面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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丁寧語にするか否かで迷った結果曖昧になる


嫌味な覚

   ~八雲紫~

 

 

戦って強くなる。強くなったから戦う。そうしてまた強くなる。

それはあまりにも単純なサイクルで、それでいて誰にでも当てはまる究極の摂理。

 

しかしながらそこから完全に逸脱するモノもまた存在する。生まれた自然に依存するがゆえに戦っても決して元より強くはなれない妖精。逆に戦わずとも初めから強い妖怪。信仰の強さが力に比例する神。怨みの強さが力を決定する怨霊や悪霊。亡霊ならば未練もまた力の源になる。

その他には個々の能力もまた力に直接影響する。幽々子の死、私の境界、萃香の疎密、フランドールの破壊、星熊勇儀の怪力、そしてさとりの読心もまた彼女の強さを引き上げている。

 

性ゆえか戦う事を好む鬼二人、少しばかり精神が不安定なせいか好戦的ではないが戦う事を厭わない吸血鬼、割と相手をおちょくって戦う事も多い亡霊。

 

だが私は未だにさとりが戦っているところを見たことが無い。地上に棲んでいた時は自衛のために戦う事もあったらしいし、過去には星熊勇儀の本気版三歩必殺を再現して敵を殲滅したこともあったと言うが、私はまだこの目で確かめられていない。

鬼からの信頼も篤く、大勢の妖怪の反乱を抑え、あの猫が人型をとるまではたった一人で地霊殿を回し、月に行ってもほとんど傷を負わずに帰ってくる実力を持っているさとり。

是非この目で実際に彼女の戦いを見てみたかった。

 

彼女は『心に映った他人の技を見様見真似で借りているだけ』と言うが、これが常人にとって如何に難しい事なのかを分かっているのだろうか。

戦いの場においては一瞬の判断の遅延すら障害となる。相手の心の中に在る技を再現しようと思えばどうしても後手になりそうなものだ。しかしさとりは違う。常に相手より先、さとりに対して不意打ちは意味をなさず、先手を取ろうとしてもそれすら読まれる。

その他にも、相手の技をコピーしようと思えばかなり緻密に妖力をコントロールする必要がある。弾を撃つ場所、レーザーを放つ場所、タイミング、全てを読み取って正確に再現するには集中力も馬鹿にならないほど必要だ。

 

他の妖怪や人間、神、霊を全て合わせてもさとりほど特異な戦い方をする者はいないだろう。単純な自分の表現ではない。しかし彼女らしい弾幕ではある。

不思議な娘だ。彼女自身は戦いを好まないし滅多に戦わない。それにも拘わらず彼女自身は強く、彼女の周りには鬼をはじめとした強者が集まる。

 

 

戦え(護れ)。地底が嫌われ者の楽園だという事を忘れた人間を追い出したいならば。

戦え(攻めろ)一世界(旧地獄)の主であるならば決して逃げ腰ではいてはいけない。

 

さあさとり(貴方)も全てを曝け出しなさい。私の知らない貴方を存分に見せて頂戴。

 

 

   ~古明地さとり~

 

 

二人にとってのトラウマが頭に入ってくる。しかし性格の違いもあるのだろう。どちらかと言えば巫女の方がトラウマと呼べるものが少ない。月での一件はどちらにとっても相当に深く刻まれているようだが、これは弾幕とは言いづらい。しかも神器など再現できるものでもない。却下だ。

 

次に大きそうなのは萃香のものか。でもどうやら萃香は肉弾戦を交えた特殊な戦いをしたらしい。私にできるはずが無い。却下。

 

次は……紫さんかパチュリーさん、か。パチュリーさんからいってみるとするか。紫さんは見ているみたいだし。

 

「ふふ、貴方たちはまだ最大の敵というものを知らないのね。最大の敵は常に自分。己の心象に苦しめられるというのはこういう事なのよ。  想起『マーキュリポイズン』」

 

生憎巫女の方は初見のようだが、魔法使いの方には随分と効果的だ。どうやら紅魔館にも時々忍び込んでは迷惑をかけているようだから少しは彼女の恐ろしさを思い出せばいい。少なくとも私は彼女が怖い。紅魔館は当主以外私に優しくないから。

それにしても水銀毒とはなかなか恐ろしい物をモチーフにしている。水銀は身体に毒だが魔法ではよく使うのだろうか。砒素と同じような物と考えればいいのか? 魔法についてよく知らない私からするとあまり理解できないものだ。

 

「水銀の毒は気づかぬほどゆっくりと、しかし確実に身体を侵す。触れればそれだけで毒は身体を回り始めるかもしれないわよ」

 

実際には私の僅かばかりの魔力とそれを補う妖力で構成されているから毒なんて入っていないのだが。まあこの二人もその事は分かっているだろう。

 

「くっ、これ、どこかで?! くっそ!」

「私は見たことないけど……普通に面倒ね」

 

トラウマとなっているくらいなのだから何処かに苦手意識が生じているはずだ。想起した技に関しては知っている者ほど不利になることもままある。

”避けられないかもしれない”そう思うほど集中できなくなる。物理的に戦っている間も心理戦は続く。避けられる弾幕を如何にして不可避だと思い込ませるか、圧倒的物量で押せない私の勝ち筋はそれしかない。

さらに心理操作も視野に入れておけば多少の心の余裕はできる。心の余裕とは決して油断ではない。油断していたら先ほどのような事になりかねないから。

 

「これはパチュリー・ノーレッジのものですよ。地上の魔法使いとしては最強クラスでしょう。地上では、だけれどね」

 

この人間たちはまだまだ経験が浅い。知っている世界など幻想郷(地上)、外、月、冥界、地獄、天界、そしてここ地底くらいしかない。このうち地上を除いて魔法使いがいる可能性が僅かでもあるのは外、地獄、地底だけだろう。

しかし私が言っているのはこのうちのどれでもない。外に残っているほどの魔法使いがいれば相当強いだろうが、恐らくいない。地獄にもいる意味がない。地底にはいないと断言できる。

私が言っているのはまだこの人間たちの知らない世界、魔界の事である。何よりも魔力に満ちた世界。圧倒的な神が全てを作った世界。

 

「地上に限らなければ彼女以上の魔法使いももちろん存在するわ。さて、これを聞いて少しは心が軽くなったのでは?」

 

汚いとでもなんとでも言うがいい。異常をきたさない程度に精神を不安定にする。相手を揺さぶる心理戦。実際は相手の心が分かる私の独壇場になるわけだが。

 

一つの世界の主である(と紫さんに暴露された)私がこう言えばまるで地底に彼女以上の魔法使いがいるように聞こえるはずだ。地上を強調することで対となる世界を地底に絞らせる。別に可能性としては他にもあるはずだが、このような逼迫した状況の中では冷静な思考ができなくなる。

そう思い込ませたうえで皮肉っぽい煽り文句を一つ。脳は余計に冷静さを失う。『攻める』ではなく『責める』。言葉の暴力というものは人間に対してでさえ、時に肉体的なダメージよりも深刻な被害をもたらす。

 

「……っはぁ、ようやく避けきったか。

で、お前が言いたいのは、これよりももっとえげつない弾幕があるんだからこれくらい楽勝だろってことか? 生憎私は真人間なんでね、パチュリー(あいつ)のでもきついもんはきついんだよ」

 

真人間の使い方間違っていないか? どう見ても正しい生き方をしているようには見えない。

まあ頭の回転は悪くないみたいだ。私の言ったことを避けながらもきちんと理解できているならばまだ余裕は残っている。ここからまだまだ厳しくしていく弾幕、ここでへばられてはこちらも困ってしまうところだ。

 

「面白い冗談ね。貴方にはまだまだ余裕がある。話せないほどに疲弊したならば……颯爽と飛んできた天狗が回収してくれるかもしれないわね。  想起『風神木の葉隠れ』」

 

二枚目は巫女側から読み取った射命丸さんのもの。とっておきは最後の方に出したい。徐々に難易度を上げていくのは基本中の基本だ。とは言えども射命丸さんのものが簡単であるわけではなく、客観的に見ればパチュリーさんのものとあまり変わらない。

しかし先ほどまでと違うのは、今度は巫女の方のトラウマを想起したという事。巫女と魔法使い、両者の立場が逆転する。ただあまり面白くない事に、巫女が飄々としているせいで先ほどのように思い込みをさせることは上手くいかないだろう。

 

「天狗は山の神として信仰されることもよくあるわ。既に数柱の神を倒してきた貴方たちならばこのくらいわけないでしょう。特にそちらの巫女の方は二度目、ですからね」

『さっきも言ったけれど、こんな揺さぶりに惑わされては駄目よ。こいつは精神攻撃を得意とするような嫌味な妖怪だから』

 

どうして紫さんは先ほどから私の邪魔ばかりするかなぁ。わざわざ戦わせようとするし、その割には私に勝たせようとする気もないようだし。もしかして私を無駄に躍らせて疲弊させようとしているのか? 残念ながら私の疲弊は地底の戦力の低下に直結しないと思うが。

 

「厄介な妖怪ですねぇ。そもそも私が戦う意味など…………おっと危ない。よそ見は厳禁というわけね」

 

博麗の札は妖怪特効。投擲されれば避けるよりほかない。当たれば部位が吹き飛ぶ恐れもある。あの小さな紙きれにはそれだけの力が籠められているのだ。見くびれば私ごときの存在など一瞬のうちに命を取られてしまう。

彼女自身の投擲技術もまた素晴らしい。どこぞのメイドのナイフのように、狙った獲物は逃がさぬとばかりに迫ってくる。しかもこちらは追尾性能もある。スペル以外の妖力弾で打ち消しておかなければいつまでも付き纏われることになる。

 

「そういう事……あぁもう面倒だから一気に消すわ。魔理沙、少し退いてなさい。あんたは囚われてしまっても良いわよ。  夢符『封魔陣』」

 

軌道の読みづらい交差する弾幕をいちいち避けるのに痺れを切らしたかようだ。妖怪にとっては致命打にもなることがある博麗の一手。一手目はどうやらまだ本気というわけではないらしい。

こんなものに誰が囚われるか。封魔と言うくらいだからこちら側の存在に対して有効なのは間違いない。そもそも巫女の技である時点で察することも可能だろうが。

まあ当然ながら当たっている余裕はない。少しずるい気はするが、抜け道なら巫女の頭の中に在る。ありがたく使わせていただこう。被弾は一で始めたから当たれば敗北となってしまうし。

 

 

 

こうしたのも早く終わらせられるようにするためだったはずなのに……こんなに早く負けてはならないという気持ちが先行してしまう。

誰も私に期待などしなければもっと楽に生きられたかもしれないのに。

 

後悔先に立たず。転んでしまった私にはもう補助してくれる杖さえも意味をなさない。むしろ杖に転ばされたまであるし……はぁ。




無駄な拘りで文視点の文花帖、形式が異なる萃夢想、緋想天のスペカを抜くとどうしてもさとり様の発動できるスペカが少なくなるので、原作とは異なるものが想起される事をお許しください

ちなみに原作のさとり様は一支援者あたり三枚想起してきますが、ここのさとり様はそんなに優秀ではないので想起できるのはこのくらい。基本的に霊夢の方から想起できないわけです
紫様➝1枚、萃香➝0枚、文➝1枚
パチュリー➝3枚、アリス➝2枚、にとり➝3枚

紫様の「波と粒の境界」は個人的にめちゃくちゃ好きなんですが残念です
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