)。となれば後は山からのアクセスもしやすい(?)天界か地底になるわけだが天人娘の様子を見るに地上からの干渉は無さそうだ。残るは地底。何をしようとしているのかは知らないがあそこは禁忌の土地。

容易に触れてはならないものが眠っている場所だ。私はかなり触れてしまっているがそれでも地霊殿以外には触れないように気を付けている。接触する相手もさとりが選んだ者だけ。しかし神奈子たちは違う。地上と地底の不可侵条約など知らないに違いないのだ。

 

「いえ、やはりここも寒い。地底で少し温まってくるわ。藍は地上を見張っていなさい」

「はっ、ではお気を付けて」

 

守矢が何を企んでいるのかはわからないが下手を打てば地底との全面戦争は避けられなくなるかもしれない。一先ず地底の近況を確認しなければなるまい。もし怪しい動きがあったのならば萃香か誰かが察知しているはずだ。そこからさとりにも話が飛んでいるだろう。

手遅れになる前に手を引いてもらわなければならない。私の信用どころか生命の危機になるかもしれないのだから。

 

 

「おや、八雲様ですか。申し訳ありませんがただいまさとり様との面会は何人たりとも許可しておりませんよ」

「それは……どういう事か聞いても?」

 

地霊殿に出てすぐそこにいたのはさとりの式神。どこに行っても式神だらけだこと。

それにしてもさとりとの面会を禁止しているだと? 理由がわからない。ただでさえ来客の少ない地霊殿だ。そこに来た者と会う事すら拒むとは一体どのような事情があるというのだろうか。

 

「はい、八雲様は知っておくべきでしょう。実はさとり様はこの夏から体調が優れないのです。これはあの子の……お燐の意向ですが誰も部屋に入れないように、さとり様が部屋から出てこないようにと。ですから誰も入らないよう(つたな)いながら私がこの部屋に結界を張っているのです」

 

だからか。普段ならばさとりの部屋に直通であるはずの行先がずらされたのは。この子はさとりの式神だから結界をいくらか使えるわけか。私から見れば本当に拙いものでしかないが。

それにしてもさとりをあれほど慕っている猫がさとりを封じるなんて……慕っているからこそか。式神レベルに忠実で式神とは大きくかけ離れた対応力。やはり私は間違っていなかったか。この地底で最も厄介な相手になり得るのはさとりを除けばあの火車だと。

 

「ですから現在は来客はおろか私たちでさえさとり様に会えない状況なのです。食事は毎日二度、扉に付けた小窓から入れることになっていますし……」

 

そこまで徹底するか。これは普通の不調ではない。そもそも妖怪は基本的に肉体に依存しないので不調になることすら少ないのだ。精々胃が痛くなったりだとかその程度のはずである。

 

「具体的にどうして不調だと分かったのでしょう? そもそもどうしてそうなったか、などはご存じで?」

 

「あの日、八雲様が伊吹殿を呼びに来た日から異常には気づいていました。まずおかしかったのは私たちが部屋に入ってもしばらくお気づきにならなかったことでしょうか。声をかけてようやく部屋に入ってきたことに気づいたようでした。そしてこちらの方が重要なのですが…………どうやら心が読めていないようなのです」

 

さとりが他人の心を読めなくなった……これが何を意味するのかは非常に重要な事だ。考えられるのはさとりが妹と同じように心を閉ざしてしまったこと。これはあの日の会話の受け答えの確かさを見てもあり得ないと考えて良いだろう。

あとは過労くらいだろうか。いくら肉体があまり重要でないと言えども疲れれば能力の質は落ちる。落ち方が尋常ではないのが心配なのだが。

 

「何故こうなったのか、それに関して確かな事はわかりません。しかし先ほど言った対策を考えて指示したのはお燐です。あの子は何かしらの情報を持っているのかもしれません。

八雲様、(地底の主)からお願い致します。お燐を見つけてきてください。……地霊殿の外に出る許可も出しましょう」

 

現在の統治者がこの子だからか。昔契った時はさとりがトップだった。それが変わっていれば許可を出せる者も当然変わる。

 

「貴方は式神。きっとさとりはそれを望まないわよ。それでも、主の命令に背いてでも貴方は私にそれを許可するというのかしら?」

 

私は意地悪なのだ。式神には実は命令に背く、または命令された以上の事をする機能が備わっている。藍だって私の命令したことを過剰に判断して勝手な行動をしたこともあった。

基本的にはそのようなことにならないように躾けをするのである。まあこの子は躾けをされている気がしないが。見た目で言えばこっちの方が強そうだし。

 

「…………はい。後悔はしません。主人を護ることが従者の仕事です。きっとさとり様も私を責めはしないでしょう」

 

「そうですか、ならばここで待っていなさいな。すぐに火焔猫燐を見つけて連れてきましょう」

 

人探しなど得意中の得意だ。流石に神奈子たちみたく界を渡られると時間がかかってしまうが、地底にいることが分かっている猫を見つけるなど天の川銀河がアンドロメダ銀河と衝突するまでの正確な時間を割り出すよりも簡単だ。

さあ真相を教えてもらいましょうかさとりの愛猫。

 

 

   ~火焔猫燐~

 

 

「あら、貴方がこんな場所にいるなんて珍しいじゃない。普段は屋敷の中でさとりの面倒を見ているのではなかったの?」

 

最近は手に負えないことが多かったので気分転換もかねてパルスィのいる橋まで遊びに来た。遊びに来たとは言っても精々愚痴をこぼしに来ただけだ。

パルスィにとっては迷惑でしかないだろうけどこうでもしないと潰れてしまいそうだ。

 

「そうでもないよ。地霊殿の中じゃ死体は手に入らないし……それに今は戒がいてくれているし心配はないと思う。毎度毎度ごめんよ」

 

「別に……気にしていないわ。私以外でまともに相談役になれそうな奴なんていないでしょうから。それにしてももうすぐ半年、か。本当にさとりはどうしてしまったのかしら」

 

さとり様に異常が起きてから恐らくもうすぐ半年。地底も冬に差し掛かってきた頃だ。ここ数か月は一度もさとり様に会えていない。会いたくても会えないのはあたいがそうしたから。

あの状態のさとり様を誰かに会わせるのはきっと良くない。さとり様にとってではなく会った妖怪の方にとってである。

 

本当は見た瞬間に気づいていた。あれがさとり様であってさとり様ではないことも誰よりも早く分かった。でも誰にも言わなかった。

 

さとり様がさとりだった頃からこんなにも長く一緒にいるのに。あたいは何も役に立てない。今回こそ役に立てると思ったのにいざとなったらその気になれない。

あいつが…………あいつがさとり様でさえなければどうにでもなったというのに。

 

 

「少しお話良いかしら? 火焔猫燐」

「っ賢者様? どうしてここに? 確かさとり様と……」

 

地霊殿から出てはいけないという約束を破ったか? さてはさとり様が正常に動かないと知った上での行動か。スキマ妖怪のくせに油断も隙も無い。

まああたいじゃどうにもできないし今のさとり様にもどうにもできないだろうから大人しくしていた方が良いのかもしれない。嫌ではあるが。

 

「それはもう既に無効になったわ。さて、ついてきてもらいましょうか。万頭狼戒が貴方を呼んでいるわ。水橋パルスィ、貴方にもついてきてもらいましょう」

 

何も言えないままにいつの間にか地面が無くなっていた。




やはりシリアスはないと書いていて良かったです。私の場合は書こうと思っても一向にシリアスにならないですからね
書きたくても書けないというのは紫様のミステリアスさと同じようなものでしょうか
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