面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

55 / 66
最近紫様がメインになってきているので「~」と打つと一番上に「~八雲紫~」が出てくるようになりました


お姉さんには死んでもらいたい

   ~火焔猫燐~

 

 

「くぅ~、お姉さんたち強いんだねぇ。まさか(あいつ)にも勝っちゃうなんてさ」

 

戒が負けた。これは想定内、というよりもむしろ勝たれた方が困るので良かったことである。この二人の人間とは既に戦っているが、あれはまだ猫の状態の時だった。

手早く地霊殿に誘導するためにはあまり長く戦っていてはいけない、というさとり様の命令があったからだ。

でもここからはあたいの自由。さとり様も戒の後で、かつお空の前ならば好きにやってもいいと言っていたし。それにいくらスペルカードルールという縛りがあったとしてもここまで来られるような人間は珍しいと思う。地底に堕とされるような人間は大抵小心者だし。

 

でもこの二人は今まで見てきた人間とは全然違う。忌み嫌われた妖怪を見ても怯むことは無かったし、力の象徴である鬼と対峙しても腰が引けるどころかより積極的に前に出ていた。

さとり様に報告に行く必要があったため見ていたのは勇儀たちと人間たちが向かい合っているところまでだったが、それでもその後あたいが行く前には勝負がついていたところを見ると実力は馬鹿にできないものだろう。

 

「うん? 猫が猫になったわ」

「いや違うぜ。猫が人になったんだよ」

 

「あたいが猫になろうが人になろうがそんなのは誤差の範囲でしょ? それよりもあたいと遊んでいかない?」

 

あたいは別に猫になったわけでもなければ人になったわけでもない。人型になった火車である。思えばこの姿になったのももう随分と昔。苦労した甲斐があったというものだ。

 

「はぁ? さっきまで散々遊んでやったじゃないの」

「まあいいじゃないか霊夢。ここで倒してやればもう出てこないだろ?」

 

なんて図太い人間たちだ。確かにさっきまで何度か目の前に出て行った事はあったがいずれも猫の状態のままだった。この姿で一度戦ってみたいのだ。先ほどの戒のスペルを避けているのを見て改めてそう思った。

 

「確かにそうね。聞きたいこともあるし。さっさと倒して聞くこと聞いたら先に向かうわよ」

 

「その余裕の顔、すぐに歪ませてあげるよ。あわよくば死体になってくれれば……だね。お姉さんたちなら良い怨霊になれると思うよ」

 

妖怪に殺された人間の死体はあまり好きではないが事故で死んだ人間の、それもこれ程強い精神力を持っている人間の死体ならばきっと私好みになる。

それに怨霊になってくれればきっと今よりも楽しくなる。さとり様も喜んでくれるかもしれない。

 

「ふふっ、楽しみだねぇ。新鮮な死体は地底にはあまりないから是非とも死んでいってね」

 

お空の手にした業火の力。それでこのお姉さんたちが焼かれたらあたいの運ぶ死体が無くなってしまう。それならばいっそのことここで死んでもらった方が良いんじゃないだろうか。

お空のところに行っても死んじゃうかもしれないんだったらあたいが殺してしまってもそれはただの事故でしかない。それに焼失してしまうよりは運んであげた方が良いに決まっている。まあどうせ運んだ先で燃やされるんだけど。

うーん、でもよく考えたらさとり様には褒められない気がしてきた。つい最近怨霊関係で迷惑をかけてしまったばかりだし。困った困った。

 

 

   ~八雲紫~

 

 

さとりの陰に隠れて虎の威を借りているだけの狼だと思っていたがその認識は改めなければならないかもしれない。さとりの右腕が火車だとするならば左腕はあの式神ということになるだろう。

優秀なのは間違いなく火車の方であるが、式神の方も想像以上に優秀だ。

星熊勇儀と戦っていた時は危ない場面がありながらもスペルを消費することは無かった。力任せでゴリゴリ押してくる鬼と的確に嫌らしいところを突いてくる狼。それぞれの特性が存分に生かされていたのではないだろうか。

 

元々反逆群の頭領だった彼女も強い力は持っているはずだがやはりさとりの支配下に置かれた影響だろうか。非常に頭脳的な弾幕だった。式神はその性質上計算が得意であるが、相手の嫌がるところを逆算するのは藍でもなかなか難しいだろうし私でも難しい。

主人であるさとりが相手の嫌がるポイントを熟知しているからこそ先ほどのような嫌らしい弾幕が張れるのだろう。教養はいまいちのようだが。

 

一枚目のモデルは鯨だろう。しかし本物を見たことが無いからか見た目は本当にただの魚だったし、噴き出ている潮も少々垂直成分が強かったように思う。様子見さえしなければ避けるのは非常に簡単そうだったし更なる改善はできそうだ。

二枚目は何故か犬だったが……あの式神には狼であることの誇りなどは無かったのだろうか。白狼天狗ごときでも狼であることを重視している節があるというのに。でも確かに主人の言いつけに一切反抗しない式神のあり方は犬に似ているのかもしれない。

 

二枚目を見た時にアリスが射命丸に忠告していたが……どうせ鴉だ。明日には忘れているだろうし聞く耳も持っていないに違いない。

()()()()()()()()前に()()()()()()()()()()()()をまず検討するようにしてもらいたい。適当に推測されたことのみが書いてあるだけの新聞は人里を不安に陥れるだけのゴミ屑に過ぎない。

まあ外の世界では発言の一部を切り取るなどと言う姑息な手を使って権力者を陥落させる新聞もあるというし、発言を(言葉遣いまで)そのまま載せる新聞はまだマシだといえるかもしれない。

風の噂と言うように天狗自体が噂好きな種族である。それを踏まえて天狗の新聞をそもそも信憑性の無い物だと断じてただの読み物として読めばそこそこは楽しめる。

 

三枚目は軌道の読みにくい彼女の移動と近づくと周囲に発射される苦無弾によって逃げ場が失われるような物だった。地霊殿を出た直後の火車のスペルにも似た物があったが規則的であった分かなり避けやすかったはずだ。

 

 

あの時はただの黒猫だったが今は人型として霊夢たちと対峙している。私の中ではさとりの次に厄介な地底の住人。恐らく私の予想では最後、灼熱地獄跡にいるはずの霊烏路空よりもかなり厳しい戦いを強いられるだろう。

神の力を授かった霊烏路空は恐らく鬼と同じようにパワーで押してくるタイプだ。繊細な人間はそういった攻撃に対しては強い。避ける隙間が比較的大きいからだ。

逆に頭脳的な弾幕には弱い。特にまだまだ人間としても学ぶことの多いあの子たちは相手の思惑通りに動いてしまう事が多いのだ。

さとりの知識を、その生き方を恐らく最も近くで見てきた妖怪だ。妹を凌駕するほどさとりの一挙手一投足を身近で見てきた、式神よりも柔軟で従順な妖だ。

 

少し気になったのはあまりにも死体を求めすぎることか。灼熱地獄が機能を停止している今、燃料として人間の死体を持ち去る意味はあまりない。今もなおそれを行っているのは彼女の種族の問題もあるのだろう。あとは彼女自身の戦力アップのためだろうか。

彼女が運んだ霊は怨霊となり成仏することも無く地底で彷徨うことになる。地霊殿には怨霊を管理する場所があり、彼女は怨霊を自在に操ることができるしさとりも怨霊と会話できる。

怨霊の増加はすなわち地霊殿の兵器の増加に等しい。彼女たちが一声かければ怨霊は妖怪殺しとしてその力を発揮できるだろう。数日前までのさとりのような下手なミスさえ無ければ、怨霊はこれ以上ないほど便利な兵器となる。地霊殿にいる者しか操れないというのにも大きな意味があるのだ。他に誰も操れない。吸血鬼も亡霊も月人も天狗も神も天人も。閻魔はよくわからないが。

 

人型になって最初のスペルは…………怨霊に憑かれた妖精? ゾンビ化した妖精? どちらもあり得ないと分かってはいる。妖精は精神に依存しない存在であり、その妖精の基となる自然が死ななければ死すら存在しない。故に怨霊の取り憑く場所はなくゾンビにもなれない。

だからあれはそもそも妖精ではないか、または所謂コスプレというやつか。恐らく後者だろう。妖精ならば地霊殿にたくさんいたはずだ。確かさとりの催眠で働かせているとか言っていたはずだ。

仕事に関する催眠を解いたうえで火焔猫燐の指示で動くように催眠をかけ直せば途端にメイド妖精は火焔猫燐の手駒に変わる。

 

さとりもさとりだが火車も火車だ。あれほどの量の妖精を一度に使役するとなれば並大抵の統率力ではない。催眠の有無はあるかもしれないが、紅魔館よりもはるかに統率のとれた動きをしている。好き放題に動くことの多い妖精をスペルの一部として使っているというのは幻想郷的な視点で見ても相当に異常な事である。

そもそも自分以外の生き物を弾幕に用いることが珍しい。虫の妖怪は虫を使ってきたが、あれは彼女にそれを使役する能力があったからだ。私の知る限り火焔猫燐に妖精を使役する能力はない。

だからこそ私は恐ろしいのだ。使役できないはずの物を無理やりにでも使役できるようにするさとりと、扱い慣れていないはずの妖精でさえもきちんと統率してみせる火焔猫燐。これを妖精ではなく妖怪に使ったら、人間に使ったらどうなるだろうか。あの時も思ったが考えたくもない。

 

 

「おおっと、弾幕に怨霊を混ぜるなんてなかなかえげつない事をしますねぇ。今はまだ何もしていませんが下手をすれば霊夢さんたちも死んでしまうのでは?」

「確かにそうよね。前口上でも不吉な事を言っていたし……紫が向かうような事態にならなければ良いけれど」

 

それは恐らく心配ないだろう。あの猫も加減は分かっているはずだ。さとりの命令は知らないが、流石にあの二人を殺すのは不味いと言っているだろう。

問題は火車が気まぐれを起こした場合である。猫は気分屋でとにかく自分のしたい事をしたがる傾向がある。あの火車に関してはさとりのおかげでそういった部分が随分薄くなっているように思うが猫は猫である。組織に雁字搦めにされているわけでもない。

気分屋で欲に忠実な妖怪に魔が差す可能性が捨てきれないのは確かである。だがもしそのようなことがあれば何処かでこれを見ているであろうさとりが出てくるだろう。

 

「人間が怨霊に憑かれても死にはしないわ。精神の強い人間は怨霊にとっても居心地が良いとは言えないんですもの。怨霊に操作されて相方を殺してしまう可能性はありますが」

 

こういう時に無駄に不安を煽るのも悪くはないがこの場の雰囲気が悪くなるだけである。それならばわざと論点をずらした解答で不安を消してやった方が良い。あまりにも外野がうるさいと陰陽玉や人形を通して得られる映像に集中できないから。

一瞬の綻びを見つけたいならば集中を途切れさせてはならない。今の調子であれば怨霊が何かをすることも無いだろう。

 

恐ろしい密度の弾幕だが、霊夢たちもなんとか食らいついている。確か宣言された枚数は五枚。今しがた発動しているのが三枚目なのでようやく半分といったところだ。

昔時ここにあった本物の地獄の針山を見てきた彼女だからこそ再現できる弾幕なのだろう。私が初めて地底に来た時には既に旧地獄となっていたから、あの猫はそれよりも昔のところから記憶を引っ張り出してきていることになる。

正確に再現されているわけではないだろうが、一介の猫であったはずの彼女が千年近くの時を経て朧げにでも思い出しているのは驚き以外の何物でもない。




紫様の天狗嫌いがすぎる
それもこれも「優しい幻想郷」よりも「口の悪い少女たちによるギスギスした幻想郷」の方が好きなせいです(地底は原作よりも随分甘いですが)
前者も書きましたし大衆の好みは前者なのでしょうが、本作では後者の路線で進めます

地上メインで書けば地上も地底もギスギスにできる気がします。書く気はありませんが

4面かつ5面かつ6面に登場するお燐。繋ぎとしてこれほど優秀なキャラは他にいますまい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。