とりあえず今週もう一話上げます
~古明地さとり~
追いつめる。パワーで押せないならば徐々に避けづらい場所に追い込めばいい。力で鬼には勝てないけれど、頭で紫さんにも勝てないけれど、私には彼ら彼女らにはない
「思い出しなさい。最も屈強なる者を、最も聡慧なる者を……思い出しましたね? どうもありがとうございます。 想起『三歩必殺』」
まさか生きている間にもう一度これをすることになるとは思わなかった。今回は殺傷能力を失くした比較的安全な弾幕になっているが。
弾の一つ一つの威力が下がっているからか、昔勇儀から直接読み取ったものよりもはるかに弾の数が増えているように思う。私の記憶が曖昧になっているだけかもしれないが、少なくとも二歩目にしてこの量の弾幕は頭がおかしいのではないだろうか。
三歩必殺なのに普通の相手ならば二歩で粉微塵にできそうだ。
「これはさっきの鬼のっ?! ……っと、あいつのはこんなにひどかったか?」
あらあら、本来はもう少し密度の低い弾幕だったようだ。だが今更それに気づいてももう遅い。
「恐怖が自身の記憶をひどく歪める。そんな経験があるでしょう? えぇえぇ、正確な記憶など無くて当然なんですよ。心の中で生み出された、理性を凌駕するほどの恐怖。それが形作るモノが貴方たちを脅かし、そして同時に貴方たちの助けとなるのよ」
人間の恐怖に依存する私たち妖怪、神、霊。全てが恐怖の対象であるがしかし、それらがいなければ人間もまた生存し続けられない。
誰しも一人では生きられない。
人よ、恐怖しろ。怯え、逃げ惑う先に未来は生まれる。
「っく、厄介な…………魔理沙! 危ないっ!」
「人の心配よりもまずは自分の心配を……っと、危ないわね。邪魔をするのは誰かしら?」
まるで初めからそこにあったと言わんばかりに私めがけて飛んできた幾本ものナイフ。搔き消される私の弾幕。まさかあの子も来るとは思わなかった。
レミリアさん、貴方もなかなかに趣味の悪い方のようですね。
「おお、助かったぜ咲夜。危うく被弾するところだった」
「礼を言うなら後にしてちょうだい。まずはあいつを倒すところからでしょう?」
「おやおや、また人間ですか。ここはいつから人間が軽い気持ちで訪れる場所になったのでしょうかねぇ。後悔する前に帰る気も無い、と…………えぇ、貴方は何も知らないわ。でもやろうと思えば私は全てを知ることができる。三対一くらいが丁度良いハンデね」
んなわけあるか。演技せざるを得ないからこうして精一杯演じているが、正直なところ一対一でも極力戦いたくないくらいである。むしろこちらが三で相手が一、くらいが丁度良いのではないだろうか。
とりあえず咲夜さんを送り込んできたのは紫さんで間違いない。彼女も瞬間移動じみたことができるとはいえ、なんのヒントも無しにここにたどり着くことは不可能であろう。
来た理由はレミリアさんの気まぐれだろうけど。私に会う前提で『何も知らない態度をとれ』と言っているのだから確信犯だ。勘弁してほしい。
「お嬢様がどういった意図で私を送りだしたのかは存じませんが……ここで貴方を仕留めればお嬢様への良い土産になるに違いないわ。遥か地底に棲む化け物の肉。お嬢様やフラン様へのお食事にも良さそうね」
「妖怪の肉など硬くて喰えたものではないわよ。まあ貴女の言う吸血鬼のお嬢様ならば歯ごたえのある肉としか感じないでしょうがね」
人間はやはり恐ろしいものだ。咲夜さんの心の内は狂喜乱舞、外面は引いてしまうほど満面の笑みである。私を敵視している彼女にとってこれほど良い機会はまたとなかったのだろう。
日ごろのストレスの発散とも言うし八つ当たりとも言う。だがそれを私でしないでほしい。もっと強い紫さんにすればいいものを。
まあ確かに? 相手が弱いほどボコボコにしやすいのは分かるけれど、弱い者いじめをして何が楽しいのだ。まあ私は強い相手よりも弱い相手と戦いたいけれど。
~八雲紫~
紅魔館のメイドが神社に来た時は驚いたが、恐らくはレミリアの敷いた
運命を操るまでもなく、幻想郷において困ったことがあった時に最初に訪れる場所は大抵神社だ。
そこに私たちがいると分かった上で、さらに霊夢たちが地底に行っていると知った上で彼女を神社に導いた。嫌らしい吸血鬼だ。全てはお見通しだとでも言いたのだろうか? それとも運命には何人も抗えないことを示したかったか? どちらにしてもいい気はしない。
それでもそんな感情は咲夜には全く関係の無い事である。幻想郷の賢者たるもの無関係な者に当たることなどあり得ない。
送り込んだ直後に魔理沙の危機を救ってからさとりと話している彼女を見ると、如何に彼女がさとりを嫌っているかが見て取れる。
ただの挑発とは思えない残酷な発言、嬉々とした表情。恐らくは内心も相当に舞い上がっているに違いない。正当に嫌いな相手を攻撃できるのだ。事故に見せかけて殺すことも可能ではある。もっともさとりが彼女ごときにやられる気はしないが。
それすらも気にかけることなく、笑顔さえ浮かべながら逆に挑発するさとり。
明確な敵意、悪意、心の奥底に仕舞われた嫌悪、害意……さとりはいったいどれほど経験してきたのだろうか。普通の者では気づかない嫌悪もさとりなら読み取れる。それでもこうして笑えるのは何故なのだろうか。
「あややや、魔理沙さんも危なかったですねぇ。咲夜さんがもう少し遅れていたら
でもそうなってもそれはそれで面白いと言ったのだろう。さとりでなくとも簡単な事ならば読める。保守的では無い天狗と言うだけの理由によって射命丸は私から目をつけられているし。
それでも本質は変わらない。強気に媚びるその姿勢も、噂を誇張して風に流す不愉快な性格も。この天狗だけは嫌いではないが好きでもない。
「本当に、丁度いいタイミングで咲夜が行ってくれてよかったわ」
アリスの方は純粋な心配か。魔理沙の事を好いていないとはいえ同じ魔法の森に住むもの同士で、共に異変解決に向かったこともある。なんだかんだ彼女も魔理沙を気にかけているのだろう。
それが魔理沙という一人の少女としてなのか、それとも魔法使いの卵としてなのかは私の知るところではないが。
私が霊夢を心配するのと同じようなものなのだろう。まだまだ幼い人間としてなのか、博麗の巫女としてなのかは私には分からない。自分の主観だけでは判断できない。もしさとりが私の心をも読めたならば答えを出してくれるのだろうか。
『ふふふ、何もせずとも思い出してくれるなんて素敵な人間もいたものね。手間が省けたとでも言いましょうか。迂闊に思い出すこと、それこそが愚かな事なのよ。制御できる者などどこにもいやしないけれどね。 想起”スカーレットディスティニー”
きっと彼女ならばこう言うのでしょうね。緋色の運命の下で踊り狂いなさい、と』
六枚目を強引に終わらせられて七枚目。今度はレミリアか。本当に様々な弾幕を再現してくれる。そのどれもがオリジナルとは僅かに異なるのだろう。断言できるのは私のものと星熊勇儀のものしかなかったが。
私のものはあそこからさらに密度を上げられていたし、そのせいで魔理沙の使えるスペルが制限されたのだったか。結果的に魔理沙が危険になった直後に咲夜に救われている。その時の咲夜の放ったナイフもさとりは僅かな所作で悉く避けきった。
……さとりは咲夜が来ることまで計算済みだったのだろうか。
流石にそれは無いか。運命把握はレミリアの特権。いくら彼女と仲のいいさとりでも他人の能力を奪うことはできない。何らかの方法で近い事はもしかしたらできるかもしれないが。
やはりレミリアのものだからか真っ紅な弾ばかりだ。目に悪いのは紅魔館の中でも外でも、彼女の関係ない場所でも同じだったというわけだ。迷惑な吸血鬼である。
「やあやあ八雲紫。お久しぶりだな」
そう、まさにこんな風に…………っていつの間に来ていたのだ。映像の方に注目していたからか、レミリアの接近に全く気が付かなかった。我ながら不甲斐ないことだ。
とりあえずこちら側からの交信は切っておこう。どうせ霊夢も聞いているような暇はないだろうが念のためだ。
「従者も連れずに外を出歩いては危ないのではなくて?」
「私の事をいつまでもお子様扱いしてんじゃないよ。相変わらず厭味な奴だ。さt…………」
危ない危ない。瞬時にスキマに突っ込んだがとんだ爆弾がやって来たものだ。ここでさとりの話題を出してしまえば河童や天狗にも地上と地底の関係がバレてしまうではないか。
「ちょっと失礼。少しレミリアと二人だけでの話がありますので」
あまりにも適当でその場しのぎの言い訳だったので当然怪訝な顔をされたがそんなものを気にしている暇はない。レミリアを何も言わず閉じ込めたわけだし、変に癇癪を起されては面倒だ。一歩間違えば殺してしまうかもしれないし。
「いったいどういうつもりなのよ。あそこにいたのは私だけではないのだからもう少し発言には気を付けてもらわないと」
「貴様こそ何も言わずにこんな気味の悪い場所に放り込みやがって……いやまあ良いか。さとりの名前をあの場で出すのは不味かったと言うんだな」
あれあれ? もう少し突っかかってくるかと身構えていたが、思いのほかまともな対応をされた。さとりとの交流で少し精神的に成長したのだろうか。良い傾向だ。
「それにしてもよく私がさとりの名前を出すと瞬時に判断できたな。賢者の名は伊達ではないということか」
まさか厭味からさとりを連想したなど言えない。きっとそれがレミリアからさとりにも伝わってしまうから。まあレミリアも変に納得しているようだからそのまま勘違いさせておこう。
自ら都合の悪くなるカミングアウトをする者もいるようだが私には全く気持ちが分からない。正直者ぶって媚びを売るためだろうか。馬鹿みたいだ。
「貴方ももう少し長く生きればこの程度の勘は身に付くかもしれないわよ? それで本題なのだけれど、貴方はどうして来たのかしら」
「わざわざ答える必要もあるか? 咲夜の活躍を見るために決まっているじゃないか。あの子が私以外の者と異変に挑むのは久々だからな」
なんだ……ただ心配だっただけか。親バカとでもいうのだろうか。それを隠そうとするのだから余計に可笑しいし存外可愛らしい。
「それにしても先ほどちらっと見たさとりの弾幕は驚いたよ」
「そういえば貴方のでしたわね。咲夜の記憶から引っ張ってきたと言っていたわよ」
「それは無い。絶対にな」
は? いったいどういうことだ。さとりが嘘を吐いたのか、それともレミリアが私を試そうとしているのか。まったく訳が分からない。
記憶にない弾幕を思い出させて再現しているというのは矛盾だらけだ。欠片も記憶に残っていない、つまり経験したことの無いものを思い出させることはできないからだ。
「あれを咲夜の前で見せたことは無い。月の歪な晩があっただろう? その少し後にアリスには一度見せたことがある。それでも咲夜や霊夢、魔理沙には一切見せていない」
「という事は……」
「そうだ。あれはさとり自身の記憶から取り出しているんだろう。寸分も違わない、という事は無いがほとんど完璧に近い再現だ。随分前に新しい弾幕の案の一つとして教えただけなんだがな」
他人の心ばかりを読んでいるから盲点になっていたが、さとりの心を一番分かっているのもまたさとり自身。自身の記憶から引っ張り出すのならば特別な手順も何も必要ない。
思い出してみればさとりが霊夢や魔理沙の記憶からトラウマを引き出すときにはある手順が挟まれていた。
という事は手間が省けたという彼女の言葉から既にはったりだったというわけか。実際には咲夜の心からは何も引き出していない。能力を見せつけたように見せて彼女の精神を不安定にすることが一番の目的だったというわけだ。
「これが何を意味するか、貴様ならよくわかっているだろう? さとりが受けてきた、見てきた攻撃ならば全て再現できる。そう、月の連中の攻撃もな」
「!?」
「気づいていないとでも思ったのか? 私は月を一周したんだよ。その時にたまたまさとりが飛んでいるのも見えた。さとりは気づかなかったようだけどね。驚いたが関わってはいけないと思ったから見なかったふりをした」
この吸血鬼も厄介などと言う言葉では表しきれないほど煩わしい。普段はそう見せないくせにいざとなれば切れる頭。私の脳を圧迫してくる厄介ごとを引き連れてくるのもこの吸血鬼であることが多い気がする。さとりのように相談に乗ってくれるわけでもなし。面倒である。
「相手が強ければ強いほどさとりもまた本領を発揮する。神をも超えられるかもしれないな。
まあお話はこれくらいでいいだろう? 発言には気を付けるから神社に戻して頂戴」
「えぇ、今戻しますわ。くれぐれもさとりの名は出さないように」
次に外に行った時は胃薬だけでなく頭痛薬も買って来よう。そろそろ私の身体が悲鳴を上げているような気がする。体、もってくれよ。
さとり様。紫様。お嬢様。書いていて楽しいのは圧倒的にこの三人です
さとり様の妖力の限界が来た時点で何もできなくなるので、実際には相手が一定以上の強さになればお察しです
レミリアですが、サグメの事は見ていません。時間的な問題です