面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

60 / 66
虹と龍って美鈴っぽい


A Privileged Girl

   ~古明地さとり~

 

 

いやホント、どうしてこうなった? 私は何か悪い事でもしただろうか。誰のせいにもできない自分の注意不足で我が身を公に晒してしまう事になるなんて。まあ一応地霊殿の敷地内であるおかげで地底に棲んでいる他の妖怪がいないのは助かったが。

 

……本当にそうだろうか。何となくだが地底にいる妖怪たちよりもこちらの人間たちの方が厄介になりそうな気がする。地底は地上よりもはるかに広いが、棲んでいる者がいる範囲で言えば地上とは比べ物にならないほど狭い。

異種間での交流が少ない地底と比べて地上は異種間の交流も多いし複雑だ。人間と妖怪が協力し合うというのは地底ではまず考えられず、妖怪同士であっても思想の合う者たちが勝手に結託しているくらいだ。地底では同種間で徐々に広まる噂も地上では異種間の介入が早く、即座に広域に広がって揉み消せなくなる。

 

不味い不味い不味い……どうするべきだろうか。吹っ飛んできた木っ端妖怪を装ってそそくさと退散するか? お空と人間たちの勝負はもうついているし逃がしてくれるかもしれない。

パニックに陥っている頭を放置して能力はきちんと働いている。お空は地上侵略を阻まれたということが分かっているようだし、巫女たちもお空が最後の壁だと思っていたらしい。何故か今はこちらに敵意を向けてきているが。

 

そのまま私など無視して地上に帰れよ。今回の私の目的はお空がどうなっているかを見極める事だった。お空に宿()()()()神の力なる物を自分の目で確かめて八咫烏の意図を見抜く事。それはもう達成したと言って良いだろう。

お空の心の声を聴く限りでは八咫烏に地上を侵略する意思はないようで、お空が自分の新たな力に舞い上がって大きく出ていただけらしい。

ちなみに私には八咫烏の声が聞こえないがお空には聞こえるらしい。神と話すのは巫女の専売特許。突貫工事のような物であってもお空は正確に八咫烏を祀る神社の巫女と認められているようだ。まあ歩く分社のようなものでもあるけれども。

 

…………で、目の前の人間の巫女さんと魔法使いさんは地上に帰るつもりがないのかしらね。暑いし疲れたと考えている割にはこちらへの敵対心も同程度に持ち合わせている。地上にいた時にも思ったがやはり厄介な人間。油断も隙もあったものではない。

 

「そう……ずっと見られていると思ったらあんただったってわけね。どうして今になって出て来ようと思ったのかは知らないけど……」

「妖怪ならば容赦はしない、ですか。恐ろしいほどに肝の据わった人間もいたものですね」

 

どうやら縦穴付近からずっと気配を感じていたらしいが、私が見ていたのは地霊殿に入って来てからである。それまでは私ではなくお燐だ。この巫女の勘は馬鹿にならないほど鋭いと紫さんの中でめっぽうの噂だ(紫さんが一人で言っているだけとも言える)が、流石に個を特定するのは難しいらしい。

まあ完璧ではなくこれくらいのちょっとした抜けがあった方が人間らしくて良いのではないだろうか。ただの妖怪殺戮マシンになるよりはマシだと思われる。主に紫さんの精神衛生上。

 

「『口に出したかしら』ですって? いいえ、私には聞こえますがね」

 

「なんだこいつは急に出てきてペラペラと……口から出まかせってか? ここに迷い込んだのなら早く帰った方が身のためだぜ」

 

「それこそ口から出まかせでしょうに。貴方は決して私を心配してなどいないわ。『早いとここいつもやっつけて暑い地底からおさらばしたい』? ふふ、お空(あの子)が昇ってきた穴を下ればここよりもさらに()()場所に行けますよ」

 

力ある人間は少し好戦的すぎないかと思ってしまう。

 

地底に閉じ込められている妖怪の共通認識として、人間と言えば妖の影に怯えて集団で暮らす軟弱者だというものがある。これは閉じ込められた百数十年前から数百年前までの人間への評価だが、つい最近までは私もこのように評価していたものだ。

地上に出てからは今回侵入してきた巫女や魔法使い、メイドなど今までの評価を覆すような人間たちを知ることができた。今回のような事が起こった時に面倒でしかないので私としては嬉しくない限りだったが。

 

それでもここまで好戦的だったとは思わなかった。吹っ掛けられたらたとえ相手が妖怪であっても喧嘩を買う、くらいだと思っていたのに、実は喧嘩を売る側だったらしい。ここまできた人間は果たして人間と呼べるのだろうか。

妖怪巫女に魔法使い、種族メイドで人間を卒業してしまえばこちらとしてもそんなものだと思えそうなものなのだが。

 

「へぇ、さっきの焼き鳥をあの子扱いねぇ。面白い奴だな」

 

面白くないわ。どうして私が変に強く思われなければならないのだ。いや確かに弱く見られても困るがそれはそれ、これはこれである。

と言うかお空を焼き鳥呼ばわりとは……主人が心を読める私でもなければ激怒していてもおかしくないと思う。…………だがよくよく考えると腹が立って来た。目の前の少女に悪意が無いとはいえ、ペットを食べ物のように言われるのは気分の良いものではない。

 

『そいつは覚。心を読む妖怪で、その手の妖怪としては最悪の部類に入るわ。地底の本当の主はあの狼ではありません。あの狼はそいつの式神。さっきの猫と鴉はただのペット』

「何?! あれがただのペットだってのか? とてもじゃないが信じられないぜ……」

「えぇ。私もその事実はできれば信じたくないけど、紫がこんなところで嘘を吐くはずもないから……本当の事なんでしょうね。面倒だわ」

 

面倒なのはこっちである。いきなり引っ張られたかと思ったら敵前に姿を現さなければならなくなるなんて……どんな運命の悪戯なのだ。レミリアさん、私を救ってはくれないでしょうか。

まあこんな願いなど通じるわけもないか。そもそもレミリアさんはこの場にいないし、結局レミリアさんの能力の具体的な使い方も分かっていないのだから運命を覆すことは難しい。

 

「あら、八雲紫ですか。貴方ほどの妖怪が人間の監視役に成り下がるなど……随分と地上は変わったようですね。ですが確かに貴方自身が来るよりはこの人間たちに任せた方が良かったのかもしれませんね。妖怪の貴方では分が悪すぎたでしょうから」

 

どうして私がこんな茶番に付き合わされなければならないのだろうか。間接的に紫さんからの圧を受けた気がしたから適当に口を合わせているが、実際は私の出番など無いはずだった。見逃すように言ってくれても良かったのだが……こうなってしまっては勝負は避けられないか。最悪だ。

 

「『本当に心が読めるのか』ですって? 当然です。忌み嫌われたこの能力が無ければ地底に来ることも無かったでしょう」

 

こいしを失う事も無かったはずだ。お燐やお空をペットにすることもまた無かっただろうが。運命とは皮肉なものである。常に利点と欠点の両面性を持ち合わせている。何かを得たいならば何かを捨てなければならない。

 

「お空、貴方は陰になっているあそこで休んでいなさい。八咫烏の言う事はきちんと聞いて覚えているように、ね。さて、貴方たちはどうしたいんです?」

 

お空に向かわせた場所にお燐も萃香もいるはずだ。負けて志気も喪失したお空ならば暴れることもあるまい。そして巫女たちと話している間にお空の記憶から引っ張り出した最も価値のある情報。もしかしたらこれで戦闘を避けられるかもしれない。淡い期待は常にもっておきたいものだ。

 

「ほう、私を打ち倒す意思を曲げる気はない、と。何故です?」

「はぁ? そんなこと当たり前だろ? お前らが間欠泉と怨霊やらを湧きださせたんだろうが」

 

「良いことを教えてあげましょう。この異変、地底側は全面的に被害者なのですよ」

 

さあ迷え。思考の沼に頭まで浸かってしまえ。心に生じた鮮少な迷い。些少な罅の如く広がればそれは大きな決裂となる。

 

「お空がこうなってしまった原因は地上の二神にあります。青っぽい髪の神と金髪で蛙のような帽子をかぶった神……心当たりがあるようですね。八坂神奈子と洩矢諏訪子ですか。彼女たちがお空に勝手に八咫烏を宿した。それにですね、実は地上と地底は互いに不可侵とするという決定があったんですよ…………えぇ、私と八雲紫とでもう随分前に決定したものです」

 

実はお空の方にも強くなりたいという望みがあったらしいが、今言うメリットは全くないので言わない事にする。知らないならば知らないままでいてくれた方がこちらとしても好都合だからだ。

別に私は全てを包み隠さず正直に言う良い子ちゃんではない。むしろその逆。如何にして相手に早とちりをさせるか、自分を有利にするかを考えて生きているようなものだ。真実は明かされなければ真実であると証明できない。嘘もまた同じである。

 

詐欺も欺瞞も相手がどう思うかでしか定義できない。相手が欺かれたと思わなければ、いくらこちらが欺いた気でいてもそれは第三者から見ても欺いていない事と同義である。

私とお空しか知らない情報ならば私がいくら適当なことを言っても、お空が告白しようとしない限りは偽りであると断定できない。

 

「不可侵ってことは……」

「えぇその通り。さあ、これを知ってしまった貴方たちはどうするのです?」

 

不可侵だという事は今ここに来ている人間も同様に違法者ということになる。実際には直前に一時的ではあるが破棄としてもらっているのでこの二人に関しては合法的に来ているのだが、これも言わなくて良い事実である。

話を途中で切ることで紫さんからの指摘が入らないようにすることも忘れない。紫さんは知っているから、それを今言われれば今度は私の方が不利に追い込まれてしまう。

 

迷わせ、揺さぶる。決断を鈍くさせたうえでこちらの望む条件を譲歩のように見せて提示する。これぞ覚の真骨頂。私こそが(さとり)だ。

心を読めない一部を除けば心理戦で私に敵う者はいない。考えは筒抜け。思考は洪水。私の前に作戦など成立しない。

 

『惑わされてはいけないわ、霊夢。深く考えれば考えるだけ覚の策略に嵌っていく。普段から何も考えていない貴方が今更何を考えても結果は変わりませんわ。妖怪は問答無用で退治なさい』

 

厄介な助け舟を。まあサポート役としては素晴らしいほど的確な仕事なのだろうが、今の私にとってみれば厄介でしかたがない。わざわざ揺らがせた心がまた初めのように一点に集中し始める。もうすぐで上手くいったというのに……頼りになるが厄介な妖怪だ。

 

「ふっふっふ、私としたことが無様を晒したわ。こいつをぶっ倒してからあんたも退治しに行くわ。覚悟していなさいね紫」

 

あらら、やはり先ほどの失礼な発言は気になっていたのか。正直なところ私もこの巫女は普段何も考えていないと思っている。だからあえて無視しておいたのだが……この巫女もそれを否定することはできないだろうに。暴力に訴えるな。暴力反対。

 

「地上では妖怪を退治するよう人間に指示するのが妖怪となる時代なんですか。あな恐ろしや。そして魔法使いさんの方も…………そうですか。ならば仕方がありません。

貴方たちが戦う相手は自分自身の心。心象は決して嘘を吐かないわ。呪うならば今日私に出会ってしまった自分を呪え。精一杯自身の恐怖の記憶(トラウマ)に抗え。

己の心が映し出す地獄への旅はまだまだ始まってもいないわよ」

 

撤退の意思が無いのならば戦うよりほかあるまい。七割くらいは紫さんのせいだが今更泣き言を言っても何も変わらない。

 

私の戦う相手は私の心。彼女たちの前に姿を現してしまった私を呪っても誰も助けてはくれない。

 

戒もお燐もお空も、普段は争いを避けているパルスィやキスメも一人で戦った。ならば私も一人で私の戦いを。地霊殿の主人として、地底の統治者として弱音など吐いていられないのだ。

 

 

 

「さあ全てを曝け出せ。あらゆる記憶は心の奥底にしまわれる。心の物入れを開け放って記憶(生きた証)をその身に思い出せ。      想起『恐怖催眠術』」




前回までの鬱憤を晴らすかのような圧倒的さとり様回


サブタイトル「A Privileged Girl(特権階級の少女)」は凋叶棕の「Unprivileged Access」を弄ったもの
少女さとりアレンジはこれが一番好きかもしれない。原曲壊すのが嫌いな人には向かないですが
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。