面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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クリスマスはやりましたがバレンタインネタは流石にできませんでした。番外編ならともかく本編には混ぜられなかった


おにはつよい

   ~伊吹萃香~

 

 

地底から地上に行った私がいたから、紫以外で地上から地底に来る奴ももうすぐ出てくるかもしれないとは思っていたが……まさかこれほど早いとは思ってもみなかった。

昔は地底側からの要請で地上の妖怪やら亡霊やらを呼んだ事があったが自らの意思で来るような奴は当分現れないと思っていた。まああの巫女と魔法使いならば別に不思議ではないか。

異変解決ともなれば冥界や天界にまで足を延ばすような人間たちだ。地底に来ても違和感はない。

 

「あれっ、お前は萃香じゃないか。急にいなくなったと思ったらこんなところにいたのかよ」

 

「ほう、あんたらが萃香の知り合いって言う人間か……確かに弱くはなさそうだね」

 

つい十年ほど前までの決闘方式ならばまず勇儀は負けないだろうけどね。ただ霊夢の力は未だに測りかねているのが事実だ。紫によるとまだ隠している奥義があるらしい。

つまり私と戦った時はまだ余力を残していたというわけだ。人間が鬼に手加減をする時代が来るとは思わなかったが。

 

「何? あんた誰よ。それに私は弱くないんじゃなくて強いの。妖怪風情が私に勝てるとは思わないことね」

 

「はっはっは! 鬼をそこらの妖怪と同列に扱うか。私は山の四天王が一人、星熊勇儀。意気の良い人間は嫌いじゃない。さあ、二人まとめてかかって来な。被弾1の真剣勝負だ」

 

「なんだ、お前も鬼なのか? だから萃香といるってわけか。で、萃香の奴はやらないのか?」

「うん。私はあんたたちとは既に一回やったことがあるしね。でも勇儀に負けたら……おまけで私とも戦わせてやろう」

 

種族間格差を埋めるための多大なハンデ。手には酒の入った盃、二対一、被弾数は全員1まで。被弾1でやる理由は昔鬼が人間と勝負していた頃を思い出せば容易くわかるだろう。

私は気にしていなかったが勇儀は案外細かい所まで気にするようだ。人間たちにとっての被弾はすなわち死を意味していたあの時代。勇儀も久々に人間と勝負できて嬉しいのだろう。

 

「それはつまりここでのリタイアだろう? それだけは勘弁させてもらうぜ」

 

一度でも負けてしまえば最後までたどり着けない。否、たどり着かせない。相手の力量を測るために戦っている私たちに負けるようではお空の奴をどうにかできないだろう、という古明地の判断があるからだ。

つまりここで私と戦うという事は魔理沙の言う通りリタイアを意味する。いわば強制送還前の最後のお遊びということになるのだ。

 

「そうは言っても私を倒せないと意味が無い。ここまで来た実力が如何程の物か試させてもらうよ。先ずは私から」”鬼符『怪力乱神』”

 

なんだい、勇儀もやけにノリノリだねぇ。ま、勇儀の気持ちもよくわかる。数百年ぶりに人間と戦えると思うと身も心も踊るのは鬼として、妖怪として当然の反応だろうから。

人間を見るだけならば数年前、私がまだ地上にいた頃に紅魔館のメイドと会っているらしい。地底にもワインがあるのはそのおかげだとか。

 

 

霊夢たちも相手が鬼と知って気を引き締めたようだし今回私の出番は無さそうかね。

綺麗な弾幕を肴に酒を飲むのもまた一興。地上の花の下で飲む酒も良いけど。

 

 

   ~八雲紫~

 

 

「ですから貴方たち二人が追っているのは金の在処ではなく間欠泉と共に湧き出ている怨霊の調査なのです」

 

先ほどから射命丸があの調子で言い続けているが霊夢たちの会話はそれを無視するかのように続いていく。四人いて全員が無視という行動をとるとは思えないのだが。

 

それよりも私が嫌なのは射命丸の態度の問題である。先ほどまではあんなにガタガタ震えていたくせに、いざ鬼を目の前にすると飄々と何事も無いかのように話し始める。

天狗という種族全体を表すような内心の隠蔽。流石に態度に出すような真似はしないが、これこそ私が天狗を好いていない理由だ。

 

天狗の中ではアウトローと言われるような射命丸であってもそのあり方は天狗という種族そのものだ。強きに媚び弱気を圧する。

良く言えば世渡り上手、悪く言えば保身だけを考える軟弱者。

 

やはり鬼が山を出たのは間違いだったのではないだろうか。それまでの天狗と言えば妖怪らしく、山に入ってきた人間を脅かしたり、修行僧の真似ごとをして惑わせたりだった。

それがいつ頃からか外界との干渉を拒むようになり結界を張った辺りからは完全に山を閉鎖的に変えた。天魔も悪いがそれに従う下も大概だったのだろう。

 

射命丸はまだ山を出て里や神社など別のところにもよく顔を出している印象があるからマシだけれど、たまに顔を合わせる天魔や大天狗なんかは最悪だ。関わる理由も無ければ会いたくも無いような連中である。

 

「あ~文? とても言いにくいのだけれど……恐らく今交信切っていると思うわよ? 先ほどの会話が聞かれないようにしていたから」

 

私も少し前から思っていたがアリスも流石におかしいと気づいたのだろう。確かに先ほどこちら側の会話が漏れないように切っていた気がする。繋ぐも切るも私次第だったわけだが、肝心の私がそれを失念していたみたいだ。

射命丸には少し悪い事をしてしまった気がしなくもない。一瞬絶望したような顔をした気がしたがすぐに表情を戻せるならばまだ大丈夫だろう。

 

「ごめんなさいね。ですがもう勝負は始まってしまったみたいですし、話はそれ終わってからすることにしましょう。もう繋いでおきますわ」

 

今霊夢たちは星熊勇儀と勝負をしているところだ。萃香は休みのようで、彼女たちが遊んでいる下で酒を飲んでいる。萃香が霊夢たちの事を星熊勇儀に言っていたのだろう。様子見の一枚目も並大抵のものではなかった。

だがそれも数々の弾幕戦を経験してきた二人には問題ではなかったようだ。実力ならば絶対に敵わない相手とでもスペルカードでなら対等以上に戦える。

 

『ほう、思いのほかやるじゃないか。ならば次はこれだね』

 

地底にスペルカードルールを広めるにあたって最も協力的だったのはあの鬼だと聞いている。一度は人間を見限ったとはいえ、その昔は人間と勝負するのが好きだった鬼だ。思うところがあったのだろう。力の強い者が表立って普及させたおかげで、地底では地上よりもはるかに早くこのルールが広がった。

 

現在幻想郷にある妖怪の山は大江山ではないが、天狗たちが移り住んでくる前は妖怪蔓延る山と言えば大江山だった。地上最強の妖怪集団を締めていたのが萃香や星熊勇儀も含まれる山の四天王になるわけだ。

確か昔聞いたところの情報によれば一人は地獄で引き続き死人を虐めているらしい。もう一人は地上にいる。天狗でさえ気づいていないのでほとんどの者はその事実を知らないのだろうが。

 

『おいおい、マジかよ。もう少し手加減してくれても良いんじゃないのか?』

『馬鹿言っちゃあいけないよ人間。簡単に避けられているのに手加減なんてできないねぇ』

 

鬼は力に自信はあっても手加減に自信は無いだろうし。だがやはり鬼の戦闘センスはピカイチだと認めざるを得ない。

弾幕勝負は経験がものを言うと言っても過言ではない。地底ではそれほど競う事が無いはずであるにもかかわらず、地上で常に研鑽を積んでいる魔理沙をして強いと言わしめるその弾幕の実力。天性のセンスが無ければ釣瓶落としなどと同じようになっているだろう。

 

「相変わらず鬼の力は出鱈目ね。地底に行かなくて正解だったわ」

 

アリスがそういうのも無理はない。数年前萃香が異変を起こした時にはいち早く萃香にたどり着いて喧嘩を売られたらしい。首謀者が解決者側から喧嘩を売られたのではなかったので聞いたときは訳が分からなかったが、どうやらアリスは萃香が鬼だと知って戦意を失ったらしい。

アリスも天狗も弱いわけではないが、それでも戦う意志すら失わせてしまうのが鬼なのだ。私もどうしても、という理由がなければ極力避けたい相手だ。

 

 

   ~古明地さとり~

 

 

(どうやら地上から来たのは紅白の巫女と白黒の……箒に乗った人間? だけみたい。最近は箒に乗って空を飛ぶ時代なのかなぁ)

「それは違うわよ。その人間はあくまでも魔法使いというイメージのもとあの恰好をしているだけ。実際は箒が無くても飛べるのではないかしら」

 

偵察に向かわせていたお燐が帰って来た。お燐に頼んでいたことは大きく分けて二つ。来た相手を見てくることとどのような形で紫さんが関わってくるかを見極めて来ること。

どちらも簡単な仕事ではない。勘の鋭いあの巫女の視界に入ってはならず、だが話が聞こえる程度の距離にはいなくてはならない。

猫の状態になれば狭い場所にも潜り込め、耳も良いし頭も良いのでお燐に頼んでいたのだ。元々適任であった上に、彼女自身がお空の事の責任を感じていたようなので丁度良かった。

 

(魔法使いか。あたいは見たことも無いから知らなかったねぇ。とにかく来ていた人間はあの二人みたい。それと賢者様は何かを通して話せたみたい。姿を隠していただけかもしれないけど、あの巫女は何か珠に向かって話しかけていたようだったかな)

 

ふむ。今回はそういった形で同伴してきたか。流石に地底に人間だけで行かせるほどの鬼畜ではなかったらしい。こちらとしては紫さんが絡んで来るのは有難い。こちらの意図も酌んでくれるだろうし、人間が危険に陥っても何とかできるだけの能力がある。

直接乗り込んでこなかったのも地底の事を考えての彼女の行動だと考えられる。元々は人間が来る事など考えもしないので地上の妖怪は地底に干渉しないように、という規則だったし人間ならば地底に入ってきても約束の反故とはならない。

 

「ご苦労様、お燐。私は少し戒と話してくるから、貴方は勇儀たちと戦い終わった人間をこの屋敷までそれとなく案内して頂戴。その時に深く語る必要も無いわ。誘導するだけでも構わないから……ありがとう。さ、行ってらっしゃい」

 

勇儀たちまではあまりこの異変に関係はない。お燐がこの屋敷まで解決者を連れてきたところからが本番である。私は関わらないが戒がお空の事をそれとなく示して中庭に向かわせる。

神の力を持ったお空など私が対処できるはずも無いので人間に任せるというわけだ。すべてが他力本願。地底の主として恥ずかしくないのか、と問われても返答に困ってしまう。

なりたくてなったわけでもなければ、私より優れた者も他にいるのが事実なのだから。

 

それはともかくもうそろそろ勇儀と巫女たちの勝負も終わるだろう。地上と地底の今を知ってる私からすればどちらが勝つかなど火を見るよりも明らかだ。

ここに来るまでの時間もそう多く残されているわけではあるまい。早く式神()命令を下して(計画を伝えて)おかなければ。




因みに地霊殿本編で今作は一区切りになります。地霊殿Ex以降は続編と言う形で別に書こうと思っております
主人公はさとり様のまま変えませんが、方向性をガラリと変える気ですのでご了承いただければと思います

最終話で急に言うのも変な話だと思うのでここで言っておきます
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