面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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寝つきが悪いので最近は原曲を睡眠導入BGMにしています。オススメはプレイヤーズスコアのリピート再生。安らかに眠れます


ALL-IN

   ~ ~

 

 

さとりがしたことは何も難しい事ではない。彼女の言う通り『お燐に五枚目を使わせない』ための簡単な工作だった。

だがこれは萃香の協力を得られなければ決して成功し得ないうえに運の要素を多分に含むため、失敗した後の事も視野に入れて実行しなければならなかった。

工作は簡単であるが成功する確率は決して高くない。そんな計画だったが、急を要する際にそんなことを気にしている暇はない。

 

 

まず一つ目、萃香の協力を仰ぐのは難しい事ではなかったと言える。そもそも萃香がさとりについてきている時点で、彼女もまた何らかの形で異変に関わりたかったのは明白だからである。勇儀が人間二人と戦っているのをただ見つめているだけだったのだからそれは仕方ない事だろう。

 

そして二つ目、運が絡んでくる要素はお空を呼び寄せることである。

彼女の()が分からない以上、彼女が何を重視しているのかも全く分からない状況なのだ。ともすれば邪神(神奈子たちの事)に主人や友人たちの記憶を消されているかもしれない。そうでなくても家族より大切に思えるモノができてしまったかもしれない。

 

使い魔として地獄鴉の一匹を送り込んだが、お空がそれを無視してさとりの意思を撥ね退ければその時点で計画は破綻する。

しかもそれが判明するのは必然的にお燐が力尽きた後になってしまう。

 

 

しかしそれでもさとりは分が悪い賭けだとは思っていなかったようである。と言うのも、八咫烏は太陽神天照大神の遣いとして太陽の化身である一方で、神に遣わされて誰かの道案内をする導きの神としての側面も持ち合わせているからだ。

神の導きというものは往々にして当人に悪い方向に寄せることが無い。ましてやお空は八咫烏の巫女であり神社であり、そして八咫烏自身でもあるのだ。

 

つまり今のお空の状態は半永久的に神降ろしをした巫女のようなもの。神霊の意思は存在してもそれが表に出てくることは無い。

日本神話の神はいくつの分霊になってもその全てが元と同じ力を持つ。故にお空に宿されている八咫烏も本体と同じだけの力を持っている。

 

これはつまり導く力も強いという事に他ならない。さとりはそこを信じたのだ。本来のお空が最も望む方向に導いてくれるはずだと。

記憶が消えていればもはやそれも意味をなさないが、幸いな事に神奈子たちもそこまで鬼畜なわけではなかったようだ。実際に神奈子たちがしたのはお空が自分を八咫烏だと思い込むようにすること。さとりも得意な催眠である。

 

 

結果的にお空はさとりの遣いからメッセージを受け取ってお燐の危機に間に合うように急いで飛んできたわけだ。鳥頭だと揶揄されることもあるお空でも身近な者と仕事を忘れることは無い。

急いで来てみたはいいものの、元々熱さに強かった地獄鴉が八咫烏を宿したことによって、かなり高温と言える地霊殿中庭でさえも生温く感じるようになっていたらしい。

計算外に全力が出せない状況ではあったがそれすらも気にせず、やってきた人間たちと戦う事にしたようだ(お燐が何処かに行ってしまって彼女には姿は見えないのだが)。

 

 

ではお燐はと言うとこちらは萃香によって回収されている。死体を回収する火車が鬼に回収されるなどどんな冗談だと言いたくはなるが、これこそさとりが考えた策だった。

お燐の放つ恐ろしい密度の弾幕に近づくことができるのは、よほど腕に自信のある者か、無謀な者か、そもそも当たらない者くらいである。さとりはそんなことができるほど回避に自信はないし無謀でもない。しかし萃香は最後に当てはまったのだ。

 

全てを往なすその能力を以てすればお燐に近づくことなど容易い。あとは誰にも気づかれないようにお燐を気絶させ、残されている弾幕に隠れながらお燐を抱えてさっさと退散するだけである。

ただそれをするだけならば気づかれていただろう。しかしきちんとお空の来るタイミングに合わせることで、そちらに気を取らせて退散を見られないようにしたわけだ。

 

お空の到着時間は神力の移動から逆算、お燐を連れて退く時には先ず直上へ。多くの者はいきなり目の前の者が消えた時に下か左右を見る。先ず上を見る者はいない。

故に気づけない。注意を逸らされた上に確認しにくい方に逃げるのだから。気づいたのは第三者の目線で見ていた者のうちでも紫だけ。

そもそも萃香が実体を現したのもほんの一瞬であり、大弾に隠れながら直後には離脱しているのだから見えなくて当然なのだ。すぐに陰陽玉の映像範囲外に出てしまった為、萃香がどこに向かったのかは紫でも流石に分からなかったようだが。

 

 

   ~八雲紫~

 

 

弾幕が掻き消えた―――正確には萃香が火車を気絶させたうえで弾に籠められた妖力を霧散させたのだと考えられるが―――直後、そこに現れた地獄鴉は以前見た物とは完全に別モノだった。

若年の妖怪らしく幼げだった顔は少し大人び、身長は霊夢たちが見上げるほどに高くなっている。そして最も異質であるのがその力。流石は最高神の遣いとも言うべきか、黒き太陽は伊達ではないと思ってしまう。

 

単純なパワーだけならば萃香とも張るほどではないだろうか。残念ながら頭の方が桁違いなので萃香が負けることは無いだろうが。

神奈子たちもあの子の頭が弱い事を分かっていたからこそこんな危険な鴉を地底に放置できたのだろう。だが霊夢たちは大丈夫だろうか。タイプ相性的に先ほどの火車ほど苦戦する未来は見えないが、それでも強大であることには変わりない。

 

『うふふ、太陽は無限のエネルギーを持っているわ。私の持つ無限と人間である貴方たちの有限。どちらが優れているかなんて考えるまでもないでしょう?』

 

この子はこんな話し方だっただろうか。自分を繕っているか、それとも完全に人格が変わってしまったか。前者ならばただ人間の前に余裕を見せるための物だろう。後者ならば…………さとりが悲しむのは目に見えている。すわかなを謝りに行かせる準備も必要になるかもしれない。

 

 

『何言ってるんだよ。有限だからこそ一点集中ができるんだぜ? 無限のエネルギーなんてただ霧散し続けてるだけで集まることなんてあり得ないんだよ。

ちょっと力を手に入れて人間(私たち)を甘く見る奴が痛い目を見ることになる。知らなかったか? 人間は限界を増やせるんだよ。いつまでも有限でありながら無限の成長を見込めるのが人間なのさ』

『面白いわ。貴方たちの持つその有限の力(無限の可能性)を見せて頂戴。あぁ八咫烏様、私に無限の力を与えてくれたことに感謝します』

 

ほほう、魔理沙を少し見直したわ。努力家らしい、成長することを知っている言葉だ。妖怪には理解できない、霊夢にも理解できないかもしれないけれど。

 

そして霊烏路空の方は本当に神奈子たちの事を覚えていないようだ。頭の片隅に残っている可能性は捨てきれないが、それはさとりでもなければ引っ張ってこれまい。

というかさとりは何処で見ているのだろうか。先ほどの介入があったのは間違いなくさとりの意思だ。萃香の行方が見えれば良かったのだが、生憎陰陽玉を操作できるのは私ではない。こんな周りに三人もいる状況で堂々とスキマを開けるはずもない。

そもそも本来ならばこの見えている映像だけで良いはずなのだから。

 

かなり目立ちにくい場所で見ているに違いなく、その場にいても分からないくらいの場所にいるはずだ。少なくとも私の動体視力が衰えていなければ、この陰陽玉には一度も映り込んでいない。

それはつまり常に霊夢に対して背中側にいるという事に他ならない。

霊烏路空が来たのにもさとりが関わっているとすればどのような方法を取ったのか。あまりにもタイミングが良すぎるのはどう考えれば良いのだろうか。

 

全てがさとりの掌の上で行われているようにも感じられるが……いったいどこまでが彼女の想定通りなのか、天文学的数値の計算をするよりもよほど難しい。

 

 

「お、おお! 素晴らしい、素晴らしいねこの火力。適当に丸め込めば技術の発展は目覚ましい物になりそうだよ」

 

確かに恐ろしいほどの技術の発展が見込めるだろう。外の世界ですら実現していない実用的な常温核融合でさえもこの地獄鴉の手を借りれば実現できるだろう。

それに興味ある者なんぞ守矢の者か河童くらいしかいないだろうが。その他の者はその熱を利用して温泉でも作ろうか、としか思わないだろう。今のところ幻想郷ではあまり需要が無いのだ。

 

 

霊烏路空の弾幕。やはり予想通りのパワー型。他にも類を見ないほど大きな弾は太陽のイメージか。一枚目からあれを連発できるだけの力をつけたということになる。

 

神をその身に宿すことは並大抵の事ではない。月に行った時に神降ろしの練習をさせた霊夢ならばよくわかっているだろう。他人の精神を自分に入れるという事と同じであるために身体にかかる負荷も大きいだろう。

また親和性が低ければ厄介な二重人格にも等しい精神状態になってしまう。その点で暗示の掛けやすい地獄鴉を選んだのは正しかっただろう。相当な高温にも耐えうるという重要事項もクリアしている。

 

まさにこの為だけに生まれたかのような妖怪。だがそれ故に八咫烏との親和性も恐ろしく高い。八咫烏から受けられる力を余すことなく使える妖怪なのだ。

妖怪vs.人間ではなく、神vs.人間という構図に近いとも言える。

 

それでもここ数年で神と戦う事も何度かあったからか、一枚目はあまり問題なく突破できたようだ。大きな弾に意識を向け過ぎずに小さな弾を正確に避けられればいい。隙間も先ほどまでのものほど狭いわけでもない。先ほどが狭すぎたのだろうがあれに比べれば些か見劣りする。

二枚目は……あら、あの子ペタなんて知っていたのか。まあ先の会話の内容を踏まえるならばインフィニティくらいの方が大げさで良かった気がするけれど。

 

「凄くダイナミックでさっきの猫とはまた違った迫力があるわ。あの鴉もさ……地霊殿主人の?」

 

「えぇそうよ。地霊殿には相当数のペットがいると言われているわね」

 

私もその全ては見たことが無い。だが聞くところによるとその多くは並みの動物たちよりもはるかに長生きで強い力を持っているらしい。放し飼いをしているために怨霊なんかを取り込んでいるかららしいが、怨霊の管理がそんなに適当で良いのだろうか。

閻魔が何も言っていないのならば許容範囲内なのだろうが、そんなに杜撰だから先のような事件が起きるのだ。まったく、さとりにも気を付けてほしいものである。




密度が高かったから自機その他からは萃香が見えなかったわけです。避けるのにも集中しますし

個人的に地霊殿は5面>6面(と言うかお燐>お空)
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