面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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一週間と少し更新止まります


ルールとは束縛である

   ~八雲紫~

 

 

『ちょっと魔理沙何か言った?』

『いや、霊夢の方から何か聞こえたんだけどなぁ。何処かで聞いた事のある声だったような……』

 

射命丸の声が霊夢の方に飛んでしまったか。まだこの珠の扱いに慣れていないだろうから仕方ない。霊夢たちは何やら言い合い始めたが目の前に敵がいるのを分かっているのだろうか。

釣瓶落とし(キスメ)は比較的大人しい妖怪ではあるが、腐っても地底に棲むことを強要された妖怪である。力の源は人間の負の感情。喧嘩はごちそうである。

 

「私ですよ私。清く正しい射命丸ですよ……幻聴では無いので現実を見てくださいね。それよりも……さぁ、目の前の釣瓶落としをちゃちゃっとやっちゃってくださいよ」

 

まさか通信機になっていたとは思わなかったのだろう。二人そろって幻聴で済まそうとしていたようだが現実は非情である。むしろ優しいのか? 二人同時に幻聴が聞こえたらそれは妖怪のせいである。幻聴でないのも妖怪のせいである。

どちらも同じか。幻聴であろうとなかろうと私たちにとってはどうでも良い事であるし、幻聴を聞かせる程度の妖怪ならばあの二人の敵ではあるまい。

 

『へぇ、お前は釣瓶落としを知っているのかい? ならば話が早い。鬼火で焼かれて運ばれな!』

 

霊夢から射命丸の声が聞こえているからだろう。霊夢が釣瓶落としを知っていると勘違いした彼女は既に臨戦態勢である。それにしても普段見るものとはかけ離れた印象を受ける。

相手が人間だからだろうか。そう言えば三十年弱前にも人間の子供に対していたずらをしていたような気がするが、あの頃はさとりの胃が弱っていたから見なかったことにしておいた。胃薬同盟は地上と地底の複雑な事情をも凌ぐのである。

 

『うっわ、なんか急に襲ってきたんだけど……魔理沙がやって良いわよ。私は先進んでるから。じゃあねっ』

『あっ、おい! ったく相変わらず勝手な奴だ。ま、準備運動にはなるか?』

 

魔理沙の方はアリスと河童に任せよう。できればヤマメは霊夢が相手取ってほしいところである。土蜘蛛と河童の関係を考慮するならば向き合わせない方が良いのだ。河童は気が弱いくせに変なところでこだわりを見せて偉そうになる。

特に今回は直接の勝負ではなく魔理沙(人間)が代理になるので余計に気が大きくなるのではないだろうか。そうなるとこちらが面倒なので見つけ次第霊夢に倒すよう言うことにしよう。穴を下っていればすぐに見つかりそうな気がするし。

 

「相変わらず騒がしい奴らね。……まあ幻想郷にはそんな奴らばかりか」

 

「鬼の望む騒がしさはこの程度ではなかったようだけれど。まぁここにいるお二人さんも随分と幻想郷を騒がしてくれますしね」

 

風の噂でもって人間を攪乱し、大げさな発明品をもって事件を起こす。妖怪の山が騒がしいのは鬼の支配下にあった時の名残なのだろうか。私からすれば迷惑極まりない事だが喧噪の好きな妖怪たちにとってはそうでもないのかもしれない。

自分たち以外による喧噪を好まない人間(霊夢)から迷惑だという理由で理不尽に退治される妖怪も少なくないのは事実である。人間も妖怪もどこまで行っても自分勝手である。

それはあるいは私にも当てはまるのかもしれない。

 

「まさか、貴方には到底敵いませんよ。私たち天狗は精々他の妖怪よりも速く飛べる程度でしかありません。それすらも貴方の移動速度に比べれば亀にも等しいでしょうがね」

 

どこまでも皮肉で底を見せない奴だ。これだから天狗は好きになれない。どれほど強く問い詰めても柳に風。風を操ることを得意とする種族であるくせに突風を受け流す技術も並大抵ではない。

極端な卑下をする時があれば果てしなく相手を見下すこともある。強き者には媚び諂い、弱き者には強く出る。これ程までに面倒で鬱陶しい種族はそう多くないだろう。幻想郷では一、二を争う厄介な種族であり、私の嫌いな種族でもある。

 

「私たち河童だってそうですよ。人間は使い方を理解できないから騒ぎ立てるだけ。私たちからすれば便利な物を作っているだけなんですよ…………おぉ?! あそこで伸されているのは土蜘蛛じゃないかい? はっはーん、河を汚すからそうなるんだよ。ざまあないねぇ」

 

あらら、話している間に霊夢は土蜘蛛を伸してしまっていたか。魔理沙もキスメに勝利して(伸びているヤマメを無視しつつ)地の底に向かっているようだ。

霊夢の方は……もうすぐ地獄(あの世)顕界(この世)を繋いでいた橋に到着するみたいだ。わざわざ釣瓶落としと土蜘蛛を普段いる場所に配置しているのならば次の場所にも彼女がいるだろう。

 

河童の態度の豹変ぶりもなかなかのものである。ちゃっかり通信機から声が届かないようにしているところまで抜け目がない。だから人間(盟友)に避けられるのだ。ただでさえ河童の発明は胡散臭いのに常に裏で生きていては信用などされようはずもない。

 

『それにしても空気の悪い所ね。ねぇ、天狗がいるんならどうせ紫も聞こえてるんでしょう? 何が好きでこんな空気の悪い場所に来なくちゃいけないのよ』

「行きたがったのはあくまでも霊夢、貴方自身でしょう? 何でも私のせいにされてはたまりませんわ。さぁさ、宝が欲しくば進み続けなさい」

 

この責任転嫁は見過ごせない。私が唆したわけでもなければ頼んだわけでもない。霊夢たち自身が、彼女らだけで行きたがったのだ。今回に関しては私は何も悪くない……ことは無いが少なくとも霊夢たちだけが地下に潜ることについては何も悪くない。

 

『貴方、もしかしなくても人間ね。誰の差し金かしら。それに何の用? この先は人間の来て良いような場所ではないわ。疾く引き返しなさい』

『つべこべうっさいわね。私はこの先に用事があるのよ。紫、こいつもやっちゃっていいわよね』

『紫……もしかして八雲紫の事かしら? ……いえ、()()()()()()()()()()。地上にいる偉そうな奴で私たちを地底に閉じ込めたのはそいつだと聞いている。なるほど、そいつの差し金なのね。

 広い地上が妬ましい。

 煌めく星が妬ましい。

 果てなき空が妬ましい。

 それを当たり前だと思っている奴らが最も妬ましい。

忘れられた嫉妬の力。緑の眼は嫉妬の象徴よ。貴方は自分の嫉妬心にどこまで抗えるかしらね』

 

そういうスタンスか。私は地底の妖怪とほとんど関りが無い、つまりは初対面のような振る舞いをしろという事だ。私は嫌われ者たちを地底に閉じ込めた敵。霊夢たちはそれを味方につけているので、他の妖怪に会った時にも自然と戦闘の流れになるというわけだ。

 

これは間違いなく鬼を満足させるためにさとりが仕組んだ設定。萃香から話を聞いているであろう星熊勇儀が不自然な話無く霊夢たちと戦うために練られた策略。

それがわかれば後はもうその流れに身を任せるだけだ。私はさとりを始め地底の妖怪の事など知らない。ただし萃香を除いて、か。

 

 

   ~水橋パルスィ~

 

 

八雲紫が直々に育て上げた天才児だ。端から勝てるとは思っていないし勝つのが目的ではない。むしろ一番の目的は負けて先に通すことである。

 

今日人間たちが地底に来るだろうというのは戒を通して既に伝えられている。私だけでなくヤマメやキスメ、勇儀に萃香も同様だ。

キスメとヤマメの仕事は縦穴で人間たちの力量を調べること。あらかじめ二人来るだろうという事は伝えられているので一人ずつ相手取れば丁度良いだろう。一度やられたら伸びたふりをしてもう一人の人間を通過させることが重要らしい。その方が時間を合わせやすいとか何とか。

 

続いてここまで来た人間に対して私がするべき仕事はさとりの意志をそれとなく八雲紫に伝えること。彼女が直接乗り込んできた場合は別だが、彼女のような賢者が人間と共に地底を練り歩くはずもない、と言うのがさとりの意見だったようだ。

 

”白黒が先に来たら何処かへ隠れなさい。紅白が先に来たら姿を見せなさい”

 

今回は紅白が先に来たのでそのまま橋に立っていたわけである。最も難しいのは自然な流れで八雲紫に意図を伝えること。

 

そもそもどういった形で八雲紫が絡んでくるか分からない。そういう時に役に立つのがお燐である。猫の状態ならば小さな場所にでも問題なく潜り込める。

あとはヤマメたちが粘っている間に私を始め勇儀たちにも伝えに行くだけ。人間が持って来た珠や人形を通して話をしているということが事前にわかっていれば対策は立てやすい。

 

私たちは八雲紫の事をよく知らない。会ったことも無ければ姿形すらも知らない。ただ地底に妖怪を閉じ込めた敵である、すなわちそれを背後につけているお前たちも同様に敵である。侵略してきたのはそちらだからこれは正当防衛でしかない、と言う設定になっているらしい。

これは私も含め、普段からストレスを発散できていない地底の妖怪へさとりからの配慮なのではないかと私は考えている。実際鬼は嘘を嫌うということで八雲紫の事を知らない設定は必要ないと伝えられている。萃香に上手く取り持ってもらうそうだ。

 

八雲紫を知らないとあらかじめ言っておくことで、八雲紫の口からさとりの名が出ないようにするというのが真の目的だという。相手の聡さを逆手に取った作戦だ。

万一さとりの名前が他の妖怪に聞かれでもすれば地底は崩壊しかねない。今はそんな危ない状況で均衡が保たれているのだ。それを八雲紫自身も分かっているだろうから決して話題には上らない。

 

賢い者たちが考えることはよくわからないことも多いが、さとりの考えることは理にかなっているので受け入れやすい。それは話の背景を知っているからかもしれないが、突然何の脈絡もない事を言い出す賢者殿に比べれば随分と大きな違いである。

 

「妬んでいるばかりで自分の事が見えていないのかしら。他人を妬むより先に自分の境遇を見つめなおしなさい。あんたのスペルカードは自分をよく表しているという事よ」

 

自分の作った物なのだからその者自身の特徴が表れて当然だ。しかし今回に限ってはただの皮肉であっただろう。花咲か爺さんでも舌切り雀でも、妬んで報復を受ける爺さんも婆さんも決まって自分の境遇が分かっていない者なのだ。

あの巫女はそれが言いたかったのだろう。決して私のスペルカードに私らしさがあったという意味の言葉ではない。

 

しかし妬み嫉みは私の力の根源。誰に何を言われようともそれは変わらないし変えられない。嫉妬に狂う老害よりもはるかに歳を重ねてしまったのだ。さとりの言葉を借りるならば嫉妬の鬼。

さとりが覚である限り他人の薄汚れた心を読み続けなければならないのと同じように、私が橋姫であり続ける限り誰かを妬み続けなければならないのだ。誰にも理解されないとしても、だ。

 

「敵わないわね。敵ながら天晴よ。次に会う奴には貴方も手こずるかもしれないけれどね」

 

「何が天晴よ。私が勝つのはそうね……あの吸血鬼風に言うならば運命によって定められていたのよ。あんたが私に勝つことなんて不可能ね」

 

驕っているようにも思えるが実際にその通りなので返す言葉もない。本当に敵わない。スペルカードルールに反する能力を存分に発揮した戦闘ならば勝ち筋はあるが、少なくともこのルール下では勝ち目はない。

人間のくせにそれほどの強さを持っているなんて妬ましい。巫女ではなく妖怪を屠るためだけに生まれた神子なのではないだろうかとも思えるほどだ。

 

これならば神の力を手にしたというお空にも太刀打ちできるかもしれない。次は旧都の鬼二匹だろうけど。




パルスィの弾幕は本人を映しているような気がします


ベストパートナーは霊夢と易者で投票してきました
確か明日の23:59までだった気がするので皆様も好きなカップリングに投票してみてはいかがでしょうか。メアドさえあれば投票できたはずです
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