面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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お燐ちゃんの偏見が凄くてなかなかエグイ内容になっています(特に前半)
気分を損ねる可能性が大いにございます。ご注意を


死体(したい)だけじゃ旅はできない

   ~火焔猫燐~

 

 

二人とも惚れ惚れしてしまうほどの強さ。少しでも気を抜けば恍惚で自分を失ってしまうかもしれない。そうなるとうっかりお姉さんたちを殺してしまうかも……いやいやダメダメ。あたいにはさとり様に託された使命があるんだ。

あたいの仕事はお空の所まで連れて行くこと。その途中で二人を殺すのは最悪の事態だろう。

 

力試しの途中の事故で死んじゃったのなら仕方ない、とさとり様は言うだろうか? この問いには絶対に言わないと断言できる。

彼女は大抵の場合最悪まで想定して動いている。地底の主になった時も、反乱を抑えた時も、戒を統治者に仕立て上げた時も。いつもいつも失敗した時の後処理まで含めて考えていたはずだ。

でも今回は違う。成功でしかさとり様の計画は完遂されない。時間が無かったからというのもあるだろうし、病み上がりで調子が良くなかったというのもあるんだろう。失敗はできない。

 

 

失敗はすなわち地底の崩壊を意味するだろう。お空が神の力を過信して地上に侵攻しようとしたら瞬時に賢者様に消されるだろう。

消されるのは何もお空だけじゃない。お空の飼い主兼保護者のさとり様、それに関わった者としてあたいや戒、パルスィやらも消されれば地底の戦力は大幅に減ってしまう。

 

いくらさとり様と仲が良さそうだからといっても所詮は幻想郷の賢者の一人。彼女は他人との関係よりも幻想郷の存続を優先するに違いない。幻想郷に害を及ぼすものはたとえ千年来の友人であっても消滅させることを厭いはしまい。

自身の信念のためならばどこまでも冷酷になれるんだろう。いっそ狂気的なほどの無慈悲な殺戮者と化したとしても、どこもおかしくはない。

 

だからあたいは思いとどまることができるとも言える。

別にここで二人を事故死に見せかけて殺すのは難しくはない。殺傷性のある不可避弾幕を張れば、戒を撃沈したレーザーであってもあたいの妖力がふんだんに込められた弾には勝てはしない。そして被弾さえすれば即ち死に至る。

簡単だけどやらない。あたいの一時の満足と地底の命運を天秤には掛けられない。もしあたいの思っているような事態にはならなかったとしても、幻想郷の人間の要であるらしい二人を殺したとなれば極刑は免れない。いずれにせよあたいは死んでしまう事になるだろう。

 

 

人間の死に関しては死体が手に入るということ以外思うところはないが、命の重さを分かっていないわけではない。特に自分や自分の周りの妖怪たちの命に関しては何よりも重く見ている。

 

でもこれが自分の周りの人間の命になれば話はまた別だ。かつて地獄に棲んでいたあたいも含めて、人間の死が絡んでいる場所で生活している妖怪は多い。それは人間の死が妖怪にとっては何よりも魅力的に映るからだ。

人間と仲良くしている妖怪は本当に人間と仲良くなりたくて一緒にいるのだろうか。無論そういった純粋な心の持ち主入るかもしれないが、多くはその人間の死を間近で見たいがゆえに集っているような奴らだろう。

『死体は俺の物だ』『魂だけは譲らないわよ』『せめて脳髄だけでも啜らせてくれよ』

穢く、汚い思惑が錯綜している混沌の中で何も知らずに生活している人間が数多くいることだろう。寺にいた妖怪というのが地底にもいるが、寺という神聖な物の中に在りながらも地底に堕とされるほど人間を騙していたのではないのだろうか。

 

妖怪が綺麗な心を持っていることはないと言える。半妖ならば可能性がない事も無いが、そもそも人間にさえも持っている者はほとんどいないのだから希望は薄いだろう。

妖怪は人間を喰らい、人間は妖怪を退治する。邪な心を持っていない妖怪はもはや妖怪ではない。外面を取り繕っていても心のどこかで人間の死を望んでいるからこその妖怪なのだ。

あたいもさとり様も心は綺麗じゃない。心を読めるさとり様なら嫌と言うほど分かっているだろうが、優しさと心の綺麗さは全く関係ない。むしろ優しい者ほど裏では何を考えているのか分からないくらいだ。人間に優しい妖怪はどこかに必ず裏がある。

 

 

目の前の人間たちも妖怪との付き合いは多いんだろう。賢者様以外は声色で判断できなかったが、今回地上で監視して口出ししている者は確認できているだけで四人。

賢者様と同じ空間にいると考えれば恐らくは四人とも人外の類だ。さとり様曰く地上で賢者様と同じ場所に居たがる人間はいないとのことだし。

 

その四人が四人ともそれぞれの思惑を抱えてこの二人と付き合っているのだと考えると……つくづく人間は幸せ者だと思ってしまう。妖怪が人間に抱く好意、それが親愛の情であっても決して人間が人間に抱く物と同じではない。

気づいていないならば無理に気づかせてやる必要も無い。その方があたいも付き合いやすくなるから。妖怪はどこまで行っても妖怪。人間をむやみに襲えなくなってもそれは変わらないのだ。

 

 

 

人間との新しい付き合い方を模索する中で、怨霊を操るというあたいの能力(ちから)は生かされなくなるかもしれない。それでも今だけは人間にもその能力を存分に見せてやろう。

ここまで無傷で突破してきた事で地底の妖怪がなめられているかもしれない。あたいがいる限り最後まで無傷で突破されるわけにはいかない。地霊殿の、延いてはさとり様の尊厳にかかわる重要な問題だ。殺しはしない。でも少し、苦しんでもらおうかな。

 

「はぁ~、いいねぇお姉さんたち。痺れちゃうねえ! でもまだまだこんなもんじゃ満足しないでしょ? もっともっとスピードもパワーも上げていくよ。

さあ、地獄の時間(ヘリッシュタイム)の始まりだよ!    『小悪霊復活せし』」

 

大悪党の怨霊ではなく強い悪霊でもない。でも意思の弱い悪霊がやはり一番扱いやすい。個々の力の強さではなく、量と連携の質で確実に相手を追いつめられる小悪霊。これに冥土(メイド)妖精も加えれば一つの軍の出来上がりだ。

 

妖精も悪霊もあらゆる場所に動き回れ。戦場をかき乱せ。もっと速く、もっと強く、温い弾幕など不要な物だ。さとり様が今回のためだけに妖精たちの催眠を解いてくれた。

普通の妖精ならば自由に行動して鬱陶しいだけだが、こんな地の底にいるような妖精は変な奴しかいない。悪戯をしようにもまず人間がいないからできない。だが地上には彼女らが求めるような自然はないのでこの環境で生きていくよりほかはない。

 

 

地霊殿で働かせる時は催眠をかけたうえで雰囲気作りのためだけにメイドの恰好をさせているが、元々はあたいが連れてきた妖精たちである。今回はその時のように死者を模した恰好にして催眠も解いてもらったというわけだ。

あたいが連れてきただけあって命令はよく聞くし勝手な行動も慎んでくれる。スペルカードへの応用は当時から考えていた物だったのでさとり様の許可が下りたのは幸いだった。

 

妖精たち(お前たち)も相手の弾はしっかり避けるんだよ…………うんうん、その調子で」

 

 

   ~八雲紫~

 

 

強い…………強いと言わざるを得ない。力では鬼に劣るだろう。頭では狼に劣るだろう。しかしどうだ、総合力で言えばやはり明らかにこの火車が地底の№2である。他の追随を許さない圧倒的な差がそこにはある。

人間を圧倒するパワーが込められているわけではなく、どこまでも計算された弾幕であることもない。だが消しきれないし避けきれない。

 

妖精を撃ち堕とさなければ弾幕の密度は低くならない。しかし指揮者である火車がそれを許さない。いたずらにさえも文字通り命を懸ける妖精が弾を避けることなどあまり考えられない。

地上にいるごく一部の力ある妖精ならばまだ納得できるが、ここにいる妖精は太陽の畑にいるような妖精たちと大差ないように見える。だからこそ不気味だ。いったいどこまで強い催眠をかければ自由な妖精をあそこまで従順にできるのだろうか。

 

「恐ろしいわね。あれがさ……っきの奴の下だというの?」

「えぇ。あれが地霊殿主人のペットよ」

 

地霊殿に深い関りを持っている妖怪たちは、ほとんどが普通の勢力ならば幹部クラス以上の化け物たちだ。その中でも群を抜いているのが鬼と火車、そしてさとりだ。

鬼は言うまでもなく、さとりも同様だ。その二つに割り込んでくるのがこの火車なのである。

 

鬼とまでは行かないまでも長く生きてきた事による豊富な妖力量。さとりを間近で見てきた事による知識と判断力。元が動物であった事による驚異的な身体能力。そして妖怪にとっては妖刀と同様に何よりも恐るべき物である怨霊でさえも纏め上げてしまう能力を兼ね備えている。

唯一の欠点はさとりの一大事になると判断力が鈍ってしまうところか。先日の怨霊の件は、本来の彼女であればもう少しうまく対処できていたはずだ。

 

だがそれさえ除けばほとんどにおいて完璧だ。さとりを慕ってはいるが命令を無視すべき場所は弁えているし、さとり曰く家事や癒しに至るまで文句のつけようがないらしい。

うちの藍も家事は何も言うことが無いというのに……癒しという項目においては絶望的である。猫のように膝には乗らないし、折角綺麗でふさふさな尻尾を持っているというのに手入れだけして触らせてはくれない。動物の尻尾は敏感だというし仕方ないのかもしれないけれど。

 

「ふむむ、昔見た時はまだまだ可愛らしいだけの猫かと思っていましたが、随分と力を増したようで……今となっては立派な妖怪ですねぇ」

 

確かあの頃の火焔猫燐はまだ人型になってすぐだったはずだ。その時と比べれば当然力は増している。しかしそれでも妖怪としてはかなり速い成長だと言えるだろう。

神を入れるという反則的な急成長をした鴉もいるし……厄介ね。本当に厄介。地底の頭はさとりだけで良いと思っていたのに、ただの犬がケルベロスになってしまったかのようだ。

 

「感心している場合ではありませんわ。地底の妖怪が地上に昇って来た時に貴方は、貴方たちは鬼の復権を阻止する自信があって? 強い妖怪が増えることはデメリットも多いのです」

 

天狗も河童も昔は鬼の支配を受けていた種族だ。その頃の記憶も勿論残っているはず。強大な天狗をも従えるのが最強の種族である鬼なのだ。

敵に回して楽な妖怪など地底にはあまり存在しない。妖怪からも嫌われる妖怪たちというのは伊達ではないのだ。すべてが厄介の種。すべてが厄災足り得る者たちだ。

それが無くても地霊殿は新しい妖怪を生み出す場所となっているというのに。心労は絶えず、心配は増える。

また近く、妖夢が買い物に行っている間にでも幽々子に会いに行こうかしらね。




地霊殿<<さとり様(火焔猫燐調べ)

実は妖精たちは再び催眠をかけられていたわけではなかったのです。紫様の予想は外れてました

それよりも
お 燐 が 強 す ぎ る
五面から先に進めない
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