面倒ごとを押し付けないで!   作:小鈴ともえ

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幻想郷(地上)に対して外の世界(地上)、冥界、天界、地底、地獄…………がある設定としています。幻想郷はあくまでも紫様が創った場所であるとした方が都合が良いので


心の温泉地霊殿

   ~八雲紫~

 

 

さとりから放たれる今度の弾幕は幽々子のものか。そのものを知らずとも色合いや弾の形、そして何より彼女の後ろに開かれている扇が誰のものかを教えてくれる。アリスの弾幕を再現した時にも思ったが、さとりはどうやって特殊な小物や仕掛けも再現できるのだろうか。

アリスの人形も幽々子の扇子もさとりは絶対に持っていない。だからこそ余計に底知れない。再現が弾幕だけでなく物にまで及ぶならば、それはもう神にも匹敵する力だ。

 

ただの人形ではなく、ごくありふれた扇子でもない。恐ろしい力が籠められた所謂マジックアイテム。あれほどの物を無から生み出しているのと同義ならば、最早幻想郷において彼女に対抗できるのは私だけかもしれない。

それも美しい勝ち方ではなく死という方法に頼るしかないだろう。

 

創造と破壊の力とも言われる境界の力。世界一つを生み出したこの力であっても他人の物をコピーして手足のように使う事はできない。破壊という点においてはフランドールをも凌駕するこの能力だが、想像(創造)という点においてはさとりの能力の方が優れているのかもしれない。

 

『三人になる事で有利になるとでも思っていたの? まとまって動かない限り、貴方たちを狙う弾はどんどん密度を増すわ。ほらほらほら、もう避けられないでしょう?』

『だーっ、もう鬱陶しい! これでも喰らいな。  恋符”マスタースパーク”』

『感情的に撃っても狙いは定まらないわよ。何も無ければ光は曲がらないのだから』

 

これが貴方の本気なのかしら? それともまだまだ実力を隠しているのかしら? 彼女の口からは決して教えてくれない小さな疑問。それでも私にとってみれば大きな問題。

 

萃香からも、星熊勇儀からも、こいしからもさとりは強いと聞いていた。妹はともかくとして、鬼である彼女らが嘘を吐くはずもないと断じていればそれまでだった。荒くれ者たちの棲まう地底を統治していることも考慮に入れていた気でいた。

だが彼女がまともに戦っているのを見たことが無かった私は本当に、全く彼女の事を理解できていなかったのだと痛感させられた。

 

人妖平等を謳う命名決闘法も実のところは人間有利に作られている。全てが妖怪や神の圧倒的な力を押さえつけるためのルール。力を上手く抑えられなければ即座に人外側の敗北となるために微妙な力の調節を行わねばならない。

対する人間側は体力の残っている限りは常に全力で戦っても然したる問題にはならない。妖怪退治がある以上、”人間を殺さない”ルールはあっても”妖怪を殺さない”ルールはないからだ。

 

まともに戦えば先ず勝つことができない人間を勝たせるためのルールであるが故に人間が有利なのだ。しかしさとりはそれを気にもせずにやり合っている。他人の技を盗みながらも完璧な力のコントロールを常に続けて人間側のまともな攻略を許さない。

 

他人の心の中から瞬時にトラウマを読み取り、かつ絶妙な制御で人間有利を許さない。そして極めつきは三対一を逆手に取るような弾幕の選択。さとりの言っているように、三人が分散すればするほど彼女たち狙いの弾は四方に広がって避ける隙間が無くなる。

これほどまでに鮮やかに自分が不利にならないように立ち回ることができる妖怪が他にいるだろうか。考えられても行動に移せる者がどこにいるだろうか。

 

 

彼女は間違いなく化け物。害が無いうちは面白いだけだが…………。

 

 

   ~古明地さとり~

 

 

おお、丁度良いところで魔法使いが……魔理沙さんが弾幕を掻き消してくれた。アリスさんの人形は妖精で代用できたが、幽々子さんの扇のようにありもしない物をあるように見せるのはかなり力を消耗する。

実際に幽々子さんがどうやって扇を見せているのかは知らないが、私の見せた物は錯覚を利用した一種の幻像だ。

 

オリジナルと思われる物から少し構成を変化させ、ある規則にしたがって配置された弾により幻を見せる。モノトーンの格子の間に影を幻視するのと原理は同じである。

人間の脳が格別に騙されやすいだけで、他の動物、妖怪や神でも錯覚は有効に働く。細心の注意を払っていなければすぐさま幻像の形が崩れてしまうのが難点だが。

 

だから疲れる。実はもう少し時間も残っているのだが、妖力の残量も考えてとっておきの十枚目をまともに使うためにはここらでやめておいた方が身のためだろう。

魔理沙さんがレーザーを撃ち終わったタイミングに合わせてこちらのスペルも発動を切る。もっと少ない枚数を指定していればよかった。十枚は私には多すぎたと反省しつつ、ついに最後の一枚を切ろうではないか。

 

「流石、弾幕は火力(パワー)と豪語するだけはあるわね。掠ってもいないのに髪が焦げそうだわ。将来に期待できそうな魔力ね」

「けっ、妖怪風情に期待されたって信用なんてできやしないな。魔法は練習あってこそのもんだ。お前たちがいくら期待したって最後は全部私次第なんだよ。妖怪ならば人間様の成長にただただ怯えていりゃいいのさ。こんな地の底でな」

 

威勢のいい人間だ。だが私は勇儀や萃香とは違って別にこういうのが好きなわけではない。むしろ面倒ごとを連れてくるから苦手な部類である。

口も悪いし。こんなのが周りに居たら私の精神が摩耗して紫さんの傀儡(式神)かアリスさんの操り人形になってしまうかもしれない。精神攻撃が得意だからと言って精神攻撃を受けるのが得意なわけではないのだ。だって妖怪だもの。

 

「いえいえ、ただ怯えさせるだけなど勿体ない。恐怖は最高のスパイスと何処かで聞いた覚えがあるわ。死ぬほど怯えさせたうえで調理してしまうのが一番ね」

 

相変わらず物騒なメイドだことで。レミリアさんが本当にそれを望んでいると思っているのだろうか。思っているようだから余計に質が悪い。咲夜さんにとって私の死は望むべくものであり、私で作った料理はレミリアさんの腹を満たすのに好都合だと考えているらしい。

どうやったらそのようなぶっ飛んだ発想になるのかを是非教えていただきたいところだが、聞き終わる前にナイフが飛んできそうなので聞くに聞けないのだ。

 

本当にレミリアさんがこう思っているのならともかく、私の知る限りでは決してそのような嗜好はない。最近では人肉すらあまり食べないようだし、血も少量で良いらしいし。

だが彼女の妹ならば分からない。一度会ったことのあるだけだが、彼女のあり方はあまりにも歪であり、同時に不安定でもあった。レミリアさんによると彼女は人肉も普段から食べるし吸血量も多いんだとか。私を食べるならフランドールさんだろう。

 

「ま、私はどうでもいいわ。こいつをぶっ飛ばして帰れれば。あ、あと紫もぶっ飛ばさないとね」

 

覚えていたのか。………紫さん、ご愁傷様です。

 

それはともかくこの巫女、霊夢さんが妖怪から最も恐れられている本当の理由はこの適当さにあるとも言えるだろう。もちろん彼女の持つ陰陽玉は妖怪が触れると最悪死まで見える恐ろしい道具であり、御幣も同様の危険道具だ。

しかし妖怪はそれ以上に彼女の心のあり方に最も恐怖するのではないだろうか。

 

他の二人のように殺意むき出しというわけではなく、強い敵意を抱いているわけでもない。それでもにじみ出る気迫は馬鹿にできるものではなく、纏う力はどこかつかみどころのない雰囲気を帯びている。

並みの妖怪であれば自分の事を敵とも認識していないのではないかと言う気持ちが先走ってしまうのだろう。実際には少なからず相手への警戒心を持っているのだが、それは心を読める私だからこそ分かることだ。

 

畏れられなければ存在を維持できない妖怪にとってこれほど恐ろしい事はあるまい。紫さんの最終兵器、博麗の巫女。この子は間違いなく人間最強だ。

 

「あな恐ろしや。しかし次で最後ですよ。驚くほど簡単で驚くほど油断できず、驚くほど幻想的な弾幕の世界をお見せしましょう。さあ、この旅路も終わりです。

    地霊『幻想郷縁起 封ジラレシ妖怪達之頁』

貴方たちの記憶から抜粋した最後の弾幕よ。ではまた三分後に会いましょう」

 

耐久スペルとしては異常な長さとも言えるであろう約180秒。だがそれでも短いと感じるだろう。キスメから始まりヤマメ、パルスィ、勇儀、戒、お燐、そしてお空に私。二人が受けてきたスペルカードを独断で各一つずつ、かなり簡単にしてまとめたのがこのラストスペルになる。

最後が難しくなければならないというのはある種固定観念のようなものであって絶対のルールではない。

 

凝り固まった脳をほぐす。疲れた身体を癒す。この人間たちを地底にある温泉に入れることはできない。だからこそせめてもの癒しをここで。

長い時間を使えば熱くなった頭を冷やすことができる。色とりどりの弾幕を見れば目が休ま……痛くなるかも。かなり簡略化されているとはいえ、今まで避けてきた弾幕をもう一度避けきることで自信にもつながる。

 

この人間たちはここで成長を止めさせてはいけない。これから先もっと成長させあらゆる異変を解決させるために、紫さんの敷いた路を順調に進ませるためならば私は踏み台にもなってやろう。

今、この時ばかりは意地も矜持も捨ててやろう。私が登竜門である必要はない。

 

私よりももっと強い妖怪、神、霊もこれから先彼女たちの前に立ちはだかるだろう。その時に自信を失わないように、私を踏み台にして超えて行け。決して私ごときで躓いてはいけない。

 

さあ、短い三分耐久の始まりだ。最初は魔理沙さんの記憶から引っ張り出したキスメの『釣瓶落としの怪』を参考にしたもの。少しばかり弾の数を減らしただけのものだ。

当たり前だが約180秒をきっちり八等分するわけではない。そんなことをすれば一人当たり22秒少しになってしまう。前半は良いかもしれないが、後半はそれでは短すぎる。

 

一応キスメ15秒、ヤマメ20秒、パルスィ25秒、勇儀20秒、戒30秒、お燐35秒、お空30秒、私5秒という内訳になっている。もう既にキスメのものは終わり、次はヤマメとパルスィで霊夢さんから読み取った弾幕の二連続だ。

ヤマメの方は『石窟の蜘蛛の巣』、パルスィの方は『丑の刻参り七日目』から。ヤマメの熱病の方は必要な弾数が多すぎて辛そうだったからやめた。パルスィの方は彼女のイメージに合致したから採用した。彼女は丑の刻参りの専門家(仮)だし。パルスィ本人も他の者もとうの昔に忘れていそうな肩書だけれど。

 

次に勇儀。ここまでで既に三分の一が経過しているが20秒程度で弾幕の見た目がコロコロ変わるのでそこまで長くは感じていないだろう。

勇儀は『怪力乱神』から。三歩必殺はもう二度も見せた。三度目は流石に(くど)いだろうと思って除外した。その上で怪力乱神を持つ勇儀にはぴったりのものだと思っているのでこれを採用。ただまあこれも短い。二周ほどすればもう終わってしまう。

 

勇儀からは二人ともが同じ弾幕を見てきているので再現もしやすい。同じものを違う視点から見られるから。シンメトリーなものならば一方の視点からでも再現は容易にできるが、戒の『吠える監視者』のようなアシンメトリーなものはどうしても再現度が低くなる。

しかし視点が二つあれば三次元的な再現も行いやすくなるのだ。

 

時間が短いから少々鯨のスピードは上げさせてもらおう。しかし戒も本を読めばこんな安直な名前をつけなかっただろうに。そもそもあの子は鯨が何なのかすら分かっていないようだったし。やっぱり地底で生まれた子は海に関する知識が駄目駄目ね。

結界が張られてから百年以上経った今では地上でも同じようなものなのかもしれないけれど。立派な統治者にするために教養を身に付けさせるべきか。明日から取り入れよう。

 

戒の弾幕は今までの中でもひときわ楽な部類に入るものだっただろう。初見以外ではまず引っかからない。初見でも実力があれば、あるいはこの程度まで難易度を落とせば誰でも楽に避け切れる。あの子は美しさを重視し過ぎたようだ。確かに大事だけれど。

 

残り一分と少し。ここからはお燐のものだ。だがこれは彼女らの記憶からの再現ではなくお燐の心にあった弾幕の再現だ。私の都合で、と言うか半分はお燐の都合で使われなかった幻の五枚目、『火焔の車輪』。時間が経つほど鬼畜になるという弾幕で、こればかりはオリジナルとほぼ同じ難易度に設定させてもらった。

そうでもしないとお燐が可哀そうだからだ。気絶させて強制退場することになったのだから心残りはあっただろう。それならばせめて使ってあげよう。私の妖力はかなりギリギリだが、お燐の事を思えばいくらでも無理ができそうな気になる。

 

今回ばかりは私だけでなく彼女らも長かったであろう35秒を終えれば、次はお空のものになる。急に難易度を上げても避け切れているあたり、彼女らも集中力は切らしていないようだ。

お空からは『ペタフレア』を。体感的にペタからメガくらいまで難易度を下げて発動。メガである理由は、先のお燐の弾幕でさらに急に疲れているであろう彼女らを考えればテラやギガでもやりすぎな気がしたからだ。かといってキロは低すぎる気もした。だからメガ。私の思考はかなり単純なのだ。

 

「さあ、この耐久ももう終わり。最後にとっておきの恐怖を差し上げるわ。貴方たちが今のまま生きるなら、きっといつかこれに出会う事になるでしょう。今はまだこれが何を意味するかを知る必要はないわ」

 

ラスト5秒は弾も発射されない。私が見せるは私の知る限り最も恐ろしい場所。私の記憶の底から引っ張り出す、地底最古の記憶。お燐もいない、お空もいない、勇儀も萃香も紫さんも傍にいない、ただ横にこいしがいただけの場所。

 

「おめでとう、貴方たちの勝ちよ」

 

ありったけの力を使って見せた幻覚。

数歩だけ右にふらつきながらも力尽きた私の倒れた先にあったのは予想通り、固い地面ではなかった。流石彼女と私の間柄、意思の疎通は完璧ね。あぁ……どうして私は今意識が薄れゆくのを認識できているのだろうか………………………………。




さとり様が使ったスペルは以下の通り。五枚目までは原作スペル通り。六から九枚目は勝手に想起しただけ。十枚目はオリジナル。京人形飛ばした段階では大結界も飛ばす予定でした

スペル                  使用元(敬称略)
想起「恐怖催眠術」            さとり
想起「マーキュリポイズン」        パチュリー
想起「風神木の葉隠れ」          文
(想起「春の京人形」)           アリス
想起「二重黒死蝶」            紫
想起「三歩必殺」             勇儀
想起「スカーレットディスティニー」    レミリア
想起「二重大結界」            霊夢
想起「生者必滅の理 -魔境- 」        幽々子
地霊「幻想郷縁起 封ジラレシ妖怪達之頁」 地底勢

十枚目は曲名まんま。原曲は暗闇の風穴。時間があるなら聞いてみる価値ありだと思います
地霊から曲名なのでご注意を


というわけで遂に次が最終話です
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