執筆時間の問題ではなく内容的な区切りの都合で今回はかなり短め
~八雲紫~
やはり弾幕はかなり避けやすそうである。八咫烏がどう思っているのかは知らないが、少なくとも地上を焼き払う気はないだろう。もし八咫烏が本気でそれを望んでいるのならば今頃は弾幕勝負どころではなくなっているだろう。今こうして弾幕同士でぶつかり合っているのが良い証拠。
それにそんな野望を持っているのだとすれば神奈子たちも無事ではいられなかったはずだ。建御雷と八咫烏が同列だと仮定すれば、神としての格は神奈子よりも八咫烏の方が高いことになる。
”十分な手加減をしている”ことと”八咫烏がまだ地上に出ていない”ことを踏まえると、霊烏路空と八咫烏の間には大きな望みの違いが生まれているらしいことがわかる。
霊烏路空の方は彼女の言葉通りのものだったのだろう。一方で八咫烏の望みは恐らく自身の分霊を消滅させないこと。
彼だか彼女だかは知らないが、八咫烏の分霊が消える条件はまず霊烏路空が死、または消滅すること。二つ目は霊烏路空の精神との調和が崩れること。三つ目は人間がいなくなること。
このどれもが重要事項だ。そしてどれが起こっても八咫烏自身だけでなく依り代である霊烏路空自身も存在が保てない状態になる。一つ目は言うまでもないが、二つ目と三つ目は妖怪の存在意義を再考すれば容易く分かることだ。
当然のことながら妖怪は精神に依存して存在を保っているようなものだ。いくら吸血鬼のように不死身の肉体を持っていても精神面で見ればまるで無防備だ。精神が崩されれば如何なる妖怪も深手を負う。だからこそ精神に直接攻撃できる覚妖怪や橋姫なんかは妖怪からも嫌われているのだ。
そして最後、人間の存在だが、これは幻想郷を存続させるうえで最も重要なファクターであるとも言える。外のように幻想を殺すのが人間ならば、幻想を形作るのもまた人間なのだ。
人間の信仰が神という超常的存在を生み出し、人間の恐怖心が暗闇に妖の姿を当てはめ、醜い妄執や嫉妬心が霊の存在を確固たるものにした。
現代に住む人間は神や妖がいなくても生活できると考えており、実際に多くの場合神だの妖怪だの言う時は上手くいかなかった時の言い訳だ。それほど神や妖は人間から遠い存在になっている。
しかしながら人間無しに存在できる神も妖もいはしない。神や妖からすれば人間は常に近くにおいておかねばならないものだ。地上を焼け野原にして人間を滅亡させてしまえば困るのは八咫烏も同じ。分霊どころか本体すら消えてしまいかねない。
この世界に限らず、あらゆる世界において生活している者たちは相互に関わり合わねば生きていけないようになっている。外の世界でも神が全て消えてしまえば世界が崩壊するのは間違いなく、妖が消えれば些細な所に争いが生まれるのは必定だ。
バランスを崩さないことは何処においても、いつの時代においても絶対の掟である。八咫烏も伊達に太古から存在しているわけではない。宿主の行動を諫め、正すのも
八咫烏の意思がどの程度地獄鴉の方に流れているかは分からないが、これを見る限りではかなり宿主側の意思を抑制できているのではないかと思う。
言葉に八咫烏の意思が乗ることは無いようだが、行動には大きく出ている。これだけ見ると霊烏路空が天邪鬼であるようにも思えてしまう。
~古明地さとり~
流石にこの距離があるとかろうじて声が聞こえる程度で心まで読むことはできない。それ故に今、お空が何を思っているのかはさっぱり分からない。しかし遣いを出してすぐ来たところを見るにお燐への友情がしっかり残っているのは間違いなさそうだ。
…………それにしても家の子たちは皆人間を前にすると死刑宣告しかできなくなるのだろうか。戒は比較的マシだったとはいえお燐とお空はひどかった。死を匂わせるだけにとどまらず明確に死ねと言っているような物言いだったし。
怨霊になってくれ、も灼熱地獄跡の燃料になってもらう、も知らない者からすればわけの分からない言い方だったかもしれないが、少なくともここまで来たあの二人には分かっただろう。
全力を出させるための挑発だったとしても…………あぁでも妖怪と人間の関係なんてそんなものなのか。ならばお仕置きをする必要も無いだろうか。
「う、うーん……あれ、お姉さんたちは何処に…………って! さt……」
「静かにしなさい」
お燐の目が覚めたようで大声を出しそうだったので口に手を当てて黙らせておく。二人ともお空の弾幕を避けているから会話程度の多少の声なら気づかれないだろうが、流石にここで大声を出せば気づかれるだろう。
「今の状況を説明してあげるから大声は出さないで頂戴。分かった? ……いい子ね。ほら、疲れているでしょうから膝に乗せてあげるわ」
お燐を猫の状態に戻す理由の一つは下手な声を出さないようにするため。もう一つは休憩させるためだ。もうずっと昔から知っていることだが、どうやらお燐は猫になっている時の方が楽らしい。今となっては人型になっていることの方が多いが、昔人型になれたばかりの頃は猫のままいることの方が多かった。
「お燐は少しムキになりすぎていたのかしら? 力の消費量と運用効率が釣り合っていなかったわよ。結局あのままだとお燐に後遺症が残る可能性があったから、萃香に頼んでお燐を離脱させることにしたというわけよ。人間に負ける前に人間を撒けたから良かったわ」
(つまりあたいは勝敗をつけられなかったのか。申し訳ありません……さとり様)
何もそこまで責任を感じるほどじゃないんだけどねぇ。地底の命運をその身に負おうとするのは少し早かったのではないだろうか。
「本当に可愛いわね。思いとどまったのは偉かったわ。貴方はただの愛玩動物ではないけれど、それでもお燐は私のペットなのよ」
それこそもう千年近くも。ペットの粗相は主人の責任。でも一応表側では戒が主人という事になっているし、後で謝らせておこうかな。紫さんには私から謝るかもしれないが。
紫さんも巫女の持つ珠からこちらの戦いを見てきているはず。巫女視点でお燐の状況も見えただろう。後でどんな風になっていたかを聞くというのも良いかもしれない。
「そういやお空の奴、八咫烏なんて飲み込んでから頭が良くなったんじゃないかい? トカマクって何なんだい?」
「トカマクは核融合に関する何かだった気がしますが、私も詳しいところまではわかりませんね」
それよりも私はお空が十凶星を知っていることに驚いた。大方八咫烏側の知識から引っ張ってきているのだろうが、それでも案外難しい言葉をよく知っているものだ。
八咫烏がトカマクを知っているのは分霊の性質を強く認識できる。外の世界の技術であったはずであり、八咫烏は未だに外でも篤く信仰されている神の一柱だ。外で得た知識をここでも披露していると見た。
「古明地でもいまいちわからないのか。外に精通している紫あたりならもっと知っているかもしれないけど。それにしてもお空は神の力をいまいち上手く扱えていないようだね」
パワーに関してもどこか迫力が足りない。
と心の中で続ける。確かに私が過去に見た神霊たちと比べればいまいち迫力に欠けるように思う。比較対象が高貴なる神々が住むという月にいた神霊だからかもしれないが、八咫烏は月夜見の姉の遣いである。単純に考えれば天探女と比較しても何ら遜色はないはずだ。
神霊が神霊として姿を現しているわけではないからではないか、と考える者がいるかもしれないがそれは神の性質上考えにくい。あるいは私の知識不足なだけかもしれないが、いくらに分けても同等の力を持つならば、それが宿された時にも同程度の力が出せなくてはおかしいのではないか。
ここに到着した時もあまりの温度の低さに驚いていたくらいに高温に強くなったらしい。少し前までのお空は可愛かったが、今のお空は可愛がるには少々大きくなりすぎている。少し悲しい。
(うん? あれ? なんか動いてない?)
そういえば少しずつ景色が流れているような……
「って、本当だわ。このままでは不味い…………!」
おろろ、気づいたときにはもう遅い。お空の弾幕ばかりを見ていて仕組みを見逃していた。その圧倒的な引力で恐ろしいほどの距離を半径に持つ太陽系を保っている太陽。
引力の事など完全に失念していた。明るいだけの物だと油断していた。
あっ、本当に不味い…………
~ ~
莫大な質量も持つがゆえに引力も非常に大きい太陽。それを模したお空のスペルカードを避けきった二人の目の前に現れたのは神を宿した少女と比べると圧倒的に幼い一人の妖怪少女だった。
お空はさとり様を引っ張り出す役には丁度良かったです。書いていてなんですがお燐と比べるとあまりにも不憫。お燐を優遇し過ぎた気はしますが
ちなみにお燐と萃香は引力に抗えています。さとり様は油断しまくっていたうえにひ弱ですから
Exは書かないと言いながらずっと分母を7面にしていたのはこのため。大半の方はExを含めて7だと思うはずだという考えから敢えてこうしていました
やはりラスボスにはペットではなく主人が出てきてほしいんです