面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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赤飯は血の味?

   ~古明地さとり~

 

 

地底の主とやらを任されてから既に十年ほどが経過した。反乱を完全に抑え切ったことで、あれ以降はかなり平和になっている。それでも私の生活が楽になったかと言うと全然そんなことは無い。睡眠は一日二刻。動物たちの餌やりに屋敷の掃除、怨霊管理に事務仕事。やることが多すぎて毎日が辛すぎる。

 

それでも協力者がいるだけ前よりはましになった。住人の調査をするにしても私が直接旧都に赴くのはどうかと思っていたのだ。今は旧都を勇儀に(さん付けするなと言われた)、縦穴付近はヤマメに頼んでいる。血の池地獄の方はたまに帰ってくるこいしが教えてくれることがある。随分前にも、水でなければ舟幽霊も溺れるらしいという事を教えてくれた。

 

ましになったというだけで毎日が面倒ごとだらけなのは変わらない。今日もそんな一日が始まるのかと思うと朝(太陽が無いために時刻は曖昧だが)から憂鬱である。

 

「あ、さとり様おはようございます。動物たちに餌はやっておきましたし掃除も済ませておきましたよ」

 

「え?えぇ、ありがとう。助かるわ。朝食を作ってくるから食堂で待っておいて頂戴」

 

で、今の誰。少なくとも今まで生きてきた中で見たことのある顔ではなかった。いやまあ薄々分かってはいる。お燐が人型を取れるようになったのだろう。だが昨日までその予兆すらなかったのにいきなり出てきたら驚きでしかない。最近どこからか死体を持ってくるなぁ、とは思っていたが。

 

いつも私のしていることを見ていたおかげか彼女が初めて行ってくれた掃除や餌やりの方も問題はなさそうだ。誰かを雇えるほどの人望は無かったので非常に助かる。作る食事は二人分になるがその労力は大して変わらないので問題ない。折角めでたい日なので赤飯でも炊こう。ささげなんてあったかどうか定かではないが。

 

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「はい、朝食ができたわよ。早速食べましょうか」

 

「わぁ、これは何ですか?赤いですけど人間の血でも混ぜているのですか?」

 

そんなわけないだろう。そんな物を食べてもお燐は喜ぶかもしれないが私は喜ばない。

 

「これは赤飯というものよ。赤いのはささげという豆を使っているからよ。めでたい日にはこれを食べるものよ。今日はお燐が人型になったお祝いね」

 

「ありがとうございます、さとり様。これからはあたいもお手伝いしますよ」

 

「それは助かるわね。で、さっきから気になっていたのだけどどうして急に様付けで呼ぶようになったの?これまでは"お姉さん"か呼び捨てかだったじゃない」

 

「あーいや、何と言いますか。気分ですよ、気分」

 

どうやら私が四季様と言っているのを見て使ってみたくなったらしい。結局心の中では呼び捨てなので本当にただの気分なのだろう。猫は気分屋とも言うらしいし。

 

「…はぁ。貴方がそうしたいと思うのなら好きに呼んでくれて構わないわ。心の中はいつも通りだもの」

 

「あはは……そうでしたね……。それより早く食べましょうよ。さとり様と同じ物を食べられるなんて思ってませんでしたから嬉しいです」

 

それは良かった。私も誰かと一緒に食事をするなんて久しぶりの事だから少し嬉しい。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「そういえばよ、さとり、最近旧都の方では不穏な噂が出てるみたいだ」

 

「今度は地上に、ですか。能の無い妖怪は困ったものですね」

 

「話が速くて助かるよ。でもその中には鬼の奴らも混ざってるんだ。人攫いのできない鬼は鬼じゃないなんて言ってさ」

 

「そもそも地底を住処に選んだのは彼ら自身。自らの選択の過ちを認めない者ほど愚かな者はいません。本来なら以前のように事が起きる前に徹底的に潰しておきたいところですが今回は難しそうですね」

 

相手が悪すぎる。大勢の鬼が相手となるといくら勇儀でも厳しいかもしれない。そんなことは無いと思っているが念には念を入れておくべきだろう。

 

「詳しい日取りをお燐に調査させます。貴方は萃香経由で地上の賢者が地霊殿に来てくれるよう頼んでください」

 

「良いのかい?あの賢者を来ないようにしたのはさとり自身だっただろう?」

 

「こればかりは仕方ありません。どうやら私だけでは上手く治めることができそうにありませんから」

 

問題は八雲さんがどういう反応をしてくるか。あちらからすればこちらの要求を呑む理由はさほどない。地底の騒ぎなど地底で解決しろ、と言われてもおかしくはない。というか私ならそう言うに決まっている。面倒ごとに巻き込まれるなんて勘弁願いたい。面倒ごとの中心にいるのなんて本当に勘弁だ。

 

 

   ~火焔猫燐~

 

 

さとりに頼まれて地上への侵攻を企む妖怪たちの計画を盗み聞きする。猫の姿なら小さな隙間も通れるし隠れるには都合が良い。それに折角人型になれたのだからさとりの役に立ちたい。今まで彼女の疲れた様子をずっと見てきた側からすればその気持ちになるのは当然だ。初めて掃除などをしたときは手間取ったが今ではかなり早くできるようになったと思う。それでもさとりよりはずいぶん遅いが。

 

手伝いはしっかりさとりの役に立っているらしい。そんな毎日礼を言わなくても良いと思うけど、それだけ辛かったという事なのだろう。動物たちへの餌やりは結局さとりがすることになった。動物たちが何故か不満げだったらしい。その代わりに怨霊の管理は任されている。人型になってから怨霊を操るのはお手の物。簡単なことでさとりの役に立てるのならいくらでもする。

 

今回の盗み聞きもとても簡単な事である。いくら相手が鬼といえど地獄の鬼を見てきた者からすれば怖さが足りない。実力も違うのだろう。こちらに気づかない時点で駄目駄目だ。いくらでも聞き放題である。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

さとりさとり、帰って来たよ。

 

「おや、お燐。帰って来たのね。それでどうだったかしら?」

 

あいつらは十日後に地上に攻め入る気でいるらしいよ。まだ気づかれていないと思っているみたい。それで、地上の賢者の方はどうなったの?

 

「今萃香が地上に出ているわ。本当はこんなことにならなければ良かったのだけど。はぁ、憂鬱ね。地底の主なんて肩書は私には重すぎるわ」

 

そうかなぁ。あたいからすれば適任はむしろさとりしかいないと思うけど。だって他の妖怪は……ねぇ。そんなことより撫でて。

 

「そうかしらねぇ。まあこっちにおいで。それよりどうして人型にならないの?」

 

こっちの方が楽だし。それにどっちでもさとりには何が言いたいのかわかるんだからいいじゃないか。

 

「確かにそうね。萃香は今どこにいるのかしらね」

 

さあて、分からないね。そもそもあの賢者を見つけることなんてできるのかねえ。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

あれから三日経ってようやく地上から賢者がやってきた。さとりの話では来ない可能性も十分ある、という事だったから来ただけでも意外だった。

 

「こうして会うのは初めてかしらね?あの時の黒猫さん」

 

なんと。会って数瞬で気づかれてしまった。それにしてもあの話し合いの時は部屋にいなかったはずなんだけど……。何故あの時いた事どころか黒猫であることすら見抜かれてしまっているのだろう。これが賢者というものなのか。

 

「えーっと、はじめまして?妖怪の賢者様」

 

「ふふっ、貴方の主人の方が賢者ではなくて?私は八雲紫。以後よしなに」

 

「あー、あたいは火焔猫燐。よろしく」

 

「さとりに付けてもらったのね。しかし火焔猫燐…か。さとりもなかなか…」

 

頭の中でどういったことを考えているのかはわからないが、さとりもなかなか何なのだろうか。残念ながらあたいはさとりやこの賢者と違って普通の頭しか持っていないのでさっぱりわからない。いや、分からなくていいのだが。

 

そう言えばさとりにも昔言われたことがある。『貴方は純粋なままで成長しなさい』あの時のあたいは何のことかわからなかったが、この賢者を見ていればわかることだ。何を考えているのかを推測しにくい、常に薄く微笑んでいる顔。突飛な発言をする頭。さとりはあたいにこうはなってほしくなかったのだろう。そんなことはこちらからも願い下げたい。

 

この地霊殿で思慮深くあるのはさとりだけでいい。他は皆、さとりの癒しになれるような純粋なままで生活しておくべきなのだろう。何も考えずに物事をする、というわけではない。無駄な策謀はしないという事である。そんなことをしてもさとりを不安にさせてしまうだけだ。とりあえず今は賢者様を案内する必要があるが。

 

「えー、賢者様?さとり様の所まで案内しますからついてきてくださいね」

 

「えぇ、分かったわ。私も迷子になるのは御免ですもの」

 

彼女の能力についてはよくわからないがとりあえず一瞬で場所を移動できる事は確か。だからたとえ迷子になっても反則級の能力で脱出することなど容易いだろうに。




お燐の進化回


また次回も読んでいただければ幸いです
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