面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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この小説では四八刻法を採用しています。一辰刻=二時間、一刻=三十(ぷん)、一()=三(ぷん)です
作中の時間が経過すれば一〇〇刻法に変えると思います。覚えていたらまた書きます


き、聞こえてないですよ(嘘)

  ~八雲紫~

 

 

黒猫――火焔猫燐について行く事およそ二()、ようやくさとりの待つ客間に到着したようだ。この屋敷はとても広い。白玉楼ともいい勝負なのではないだろうか。

 

しかしさとりから私を呼ぶなど思いもしなかったことだ。あの時誰よりも私を地上に縛り付けたがったのはこのさとり自身なのだ。彼女にとっても苦渋の決断だったのだろうと考えたからこそ私は今回来たのだ。萃香の雰囲気からはあまり緊迫したものを感じ取れなかったが…。

 

「さとり様、賢者様を連れてきましたよ」

 

「どうぞ入って下さい。……お久しぶりです、八雲さん。此度は地底までお越しくださりありがとうございます。もてなしもできず申し訳ないですが」

 

「お久しぶりですわね、古明地さとり。して、今回の用事はどのような物なのかしら」

 

普段通りに振る舞おうとしているのだろうが流石に無理がある。さとりをもってしてもこれ程までにやつれてしまうとは。地底は私が思っていた以上に危険な場所なのかもしれない。

 

「実はですね、地底の妖怪たちが近々地上に攻め入る気でいるようなのです。お燐も私たちの話を聞いておきたいかしら?……そう、でも貴方が思っているほどではないわよ。聞かないならついでに勇儀と萃香……あとはそうね、ヤマメなんかも呼んできてくれると助かるわ。……ありがとう」

 

猫の姿に戻ってしまうと表情の変化が読み取れない。それにしても火焔猫燐が思っているほど何ではないのだろうか。私の力は思いのほか強くない…とかだろうか。これでも地上ではかなり上位なはずなのだが。

 

「さて、話が逸れてしまっていましたね。そう、地上に攻め入る気でいる妖怪たちの中には鬼も多く混ざっていましてね。私程度の力では彼らを止めるのは不可能に近いのです。だからこそ貴方に助力を願いたいと思いましてお呼びしたのです。どうか私の計画に付き合っては頂けないでしょうか」

 

「本当に貴方一人ではできない事なのかしら?萃香から聞きましたわ。この間反乱してきた妖怪たちは一人残らず無力化した、と。それなら今回も貴方一人でどうにかできるのではなくて?」

 

聞いた話では四天王奥義の一つを真似て多くの敵を一瞬で蹴散らしたらしい。それほどの事ができる妖怪が私に、延いては地上に助けを求める必要など皆無なのではないだろうか。つまりこれはこちらが試されている、という認識で良いだろう。ここで断れば地上の妖怪は懐の浅い妖怪だと認識されるのだろう。そして了承すれば地上の実力を測られるかもしれない。能ある鷹は爪を隠す。この交渉においては一瞬の油断もできない。

 

「そんなはずはありません。前回は相手が弱かったから何とかなったようなものです。今回の相手は鬼。私の能力との相性は最悪なのです。それにここで貴方が断ると地底の醜い妖怪たちが地上に溢れてしまうかもしれません。成功例があると増長した妖怪たちがさらに地上に出て行ってしまうでしょう。それは私の望むところではないのです」

 

断り辛い状況にするのが上手い。これは交渉したい相手ではない。

 

「少し相談したいから私の式を呼んでも構わないかしら」「構いませんよ。よく考えてください」

 

とりあえず藍を呼ぶ。少しは自分でも何か考えて行動するようになってもらいたい。

 

……………………という事らしいけど藍はどう思うかしら?」「紫様、それは罠に違いありません

勿論何か根拠があって言っているのでしょうね?」「はい。先ずさとり(あれ)の実力は紫様も知っているはずです。その上でわざと断りにくい状況を作るあのやり口、罠であることは明白です」「それだけ?うーん、藍もまだまだね。その程度の考えなら赤子でもできるでしょう。まあいいわ。藍、もう帰っても構わないわよ」「わかりました。くれぐれも騙されないようにだけお気をつけください

 

まだまだ藍には自分で考える力が欠如しているようだ。結局何の解決にもならなかった。

 

「おや、早かったのですね。もう帰らせるとは」

 

「こちらにはこちらの事情があるから良いのです。それよりこちらを騙す意思というものがそちらに無い、と言い切れますか?」

 

「おいおいおい、今のは聞き捨てならないね。さとりが誰かを騙そうとしたことなんて今までたった一度もなかったよ。それを疑うのかい?あんた。はっきり言わせてもらうが見る目が無いね」

 

「おや、もう来てくれたのですね。でもそこまでにしておいてください、勇儀。貴方のその思いはとても嬉しいですが今は場をわきまえて抑えてください。そして八雲さん、私に貴方を騙そうという意志は無いですよ。これは言い切れることです。そもそも貴方を騙す利がこちらには全くありません。罠など初めから張るつもりはありません」

 

さとりの言っていることが全て真実…だとは思えない。仮にも数々の妖怪たちの上に立つ者。何かしらの考えがあることは確実だろう。しかしここまで言われると断る理由も見当たらなくなってくる。それに加えて鬼からの強力な援護。鬼は嘘を吐くものを嫌う。彼女があれほどさとりを信用しているのならこちらも少しは信じてみても良いのかもしれない。

 

「わかりました。協力いたしましょう。貴方の計画とやらを聞かせていただきますわ」

 

古明地さとり……貴方は一体どれほどの被害を想定しているのか。一を取り百を捨てる気でいるのか、それとも…。

 

 

   ~古明地さとり~

 

 

八雲さんが来た。本題を始める前に一応お燐にも話を聞くかどうか聞いておかなければならない。

 

「(あたいは別にいいかな。さとりと賢者様みたいな賢い人たちの話なんて聞いてもあたいには理解できないだろうし)」

 

「そう、でも(私は)貴方が思っているほど(賢い妖怪)ではないわよ」

 

お燐は特に聞く気が無いようなので勇儀と萃香とヤマメを呼んできてくれるように頼む。彼女たちは一応こちら側なので話は聞いておいてもらいたい。他にも橋姫の水橋さんなどはいるが、彼女は恐らく参加してくれない。優しい彼女を無理に戦場に引っ張り出すのも気が引ける。そんなことを言ったら私も戦場になんて立ちたくはないのだが。

 

八雲さんは事前に前の反乱の話を萃香から聞いていたらしい。そのせいで私一人でも何とかできるだろう、と言われたがとんでもない。鬼相手に私の能力は効きづらい。精神力が強い妖怪は多少の恐怖では怯まない。それどころか鬼はむしろ恐怖そのものを楽しんでくるから非常に厄介なのだ。力もあまりない私が勝てる道理はないのである。

 

地上にとっても地底から大量の妖怪が出てくるのは避けたいところだろう。何せ地底の妖怪たちは他者から嫌われている者ばかり。そんな妖怪たちが地上に出てしまえば地上の妖怪たちは大幅に数を減らしてしまうかもしれない。人間からすればその方がありがたいのだろうが私たちからすればそんなことも言っていられない。

 

もともと地底にいた妖怪が地上を席巻するようになってしまえば人間たちにも被害が出る。それ自体はどうでも良いことなのだがその後が大変なのだ。また再び地底に封印されたらいたちごっこになってしまうし、仮に妖怪が人間を殺し尽くしてしまえば困るのは私たち妖怪の方である。そんなことすら考えられないような愚か者ばかりが束になって地上を攻めようなどと言っているのだ。力ばかり強いせいでただ迷惑でしかない。

 

八雲さんは自分の式神である狐(九尾狐なのでかなり格が高い)を呼んで何やら相談することにしたらしい。八雲さん本人は心が読めないが、式の方は読み放題である。故に何を話しているのかははっきりとわかっている。聞こえないふりをしておかなければならないが。

 

どうやらあの式は八雲さんの納得のいく答えを出せなかったらしい。早々に帰らせられている狐さんを見ていると何か悲しくなってきそうである。

 

八雲さんに疑われていたところを勇儀に助けられた。確かに私は悪意を持って誰かを騙そうとしたことは無いかもしれない。聞こえないふりをしたりすることは多いけど。今回も八雲さんを騙そうなんて思っていない。そもそもそんなことを気づかれてしまえば私なんて文字通り一瞬で消し炭にされてしまう。この妖怪には私の能力は効かないし対処のしようがない。下手に刺激をしない方が身のためなのだ。

 

勇儀のおかげで八雲さんも協力してくれることになったらしい。萃香とヤマメも来たから早速計画を話すが、計画とは言っても私が考えるものなのだから大層なものではない。深く考えるのも面倒だ。

 

「まずあの大量の妖怪たちが地上に出るより前に地上から地底を攻めていただきたいのです。この際不可侵など言っていられません。少数精鋭でいいので腕の立つ妖怪、少なくとも普通の鬼と渡り合える程度の妖怪を連れてきていただければ。問題は地上に攻め込む時間がわからない事ですがそれは地底で時間を稼ぎます。

 

この段階で相手の戦力を四割ほどまで減らしておきたいところですが現実はそう上手くはいかないでしょう。今回の相手は五百に近いようですから。仮に四割まで減らせれば縦穴の下の方で壊滅させられるでしょう。逆に六割以上が残ってしまえば地上に近いところまで行くことになるかもしれません。そうはならないようにしますが」

 

「ちょっと良いかしら?」「どうぞ」

 

私のこの穴だらけの計画に何か言いたいことでもあるのだろうか。まああるだろうけど。

 

「時間稼ぎ、というのはどうやってするつもりなのかしら。いくら貴方や萃香や勇儀が強くても五百の軍勢相手にそれほど時間が稼げるとは思えないのだけれど」

 

「確かに私たち三人だけでは難しいでしょう。ヤマメのところに行くまでに数を減らしきれない。しかしこの屋敷には丁度たくさんの私の手足が存在するのです。それを使えば何とかなると思いますよ。心配しなくても管理は完璧です。地上の妖怪と合流するまでには退かせますよ」

 

「……なるほど。それなら大丈夫そうですわね。続けて頂戴」

 

やはり話の分かる妖怪は嫌いではない。考えを読めないのは欠点だが。

 

「縦穴付近まで行けばそこで待機しているヤマメや貴方たちと合流できますね。地底を崩落させない程度の力しか振るえませんが、そこで叩き潰します。勇儀や萃香は特に気を付けてくださいね。住む場所がなくなりかねませんよ。私からはこんなところでしょうか。何か聞いておきたいことはありませんか?」

 

「いえ、大丈夫ですわ。とにかく私は七日後に私の選んだ妖怪たちを連れて縦穴を降りて来ればいいのですね?」

 

「はい。迷惑だとは思いますがよろしくお願いします。当日は協力へのお礼としまして最近地底にできたばかりの温泉にご招待しますよ。お望みなら、ですが」

 

あと七日。私はお燐の特訓をしなければならない。可愛いお燐を争いごとに巻き込むのは嫌だが彼女はまんざらでもなさそうなので良いだろう。




藍の心が読み放題になっているなんて紫様はうっかりものですね

内容が無いのでサブタイトルが思いつかない。困ったものです

明日は恐らく投稿できないです。まあ不定期投稿ですし仕方ないですよね


また次回も読んでいただければ幸いです

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