面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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他人が書いたさとり様主人公の小説が読みたい、と常々思っております

個人的に気に入らなかったので前話のサブタイトルを変更しました


倦怠感すら吹き飛ばす

   ~八雲紫~

 

 

「うぅ……どことなく最悪の気分ね。倦怠感もすごいし……ここ数ヶ月分の記憶がところどころ抜け落ちているのはどういうことかしら」

 

ようやくさとりが目覚めたようだ。結局火車が作ってきた料理はかなり冷めてしまったと思う。私たちを気にせずに独り言ち始めたところから考えると、それよりも先ずさとりが食事できる状態かどうかを確かめなければならないような気がしてきたが。

 

「あっ、お姉ちゃん起きたんだね~。うーんどうやら今度こそ本物っぽい?」

 

「え、あれっ? こいし? それに紫さんとパルスィが一緒にいるなんて珍しいですね。…………私はいつでも本物のつもりだけどこいしは何が言いたいのかしら?」

 

これは本当の事を言うと面倒な事になりそうだ。どうやら意識は共有してなかったらしい。これは取り憑かれていたという自覚すらない可能性が高い。

だからこそあの第一声か。個人的にはさとりが怨霊に憑かれるという予想外の事態でとても驚いていたのだが、さとりは私たちがここにいる理由すら分かっていないらしい。

 

「あ~、ここはあたいが説明しますよ。と言っても既に把握されていると思いますが、こうなってしまったのはあたいのせいです。主人を危険に晒してしまうなんて言い訳のしようもありません」

 

私やこいしが本当の事を言わなくても他の者の心を読まれれば一発なのを失念していた。そういえばさとりでも心を読めないのは、ここにいる二人を除いてはほとんどいなかったのだった。

やっちまった感が拭いきれないが知られてしまったのなら仕方ない。もうごまかしようもないし、私にはもうどうにもできない。さとりが自分で乗り越えてくれるかどうか、だ。

 

「そう気に病むことも無いわ。こうして今生きているのだし、それに一概にお燐のせいであるとも言えないわ。私の不注意もあったでしょうから。それにねお燐、貴方は私のペットである前に家族なのよ。一番長くいるのだからそれくらいの自覚は持ちなさい……こいしはほとんど帰ってこないでしょう? 悔しかったらもう少し帰ってくる頻度を増やしなさいな」

 

こちらに来る前までは放浪することも無く、さとりと同じように心も読めたというこいし。まあ覚なのだから当然と言えば当然か。そんなこいしも心を閉ざしてからはほとんど地霊殿に帰ることが無くなった。

結果としてさとりが一番長く一緒にいるのは恐らくこの火車であろうということになったらしい。普段は行動の読めない不思議な子だが、肉親を前にすると存外見た目相応の子供らしさも見せてくれるものだ。レミリアもこれくらい子供っぽくていい気はするけれど。

 

………それにしても家族、か。私には縁のないものだと思っていたが他の奴らはどうなのだろうか。レミリアは恐らくフランドール以外の紅魔館の住人も家族だと紹介するだろう。永遠亭の奴らも身内を月から隠すためだけにあのような大掛かりな異変を起こしたくらいだ。家族意識は持っていそうである。

 

「それはそうとお燐、何か大事なことを隠していたみたいだけど……残念ながらバレバレよ。気分は悪いけれどこれは早急に対処しなければならないわ」

 

「何があったのかしら? 貴方は安静にしていなければならないのに」

 

とりあえず私の疑問は尤もな物だと思う。先ほどまで寝ていたとは思えない程の行動の速さに、例の怨霊と同じレベルの社会の闇を見た。外の世界でもトップがこうなっているのは非常に珍しいケースだと思うが。

 

「いえ、そんな悠長に構えていられるものではありません。これは地上にも関係のあることでしょうから紫さんには伝えておきますよ。神に対抗するのに妖怪では分が悪いので地上から人間を呼びます。どうしてこうなってしまったのかはわかりませんが、約定は一時的に破棄という事にさせてもらっても良いでしょうか? あぁ今すぐにではありませんよ。こちらも準備が必要なので」

 

私に断れるだけの権利はない。何故ならば今のさとりの言葉に一度だけ出てきた神と言う言葉の意味を分かってしまったからだ。

神奈子たちはやはり地底に干渉していた。どうなったのかは分からないが恐らくは、と言うか十中八九地上側()の不注意なのでさとりからの提案は拒否できないのだ。あの二柱に伝えていなかった私のミスである。他人の尻拭いではなく自分の尻拭いというわけだ。哀れな賢者だこと………はぁ。

 

「構わないわ。(さとりの怒りに触れることによる地底からの干渉で)地上が火の海*1になるよりはマシだもの」

 

「流石紫さんですね。(八咫烏の力を手に入れたお空の底知れない焔によって)地上が火の海*2になる可能性まで既に視野に入れているとは。ですが助かりますよ」

 

本気か? 本気で地上を侵略するつもりだったのか? 半分冗談で言ったつもりだったのに、今のさとりの表情を見る限りあちらは冗談ではない。マジである。

それよりも尚不穏なのが最後の一言である。あれは何に対しての『助かる』なのだろうか。地上を落とした時に脳として使える奴がいて助かるという意味なのか、それとも早めに地上を見限って寝返ってくれそうなので助かるという意味なのか。*3

 

そろそろ地上の管理者も引退するべきかしら。いくら命があっても足りない気がしてきた。

 

「と、とりあえず地上の人間を呼ぶときには何かしらの合図をくれるのよね? ……そうよね。ではその時までには霊夢に稽古をつけておきますわ。ではまた会いましょう」

 

逃げるが勝ちとはよく言ったものだ。命あっての物種、今はとりあえず深追いするより退いた方が良いと私の勘が告げている。

 

 

   ~古明地さとり~

 

 

紫さんがどこか急いだ様子で地上に戻り、部屋に残っているのは私とお燐、戒とパルスィだけだ。またいつの間にかこいしは居なくなっている。先ほどまでは私と一緒にいる時間をお燐と競っていたのにもういない。やはりどんな言葉も今のこいしに直接響くことは無いのだと実感させられる。

 

少し寂しいが、そんなことにももう慣れてしまったという悲しみが勝る。私だってできることならばこいしと一緒に暮らしたいのだ。もはや願っても叶わぬことだと分かっているが。

 

そんなことはもう頭の片隅に置いておくとして、紫さんが急いで地上に帰って行ったのは博麗の巫女に修行をつけるためだろう。超人的どころかほとんどの神よりも尚聡明な彼女の事だ、きっと今のお空の状態が如何に危険かを察知したのだろう。

私としてはそちらの方が助かる。生半可な実力では八咫烏を宿したお空には勝てない。だがスペルカードルールを守って戦うならば今の巫女でも十分に勝機はあるだろう。

 

博麗の巫女は地上にいた時に私が調べた限り負けなしだ。そんな彼女が慢心しないように紫さんは修行をさせようとしているに違いない。

どんな者も多少負けていなければ慢心してしまう。昔の戒もそうだったっけ。もう忘れてしまったが頭をやっているような者は心に油断があることが多い。そんな心を諫めることを第一に考えるとは……やはり紫さんには敵う気がしない。

 

「さとりの身体は大丈夫なのかしら? お燐の作った物も食べていないけれど」

「えぇ大丈夫です。お燐の料理は冷めても美味しいので今からでも食べますよ」

 

先ほどまでは倦怠感が残っていたが、これからしなければならない仕事の事を考えたらそんな物は吹き飛んだ。今は多少気分が悪いだけに治まっている。それも今の状況を考えれば取るに足りないものである。何せ今回は本当に私の命が懸かっていると言える。

こんな緊急な事は月に行った時以来である…………ん? いや怨霊に憑かれた時以来か。最近特に私の命が軽視されているような気がしてならない。こんな調子ではいつ死んでしまうか分かったものではない。

 

一時的とはいえ約定の破棄を願い出たのはこちら。その間は地上と地底の行き来が自由になってしまうのだ。それを快くかは分からないが、間を置かずに了承してくれた紫さんには感謝しかない。

 

今回の事態は重く見なければならない。そもそもお空がどこから力を手に入れたのかが分からない上にそれが神の力なのだ。失敗すれば本当に地上が焼け野原になりかねない。

そうなった時に最も責任を押し付けられるのが地底の主という立場の私である。失敗はできない。中途半端な合図では巫女は動かない可能性がある。何か大きな影響を与えつつ地上を壊さないような方法を考えなくては。

 

「そう、でも地上から人間を呼ぶんでしょう? 言っては何だけど地底(ここ)は人間には優しくないわよ。鬼は喧嘩を売るでしょうし、その前に私が妬み殺してしまうかもしれないしね」

 

「それだけは勘弁してくださいよ。喧嘩はスペルカードルールがあるので大丈夫でしょう。鬼が約束を破るとは思っていませんし。それに貴方も橋姫ですからね」

 

橋姫はしばしば鬼と同一視される。それは勿論嫉妬の鬼から来ており、殊嫉妬に関しては誰よりも執念深い。丑の刻参りは橋姫が人間の嫉妬心を煽るために広めたものであるという話まで存在するほどだ。そこまで言われる嫉妬の()がまさか約束を破るまい。

パルスィも私が言ったことの意味は理解してくれたようだ。多少妬むくらいならば問題はないが妬み殺されては困る。抗うには並大抵ではない精神力が必要になる上に、恐らく巫女はそんな精神力を持っていない。持っていればもっと修行に身を入れるだろうから。

 

「相変わらず嫌味な妖怪ね……まあ良いわ。それで、人間を呼ぶ方法は決めているのかしら」

 

「いえまだ…………あらどうしたの? お燐。何かいい方法があるって? そう……パルスィにも聞こえるように話して頂戴」

 

 

お燐の計画はこうらしい。

お空の力を使って地上に間欠泉を湧かせる。それだけではただの温泉にしかならないので異変解決者はやってこない。だからこそそこに怨霊を混ぜ込むというのだ。確かにそうすればやってくるだろう。今回に関しては紫さんにも話を通してあるので十割来る。

 

異変解決者本人は怨霊を見れば慌ててくるだろうし、その後に怨霊が湧き出なくなれば温泉として使う事もできる。ただそれに加えて、よりあの巫女たちを惹き付ける物を地上に噴出させればもっと効果的だ。これは良い。地上にとっても利益のある異変解決となれば紫さんに絞られることも無いだろう。まさにwin-winというやつである。

 

「それで行きましょうか。するならばできるだけ早い方が良い。いっそ今からでも……はぁ、分かりましたよ。では三日後にしましょうか」

 

三人からの強い非難的思考を読んで計画実行は少し時間を空けることにする。いつまで八咫烏が大人しくしているかが分からない分、できるだけ早くに解決してほしい案件だったが仕方がない。

解決と言っても八咫烏の力を手に入れて調子に乗っているだろうお空を懲らしめてもらうだけだ。ペットの悪行を叱るのも主人の務めである。しかし生憎私にはできない。紫さんに言ったように妖怪なので相性が最悪なのだ。

 

太陽神の使いという、闇に生きる妖怪とは対極に存在する神霊。妖怪が相手したとしても本来の力の五割も出せまい。私はそもそもの力が無いので変わらないかもしれないが。

あとは巫女ならばもしかしたら神霊と話ができるのではないかと期待しているというのもある。実体を持つ神霊でもなければ巫女以外に声は聞こえない。お燐の記憶を見る限り、お空に取り込まれた八咫烏の神霊は実体をもたない分霊。巫女だけは声が聞こえるかもしれない。

 

いずれにせよ巫女が勝つ前提だが、あの巫女ならばなんとかなりそうな気がする。お空を実際に見たわけでは無いので判断するにはまだ早いかもしれないが。

 

とりあえず二日間は養生か。何故かこなさなければならない仕事はあまり残っていないので久しぶりにゆっくり休めそうだ。

*1
比喩

*2
事実

*3
真実は『約定の一時的な破棄を承諾してくれて助かる』である。当たり前だ




ゆっくり休める。ただし身体が勝手に机に向かわなければ

こいしちゃんは可愛い……けどここでの扱いはよろしくないです(今更)
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