面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

50 / 66
基本的には(きん)で読んでください


金の湧く温泉

   ~古明地さとり~

 

 

「分かっているわねお燐、お空には地上に派手に打ち上げるように言いなさい。怨霊はできるだけ少なく、適当に金なんかも少々混ぜれば確実に食いついてくると思うわ」

 

まあ打ち上げる金も人間にとってはかなり有毒なのだが、これが最も手っ取り早くあの巫女を呼ぶ方法だと思う。あとはあの人間の魔法使いだろうか。

あちらも巫女が動くなら一緒に来る可能性は高い。巫女以上に関りの無かった人間だからその実力はいまいち測れていないが、巫女と競い合うくらいならば相当な実力を持っていると仮定するのが自然だろう。見つからないようにしなければならない。

 

あとは紫さん自身がどう動いてくるかだ。地底は地上よりはマシだと言ってもそれは妖怪にとってである。人間にとっては地上の何倍も危険な場所であるに違いないのだ。

棲んでいる妖怪が喧嘩っ早いし空気も悪いらしい。ずっと棲んでいるとわからないものだが。

 

そんな危険な場所に人間だけを送り込むようなことは考えづらい。実際にある異変の時は妖怪と人間が協力して解決に向かったという記録もあった。

どのような方法で来るかは全く分からない。一番ありがたいのは紫さんも一緒に来てお空だけを目標に進んでもらうことが……まあ無理だろう。勇儀やらは地上から来る人間と勝負してみたいと言っていたし。まったく勘弁してもらいたいものである。

 

「金も混ぜるんですか? 地底(ここ)の財源の一部ですけど本当に良いんですか?」

 

「えぇ、人間は妖怪よりもはるかに欲深いから欲望の塊一つに目が眩むものよ。それに地底の財源と言っても殆んどは自給自足のようなものだから、金がそんなにたくさんあっても仕方ないのよ」

 

ひもじいというわけでもないのに金目のものに目が無い巫女。魔法使いは全般が研究熱心だと聞いたことがある。さまざまな欲望を溶かした元素が含まれている金は恰好の研究材料になるだろう。あの魔法使いも来る可能性はかなり高い。

あの魔法使いのお目付け役を誰がするかはいまいちわからない。同じ魔法使いのアリスさんやパチュリーさんになるのだろうか。どちらが来ても私にとってはかなり不利だ。私の存在がバレてしまっているから隠れる難易度が急に跳ね上がる。

 

何故自分の屋敷で命がけの隠れん坊をしなければならないのだろうか。これも全部お空に力を与えた者のせいだ。残念ながらお空の記憶を覗く暇が無かったのでまだ誰なのかは分からないが。

まあわかったとしても神を降ろすような存在に私が勝てるわけがないのでどうしようもないか。それにしても地底にいる者の仕業なのか、それとも地上にいる者からの干渉だったのか、それが最も重要な点である。

 

前者なら警戒レベルをかなり引き上げなければならない。後者ならばまだマシだ。地上にいるような規格外な者たちならばそれくらいの事をできても全く不思議ではない。

その場合はどうやって地上と地底の間の約定を掻い潜ったのかが問題になるわけだ。地底に続く穴もそう簡単に見つからないと思っていたのだが……私の目が節穴だっただけか。

 

「さとり様、お呼びですか」

 

「えぇ、今回のポイントは恐らく貴方になるわ。重圧をかけるわけではないけれどお空の所まで人間を誘導するのは貴方。地底の主としての任を全うしなさい」

 

そのまま本当に地底の主となってくれてもいいんだけどねぇ。仕事の処理速度もかなり速くなったし、何よりも現地底の主よりもかなり強い。

頭も良くて力も強い、なんて理想的な統治者だろうか。その理屈ならばお燐でも良いわけだが、お燐は私のペットとしての側面の方が強いので私の後釜になってほしいとは思わない。

 

戒には圧をかけるわけではないと言ったが、言われた方からすれば私の言葉は重圧でしかなかったらしい。主の命運が自分にかかっている……? そんなに気負わなくても大丈夫だと思うけれどこの子は真面目なのだ。と言うか式神だからこそ主を気に掛けるのかもしれない。

主がいなくなれば命令を出してくれる者がいなくなるから仕方ない。

 

「最も重要なのはやってきた人間に地上と地底のパイプがあることを悟られないようにすることよ。あとは……そう、貴方が地底の主であると思い込ませること。それができれば今回は合格ね」

 

駄目だしは後でしてあげよう。客観的に駄目だったところを把握しなければ成長は見込めない。これもすべては私が表からも裏からも消えるための必要な過程なのだ。

存在(実体)を消すつもりは無いが存在(虚像)は抹消したい。私に()()()仕事が入ってこないような時が来ると良いな、と思いながら毎日を生きている。完全に仕事をしたくないというわけではないが、面倒な地上や地底関係の話は私に持って来ないでほしいのだ。

 

 

   ~八雲紫~

 

 

地底からの合図が非常に目立つ形で現れた。

最近は寒くて(という言い訳の元に)修行に身が入らなかった霊夢も温泉が湧いたということでとても喜んでいるようだ。

だが霊夢は気づいていない。霊夢だけではない、この地響きを聞きつけて神社にやってきた魔理沙も気づいてはいない。このひどく歪み切った罪人の成れの果てに。

 

怨霊に気づかずとも霊夢も魔理沙もこの間欠泉が湧いて出てきた地底に向かう気にはなっているようだ。さとりもよくよくこの二人の性格が分かっているものだ。地上にいた僅か数か月の間にこの二人が執着する物を把握していたというわけだ。

こうなる前から地上を地底に干渉させようとしていたと考えるのは流石に深読みしすぎだろうか。この二人の性格は案外単純だから一度会えばすぐにわかるということにしておくか。

 

霊夢も魔理沙も一緒に湧いてきた金が地底に豊富に埋蔵されていると考えたようだ。間違っていない。確かにこの汚れた金は地底にはたくさんあるし地獄にもたくさんあるものだ。

財政難の地獄を救っているのはこの金だったはずだ。旧地獄でも現在回っている(かね)のほとんどはこの金を元に入れた物だ。まあ人間にとってはかなり危険な物も含まれているので地上で使わせるわけにはいかないけれど。

 

「そこのお二人さん、少し良いかしら?」

 

「誰……なんだ紫か。で、何の用よ。これならあげないわよ」

 

結局まともに修行をつけることもできずに異変が始まってしまった。華扇にそれとなく言って無理矢理にでも修行をつけさせることも視野に入れた方が良いだろうか。

彼女の事だから厳しくやってくれそうだし名案かもしれない。また今度会った時にでも話しておこう。少し避けられているような気がしないでもないが。

 

「金目の物に執着するのは人間の特権ですわ。まあそれは良いとして、楽しそうな旅路に私もご一緒してもよろしいかしら?」

 

「駄目よ。あんたたち妖怪なんて信用ならないし、どうせ埋蔵金を根こそぎ盗っていく算段なんでしょ。あんたの能力なら造作もないでしょうし」

 

金に興味はないと言ったばかりだというのに。ま、霊夢は妖怪を信じない方が良い。最も関りのある私にさえここまで信用していないのだから他の妖怪を信用している心配はほぼないだろう。

それにしても危険な地底に人間二人で向かうという事か。想定内なのでそこまで驚くことも無いか。私も一緒に行くのがベストではあったが。

 

「あら残念。それに私はそこのコソ泥のような事はしませんわ。ですがそれならばせめてこれを持っていきなさい。これは形こそ違えどどちらも遠隔支援端末。何処かで役に立つでしょう」

「失礼な奴だな。私は借りてるだけだって言ってるのに」

 

霊夢に持たせた方は私特製の陰陽玉型。魔理沙に持たせた方は河童が作った無機質な珠をアリスの人形で覆った物。声が籠らないようにする過程で私も一枚かんでいる。

この珠を通して話もできるし景色も見えるという優れモノだ。外の世界のテレビ電話なるものを参考に作った自信作である。攻撃も行えたりとこちらの方が汎用性は高いだろうが。

 

「人間が生身で間欠泉に飛び込むのは命取りですから他の入り口から行きなさい。ほら」

「えっ? あっ、あんた帰ったら覚えていなさいよ」

 

流石に自力で探させるのは酷だろう。正確な場所を口で教えてもたどり着かないだろうしそこまでは送ってあげようか。神社にはそろそろアリスも来そうだし

送ってあげると言ってもスキマで強制的に穴の傍に落とすだけだが。山に入ってあまり経ってしまうと天狗が湧いてくるからさっさと穴に入ってもらった方が私の気も楽なのである。

 

 

 

「そろそろ行きました?」

「えぇ、出てきても良いわよ」

 

天狗も絡んでいるが霊夢たちがいるところで出てきたら今回の事に関する不信感を植え付けてしまっただろう、と考えたから二人の前では出てこないように言っておいた。

河童も同様だ。どうやら河童(確か河城にとりと言ったか)も射命丸文と一緒に来ているようなのであとはアリスだけである。あたかも私とアリスしか絡んでいないように見せていたが実は私を含めて四人の妖怪が絡んでいる。

 

「お待たせしたかしら。人形の移動が確認できたから来たけれど……もう全員揃っていたのね」

 

最後の一人も到着だ。できればもう一人ずつくらい援護要員がいても良かったのだが良さげな妖怪が見つからなかった。幽香は論外だし永遠亭に行く気にもならなかった。

魔理沙側の候補としてはパチュリー・ノーレッジがいたが、あちらは確かさとりをかなり敵視していた気がするので外した。霊夢の方にレミリアを入れても良かったかもしれないが、恐らく単純に知識不足で足手まといになるだろうから外した。

 

結果として四人体制になったわけだ。実際これだけいれば十分ではある。恐らく無茶な戦闘はしてこないだろう。確かスペルカードルールは地底の方がきちんと徹底されていたはずだ。

それにまさか鬼が約束を破るまい。そういうわけで最低限の安全は保障されているはずなので、あとは地底側がどういうスタンスで動いてくるかが問題になる。

 

「そういえば地底に行ったことがあるのは私と紫さんくらいでしたっけ」

 

「そうじゃないかしら。私は行ったことが無いし……にとりも行くような用事は無かったんじゃない? というか文は行ったことがあったのね。少し意外だわ」

 

本当はアリスも行ったことがあるがそれを言わなかったのはあれを『地底に行った』に含めていないからだろう。あちらで会ったのはさとりとその式神くらいだったか。確かにあれでは地底に行ったとは言い辛い。目的はただの顔合わせだったし。

 

アリスが射命丸を意外がっているのは鬼のいる地底だからだろう。萃香が地上にいた時に分かったはずだが、天狗は鬼を非常に苦手としている。

普段偉そうな天狗を大人しくさせるために萃香が地上に残ってくれればよかったと思うほどに、天狗の態度は鬼の有無によって変化する。あそこまで露骨だとむしろ好感が持てる。種族としての天狗は扱いにくくて嫌いだが。

 

「えぇ、少し連れて行かれたんですよ。死ぬかと思いました」

 

大げさな奴だ。確かに私の記憶が正しければ一人だけ水風呂にでも浸かっているのかと錯覚するほど蒼白で死人のような顔にはなっていたが、体力的にはまだまだ大丈夫そうだったはずだ。

 

まあこれくらい大げさな奴でもなければ誇張新聞は書けないか。私の屋敷やマヨヒガには号外が入らないから快適だが、神社の倉には確かかなり積まれていた気がする。霊夢も紅魔館のように掃除にでも使えばいいのに。

 

「おっと、あれは釣瓶落としですかね。随分と古典的な妖怪もいるものです」

 

地底に封印されている妖怪は総じて古い。そう言えば以前射命丸を連れて行った時にはいなかったんだっけ。私からすれば見慣れた妖怪だが。

……というかもう穴に潜り始めていたのか。考え事は一旦中断するべきだろうか。




萃香がいないのでパチュリーを外しました

紫様の能力ならば埋蔵金を根こそぎ盗っていくどころかそこに行くことも容易にできるんですけど
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。